約100億円の資金調達、話題となったスタートアップが破綻するまで

司会者:さっそくですが始めていきたいと思います。本日のスケジュールは.......もうすでに押してしまっているんですが、オープニングで株式会社talikiの原田から、このセミナーの趣旨を説明していただきたいと思います。よろしくお願いします。

原田岳(以下、原田):株式会社talikiの原田と申します。よろしくお願いします。みなさん本日はお集まりいただきありがとうございます。今回の企画は、兵庫県さんと株式会社talikiで一緒に運営している企画になります。

主に2つの企画がございます。「AGAIN」という再チャレンジ起業家の方々を支援するための3ヶ月間のプログラムと、計6回に渡るセミナーを運営させていただいております。

今回は第4回目になりまして、残り第5回、6回と同じpeatixのページでイベントページを出しておりますので、もし気になっていたらぜひご覧になっていただけると幸いです。今年の2月のセミナーでは、AGAINの最終発表会も一緒に開催させていただきます。簡単になりましたが以上となります。

司会者:ありがとうございます。さっそくですが、本日の登壇者の阪根さんの自己紹介をしていただきたいと思います。

阪根信一氏(以下、阪根):ありがとうございます。ではあらためまして阪根です。本日はよろしくお願いします。私は兵庫県で生まれ育っております。私がこれまで経営してきた中で、わりと話題という意味で一番大きくなったのが、セブン・ドリーマーズという会社です。8年ほど経営していました。

日本ベンチャー大賞をいただいたり、スタートアップワールドカップという、スタートアップのピッチコンテストの世界大会に日本代表として出たり、いろんないいこともありました。大きく100億円ほどの資金調達をして全力で取り組んだんですけれども、結果的に2019年、残念ながら破綻ということになりました。

そこに至るまでの経緯を、まずは最初の20分程度でお話をさせていただき、その後再起に向けてどんな感じだったのか、いろいろ質疑応答できたらなと思っております。

「人のモノマネはするな」という父親の口癖

私ごとになるんですけれども、祖父や父の影響が非常に大きかったんです。祖父は鉄鋼業を自ら創業していましたし、父はプラスチック加工業を創業しましたので、私もまた新たにチャレンジをしている感じです。

祖父の話だけ少しさせていただくと、祖父は鉄鋼業で一時期ガンガンやっていたようで、大証2部上場も果たし、松下幸之助さんからもすごくかわいがっていただいたようです。ちょうど私が生まれる1年前、1970年に、ホテルニュージャパンのオーナーで有名な横井英樹さんという方に目をつけられてしまいまして。当時乗っ取り屋さんとして有名だったそうです。

その時上場していた祖父の会社が横井英樹さんに敵対的買収されました。昨今ではわりと聞く話なんですけど、当時はあまりなかった。日本の歴史上1件目か2件目の敵対的買収案件だったらしいです。

ちょうど私が生まれる前にそんな状況になった。家族もどん底。僕が生まれた時は家族がどん底だったんですね。

その後、父が住友電工(住友電気工業)というところで、ずっとサラリーマンをしていたんですけれども、奮起して40歳でいわゆる脱サラをしました。そしてI.S.Tというプラスチック加工業の会社を創業しました。私が中学1年生に入る時で、父の苦労しながらも創業してやっていく姿を見ながら育ったという経緯があります。

そんな中、父は「人のモノマネはするな」というのが口癖で、そんなことが私の頭にこびりついていた。それから父が横で創業していろいろ作っていく中で、技術へのこだわりと情熱を感じながら育ったかなと思っています。

起業テーマ選定の3つの指針

その後私も理系の道に進みまして、最終的にはアメリカのデラウェア大学で化学の博士課程を取りました。そこで出会ったDr.Woodというボスにまたいろいろ教えていただいて、人類が解明していない自然科学を解明する意義であったり、誰もやっていないことに挑戦する意義、アメリカで博士課程を示すPh.Dがどういうものなのかを教えていただきました。

研究にすごくのめり込んでいって、一時は教授になりたいななんて思っていたんですけれども。いい学会に出れるようになって、世界中の天才たちが集うところの中に入ると、これは自分は勝てないなという現実に直面するんですね。そして「さて、自分の将来はどうしようかな」なんて思っていました。

そんな中、とりあえずアメリカに行きました。ニューヨークまで車で2時間くらいのところだったので、ニューヨークの紀伊国屋書店とかに行っていろんな本を買いました。

その中で、日本の経営者の本に出会って、松下幸之助さんの経営哲学であったり、盛田昭夫さんのグローバルに挑戦するマインドであったり、本田宗一郎さんの技術者魂のような本を読んで、当時の戦後日本をここまで復興させた時の日本の経営者たちはすごいなと。そこで非常に憧れを抱いて、自分もそのフィールドで勝負したいなと思うようになりました。

その時に何をしたのかというと、やはりイノベーションを起こしていきたいという思いがあって、テーマ選定に3つのクライテリア(指針)を設けました。社会に貢献できる事業をしたいということ、やる限りはとてつもなくスケールする、大きくしていける可能性がある事業をしたいこと。それから技術的にチャレンジングなテーマをしたいなということ。

こういったことを決めてアメリカの大学院を卒業して、まずはアメリカで化学系に企業に就職しようかなと思ったんです。ただ、内定を頂いた会社は10万人以上の規模の会社でそこで経営を学ぶには何年かかるのだろうと。そういえば父が経営してそれなりに成長している会社がまさに日本にあるので、そこで少し修行をさせてもらおうということで、修行をすることにしました。

そこで結局10年ほど修行というか、実際には経営をすることになったんですけれども、父の会社にいながらも次の準備を進めていきました。

世界初の全自動衣類折りたたみロボットに挑戦

そして2011年にこのセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズという会社を立ち上げ、父の会社を退職してスタートアップを立ち上げました。

この会社が目指していたのは、「technology in life」ということで、人々の生活を豊かにする技術を作り上げよう。そこで手掛けたのがランドロイド(laundroid)という、世界初の全自動衣類折りたたみロボットに挑戦をいたしました。

どんなものかというと、でっかい冷蔵庫みたいな箱なんですけれども、この中の一番下のフリーザーみたいなところに乾いた衣類をドバっと入れます。洗濯して乾燥させた、グチャグチャな状態のものを入れて、ボタンを押せば、機械が折りたたんでくれる。

そしてステップ3にあるように、棚に衣類の種類を事前に登録しておけば、家族ごとに仕分けて出してくれる。これはアプリで操作できます。そういったデバイスです。

ランドロイドは、画像解析と人工知能とロボティクス、この3つの技術の組み合わせで成り立っており、ほとんどの衣類はたためます。唯一たためないものが靴下ですね。靴下のペアリングとか、それから女性の下着とかはたたまないんですけども、それ以外のものはだいたいたたみます。

(この図は)実際に当時作ったランドロイドの中身をザクっと説明するもので、ロボットアームが(衣類を)ピックアップして、この衣類は何かAIで分析します。ロボットアームがグチャグチャ持ち替える段階では認識ができていなくて、ここまで拡げると「これはTシャツだな」と認識します。そこからたたみ始めます。

これは機密保持の関係でモザイクがかかっているんですけど、衣類の向きを見て、向きが違ったらひっくり返して、たたんでいきます。最終的にたたみ終わったらそれを上から降りてくる棚に1枚1枚乗せて、2枚目3枚目とたたんでいき、最終的にできあがったものがこのように積み上げられる。そういった仕様になっています。

発売延期から資金的な課題に直面、ハードシングスの連続に

こちらの動画では左上が長袖、左下がタオル、右上がズボン、右下が半袖です。これは8倍速です。

ロボットアームが上に3つあります。板を使いながらたたんでいくんですけど、何が難しいかというと、手前にカメラがあって、カメラで衣類を認識しながら、衣類を展開していくところが難しいんです。未だに世界中で元当社しかできない技術です。

衣類が何であるかを認識してからたたむことは、実はちょっとハードルが低いんです。そこまで難しくない。グチャグチャの衣類を展開して何か認識するというところに、大きな技術的な難しさがありました。

こちらは私が父の会社に在籍中の2005年から開発を開始して、プロトタイプを完成させ、パナソニックさん、大和ハウスさんと提携して、この2社とジョイントベンチャーを作りました。2017年に限定予約を開始して、2018年に日本とアメリカ・中国で販売開始をする予定でした。

しかしエアリズムとゴアゴアのジーンズがたためない問題が起こりまして、そこで発売を延期しました。そこから一気にいろいろ......(笑)、資金的な課題が出てきました。

いずれにしてもセブン・ドリーマーズの経営に関して、それまでの経営もそれなりにいろんなことあったんですけど、特にスタートアップに挑戦したところからなかなか熱い戦いになっていき、ハードシングスの連続でした。

現在は「為替テック」で再チャレンジ

2011年の2月に創業し、まず一発目に2014年に資金枯渇の危機に陥りました。2017年、別の医療機器を作っていて、その医療事故が起こって自主回収になりました。その直後の資金調達がぶっ飛ぶリスクに晒されたり、最終的には2017年12月にランドロイドの発売延期を発表して、そのあと大きく資金状態が苦しくなった。

2018年3月に予定されていた大型の資金調達が難航したところから、1年間もがき苦しんで、最終的には2019年の4月に破産申し立てをするという流れになりました。

その後なんですけれども、破産するといろいろやることが多いんです。当然債権者に対してすべて処理をしていかなければならないです。それは破産管財人という方と共用していくんですけども、その後株主の全社に謝罪に行きまして、そして最終的にいろんなことが片づいて、並行して次の準備をしながら、今、ジーフィット株式会社という新たな挑戦をスタートしています。

こちらの会社は金融業、fintechと呼ばれる分野でございまして、先日資金調達の第1回目を行いました。資本金がだいたい3億円くらいの会社になっています。大手町のfintechのベンチャーが集まるシェアオフィスのようなところで、今スタートしています。

具体的には「為替テック」ということを我々は追及しています。「為替とテックで自由に」というビジョンを掲げています。

toBのビジネスなんですけれども、為替という企業にとっての伝統的なリスクコントロール手段に、データサイエンスやクラウドシステム、テクノロジーを加えて、これまで大手の企業にしかなかった、最適なリスクコントロールの手法を、中小企業にも民主化していこうという取り組みをやっています。

スマート為替ソリューションというプロダクトを、今年の春、ベータ版として第1弾リリースする予定です。

スタートアップ挑戦の壁は「人、時間、金」

ちょっと総括的な話になるんですけれども、スタートアップの挑戦を実際に経験してきて、乗り越えなければならない壁。よく「人、モノ、金」と言いますが、私は「人、時間、金」だなといつも思っています。

人材不足問題、時間が足りない、計画どおりいかない問題。そしてそれに伴う資金問題を常に抱えながら挑戦していくことかなと思っています。特に経営の血液は「資金」なので、ここが枯渇していくのが一番苦しいんですよね。精神的にも体力的にも削がれていく。

やっていてずっと思うんですけれども、困難というのは必ずどんな人にもやってくると思うんですよね。普通になんとなくのんびり生きている人だったとしても困難はやってくるし、挑戦し続けてゴリゴリ働いている人にもやってくる。

ただなんとなくやっていて、「どこに目標を設定するのか」によって、困難の度合と頻度が変わってくるかなと思っています。当然高い目標を掲げて進めば進むほど、困難の波も高いし頻度も多い。でもそれを少し低めに設定したからといって、困難が来ないわけじゃない。みなさんの人生の中で必ず困難はあるので、それを乗り越えていくんだろうなと思っています。

挑戦すればするほど、「栄光と地獄の繰り返し」という感覚は持っているんですけれども、いずれにしても大切なことは、どんなことがあっても挑戦し続けるということかなと思っています。決して諦めず、やり続けることが何よりも大事なのかなと思っています。ざっと私の紹介になりました。ありがとうございます。

司会者:ありがとうございます。もう生粋の再チャレンジという感じで、お言葉がとても重いなと思いながら、拝聴させていただきました。