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スタートアップの生態系と起業家マインドの醸成(全4記事)

VCは初めての起業家と2社潰した起業家のどちらと先に会う? 類似案件へのVCの対応に見る、成功する起業家に必要なもの

グロービス経営大学院が主催した「あすか会議2022」。本セッションでは、ユーザベース・稲垣裕介氏、東京大学教授・各務茂夫氏、そしてカーネギー国際平和財団シニアフェローの櫛田健児氏が登壇したセッションの模様をお届けします。「スタートアップの生態系と起業家マインドの醸成」をテーマに、「個」を磨くことの重要性や、VCの失敗確率などが語られました。

「個」を磨くとは何か

柳川範之氏(以下、柳川):各務さん、大学あるいは今の(東京のVCと地方のベンチャーの)マッチングの話をうかがって、これからの動きをどう思われますか。

各務茂夫氏(以下、各務):櫛田さんの話にあった、「個」というものの意味合いですね。「個の独立、自立なくして一国独立なし」という『学問のすゝめ』の福沢諭吉の強いメッセージがありますが、みなさんにはこの「個」という、「自分の独立とは何ぞや」ということを考えていただくのがいいと思うんですね。

特にこの数年、私は大学で1〜2年生のアントレプレナーシップ教育というのにすごく重きを置いています。ちょっと偉そうな言い方に聞こえるかもしれませんが、私が学生に最初に伝えるメッセージは、受験のプロセスは正解のあるゲーム、標準解・一般解を解くゲームということなんですね。

標準解・一般解を解くゲームに強い人が偏差値が高く、相対的にそれが高い人が入学してきますが、「大学生になったら、みなさんお一人お一人の個別問題を自分で設定して、個別解を解くというマインドセットに立たないといけないよ」ということを言うわけです。

それこそ出雲さんにも東大に来ていただいていろんな話をしていただくんですが、例えばバングラデシュに行き、世界最貧国で食料がないと思っていたら、食料はふんだんにある。朝昼晩とカレーを食べられたと。

ただ、肉も野菜も入っていない。結果として内臓の壁を支えるタンパク質がないので、内臓から体液が出てお腹が膨れるということを出雲さんは目の当たりにして、これは飢餓の問題ではなくて栄養失調の問題であると認識して、「ミドリムシで世界を救うことに決めました」ということになっていくわけですね。大変単純化して言っています。

こういった当事者としてオーナーシップが持てる問題を自分で発見するというプロセスと、「これが自分が解決すべき社会問題だ」というところまで行くのがすごく重要で、さまざまなことを勉強したり、いろんな人に会うことが「個」を磨くということだと思うんです。

人に会うことの重要性

各務:2018年に、たまたまDropboxの創業者のアンドリュー・ハウステンという人が来日して、ご縁があって東大で私と対談をやったんですね。その年の3月だったかに時価総額が1兆3,000億円でDropboxを上場していたんですけど。

彼は2013年にMITの卒業式で、自分の価値というのはふだん自分が頻繁に会っている上位5人の価値の平均値で決まるという有名なスピーチをやっていて。なんかわからないではないという感じがするんですね。

少なくともここにいらっしゃる方は、グロービスに入って勉強会を経て修了した方で、平均値は間違いなくめちゃくちゃ高いわけです。これをさらに上げることが個を磨くということだとすると、幸いオンラインの世界は結構偉い人が会ってくれる可能性が高いです。なかなか勇気が出ないかもしれませんが、みなさんが会いたいと思う人に会う勇気を持つことが独立につながる感じがします。

今日本では過去に辞めた会社にまた戻るということも起きています。例えば樋口(泰行)さんのように、松下電器から海外へ出て、さまざまな会社を経験して、マイクロソフトの社長までやって、コネクテッドビジネスのCEOになってパナソニックに帰ってくると。こういうある種のいい意味での出戻りが日本にも出てきている。

かつてピーター・ドラッカーが、「日本はorganized immobilityの国だ」と言ったんですけど、こういうモビリティも随分高まってきているので、みなさんに「個」というものに自信を持っていただきたいと思います。

ちょっとの間でも失業していると心配になりますけど、みなさんは食いっぱぐれるということはまずないですよ。私も家族がいるのに3年間まったく給料が出ない大学院に行きましたから。でも、それはいっときのことですから、みなさんは「個」にどうか自信を持っていただいて。

モビリティの社会では「個」が自立していることが価値を生み、その時に重要なのは「自分の個別問題が何か」を知ることです。そこに行き当たるまでは悶々とせざるを得ないんですけど、わかった時はものすごくパワフルになります。

まだ自分の個別問題がない方は、求める旅に出ていただかないといけませんし、すでにある方はさっきの平均値5人のルールじゃないですけど、「この人に会ったら何かヒントを得られるのでは」という人を積極果敢に攻めてお会いになるといいのではないかと思います。

ちょっと偉そうな言い方になっているかもしれませんが、お二方の話を聞いてそんなことを感じました。以上です。

来場者からの5つの質問

柳川:ここからは質疑応答に移りたいと思います。ご質問のある方はぜひ手を挙げていただければと思います。

今手を挙げていただいている5人の方に、短めに質問いただいて、こちら側でお答えするというかたちにしますね。こちらの方から、どうぞ。

質問者1:コトスタイル株式会社という店舗設計の会社を経営しています穴澤と申します。僕も小さい飲食店のスタートアップに関わっていまして、ロールモデルを見せていくというのは自分のビジネスでも活用していきたいなと思いました。

その中で思ったのが、いい事例を見せるところは「確かに続くな」と思ったんですが、一方で失敗が見えないところはとても不安に感じると思いました。実際に、どれぐらいの方がスタートアップで成功し、失敗した時はどうなるのかについて教えていただけるとうれしいです。

質問者2:大阪校2022期のホシノと申します。(VCが)東京に集中しているとか、大阪の起業家を東京のVCが知らないとか、あと、いろんな地方がベンチャーの集合体を作ろうとしているといったニュースにも触れるんですけど。

起業するにあたってVCの集積地との物理的な距離はやはり重要なのか。知ってもらえるかどうかというエコシステムの観点で、自分が起業する際の参考として教えていただければと思います。

質問者3:グロービス・アントレプレナーズ・クラブ(GEC)という、グロービスで最大の3,500人の起業家のためのコミュニティを運営している2017期のコマガタです。

さっきの全体会で言うところの「根拠のない自信」みたいなものは、グロービス生も含めてたぶん日本全体で盛り上がっていて。個人保証の問題もなくなって、だいぶ起業家マインドは出てきたと思うんですけども。

起業する人は増えたけど、起業した後のマインドセットで日本と海外を比較すると足りないものがもしあれば、教えていただきたいです。今後のGECの活動につなげていきたいなと思います。

質問者4:グロービス産官学連携クラブの代表幹事をやっておりますイワマツと申します。日本のディープテックを盛り上げていきたいということでいろんな活動をしています。

先ほど櫛田さんから技術のお話がありましたが、経営者は経営が専門であって技術の専門家になることはなかなか難しい。でも新しいスタートアップを立ち上げる時には技術が重要になってくると思います。

我々MBAを学んでいる者たちは、その時にどう技術を見出していくのか。発見のコツとか、ふだんの心がけのポイントがあれば、ぜひ教えていただきたいと思います。

質問者5:2019年期東京校のナイトウと申します。各務さんの「人に会う」というお話で、私もいろいろな人にお会いしたいところですが臆する部分があります。お時間を頂いているのに、こちらから提供して差し上げるものがなかなか見つからないというところがあります。

もしみなさんが誰かわからない人から会ってほしいと言われた時に、こちらとして何を提供して差し上げられるか。もしうれしいものがあれば、それをお聞かせいただければと思います。

VCの失敗確率

柳川:「失敗の事例を教えてほしい」「集積地との距離は重要か」「起業した後のマインドセット」「技術を見いだすコツ」「人に会う時のコツ」。いかがですかね。では、各務さんからどうぞ。

各務:東京大学エッジキャピタルパートナーズという、1号ファンドから5号ファンドで850億円のトータルファンドがあります。

今140社ぐらいに投資をしていますが、投資案件の失敗確率を見ると、ざっくり言うと、20社あるとすると2社ないし3社ぐらいはそこそこ儲かったねと。10社ぐらいはチャラでイグジットしたり、場合によってはバイアウトやM&A。残りが失敗しているということだと思うんですね。ベンチャーキャピタルの失敗確率みたいなものを捉えると、そういう見方があると。

ただ、それでも社会に対して貢献するスタートアップもあるので、何をもって失敗とするかは難しいですけど、ベンチャーキャピタルから見るとそんな見方ができると思います。これが1点目の穴澤さんのご質問への回答です。

ホシノさんのご質問で、VCがどの程度近くにあるかというのは、例えば昔のシリコンバレーの会社はサンドヒルロードに車で行けないと投資してくれなかったわけですね。

でも昨今の新型コロナの中では、日本のキャピタリストもオンラインでけっこう投資意思決定ができるメカニズムが働いているので、距離のバリアは新型コロナの前に比べると随分縮まっている感じはしますね。現実に日本のVCがインドやアジアの会社に投資をするケースも出てきているので。ただ、どこかの段階で会った方がいいとは思いますけど。

最初の2つのご質問に私からお答えしました。

成功する起業家に必要なもの

柳川:あと5分ですね。

櫛田健児氏(以下、櫛田):はい。じゃあ倍速で話します。

(会場笑)

スタートアップの失敗率は高いです。でも、例えば私の学生がエンジェル投資をする有名なベンチャーキャピタリストのインターンをやったんですけど、こういうシナリオになるんです。

似たような学歴で似たような領域のビジネスプランが上がってきました。1人はこれが最初の起業です。もう1人は会社を2つ潰しています。じゃあエンジェルの人は最初に誰に会いますか? 2つ潰した人に最初に会うんです。「どうしてこれはうまくいかなかったんですか?」というのを聞くわけです。

それで答えがダメだったらそこでアウトです。でも良い答えなら全然オッケーなのです。例えばこれはすごく重要なユーザーのペインポイントで、いいチームを集めて、いい技術もあって、でもスケールの途中でグーグルが1,000倍の予算を入れて吹き飛びました。

「そこからのラーニングは何ですか?」「早めにグーグルに身売りするべきでした」というラーニングがあるかとか。そういう感覚です。

あと、みなさんの勇気が出るのがアップルの失敗集。アップルはものすごくひどいものをたくさん出しているんです。キューブ型のハイエンドマシンのデザインにこだわりすぎて、ファンがなくてケースが溶けちゃうとか。

iPod用に、外付けのものすごく高いスピーカーみたいなのを発売した時も、出すのにあまりにも時間がかかって、リリースしたらすでに最新のiPodは機種変されていてつながらない。あのアップルが、こんなのを市場に出しちゃっているわけです。そういうのを見るとけっこう勇気づけられるでしょう。社内で承認した人がいっぱいいるわけですよね。なので失敗集は勇気が出ます。

トンカチ屋はどんな問題もトンカチで直そうとする

櫛田:「集積地との距離は重要か」については、パンデミックのさなかの投資では、多くのスタートアップがベンチャーキャピタリストに直接会っていません。コロナがだいぶ戻った今は、もっと会うようになりました。ただ、ファウンダーはけっこうローカルでも、チームはいろんなところにいるというのが増えています。

ここでジレンマなのが、ピボットしなきゃいけない時は、みんなで四六時中同じ部屋でブレストしたり、けっこうチームでまとまっていたほうがよくて。そのコミュニケーションをVCといかに取るかが勝負どころなので、そこの良し悪しはあると思います。

海外と比較して起業後に足りないものは、スペシャリストです。会社の立ち上げからスケールアップする時の人事制度を導入するスペシャリストで、250社ぐらいやってきましたというおじさんと、「自分で全部手探りでやっています」のどっちが強いですか? 味方にこういう人を入れるほうがいいのか、そうじゃないのか。そこです。

あとは、創設者として自分が辞めたり、会社を託したり、あるいは降ろされるということが少なくないですね。これがもっとあっていいと思います。そうすると、悔しいけど経験を積んでいるので次のことに燃えるんですよね。

テクノロジーとMBAは大変大事です。技術の人だけに任せるとテクノロジープッシュになって、トンカチ屋さんはどんな問題でもトンカチで直そうとするわけです。でも、これはネジなんです。

ということで、必ずペインポイントを重視して、必要なら「技術を変えます」「違うところへ行きます」というのが、みなさんの役割です。そこもユーザーのペインポイントに立ち戻ることだと思います。以上です。

(会場笑)

日本固有の構造の認識

稲垣裕介氏(以下、稲垣):失敗のところで、多く見るのは人です。ちゃんとチームを作れるかがすべてなので。今はバリューを掲げる会社も多いと思うんですけど、しっかりそこを握っていいチームを作れるかが、最も成功確率を上げるんじゃないかと思います。

もう1つはそこから立ち上がって以降ですけど、やはり市場規模やマネタイズがクリアじゃないと、だんだんジリ貧になる会社が多い。ユーザーは増えているけど儲からないというのもよく見るので、何でマネタイズして、どれぐらいの収益規模があるかは必ず見たほうがいいと思います。

3つ目のところに関わりますが、やはり日本の市場はどうしてもシュリンクしているので、まだまだでかいとは言え、外に目を向けることが大事だと思うんですよね。うちの失敗した例にQuartzというメディアがあります。売却をしましたが、2,000万ユーザーぐらいいたんですけど、1,000万がアメリカ国内で、もう1,000万は世界中の英語圏で使われていたんですよね。

日本は日本語バリアがあるので、それが絶対に起きない。バリアがあるから、入ってこれないし出てもいけないという構造を認識して、自分たちが取りに行く市場の規模を意識したほうがいいと思います。

技術のところは、私はエンジニアなのでソフトウェアのところしかわかりませんが、まずは書くといいと思います。今どういうエンジニアがいて、これからどういう人がいるのかという話にも入っていきやすくなるので、まず書くのがいいかなと思います。

柳川:時間オーバーですが、最後の「どうやって人に会えるか」という質問は、みなさんもそうかもしれませんけど、僕がその人に会ってみようという時は、例えばメールなりにどれだけ熱意が入っているかが一番のポイントかな。

もう1つは、さっき言ったようなネットワークですよね。誰か自分が信頼している人から「この人に会ってみてほしい」と言われればやはり会うので、そういう面でもネットワークが大事かなと思います。

最後にもう1点だけ。距離の話ですけど、コロナでだいぶ変わってきていると思いますね。また、調べてもらうとわかりますが、シリコンバレーのスタンフォードとサンフランシスコの距離はかなり遠いです。

でも、それが1つのシリコンバレーです。日本の距離レベルとはまったく違って、そのくらい離れていても1個のエコシステムが作れるぐらいの距離感なので、「東京と大阪は近い」と思います。

時間をオーバーしちゃいましたけど、活発な議論をありがとうございました。このセッションは以上とさせていただきます。どうもご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

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