2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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財前英司氏(以下、財前):じゃあ、2章にいきます。2章では「Web3はビックテックの『支配』を終わらせることができるのか」という体で書かれています。
佐々木俊尚氏(以下、佐々木):そうですね。そもそもWeb3が何なのか、誰もわかっていないという話があるので簡単に説明しておきます。まず、なんで「3」なのか。前段として、今から15年ぐらい前の2006年、2007年ぐらいに「Web2.0」というものがあったんです。
インターネットそのものが社会に広まり始めたのは1995年からです。なんで1995年と明確に言い切れるかというと、Windows95というOSに、初めてインターネットの接続機能が標準で搭載されたからなんですね。その年が1995年だったんです。
そこからネットが広まったんだけど、最初の頃はSNSもなかったし、ブログもなかった。要するに、誰もが発信できるわけじゃなかったんですね。
だから企業が公式サイトを作って、今まで紙で会社案内を作っていたものをネットでやるようになりました。媒体は紙からネットに変わったんだけど、発信している人や企業、有名人はあまり変わらなかった。
ところが2003年、2004年ぐらいからブログをワーッと普及し始めて、少し遅れて日本でもmixiみたいなSNSが出てきたりと、誰もが自由に発信できるようになった。これでついに、もともとインターネットが目指していた完全な双方向が初めて実現したよねということで、Web2.0という言葉がすごく流行ったんですね。
佐々木:SNSのプラットフォーム上で、誰でも発信できる。今までだったら、マスコミしか発信できなかったり、専門家が新聞を批判するみたいなことが、インターネット上で(一般人が)SNSやブログを使って起きました。これはすごく情報の民主化だと言われていたんです。
だから、これからは明るくオープンで、誰もが情報発信できるユートピアみたいな世界がやってくるんじゃないかなって、あの頃はみんな一瞬思っていたんです。僕もちょうどブログブームの渦中にいたので、当時の熱っぽい空気感を今でもよく覚えています。
ところがさっきも言ったように、2010年代後半ぐらいからこの10年でAIがすごい勢いで普及し始めました。情報が流れるブログやSNSのプラットフォームとか、単なる中立的な土俵だと思われていたものが、AIによってその土台であるプラットフォーム上で流れている情報をコントロールするようになってきた。
「Web2.0の時にあんなに『明るいオープンな未来』と言っていたのに、気がついたら我々はAIに支配されているじゃん」「AIを使っているビッグテックの企業に支配されているじゃん」と言われるようになって、この5年くらいは「その状態を乗り越えて、支配を脱却しないといけないよね」と、すごく言われるようになってきたんです。
そこにちょうど登場したのは、偶然にもビットコインとかで使われているブロックチェーンというものです。ブロックチェーンというのは、一企業がさまざまなデータを支配するんじゃなくて、わかりやすく言えば全員で共有している“台帳”みたいなものの中に(データを)保存できるので、一企業の支配にはならないというロジックです。
だから「ブロックチェーンを使って新しい土台ができれば、古い大きなビッグテックの支配から逃れられるんじゃないか」と言われるようになったのが、Web3なんですね。なんで「3.0」じゃなくて「3」なのかはよくわかりませんが、そういう話になっているわけなんです。
佐々木:ただ、じゃあ本当にそれでビッグテックの支配を逃れるのかというと、僕はぜんぜんそんなことはないと思っています。
例えばビットコインがわかりやすいんだけど、ビットコインは誰も管理していない。お金で言うと、円やドルは日銀やアメリカのFRBがコントロールしているわけでしょ。でも、ビットコインは誰もコントロールしていない。
そういう意味で言うと民主化は民主化なんだけど、我々が実際にビットコインを買おうと思ったら、取引所経由で買うしかないわけですよね。そうすると、その取引所がどんどん巨大化するわけですよ。
すべてがビットコインやブロックチェーンの世界に移ったら、ブロックチェーンでビットコインを買うための取引所がどんどん巨大化して、今のGoogleやAmazonになるのと同じなんじゃないのか? という話です。
実際に先日も、世界のビットコイン取引所最大手のFTXという会社が破綻した結果、ビットコインの業界は大混乱に陥っているわけです。そうなると、やはり誰かがコントロールしないとビットコインもうまくいかないんだよねという話になってしまう。
佐々木:至るところでそういう話はあって、Web3の中にもDAO(Decentralized Autonomous Organization)がありますよね。「自律分散組織」という言い方をします。社長、経営者、マネージャーとかを置かずに、全員が同じ立場。
例えば「全員が平のエンジニアで、それがチームになって集まって、会社の目的や契約内容、仕事の成果を全部ブロックチェーン上に置けばいいんだ。そうすると、フラットな組織になって仕事がやりやすくなる」と言われているんだけど、実際に10人ぐらいの優秀なメンバーでやればたぶん成立するでしょう。
じゃあ(従業員数)1万人の会社でそれをやって成立すると思いますか? 絶対にしないですよね。大混乱に陥ってしまう。残念ながら我々人間というのは、完全にアナーキーな無政府状態でみんなと仲良くやるのは難しくて、どこかで調整して管理する人はどうしても必要なんですよね。
だから、一部の起業家界隈でワーッとDAOで盛り上がるのはいいんだけど、それを社会全体に実装するのは現実的には不可能だよねと。どうしてもコントロールや管理する仕事は必要になってくると、やはり自由にはならないんじゃないかというのが僕の個人的な結論ですね。
財前:組織の話では、ティール組織とかもありましたね。
佐々木:ティールとかホラクラシーとか、ありましたね。何度となく組織形態は話題になって出てくるんだけど、未だに大企業で大成功している例は1つもないし、結局「だいたい5〜10人ぐらいのチームなら上手くいく」という話以上にはなっていないかなと思います。
財前:「政治をAIに任せるか」問題もそうですし、決めて決着してくれる人が誰かいないと、結局その中だけでは決められないということですよね。
佐々木:AI党みたいなのがデンマークかどこかにできたみたいで、「政治課題をAI決着させよう」と。課題を与えて「これの解決方法は何がありますか?」というのは、AIでも今でもできます。
Chat GPTに「日本の貧困をなくすにはどうしたらいいですか?」と聞くと、たぶんそれらしい答えがいっぱい返ってくると思います。でも、答えがわかっていることに向けてプロセスを進めることは、日本で言うと官僚の役目です。じゃあ政治家の役目は何なのかというと、みんな誤解しているんです。
今、課題はいっぱいあります。例えば「中国が攻めてくるかもしれない。防衛が大変だ」「少子化が進んでいて、結婚する人を増やさなきゃいけない」「子どもを増やさなきゃいけない」「地方がどんどん寂れている。どうする?」「環境問題をどうする」とか、いっぱい課題があるわけです。
でも、予算は限られている。その限られた予算に優先順位をつけるのが、政治なんですよね。
だからよく地方議会で、県会議員や区会議員の立候補者が「少子化にも取り組み、安全保障に取り組み、なんでも取り組みます」みたいなことを言っているんだけど、「何にでも取り組みます」なんて誰でも言えるわけです。
「優先順位として私はまずこれをやって、これに力を入れます」と言った時に、「じゃあほかのことは優先順位を高く取らなくていいのか?」という反論をされたら、「いや、なんでこの優先順位が必要なのかを考えないといけない」ということを議論をするのが政治家の役割なんですよね。
そう考えると、何を優先するかはAIには決められないわけだし、あるいは何を一番重要な課題として考えるのかもAIには決められない。そこをやるのは、やはり人間の仕事だと思います。
財前:ありがとうございます。「Web3はビッグテックから自由になるのか」という意味でいうと、自由を実現するというよりかは、この本(『Web3とメタバースは人間を自由にするか』)でも「関係を変えていく」と書かれているんですが、その関係を変えるとはどういうことでしょうか?
佐々木:このへんの話になると、だんだん抽象的になってきて難しいんですが、Web3で議論されていることはたくさんの話題があります。DAOもそうだし、ビットコインみたいな暗号資産もそうだし、その1つにトークンエコノミーというものがあるんですね。
トークンエコノミーは、ビットコインみたいな暗号通貨的なものを発行するんだけど、誰でも発行できるものなんです。クラファンをイメージしてほしいんですが、例えば僕が「佐々木俊尚」のトークンを発行したとします。
「100枚発行するので、みなさん1枚1,000円で買ってください」とやると、僕のトークンが欲しい100人が「はい、買います」と出てきてくれたら、1枚1,000円で売ると10万円が入ってきます。その10万円を活動資金にして、僕は次の本を書く。
クラファンって一過性で終わりじゃないですか。でもトークンエコノミーは、そのトークンを持ち続けると、まるで株式とかお金みたいなかたちで価値を持ってくる。
佐々木:これは「推し活」に似ていると僕はずっと考えているんだけど、推し活ってアイドルなどを推す活動ですよね。
例えば、まったく売れていない地下アイドルの女の子がいたとします。彼女が1,000円のアイドルトークンを100枚販売したら、地下アイドルでも100人ぐらいはファンがいるから、きっと10万円を得ることができる。そして、それで活動を継続する。
買ったほうは彼女のトークンを持っているわけです。ところが彼女はだんだん売れっ子になっていって、人気が出てくる。
トークンは追加発行ができたり、あるいは今まで1枚1,000円だったトークンを1枚1万円に値上げしたりします。同時に追加のトークンを1万円で発行すると、初期の活動から見守っていた最初期のファンは1枚1,000円のトークンが1万円に値上がりする。そうしたら、これを他の新しいファンに売れば9,000円儲けることができる。
別に売らなくても、そのトークンをずっと持ち続けていると、彼女がすごく人気になって国民的なアイドルになった時に「俺は最初期から彼女のトークンを持っていたんだよ」って、みんなに自慢ができる。
推し活をトークンというかたちで見える化して、それをみんなで流通させたり、「自分はファンである」というシンボルにしたりするエコノミーがトークンエコノミーなんです。
これは別にアイドルだけじゃなく、野球選手やクリエイターがやってもいいし、個人が発行してもいい。お互いにトークンを発行し合う社会がトークンエコノミーである、というイメージです。実はこれが、Web3の中でも一番可能性があり得るんじゃないかということを、本の中で書いているんですね。
財前:でも、実際に我々が日常生活している中ではなかなかキャズムがあるというか、渡り切るまでの溝がけっこう大きいと思うんですけれども。
佐々木:そうですね。もちろんこれはあくまで将来的なイメージでしかないので、現実でそれが可能なのか、実際どんなビジネスや実装形態が可能なのか、もっともっと考えなきゃいけないんですが。
一方で、なんでそんなにトークンエコノミーの話に注目しているかというと、「AIが普及していくと仕事がなくなる」という話がありますよね。これがすごく不思議なのは、一方で「少子化で人口が減っていく、働く人が足りなくなる」なんて言われているわけでしょ。
10年、20年後には人口が9,000万人になると言われている一方で、AIに仕事を奪われるという話がある。両方混ぜれば「人口が減っても、AIで仕事をやってくれるんだったらそれでいいじゃん」という話になるわけです。
なんで両方が矛盾しないで両立しているかというと、結局は仕事の質が変わってくるからです。例えば、画像生成AIでデザインやイラストの仕事が変わるというさき話をしました。
広告の仕事とかでやったことある人にはわかると思うんですが、今までだったらデザイン制作はクリエイティブディレクターという指示をする人がいて、クリエイティブディレクターが「こんな感じの広告を作ります」と言ったら、それに基づいて下請け的なデザイナーが実際に手を動かして絵を描いたり、写真を撮ったり、撮影したりするんですよね。
ところが画像生成AIがやろうとしているのは、手を動かすデザイナーの仕事をAIにやらせことです。そうすると、「こんな感じのものを作りたい」というクリエイティブディレクターの仕事は残るんです。
佐々木:「こんな感じのものを作りたい」とディレクターが言ったら、そこから先はAIがやってくれる。そうすると、プロンプトエンジニアみたいなAIに指示をする仕事はたぶん今後も注目されるんだけど、一方で今まで手を動かしていたデザイナーの仕事よりも、仕事のスキルレベルが一番高くないですか?
AIによって仕事はなくならないし、たぶん今後増えていくんだけど、単純労働がなくなってしまう。単純労働って、単に工場で機械のネジ回しするみたいなステレオタイプのイメージじゃなくて、それこそ弁護士が書類を準備するのも単純作業なわけです。
AIが普及した結果、実際にアメリカでは、弁護士や投資会社のファンドマネージャーの仕事もどんどんなくなっていると言われています。ホワイトカラー、ブルーカラー関わらず、反復繰り返しみたいな作業が消滅していくのは間違いない。
そうなった時に、じゃあ仕事はなくなるのかどうか? という問題ですよね。今まで単純反復作業をやっていた人は、いったいどこに回ればいいのかがよくわからないわけです。
ここから先は僕の推測です。AIがすばらしい広告やクリエイティブを作ってくれて、それによって物が売れる。物が売れれば、それによって経済が成立するわけです。つまり、物を買ってくれる人がいれば経済は成立しちゃうわけですよね。
でも今の話だと、みんな仕事をなくしちゃうわけだから収入がなくなる。収入がなくなるということは物を買えなくなるから、その経済は成立しない。
佐々木:仕事がなくなるけど、経済を成立するためにはどうすればいいのかを考えると、ベーシックインカムしかない。
要するに、企業がそれでもちゃんとお金が回せるんだったら、そこから税収をたくさん取って、法人税で国民全員に毎月25万円ずつ配ります。25万円配られれば、だいたい生活の心配はなくなりますよね。そうしたら、そのお金でみなさんが物を買う。それによって企業は成立する。
物を作っているのはAIだけど、消費するのはベーシックインカムをもらっている人間であるという構図になっている。これは単に僕の独りよがりの推測じゃなくて、経済学者の間でも「AI時代にはベーシックインカムしかないんじゃないか」と言っている人は、けっこういるんですよね。
確かに、ロジックだとそうならざるを得ないかなと僕も思う。ただ、そうなった時の一番の問題は何かというと、国から月に25万円もらって「あとは何もしないでいいから暮らしてください」と言われて、みなさんが暮らせるのかどうか。
人間には承認欲求というものがあります。承認欲求というのは、必ずしも「俺のことを認めろ」とかそんなんじゃなくて、「自分は社会の役に立っている」「社会に価値を与えている」ということが、承認欲求の大事なところなんです。単にお金をもらっているだけだと、そういう承認欲求は満たされないんです。
「自分はなんの価値もない無価値な人間である」という気になっちゃうわけでしょ。実はそこで、トークンエコノミーが大事になってくるんじゃないかと思います。
佐々木:つまり、自分は物を生み出していないし企業活動に参加していないけど、自分が推している誰かの株主になることによって、「推す」という行為で誰かを応援するわけですよね。
応援するという行為が、自分自身の社会的承認になり得るんじゃないか。これがトークンエコノミーの本質ではないかということを、本では書いています。これが本の一番肝のところなんですが、ちょっとわかりにくくて申し訳ないです。
財前:承認で言えば、やっぱり人は誰かの役に立ちたいところがありますよね。パンとサーカスのように、食事と娯楽だけを与えられているだけでは、人間として生き続けていくのもなかなか飽きてくるところがあるんですかね。
佐々木:トークンエコノミーで、みんながみんなを推し活し合う。アイドルだけじゃなくて、みんなが誰かを推しているし、自分も誰かに推されている環境を作る。
必ずしも企業活動やビジネスじゃなくて、例えば「草野球が強い」とかね。今までだったら、草野球が強いなんて別になんの価値もなかったわけじゃないですか。でも、自分に対してちゃんとファンがいることが見える化してくると、もっと承認欲求が満たされるようになるんじゃないかと思います。
相互に入れ子のように、そういう関係が世界中、社会全体を覆っていけば、我々はもう少し生きやすくなるんじゃないか。
佐々木:さらに言うと、これはスティグリッツというノーベル賞を受賞した経済学者が提案しているんですが、レーシックキャピタルみたいなものをやったらいいんじゃないかと思います。
キャピタルって資本ですよね。インカムというのはお金なんだけど、みんなにお金を渡すだけじゃなくて、例えばソフトバンク・ビジョン・ファンドみたいな巨大なものを作って、その巨大ファンドがGoogleとかAmazonといったビッグテックに出資するわけです。
その政府系ファンドの株券を国民全員に配ると、我々は国のファンドを経由してGoogleやAmazonの株主にもなる。それもトークンエコノミーの1つなんです。
だから、GoogleやAmazonの支配はなくならないんだけど、ある意味「GoogleやAmazonが国民の出資によって成立する」みたいなイメージを作ることができれば、「よくわからない超巨大企業に勝手に支配されている」というよりも、「互いに支配し合っている」という関係性にある程度変えることも可能なんじゃないかと思います。
財前:ありがとうございます。
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