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爆速経営~激変するマーケットで成長を実現する方策~(全4記事)

爆速経営のための手法は「育てるか、作るか、買うか」の3つ ヤフー小澤氏が考える「買収の上手い会社」を目指すメリット

グロービス経営大学院が主催した「あすか会議2022」。本セッションではではユーグレナ出雲充氏、ヤフーCEO小澤隆生氏、BASE鶴岡裕太氏の3名が登壇したセッションの模様をお届けします。ヤフーが掲げる「爆速経営」をテーマに、変化の激しいマーケットで組織の成長を実現するためのポイントについて議論が行われました。本記事では、事業成長の「スピード」に対する考え方や、環境変化に組織がどう対応するかについて語られました。

ヤフーが掲げる「爆速」に、スタートアップが危機感を持った方がいいわけ

井上陽介氏(以下、井上):もう一段、ちょっと掘り下げたいなと思っているんですが。ヤフー、さらにいくとZホールディングスでいくと、それこそLINEとの統合であったり。出雲さんところでいくと、キューサイという会社を買収して取り組んでいらっしゃる。M&Aも含めて事業成長していくということは、極めて重要な選択肢ではあると思うんですけど、その難しさがありますよね。

成長に向けてのスピードを上げていく。どちらかと言えば、ブレーキ構造も起きうるんではないかなと思っていまして、このあたりの向き合い方を、お2人、経営者としてどのように取り組んでいらっしゃるのか。

鶴岡さんに関しては、プロダクトラインナップを広げていく方向性の中で、ここでも難しさがあると思うんですよね。このあたりはぜひおうかがいしたいなと思ってます。じゃあ、出雲さんからいってもいいでしょうか。

出雲充氏(以下、出雲):M&Aの難しさとか、スピードの重要性っていうのは、だいたいこれはもう当然みなさんもおわかりだと思うんですね。何でこんなに「爆速」という言葉に、スタートアップが危機感を持ってるのかというほうが大事だと思うんですけれども。

みなさんの出身母体、そのほとんどの人がたぶん大企業だと思うんですね。その大企業がスピーディーな意思決定と、アジャイルで機敏にスモールスタートをするようになると、大企業が強くなって、中小企業やスタートアップが勝ち残る要素がなくなっちゃうからなんですよね。単純に。

例えば、日本の大企業の平均の1社あたりの従業員数は1,500人ぐらいで、日本の零細企業は、1社あたりの従業員数3人なんですよ。大企業の平均の労働生産性が800万円で、零細企業の1人当たりの労働生産性は300万円ですから、その倍以上差があるんですね。

だからもともと大企業は、規模の経済も働くし、スムーズな意思決定さえできれば、最強なんですよ。

スタートアップが逆転できるのは「意思決定のスピードが早い」から

出雲:一般的には組織が大きくなると構造的に動きが遅くなる。新しいことにチャレンジできなくなる。アントレプレナーシップ・マインドが必然的に失われてきて、その結果として経営の意思決定が遅くなっていく。

そこでやっと意思決定のスピードが早いスタートアップが逆転できる。市場に入っていくチャンスが生まれるんですね。

だから大企業であるヤフーの爆速経営は、本当にITのスタートアップ、ベンチャーにとっては死活問題なんですよ。普通はできないことをやろうとしてる。「永久ベンチャー」にチャレンジしている。これがやはりすごいことなんですね。

M&Aも、やればやるほど企業が大きくなって、1人当たりの労働生産性も、いろんなナレッジとかのシェアができるから高くなるんですよ。我々のような、例えばキューサイとユーグレナ社は、もうほとんどビジネスモデルが一緒じゃないですか。

ユーグレナ社はミドリムシ(微細藻類ユーグレナ)を育てて、ミドリムシを使った食品や化粧品をお客さまにお届けする。キューサイはケールを畑で育てて、ケールを使った青汁をお客さまにお届けする。非常にビジネスプロセスが似てるので、これは一緒になったほうが購買力も上がるし、いいことばっかりなんですよ。

唯一良くないのが、意思決定が遅くなる。経営が「ちょっと待ってね。判断するのに時間ちょうだい」と言ってると、規模の経済が働くというM&Aのメリットと、意思決定が遅れるっていうデメリットが、オフセットし出すんです。

絶対そうならないように7倍速にして、意思決定をとにかくスピーディーに。これを一番意識して行ってます。

井上:ある意味、個人を律する意味でも「7倍速」と常に意識して、経営判断していくいうことですね。

出雲:はい。

スピードだけ意識し過ぎると「何のために」がブレる

井上:じゃあ、小澤さんに行く前に鶴岡さんに。

鶴岡裕太氏(以下、鶴岡):そうですね。うちの場合はM&Aとかはないんで、それこそプロダクトですけども、スピードとか僕たちとしては大前提じゃないですか。プロダクトを広げていくのは、どっちかというとスタートアップとしては、スピードとかはもうチームも小さいし、自分で立ち上げてるし、そんなに逆にハードルがないことのほうが多いかなと思ってるんですけど。

それをロングタームで、それをどう経営していくかというのが、けっこう個人的にはすごい難しかったなと思って。別に利益を作るために起業したわけではなかったので。そういう人もいると思うんですけど。社会にどう貢献するのかとか、どういう社会を作りたいから、このプロダクトを作ってるのかというのは僕とかはあって、それってすごい時間かかる。数十年かかるミッションじゃないですか。

数十年かかってやりたいことと、足元のスピードを持って意思決定しないといけないことの整合性を、どんどん合わせていかないといけないから、そこを個人的にはずっと意識してますね。

「これ、何のために意思決定してんだっけ」っていうのと、これって短期的な利益だけ追求しすぎてて、中長期のビジョンとかミッションとかを、ないがしろにしてるんじゃないかみたいな、こっち側がブレないようにするほうが、けっこう大変だったなと思って。

なのでBASEがプロダクト広げていく時とかは、どっちかっていうと、我々がミッションを達成したら、ミッションを達成するためにどういうプロダクトが必要で、それをどういう順番で作っていくかみたいな。なのでスピードと距離感ですかね?

井上:なるほど。

鶴岡:それを意識しながらプロダクトを作ってるなって感じはします。

井上:なるほど。いかに遠くの方向性、これをブラさないかってことを、足元でしっかり回していく。

鶴岡:そうですね。自分たちの存在意義がなくなってしまったら何の意味もないし、これだけ社会問題も溢れていると、社会問題を解決するっていうのが、我々が生きていく意味じゃないですか。

なので、スピードだけガーッと意識し過ぎると、「何のために働いてたんだっけ」ってなっちゃうから、けっこうそもそものどういう社会に貢献するのかという。そのためにどういう意思決定をするのかっていうのは、全部セットかなと思って。そのためにいろいろ事業作ったりしてるという感じでですね。

買収をうまく使えるか使えないかは、経営の重要な要素

井上:ありがとうございます。じゃあ、小澤さんのほうにもマイクを。

小澤隆生氏(以下、小澤):M&A。

井上:そうですね。M&Aをはじめとした、当然、規模を拡大していく中で、やはりスピードを殺す動きっていうことも出てくるんじゃないかと。このバランスをどうマネジメントされてらっしゃるか。

小澤:わかりました。先ほど「爆速」というからには、目的が必要だという話をしましたね。例えば我々だったらペイメントの事業、QRコード決済、これで日本を良くするとか。ファッションの領域が弱いのでどうしようって、社内的にずっと研究するわけですね。

その時に手法というのは大きく3つしか僕らは考えてないです。育てるか、作るか、買うという。今ある自分たちの事業をドカンと育てていくか、ないものを作って育てる。PayPayとかそうですね。あと買うです。

買うっていうのがもう爆速の最たるもので、買った瞬間完了なんですよ。育てるとか作るよりぜんぜんスピード感が違う。買った瞬間に、ファッションの領域No.1と。高級な宿泊の領域No.1というので、我々は常にずっと買収のリストっていうのを作って、その会社のコンディションとか見ながら研究をして、これはもう爆速の最たるものであるという理解をしています。みなさん、買収はいいよ。

(会場笑)

マネジメント層の方もいっぱいいらっしゃると思いますけど、絶対に買収が上手になったほうがいいですね。この買収をうまく使えるか使えないかは、もう会社の経営としてものすごく重要な要素だと思います。

私は楽天という会社だったり、今ソフトバンクグループとか、こういうところのキャリアが多いですけど、やっぱり2社見てて思うのは本当に買収を上手に使う。

逆に買収が上手じゃない会社っていうのは、成長の幅が読める。爆速とか正直言葉はどうでもいいです。要は会社経営の非連続な成長を作り出すための買収の研究っていうのを、買収のスペシャリスト。買収のマッチングのスペシャリストじゃないですよ。

どういう案件を買うべきか。どうやって交渉するべきか。買ったあとどうすべきか。PMI。これのスペシャリストは日本にはすごく少ない。これはおいしいですよ。みなさん。目指したほうがいいですよ。教えてくれる人もいないけど、僕は教えられると思うな。以上です。

(会場笑)

井上:ありがとうございます。

変化を予測することに価値はない

井上:1つ目の「爆速と私」、そしてその中での経営のポイントを、それぞれの方にお話をいただきましたけれども、ちょっと展望を未来に持っていきたいなと思ってます。すでに未来に向けた議論が、かなりおありだったかなというふうに思うんですけれども。

この前のセッションでは、実はかなり環境変化。それこそサプライチェーンの変化であったり、戦争の話であったり、為替の変化。さらにいくとエネルギーの問題という議論もされていました。

その中で、我々どういう環境変化を重視し、そして足元の経営に生かしていくのか。成長戦略にどうつなげていくのかという観点も、ぜひおうかがいしたいなと思ってます。ここはじゃあ、出雲さんからお願いしてもよろしいでしょうか。

出雲:グローバルな変化にどうやって対応していくのかということでいいんですか?

井上:そして今現在、この先に向けて「爆速」というテーマで、成長戦略をどのようにこう考えていらっしゃるのかということをおうかがいしたい。

出雲:なるほど。変化に対応するという意味では、変化に対応できる組織の際立った特徴っていうのは、もう明らかになってるんですね。これはまさにダボスで人工知能とビッグデータの座長をしてるのが、MITのアレックス・ペントランドっていう先生なんですけれども、このペントランドが変化を予測することは、VUCAの時代にあっては無理なんですよ。それはもうみなさん、百も承知ですよね。

変化を予測することに価値はないんだけれども、変化に対応できる組織の際立った3つの特徴を、平時から涵養できるか。養っていられるかどうかっていうのが、致命的に重要だっていう話をしてました。この3つの特徴を、私は常に意識して会社経営に当たってます。

変化に対応できる組織の3つの特徴

出雲:1つ目が「Talk a lot」。とにかくいい話、難しい話、バカな話とか、中身はどうでもいいんです。コミュニケーションのアクション量とか、アクティビティが多いか少ないか。多い組織は変化に対応できるんですよ。コミュニケーションが少ない、アクティビティが低い組織は変化できないんですね。

2つ目が「Talk equally」。「平等、フェア」ということなんですけれども、例えば時間が1時間あって、その1時間、社長が一方的にしゃべる。こういう組織はダメですよね。そうではなくて、新入社員だろうがアルバイトだろうが、自分が話したいって思った時に、自分にちゃんと発言の機会が与えられるという確信、安心感、セキュリティ、セキュアな環境があるかどうか、というものをメンバーが感じられているかどうかというのが「equally」なんですね。

アメリカも日本もヨーロッパも、ちゃんとしたまともな組織は、この1つ目と2つ目はできてるんですよ。「Talk a lot」と「Talk equally」というのは。3つ目が致命的に難しいんですね。3つ目というのは何かというと「Talk outside」なんですよ。

社会の変化が激しい。変化に対応するために10万時間、同じバックグラウンドで似たような中高年の男性の管理職が、100人集まって1万時間ディスカッションしても、変化には対応できないんですね。インサイドの、同じバックグラウンドの人といくら話してても盲点には気づけない。

だからアウトサイダー、アウトサイド、自分とまったくバックグラウンドが違う人をインハウスに連れてきて視座を高めないと、変化を阻害しているボトルネックに誰も気づけないんですよ。

ユーグレナ社が「最高未来責任者」に18歳以下の若者を指名するわけ

出雲:この3つ目が一番難しくて、僕も反省したんですね。

ああ、これは確かに3つ目はできてないと。じゃあ自分にとって一番アウトサイダーは誰かというのを考えて、やっぱり若い人。若者。でもみなさんもそうだと思うんですけど、大学生ってけっこう会うじゃないですか。だから大学生じゃないなと。じゃあ大学生よりももっと若い、例えば高校生、中学生、小学生と、最近海洋プラスチック問題について真剣に話したのはいつですか?家族じゃなくてですよ。

そういうこと考えると、一番会社に必要なアウトサイダーは18歳以下の若者だと。彼ら彼女らに「Talk a lot」たくさん話してもらおう。たくさん発言してもらおう。しゃべりたいなと思ったら、いつでもしゃべれるというポジションにアポイントしようっていうことで、ユーグレナ社は18歳以下の子どもたちを会社のCFO、Chief Future Officer、つまり最高未来責任者に任命したんです。

変化に対応し、変化し続ける組織をつくるということに、今自分もチャレンジしていて、これは本当にやって良かったなと思うので、今日、この話をお聞きのみなさんの会社でもぜひやって欲しいんですよ。

「上場企業で高校生がCFOなんかできるわけない」とか、いろんなこと言うんですけれども、これはもう関東財務局にも東証にもちゃんと確認をして、我々ができてるんですから、みなさんの会社でできない理由なんかありませんから、ぜひ7倍速でCFO、最高未来責任者、Chief Future Officerというかたちで、アウトサイダーをインハウスに入れる。これによって変化に対応するっていうのは、ぜひお勧めしたいので共有させていただきました。

井上:未来を考える。未来を背負っている高校生以下の方々を招き入れていると。それによって恐らくユーグレナの多くの社員は影響を受けて、未来を考え直すとことが起きているんでしょうね。ありがとうございます。

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