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『対立の炎にとどまる』出版記念オンラインセミナー〜対立のエネルギーを力にする「戦略的組織開発」(全5記事)

外部環境に合わせて変えるべきは「戦略」ではなく、まず「組織」 組織開発×戦略構築における、3つの「常識の逆」をいく視点

バランスト・グロース・コンサルティング株式会社が監訳したアーノルド・ミンデルの名著『対立の炎にとどまる』の出版記念イベントが開催されました。翻訳を務めた西田徹氏より、アーノルド・ミンデルによって創り出された心理学「プロセスワーク」をビジネスに活用する方法について解説されました。本記事では、「プロセスワーク」とは何か語られました。

コンサルタントとして味わった「結局何も変わらない」という無力感

西田徹氏:今回、アーノルド・ミンデル『対立の炎にとどまる』の出版記念セミナーとして、タイトル「対立のエネルギーを力にする『戦略的組織開発』」ということで、90分間みなさんと考えを巡らせ深めていきたいと思っております。

『対立の炎にとどまる――自他のあらゆる側面と向き合い、未来を共に変えるエルダーシップ』(英治出版)

まず自己紹介ですね。私、西田徹は、始めはリクルートに入社しました。実は今思い起こすと、その時のリクルートって国内最先端の組織開発をやっていました。

リクルートOD(Organization Development:組織開発)「ROD(ロッド)」と言われるもので、具体的には、ST(Sensitivty Training Method:感受性訓練)とサーベイフィードバックを組み合わせたものを提供していました。

当初はすごく良いものだと思って、いろんな顧客にご案内していたんです。でも、研修受講後のリーダーのがんばりが一時的だったり、ファミリートレーニングというかたちで組織ぐるみで活発な議論をして盛り上がっても結局何も変わらなかったりと、実は無力感を覚えていました。

その時にボストンコンサルティングのPPM(経営資源の最適な配分を目的としたマネジメント手法)を知る機会があって「これだ」とひらめきました。「戦略があれば会社は良くなるんだ」と信じて、ボストンコンサルティンググループに転職しましたが、また無力感に立ち向かうことになりました(笑)。

何かというと、せっかく我々戦略コンサルファームがベストと思うソリューションをご提供しても、実際それを本当に実行する企業はあまりにも少なかったんですね。これじゃあもうどうにもならんなということで、いったんコンサルタントとしての活動を停止して、ナンバー2の立場でベンチャー企業の経営を手伝ったりしていました。

組織開発と戦略構築の「のりしろ」になる「プロセスワーク」

そして、2017年に弊社バランスト・グロースが、LLP(有限責任事業組合)から株式会社になるところで参画しました。そこで本格的にプロセスワークに出会いました。これはまさに私がリクルートでやっていた組織開発と、ボストンコンサルティングで経験した戦略構築の「のりしろ」になるじゃないか、両方うまく活かせるエンジンになるじゃないかと。

また2000年からはコーチングの勉強をしていまして、実はCTI(国際コーチ連盟の認定プログラムを提供するコーチ養成機関)の第1期生なんです。バランスト・グロースバランスト・グロースで「プロセスワークコーチング」というかたちでコーチングと再会して、もう一度コーチングに切磋琢磨しましてね。「なるほど、そういうことだったのか」という実感と確信を得たわけです。

今回、「プロセスワークを活用した戦略的組織開発」をいろんな人に知ってもらいたいという決意で、みなさんにお話しするチャンスをいただくことになりました。

みなさんはプロセスワーク、もしくはアーノルド・ミンデル、こちらの書籍(『対立の炎にとどまる』)にご興味がおありで来ていただいてると思います。「プロセスワークって何なんだ」って、ちょっと一言で言い表しにくいんですけど、この図が非常によくできていると思います。源流はユング心理学です。それに加えてタオイズム・老荘思想や、物理学、量子力学なども組み合わさりました。

「どんなふうに活用されているのか」も、さまざまなので、プロセスワークがどんなものなのかを一言で言いにくいところなんですが。

今回この『対立の炎にとどまる』は、ワールドワーク(プロセス指向心理学を組織やコミュニティにおける葛藤の解決に応用した技法)に関する書籍と言い切れない側面がたくさんあるんですが、あえて単純化するとワールドワークに関する書籍です。それで、「これが何なのか」を、今から(スライド)2枚ほどでご説明したいと思います。

アメリカで発達した「ワールドワーク」の考え方

まずはワールドワークについてです。いろんな方たちがファシリテーターをぐるりと取り囲む場合もあるし、ファシリテーターが脇にいる場合もあるかもしれません。(ワールドワークは)アメリカで発達した考え方ですから、黒人と白人の対立なんていうのが典型的ですよね。

「白人はみんな差別主義者だ」って叫ぶ黒人がいたり、それに対して白人が「あなたたちって被害者意識が強すぎない?」みたいなことを言い出したり。一方で「いやいや、私は白人ですけど人類はみんな平等だと思ってます」とか。

逆に「白人は差別主義者だ」と叫ぶ黒人の横にいる黒人が「白人もいい人いるわよ、あなたは変よ」と言ったりと、もうごっちゃごちゃに話が飛び交うわけですよね。

ファシリテーターであるアーノルド・ミンデルは、最終的にはニュートラルなエルダーなんですが、時には弱者の味方をしたくなる時も、人間だからあるわけです。そうすると白人から「ミンデルさん、あなた黒人の味方しすぎじゃない?」と火の矢が飛んできたり。

あるいは横で見ていたアラブ人が「あなたたちは黒人・白人でやたらと戦ってるけど、我々イスラム教徒の話はぜんぜん出てこないじゃない」という感じで、もう本当に混沌とした状況になる。でも最後にはミンデルの魔法で、対立していた黒人と白人が涙を流してハグし合うようなことが起きるのがワールドワークです。

3つのワールドワークの立ち位置

そう私が口で申し上げても、どんな雰囲気なのかちょっとわからないと思います。実は50分ぐらいのワールドワークの様子を2分ほどに縮めた動画がありますので、見ていただければと思います。

(動画再生)

> 「性差別とホモフォビア:男性のプロセス」

「社会的、心理的、精神的な次元で燃え上がる炎は、世界を破滅させる可能性がある。あるいは、この炎はコミュニティへと変化することもある。それは私たち次第だ。『対立の炎にとどまる』アーノルド・ミンデル著より」

「もし私が男でなかったら、女であったら、何がいけないのですか?」

「何も悪くはないですよ」

「でも、もしかしたら、よくわからないけど、私が十分に強くはないということかもしれません」

「そのことを指して男らしいと言うのなら、私は女でよかったと強く思います」

「私は今、この場で感じている弱さ(vulnerability)について語りたいと思います。私は弱さについて語りたい。私が今感じている弱さ、そしてこの場で起きている優しさ。それを守りたいです。それを攻撃してほしくないのです。弱さを認めてほしいのです」

短かったですが、ワールドワークの雰囲気を十分味わっていただくことができたんじゃないかなと思います。ワールドワークの立ち位置を、簡単に3つほど挙げてみました。

いわゆる「混沌」ですね。私が口頭で申し上げた例もまさに混沌の話でしたし、先ほどの動画もけっこうな混沌が起きていたんじゃないかなと思います。でもワールドワークの考え方とはタオイズム、老荘思想です。「Taoの流れに従えば、起きるべきことは自然に起きるんだ」という考え方に順じています。

そして「対立は悪」。先ほどの動画もむちゃくちゃ対立して怒鳴り合ってたわけではありませんが、根底にははっきりとした対立がありました。通常は(対立は)悪とされるものですが、ワールドワークでは対立を通してのみ本当の相互理解が生じる。

そしてファシリテーターは通常はあくまで部外者なんですけれども、ワールドワークの中ではファシリテーターも当事者たり得る。通常ではあり得ないような、すごいことが起きるのがワールドワークです。

プロセスワークをビジネスにどう活用するか

ワールドワークをはじめとした「プロセスワーク全体をビジネスにどう活用するか」という意味で、我々バランスト・グロースは日本国内のフロントランナーだと自負しております。本日は、そのビジネス活用の部分をお話しさせていただきたいと思っております。

この図が今日5時半までの話の全体像です。まず理論編があります。「3つのコペルニクス的転回」とは、コペルニクスが登場するまでは太陽が地球の周りを回ってるように見えたんだけど、「実は地球が回ってるんじゃないか」と常識を正反対にするような視点です。

プロセスワークからヒントを得ると、戦略や組織開発に関係する部分で、3つの「正解は、今までの常識と反対じゃないか」ということが見えてきます。

まずその話をさせていただいたあとに、3つのうちの2つに非常に強く関わる事例として戦略実行の話、理論編として「なぜ戦略は実行されないのか」をお話しします。

理論編のところでいったん区切って、ご質問等あれば少し質疑応答の時間を取りたいと思ってます。全員の方にはお答えできないかもしれませんけど。そのあと打ち手編として「どう対策をすればいいのか」についてお話しします。

まずはリーダー個人へのアプローチ、実はこれはプロセスワークコーチングになります。それと組織へのアプローチとして、プロセスワークを活用した組織開発ワークショップのお話を紹介させていただきます。そして、最後の5番目でこの一旦枝分かれしたもの(個人へのアプローチ・組織へのアプローチ)を統合していくお話をしたいと思います。

外部環境が変化したら、作り直すのは「戦略」ではなく「組織」から

では最初の「コペルニクス的転回」からお話しします。まず1つ目、タイトルは「組織ファースト」です。私もボストンコンサルティンググループにいたことがある人間ですから、最初は(スライドの)上(外部環境変化→戦略立案→組織開発と実行)が正しいと思ってたわけですね。

外部環境が変化したら、それに合わせて戦略を作り直さなければいけない。ここまでは戦略コンサルティングファームの仕事かもしれませんけど、できた戦略を受け取った自分の会社がその戦略を実行するのに最適な組織に作り直していく。

でもこれ、さっき申し上げたようにうまくいかないんですね。外から与えられた戦略を真面目に実行するような組織は、ほとんどお目にかかりません。

「じゃあどうするのか」というと、まず外部環境の変化に合わせた組織作りをすることですね。そして、目覚めた当事者たちが自分たちで戦略を作り実行していく。この順番じゃないと組織は良くなっていかないという実感です。

普通の人が考える正反対ですね。まさに地球が回ってるのか、太陽が回ってるのかの話ぐらい正反対ですが、私どもは「組織ファースト」と考えております。

心をビジネスに取り込むことの重要性

2番目は「心をビジネスに取り込む」。みなさんどうでしょうか。何かの会議で「こうしたほうがいいです、なぜならばこのデータが……」といったことは、みなさんも言いますけれども。もし「私の気持ちとしては……」という話をし始めた人がいたら「お前の気持ちなんか関係ねぇ」ってことになるんじゃないでしょうか(笑)。

そうではなくて、我々は心で感じる部分も大切にしつつ、(理屈と気持ちの)両方のアプローチをしています。これはプロセスワークをよく知ってる方にとってみると、「ドリームランドとかエッセンスのところまで入る」ということなんですが、普通の言葉で言うと「心で感じる」。

ちょっと余談ですが、先日まさにドリームインキュベータ出身の方が、プロセスワークを活用したワークショップをオブザーブされることがありました。ドリームインキュベータとは、ボストンコンサルティングの堀紘一さんや小谷(昇)さんが作った、やはりBCG(ボストンコンサルディンググループ)の流れを汲む戦略コンサルティングファームです。

最後に彼が感想として「我々はファクトがすべてだと教えられてきましたけれども、ファクトがすべてではなかったです」とおっしゃいました。たぶん彼にとってみたら、まさに「コペルニクス的転回」が起きたんじゃないかなと思います。優秀な方だったので、心で感じる部分も入れなきゃいけないことに気づいていただけたのかなと思っております。

「対立」を歓迎し、本気で言い合える組織を作る

そして3つ目の「対立歓迎」は、まさに今回の書籍『対立の炎にとどまる』のタイトルとも関係します。普通に考えたら「対立は悪だ」は当たり前ですけど、「コペルニクス的転回」としては「対立を活用しよう」「対立のエネルギーが大事なんだ」ということですね。

最初に分断がある。例えば、ある企業の営業部門と製造部門に分断があって仲が悪いとしましょう。「仲が悪い」で留めちゃダメで、「もっと本気で言いたいことを言い合いましょうよ」ということですよね。そして、ロールスイッチといって、相手の役割を取ってみたあとにたどり着く境地が「私たち」です。

仮に田中産業の営業と、田中産業の製造の人がいがみ合っていたとすると、最後にたどり着く境地は「営業も製造もないじゃん、俺たちは田中産業じゃん」っていうような。そんなところにたどり着くには、やはりしっかり対立をしなきゃいけない。それが「コペルニクス的転回」の3つ目です。

ということで、この「組織ファースト」「心の取り込み」「対立歓迎」の3つがなぜ大事なのかを、戦略実行という切り口でお話したいと思います。

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