ユーザーインタビューで確認できること

小島瑶兵氏(以下、小島):たくさんのご質問をいただきありがとうございます。拝見させていただきます。

「真のニーズは潜在なので、実際にPoCをやってみないとわからないのでは」というご質問をいただいています。おっしゃるとおりだと思います。質問の意図を間違えていたら大変恐縮ですが、恐らく「インタビューをしてもわからないんじゃないですか?」というご質問じゃないかと思います。

それに関しては、半分はおっしゃるとおりだなと思っています。とはいえ、ニーズの調査は段階があるので、インタビューでわかる表層的なニーズの確認も実際にはすごく重要です。ここはここでやりながら、実際に売ってサービスを提供していく中で気づいていくのが、現実的かなと思います。

本日お話しさせていただいたPMF事例や私自身の経験も踏まえて、「机上の空論でPMFすることは本当にないんだな」と痛切に感じています。

実際にお客さまに商品を売って納品して、その中で揉まれながらPMFしていくのが現実的なところかなと思います。とはいえ、インタビューが不要という話ではないので、それはそれで大枠を外さないためのインタビューを我々は重要視しています。

「顧客の解像度を上げたつもりでも、実際には十分ではなかったなど、その適切さ・深さはどう判断・評価したらいいでしょうか?」というご質問をいただいています。

顧客解像度を点数化することはすごく難しいので、やはり顧客解像度を上げて、それを売り物や売り方に反映させた上で「実際に売れるのか」「売れたあとに本当に満足していただけるのか」で判断していただくしかないかなと思います。

BtoBサービスの「顧客理解」にインタビューが有効なわけ

小島:では、最後のパート「顧客解像度を高めるインタビューの実践」というテーマに入らせていただきます。

顧客理解、顧客解像度を上げる取り組みはすごくレベル感があり、インタビューだけですべていけるという話ではありません。インタビューである程度大枠を捉えつつ、実際に売って納品して判断していくところが大事かなと思います。

少なくとも、「インタビューしていれば気づけたんじゃないかな」というケースは多くあります。

「こういう課題があると思うので、こういうサービスを始めました」という会社さまからご相談いただいて、実際にインタビューしてみると「そんなに課題はなかった」とか、「ちょっとずれていた」というのはよくあるお話ですので、まずはやっていただくことが重要かなと思います。

顧客理解に関しては、インタビュー以外の方法もあります。アンケートを採るとか、ログを取るとかいろいろありますが、BtoBにおいては、利用者や見込み顧客の数はすごく限定的なんですね。

例えば、BtoCのサービスで「何十万人の方に使っていただく」「何百万ダウンロードされたアプリ」だったりすると、定量的に「こういうニーズがあるんじゃないか」と出せます。

BtoBの新規事業は、お客さまが多くても100社とか、実際には数社くらいしかいないケースもすごく多いので、量的に判断するのはすごく難しい。自ずとインタビューで質的に判断していくのがすごく重要なやり方になります。

本日登壇させていただいているから言う話ではありませんが、才流ではビザスクさまをかなり頻繁に使わせていただいています。才流の中でも新規事業や新サービスが多数ありまして、新しいコンサルティングメニューをどんどん作っています。

検討のタイミングで、10人から20人くらいの被験者をビザスクさまで集めてインタビューを実施した上で、このメニューはいけそうかどうかの最初のスクリーニングをかけさせていただいています。

実際に今、私は新規事業のコンサルティングを行っていますが、前段階では、ビザスクさまで新規事業のコンサルティングを発注した経験のある方を募集して、ヒアリングを重ねて「才流で勝ち目がある」と判断して参入させていただいています。

実際にはここにお出ししていない、私がトライした、死んだコンサルティングメニューが5つか6つくらいありまして、「これ、ダメだ」「これ、ダメだ」「これ、ダメだ」「これ、いけそうだ」と判断してやらせていただいています。

顧客を正しく理解するための良いインタビューとは

小島:今回は細かいインタビューの項目は割愛させていただきますが、インタビューのフォーマットを弊社でご用意しています。アンケートにご回答いただければ資料をお送りすることができますので、インタビューフォーマットをダウンロードして実際に進めていただければと思います。

ただ、先ほどのご質問でもありましたが、インタビューには注意点があります。良いインタビューと悪いインタビューの2つを挙げていますが、ヒアリングする際に1点だけ注意していただきたいのが、「回答を誘導しないでください」というところです。

インタビューをする時、私の例で言うと、「『新規事業のコンサルティングはすごくニーズがあるんですよ』と答えてほしいな」という思いが先行してしまって、「こういうふうに答えてほしいな」と誘導しちゃうケースがあるんですね。

例えば、「当時、〇〇の課題があったから発注したんですよね」とか「実際に発注している企業さまってWeb検索で探しましたか?」と、気づかずに誘導してしまうケースがあります。

そうすると勘違いしてしまうことが多いので、良いインタビューの例に挙げた、「実際にどういうことをしたんですか?」とか「どうしてそういうことをしたんですか?」というかたちで事実の確認と背景のヒアリングを意識していただけるといいかなと思います。

新規事業は10回やったら9回失敗してしまうような領域で、みなさまはすごく難しい取り組みに従事されていると思います。10分の9が失敗してしまう大きな要因はPMFの不在にありますので、実際に売り物と売り先がきちんと合っているのかに目を向けていただきたいというのが本日の主眼です。

すごく駆け足でお話しさせていただきましたが、少し興味を持っていただける方には『PMFの教科書』という書籍をプレゼントさせていただきます。アンケートにご回答いただいて、こちらの書籍も併せて読んでいただければと思います。

本日お話しした以外の最新のノウハウや事例もどんどんご紹介していきますので、今日のお話を聞いていただいて少しでも役に立ったなと思う方がいらっしゃれば、メルマガの登録と、もしTwitterをやっていらっしゃる方は私のアカウントをフォローいただけるとありがたいです。

最後に、弊社はPMF達成の道のりを、みなさまの状況に合わせて並走させていただくご支援もやらせていただいています。ご興味のある方はアンケートにご回答いただいて、リンクから詳細ページを見ていただければと思います。もし興味があるよという方は、お問い合わせいただければと思いますので、よろしくお願いいたします。

開発メンバーが顧客解像度を上げる方法

小島:今井さん、少しだけ質疑応答を行っても大丈夫ですか?

今井広夏氏(以下、今井):ご講演ありがとうございます。そうですね。よろしければ少しだけ質疑応答をお願いできますと幸いです。

小島:みなさま、長時間お付き合いいただきありがとうございます。少し延長してしまいますが、時間の許す限りでご質問に回答できればと思います。

「研究開発に携わっていますが、顧客解像度が不足していると感じます。研究開発におけるPMFのアドバイスがあればお聞きしたいです」というご質問をいただいています。

私が新規事業を担当する前は、開発部というエンジニアの組織が新規事業や新サービスを開発して売るという体制を取っていましたが、エンジニアの方が社内でカタカタやっていてもなかなか顧客解像度は上がらない。技術のあるメンバーがそろっていたんですが、欲しいものと合致していなかったというところがありますので、非常にわかります。

解決策としては、やはりお客さまの1次情報に触れていただくのがすごく重要かなと思います。可能であれば、先ほどご紹介したようなインタビューを研究開発側の方にしていただいたり、お客さまと直接話す機会を設ける。

それが難しければ、せめてお客さまと接している営業の方の、例えば商談の録画データなどを拝見するとか、とにかく1次情報に触れていただく。誰かを介した2次情報ではなくて、実際に生のお客さまと接するところをやっていただけるといいかなと思います。

「偽の差別化」の事例

小島:「『偽の差別化』とは何なのか。クライアントが他社との差別化について懸念を感じる時、どのような回答をされるのかをあらためてお聞きしたいです」。「偽の差別化」というちょっと変な造語を作ってしまって申し訳ございません。

差別化はよくお聞きすると思います。「他社と何が違うのか」とよく言われると思うんですね。そこでよくある問題としては、「違うこと」にだけ頭が向いてしまって、お客さま不在になってしまうことです。

私は虫歯治療や矯正治療をする歯医者さんのホームページ制作が、新卒で最初に携わったビジネスです。

そのお客さまの例でお話しすると、東京の蔵前という場所で歯医者さんを開業されている先生で、ホームページをどうするかを話すんですが、そこで「僕のところは他院とはぜんぜん違う。歯周病の専門的な治療ができるんだよ。これをホームページでうたいたいんだよ」と言われました。

新卒の私は、「歯周病治療の専門的なことができる」と打ち出したホームページを作ったんですね。それがぜんぜんヒットしなかったんです。

なぜかと言うと、蔵前に住んで、歯医者さんに行きたい人に、専門的な歯周病治療をしたい人はほとんどいなくて、多くの方は便利な場所で、優しそうな先生で、きれいな歯医者さんに行きたい方だったんですね。

私が退職する直前にその歯医者さんのホームページを再度リニューアルさせていただいた時は、「先生の病院の差別化ポイントは、特別な歯周病治療ではありません。先生の差別化ポイントをお客さま・患者さまのニーズに合わせると、アクセスの良さであるとか、先生のお人柄や院内のきれいさなんですよ」とお話させていただきました。

顧客ニーズに合わせた差別化をしたことで、ホームページをリニューアルしたあと、めちゃくちゃ患者さまがいらっしゃったという例です。同じことがBtoBの領域でもすごく多発しています。「競合と違うこと」を模索し過ぎて、「お客さまはそれが欲しいの?」というところが抜け落ちてしまうケースがすごく多いかなと思っています。

無形サービスの内容を相手に伝えるポイント

「過去のご経験で、『これはPMFしないだろう』という判断はどのように下されましたか?」というご質問をいただいています。「PMFしないだろう」と思うケースでいうと、まず、PMFしていないかどうかは、顧客のヒアリングや今のビジネス状況を見ればある程度わかる。

「これはこのままPMFしないだろうな」と感じる場合、プロダクトもマーケットも変えられない時は、正直打つ手がないなと感じるところです。

「ターゲットはこの会社です。売り物はこれです。あとはマーケティングと営業のテクニックでなんとか売ってください」というオーダーをいただくケースもあるんですが、その場合はちょっと難しいなと感じてお断りしています。

「ヒアリングにおいて、無形サービスの場合はサービスのイメージを持ってもらいにくいのですが、伝える時のポイントはありますか?」というご質問をいただいています。物を手に取っていただけないので、「これはこういうものなんです。買ってください」というのが難しいいうのはすごくわかります。

ここでは、無形サービスをわかりやすく説明する営業コンテンツが重要になると思います。我々が新しいコンサルティングメニューを作る時、あるいは新規事業をご支援する時は、まず1枚のリーフレットみたいな営業資料からスタートします。

それをかなり詳細な何ページかのスライドにだんだんまとめさせていただいて、「スライドの中でこういうサービスをするんです」「こういう違いがあるんです」「こういう課題を解決できるんです」「実際にこういうお客さまをご支援させていただいています」とお出しするようにしています。

今井:小島さま、本日は本当にすばらしいご講演をいただきまして、誠にありがとうございました。

小島:こちらこそ、ありがとうございました。