少しずつ回復している、外国人観光客の客足

赤池実咲氏(以下、赤池):最近、街を歩いていると外国人観光客を見かけることが多くなった気がするんですが、先日「つみたてキャラバン」で長野県に行った時は、駅前にいる人や新幹線に乗る人がすごく多かったです。

藤野さんや三宅さんは、東京だけではなくいろんなところに行かれていると思うんですが、実感することはありますか?

藤野英人氏(以下、藤野):半分仕事で半分趣味でもあるんですが、富山県に行くことが多いんです。富山県は(外国人観光客が)増えましたよね。

赤池:本当ですか。

藤野:はい。この2〜3年はまったくいなかったですが、今は飛行場にもたくさんいますし、街の中にもたくさんいらっしゃるなと思います。このあいだ広島にも行きましたが、広島にもたくさんいます。

もちろん、まずは東京に来て、銀座でどんどん買い物をすることもあるとは思うんですが、日本中に外国人の方が来られているなと思いますね。

三宅一弘氏(以下、三宅):特に銀座とかを歩いていると、このところ外国人の方が増えたなという印象が強いですね。ただ、コロナの前の2019年と比べると、増えたとは言ってもまだまだ少ないですよね。

赤池:そうですね。

2023年以降、以前のような活気は日本に戻ってくるのか

赤池:今回のテーマがそういうお話になるんですが、2022年10月に政府が、インバウンド消費を回復させるために2025年までに集中的な取り組みを行うという方針を決定しましたが、以前のような活気は日本に戻ってきますか?

三宅:そうですね。安倍政権の時に菅(義偉)官房長官が旗振り役になって、2013年、2014年とどんどんインバウンド規制緩和をして、そして2019年のピーク時には訪日外国人数が年間3,200万人、彼らの直接的な消費(訪日外国人消費額)だけで5兆円を上回った。

間接的な効果を考えると、その1.5倍や2倍の波及効果もあったわけです。特に地方景気や地方創生に大きな役割を果たしていたのですが、コロナによって2020年、2021年、2022年とほとんどゼロまで落ち込んだ。

これが2022年の秋以降は再び緩和モードになって増えてくるということで、2023年以降の効果に私は大いに期待します。(外国人観光客が)入ってこられたら、特に地方の景況感の改善が期待できるんじゃないかなと思いますね。

藤野氏が展望する、今後のインバウンド需要

藤野:日本製品の「比較的、高品質で安い」というところが評判が評判を呼ぶと思います。今は第1陣が来ていると思うんだけれども、第1陣が帰国していろんな評価をしたら、第2陣、第3陣が来るのかなと思うので、これから非常にインバウンドは期待できる。

かつ、良いこととしては、今は中国のインバウンドが戻ってきていない。だいたい中国人がインバウンドの半分くらいを占めていたから、「それが戻ってこないとダメだよ」という話だけれど、実は戻ってこないのはとても良くて。

なんでかと言うと、いきなり3,000万人とかの人が来ても対応できるキャパシティがないんですよ。コロナの間でけっこうリストラをしたりして、ほとんど人数がゼロでも大丈夫なように回しているから、今でもアップアップの状態なので。

だからこれから少しずつサービストレーニングをして、さらに第2弾で中国人の方がやってきても対応できて、大きな右肩上がりのカーブになってくるのが理想的かなと思っています。

投資家目線で見る、これから伸びる業界

赤池:入国制限が撤廃されて、外国人観光客も少しずつ戻ってきてくれた時に、プロの投資家としてはこれからどういった業種が伸びてくると思いますか?

藤野:まず最初に、実際にマーケットで投資家が反応したのがいわゆる運輸業。JRや私鉄であったり、宿泊やホテル、それからお土産物屋さんとか、地域の観光などに関連している会社が上がってきました(※)。

それがどんどん広がってくると、百貨店やスーパーマーケットにも広がってくるのは間違いないと思いますし、流通業も消費拡大の一環として恩恵があるのではないかなと思います。だから、幅広い業種・産業にプラスの効果があると思います。

あと、もう1つは人関連のビジネスですね。労働関連でいうと、もうすでに人が足りなくて大変な状態になっているので、今は人材派遣や人材紹介が急速にビジネスを拡大しています。

今、地方の問題の1つが人手不足なので、人手不足の中に新たな需要が爆発したら対応できなくなります。そうすると、省力化投資やIT投資、DXもこれから進むんじゃないかなと思いますね。

インバウンドの拡大が、サービス業復活の原動力に

赤池:インバウンドきっかけに、いろんなところに波及をしていくかと思うんですが、私たちの家計には影響はあるんですか?

三宅:やはり日本の経済もサービス経済化しています。製造業から非製造業と、サービスのウエイトは高くなっていますし、労働者もサービス業の働き手が中心になっています。

藤野さんからお話があったみたいに、今回インバウンドの再開拡大によって非常にメリットを受けて活性化してきているのは、サービス産業なんですね。

2020年、2021年、2022年とコロナ禍で最も打撃が大きくて、日本経済停滞の主だったのはやはりサービス産業です。対人関係のサービス産業の悪化があったわけですが、これの復活の大きな原動力になっているのが、まさにインバウンドの拡大です。

そういう面では、家計の給与や労働機会の拡大、所得の拡大に対して、インバウンドはかなり大きな影響を与えていると思うんです。

日本の円安は、外国人観光客にとっては“大バーゲン”

三宅:そしてもう1つは、マクロ経済的に今は非常に円安で、政府としても「この円安をどうしようか?」という取り組みしているんですが、円安有効活用として最も良いのがインバウンドだと思います。

海外の方から見れば、今の円安によって日本の物やおもてなし、非常に良いサービスを大バーゲンのようなかたちで安く買える。海外の観光客の方は、自国の物やサービスに比べて、日本だと半分とか、3分の1くらいの値段で購入できる。

だからこそ、より消費してくれるということですから、貿易サービス収支の赤字への対応としてインバウンドは非常に有効じゃないかなと思いますね。

赤池:アフターコロナで外国人観光客が増えると、日本の景気回復は始まりますか?

三宅:これは2022年10月に出されたIMF(国際通貨基金)の世界経済見通しなんですが、各国をご覧になっていただくと、ちょうど2023年の7月度の修正幅のところはほとんどの国が下方修正なんですね。

やはり物価が高くて、アメリカやヨーロッパは景気や物価を抑えるためにどんどん引き締め合っていますから、その影響が2023年に出てきます。

インバウンドがもたらす、ポジティブな波及効果

三宅:日本は物価や金融政策に安定感があるので、非常に安心感があるんですが、さらに加えてインバウンドが国内景気、特に回復が遅れていた内需の火付け役になるということです。ここは本当にインバウンドがポジティブに効いてくるでしょうし、藤野さんからもお話があったように波及効果が大きいです。

DXやGX(グリーントランスフォーメーション)といった、今後の日本経済にとって非常に重要なところへの波及効果がある。例えば企業にとってみれば、設備投資の拡大につながります。

インバウンドを起爆剤とした日本経済の活性化とか、相対的な優位化につながる有力なパンチになるんじゃないかなと思いますね。

藤野:もう1つあるのは、「日本が世界に物を売る」ということですね。円安になってきたということは、日本の商品が安く販売できるんですよ。

実は過去に1990年代でも同じようなことがあったりしたんですが、その時にアメリカはどう対応したかというと、日本があまりにも強くなってきたので、日本の商品や製品が入ってくることを辞めさせようとして、貿易摩擦が発生したんですよね。

ところが、今回はそういうことが発生しにくい状態になっている理由として、まずアメリカはインフレで大変なので、日本から安い製品が入ってきて逆にインフレが抑制されることはネガティブなことじゃないんです。

円安は、ある意味「千載一遇のチャンス」

藤野:そうすると、これは千載一遇のチャンスでもあって。「円安で危ない、日本はダメだ」みたいなことを言っているんだけれども、これは千載一遇のチャンスなので、日本の製品をガンガン売ろう! と。

なぜなら、なんだって安いわけですよ。お米、味噌、醤油といった農業製品であったり、日本の伝統工業や伝統製品、家電から自動車まで、なんでも売れます。

そうしたら、物を作っている人も「アメリカや世界に売りに行こうぜ。どんどん稼ごう」となります。実際に今は決算が出始めているけれども、物を作れて(海外に)物を送り出すことができる会社は、円安メリットをすごく受けています。

今日もソニーが「上方修正! 数字が良いぞ、もっとがんばるぞー!」というふうになっているので、そういうところがもっともっと評価されると良いかなと思いますね(※)。

赤池:確かに私たちは「円安だから輸入するものが高い」と思っちゃいますが、裏を返せば、海外では日本の物を安く買えるんですよね。

三宅:そうですね。

2023年の日本経済は「曇りのち晴れ」?

赤池:これまでを総括して、ずばり2023年の日本経済はどうなりますでしょうか? 天気予報のようにマークで予測していただきたいと思います。では、三宅さんから見せていただきましょう。

三宅:ちょっと雨模様もある曇り空が前半で、後半は期待も含めて晴れてくるという感じですね。

赤池:にこにこしている。

三宅:そうですね。特に2022年の株式市場はアメリカを中心に金利が上がって、株式市場は大きく下がったんですが、いよいよアメリカやヨーロッパ、特にアメリカの物価が落ち着いてくる中で利上げが終わって、場合によれば年後半は利下げがあるかもわからない。これがやはり、株式市場を中心に明るさになってくるんじゃないかなということです。

赤池:はい。では期待しましょう。

おおむね晴れ模様でも、不測の“悪天候”には要注意

三宅:続いて藤野さん、見せてください。

藤野:晴れ時々雷、ですね。

赤池:おぉ。三宅さんとは異なっているようですね(笑)。

藤野:はい。2023年は、日本は相対的に世界の中で良い位置にいると思っているんですよね。それは金利状況であったり、インバウンド景気の回復であったり、円安のメリットなどがあります。

ただ、中国発やアメリカ発、またはヨーロッパ発で、日本とは関係ないところから突発的な政治・軍事・経済のボラティリティ(株価や通貨の変動率)のリスクが出てくる可能性がある。世界の経済はつながっていますから、日本も影響を受けることは免れないですよね。

何が来るのかは今からは予測できないけど、「複数の影響が来るかもしれない」ということは、たぶん予測できるんじゃないかなと思います。おおむね良いんだけれども、思わぬことが来ることは想定しましょうというのが、私の予測です。

赤池:瞬間的な稲妻みたいなかたちですね。

藤野:そうですね。

赤池:インバウンド消費とか、日本にとっては明るいニュースが期待できる2023年ですが、期待しましょう。ありがとうございました。

※運用する投資信託への組み入れ等をお約束するものではなく、また、個別銘柄・金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。