あえて揺れを止めないことの重要性
中村直太氏(以下、中村):グロービス経営大学院の中村です。このコーナーでは、心に響いた言葉をシェアしながら、仕事やキャリアに役立つヒントを紐解いていきます。今回の言葉は「揺れない船は沈む」です。みなさんはこの言葉、どのように受け取られたでしょうか?
船の設計には復元性というパラメータがあるそうです。海上を走る船には、波や風からの力や船を旋回させる際の遠心力などが働いて船体が傾きます。その時にどの程度の角度まで転覆せずに持ちこたえて元の姿勢に戻れるか、それを示すのが復元性という言葉だそうです。
つまり、復元性が高い船とは、大きく傾いた状態からでも元の姿勢に戻れるバランスを持つ船ということです。
私はこの復元性という言葉を今回初めて知りました。海の上は天候が急変しやすく、いつ何時嵐に出会い、転覆するリスクが訪れるかわかりません。自然が相手なので、嵐を完全に避けようとしてもかないません。だからこそ船の設計においてこの復元性を、たとえ傾いても元の姿勢に戻る力を高めることは極めて重要な観点の1つだそうです。
では、どのようにしてその復元性を高めるのか。もちろんさまざまな思想や技術が発展しているのは大前提ですが、1つの考え方として、船の揺れを止めようとしないという設計思想があるそうです。復元性を高めるために、あえて船の揺れを止めようとしない。揺れなければならない時にはちゃんと揺れるようにするということです。
それはなぜかというと、今日の言葉である「『揺れない船は沈む』から」ということです。地震の時、あえて建物を揺らすことでエネルギーを分散させる耐震の考え方や、「柳に雪折れなし」ということわざがありますが、しなやかで柔らかい柳の枝が雪の重みに耐え抜いている情景、そんなものが重なります。
人も“人生の嵐”に揺れていい
人生はよく航海に例えられ、人生という航海においても、時々嵐に出会います。最近は時々どころではなく、かなり頻繁に、かもしれません。人生という航海を襲う嵐も自然現象のようなもので、完全に避けることはできません。
例えば人生における嵐。困難な仕事にアサインされるとか、急なキャリアチェンジを強いられるとか、過剰なプレッシャーにさらされることとか、いろいろあると思います。毎日が嵐だと思う方もいらっしゃるかもしれません。これだけ嵐に出会うのであれば、船と同じように私たちも傾くはずです。
いつでも安定走行ができるわけではありません。であれば、私たちにも復元力、つまり揺れを止めようとしない発想、揺れなければならない時にはちゃんと揺れるようにするという考え方が役に立つのではないかと考えました。望む望まないに関わらず、人生で何度もドラスティックなキャリアチェンジを経験していくのがこの先の時代です。
人生は計画どおりには進みません。ドラスティックなキャリアの変化という嵐が頻繁に訪れます。例えばその度に当初の計画を捨てることができないでいつまでも過去に立てた計画にしがみついていたとしたら、そのまま沈没してしまうかもしれません。
嵐が訪れた際にはキャリアの揺れも止めようとしない。揺れなければならない時には、ちゃんと揺れるようにすることがキャリア選択においても役に立つかもしれません。
より複雑化し、高度になっていく日々の業務。さまざまなプレッシャーや過度なストレスにさらされることもあるでしょう。人間はいつでも平常心でいられるわけではありません。嵐が訪れた時には人の心は揺れる、それが自然な状態ではないかと思います。
にもかかわらず自分の感情に蓋をして、プレッシャーやストレスに気づかないふりをしてしまうことがあります。私たちの心も揺れなければならない時にはちゃんと揺れるようにすることが大切かもしれません。
「上手に揺れる」ことができる人の4つの特徴
ここまで「揺れない船は沈む」という言葉から、揺れなければならない時にはちゃんと揺れるようにするということの大切さを考えてきました。
最後に、私の身近にいる上手に揺れることができる人のことを思い浮かべてみると、こんな共通点があったというお話しをします。1つ目は多様な考え方を受け入れられる。2つ目は感情をコントロールできる。3つ目は「なんとかなるさ」と根が楽観的である。4つ目は困った時は周囲に相談を気軽に持ちかけることができる。そんな人が思い浮かびました。
起こった予期せぬ出来事を自分の人生に柔軟に取り込みチャンスに変えていく。そんなしなやかさを持っているように思います。みなさんの周りにいる、上手に揺れることができる方はどのような方が多いでしょうか?
まとめます。あらためて、今日の言葉は「揺れない船は沈む」でした。そこから教えてもらった学びは、揺れなければならない時にはちゃんと揺れるようにするということでした。
こんなことも考えられるかもしれません。揺れなければならないのに、揺らさずにいることで行き詰まっていることは何でしょうか? ピンとくることがあれば、ぜひ考えてみてください。今回も最後まで聞いていただきありがとうございました。今日もすばらしい1日をお過ごしください。