誰しもが書ける、3つのこと

久保彩氏(以下、久保):1月から柳瀬さんにやっていただく講座も、柳瀬さんが前半におっしゃった、誰もがマスメディア時代に自分を書籍にすることが自分のプレゼンテーションになるということと、「なぜ」を対話で深めていくことが本作りの基本であるということを押さえた講座にしていただいています。

今の話と絡めて、この講座のコンセプトと流れを残りのお時間でお話しいただきたいと思いますが。

柳瀬博一氏(以下、柳瀬):わかりました。今回の企画は「マイ新書を作れますよ」というところからスタートしています。僕が単行本の編集者としてノンフィクション・ビジネス書を中心に作っていた時、なるべく本を1回も書いていない人に書いてもらおうと自分の中で決めていたんですね。

久保先ほどの小倉昌男さんもそうですね。

柳瀬:小倉昌男さんは超のつく有名人ですけど、超のつく有名人からいわゆる世間では知られていない方も含めて、初めての人に書いてもらうことを意識していました。そのプロセスでわかったことがあります。

昔アンディー・ウォーホルが、誰しも15分間は世界の舞台に立てるみたいな話をしましたよね。本当に立てるんですよ。あらゆる人間は他の人と違うオリジナルな人生を歩んでいるので、誰しもが「自伝」と「自分の仕事」と「自分の未来」については書けるんですよ。

久保:自伝と仕事と未来。

柳瀬:この3つを一緒にするケースも多いんですけど。

久保:1冊にするケースもあるし、2冊、3冊にするケースもあると。

柳瀬:ただ、「私の人生」みたいな本は、昔から自費出版系で仕事を引退された方の本なんかでよくある典型のパターンなんですね。あれが悪いんじゃないんです。僕は、自伝をまとめることと自画像を描いてもらうのはすごくいいことだと思うんです。

これはアメリカなどのエスタブリッシュメントの世界ではわりと定番のビジネスなんですよね。画家が肖像画を描いたりするのがそれなんですけど。

でも今回は、仕事を終えてフィニッシュとしての自伝という話じゃないんです。今回はどちらかと言うとバリバリ現役で仕事をしている、あるいはこれから仕事をしようとしている人に、自分の最大のプレゼンテーションコンテンツとして本を作ったらいかがですかということが入り口です。

“説得力の桁”を上げる材料

柳瀬:僕はメディアのパッケージが変わるにしても、書籍型のコンテンツがなくなることは未来永劫ないと思います。

久保:紙じゃない媒体も含めて普及する、という意味ですね。

柳瀬:映像媒体や雑誌的なものってどんどん変わっていくと思いますけど、あるまとまったサイズのテキストのつながりで何かを表現するという行為は永遠になくならないです。なぜならば人間の脳みそがそういうふうにできているからなんですね。脳みそが変わらない限りなくならないです。脳みそはそんな簡単に変わらないですから。

これは実際に書籍を書いた人には伝わる話ですが、今度は、さっき言った「誰でも書ける」の逆を言います。本を書くってむちゃくちゃ大変なんですよ。むちゃくちゃ大変です。脳みそから血と汗が出る仕事で、何度やっても慣れません。だから重要なんです。

すなわち、その人がたった一言で言いたいタイトルに向けて、自分の経験である人生や、自分の考えやノウハウである仕事、そして自分の未来に対する仮説や思いをワンパッケージでまとめる。最高のプレゼンテーション資料ですよね。

「あなたはどういう人ですか?」と聞かれた時、自分の本を書いた人はその中からエッセンスとしての要旨と目次を手渡すことができる。最高のプレゼンテーションができるわけです。

「いつも私はこういうことを考えているんだよね」とか「こういうおもしろいネタを拾ってきたんだよね」とか。Twitterって大概これでできているんですね。よく見るとオリジナリティはほとんどないんですよ。Twitterは9割方、引用に「いいね」がついているだけなんです。

そこで気の利いたことを言っていても、その気の利いたコピーの裏側にケーススタディがないと本のかたちにならないんですね。本にするには具体事例が必要になるわけです。

久保:それが自分のであれば自分の経験ということになりますかね?

柳瀬:そうです。それが自分の直接・間接の経験や集めてきた事例であれば、説得力の桁が変わりますよね。ひろゆきさんで言う「それはあなたの考えですよね」じゃなくなるわけです。

久保:(笑)。

柳瀬:ということなんです。

久保:なるほど。

書籍作りが「科学的行為」である理由

柳瀬:その意味で言うと本ができるとか、本が売れる売れないというのは結果論みたいなものなんです。実際にプロフェッショナルとして売れなくても、1冊出した本が延々とその人の一番重要な名詞になり、ブランディングツールになり、さまざまな仕事に活かせているケースって枚挙にいとまがないわけです。

科学者の本が典型ですが、2,000部とか3,000部ぐらいで世界を変えた本っていっぱいあります。この世には100万部売れていても一過性のものもあれば、売れている冊数は1,000部、2,000部でも実は世界を変えている重要な本っていくらでもあるんですよ。

久保:自分を書籍にするという行為そのものが、脳から血と汗をかいて、自分の主張をすごくクリアにしていく行為ということですね。

柳瀬:そうです。自分の主張やアイデアをケーススタディで示す。これは科学と一緒なんですね。書籍を書くというのは、実は科学的行為なんです。

科学と文学の最大の違いは、文学は思いを書くわけですよ。でも科学は、カール・ポパーという方が言いましたが、このロジックが間違っているかもしれないという反証可能性を常に秘めながら書くんです。

自分が今書いたものは、あくまでここまでに証明された仮説を定説に変えるものだけど、次の新しいデータや証拠が出てきたら否定されるかもしれない。これが科学なんです。だから科学にはクールな自己認識が必要なんですよ。

本を書く時も、私の仮説はもしかしたら間違っているかもしれないということを常に意識しながら書く必要があるんですね。

自分が発表したことにレスポンスを受ける効果

久保:これまでお話を聞いていて「どうしたらいいんだろう」という1つの難しさを感じています。

時代的に可能性が自分たちに巡ってきて、強いプレゼンテーションツールを得たという認識をしたんですが、一方でハードルの高さも感じている。そのハードルの乗り越え方みたいなところがおそらくこの講座の構成に込められていると思うんですが、そのあたりをお聞きしていきたいです。

柳瀬:ポイントは、自分が何者であるか。何をして何をやりたい人かを、1回目で自己紹介します。

久保:それならできそう。

柳瀬:今回は何人集まるかわからないですけど、お互いが代わりばんこに著者と編集者の関係になる、少人数のグループワークをやっていこうと思っています。

他人の目があると、自己紹介で「あっ、ここが足らないな」とわかったり、聞いている側に「もう少しそこを教えてくれませんか?」と言われて、全部言ったつもりが伝わっていないことに気付くケースもありますよね。

久保:あります。

柳瀬:まず自分自身の「やりたいこと」「仕事の中身」「未来」の3つについて自己紹介をする。最初の探りをDAY1でやってもらいます。

久保:いいですね。反応があるとすごく安心感がありますね。

柳瀬:ただ発表するのではなく、レスポンスをもらうと自分で何を作りたいかが見えてくると思うんですね。

いくつか「こういう本を作ろう」と言葉にすると仮説が出てくると思います。1個に絞ってもいいし、2、3個あってもいいです。DAY2はそれをベースにしながら「じゃあこれについてどういうことを私は言えるだろうか」ということを、グループワークでお互いブラッシュアップしてもらいます。仮説と目次に至る部分ですよね。

ますます高まるプレゼンテーションの重要性

柳瀬:この時にゼロから本を作る事例として、僕は自分の親父の「おくりびと」をやった経験を最近『親父の納棺』という本にしたんですけど、それをどう作ったかをケースでお話ししようと思っています。

久保:文章にしていくということが凝縮された柳瀬さんのご経験が事例になるわけですね。

柳瀬:DAY3は、グループごとに「こういう新書にします」という企画プレゼン合戦をやってもらいます。「こういう本にします」「タイトルはこうです」「中身はこうです」と、タイトル、要旨、目次立てをみなさんで持ち寄ってグループワークして、これは基本ですが、褒めた上での駄目出しをやってもらいます。

そしてDAY4で、フィニッシュワークとして、チームごとで「こういう本です」という本番の発表会をやるというかたちです。人数にもよりますけど、できたらデータを共有して、僕じゃなくて参加したみなさんに一番を決めてもらおうかなと思っています。

ここから先で書籍になるかどうかは結果論なんです。でも、ここで作ったマイ新書企画は参加された方が、例えば転職をする時、あるいは自分のビジネスを社内や社外にプレゼンする時など、さまざまな機会で使えます。

すなわち自分自身や自分の仕事などをまとめた「自分のプレゼン資料」ができちゃうわけです。ただのプラクティスではなく、お持ち帰りいただくマイ新書企画が自分の名刺になる。ここが今回の企画の大きなポイントになると思います。

久保:すでに本というものを想定している方もそうですが、もしかしたら10年先に、例えばnoteを蓄積して1つのパッケージにしたいという方や、自分のこれまでの軸みたいなものを整理しておきたいという方にとっても、ただプレゼンテーションを作るのではなく、本にするつもりで構成をしっかり考えて、それを人と話すことでクリアになっていきそうです。

柳瀬:自分自身をプレゼンテーションしないといけないシーンというのは、仕事をしていれば全員にあります。今は転職や、社内でも社内転職みたいな異動も当たり前ですし、起業する方も増えています。その時にプレゼンは絶対必要ですよね。これはプラクティスであり、持ち帰っていただくコンテンツはそのまま役立つツールになると思っていただければと思います。

久保:めちゃめちゃやってみたいという気持ちになりました。ありがとうございます。このような講座ですので、ご興味を持っていただいた方はぜひお申込サイトを見てみてください。柳瀬さん、本日はどうもありがとうございました。

柳瀬:どうもありがとうございました。