2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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村中直人氏(以下、村中):残念ながら世界的に見てもそうなんでしょうけど、ダイバーシティを語る時に、まだまだ表層的な多様性の話で終わっているのが現実かと思います。例えば「女性の比率がどうか」とか「外国人比率はどうか」というのは、全部表層的な多様性です。
それは別に間違いじゃないですし、やるべきことです。でも、じゃあそもそもを考えた時に、何のために統計学的多様性を高めようとしているのかといったら、当然ですがチームの認知的多様性を高めるためですよね。
いろんな発想の持ち主、いろんな視点の持ち主、いろんな経歴の持ち主が集まるからこそ、柔軟で多様なアイデアが生まれてくる。だから認知的多様性が大事なんです。
認知的多様性はどこから出てくるかといったら、「経験」と「特性」の掛け算で出来ています。その人が生まれてから今までに経験してきたこと・学んできたことと、そもそもその人が持っている脳や神経の働き方という特性の掛け算で、その人が今どんなふうに世界を見ているか、どんなふうにものを考えているかが決まっていくわけです。
そう考えるとニューロダイバーシティという概念は、この認知的多様性の特性の部分を直接取り扱っている、稀有なダイバーシティの概念なわけです。
もう1個踏み込んでいくと、「ダイバーシティを高めましょう」「女性に活躍してもらいましょう」「外国の人にもどんどん来てもらいましょう」「障害者雇用などでいろんな人に来てもらいましょう」というのが、最終的に認知的多様性を高めるためだとするならば、実はこれは「手段」と「目的」の関係であると整理することすらできる。
村中:ちょっとだけマニアックな話ですけど、じゃあなんで認知的多様性が必要なの? という話を、『多様性の科学』という本に出てくる図版をもとに私がアニメーションを作ったので説明します。
集合知ってどこからくるのか。例えば解決したい問題があって、その問題空間に人を配置するわけです。従来的な価値観で「優秀な人」とは誰かというと、「問題空間の面積を1人でたくさん埋めてくれる人」です。
だから優秀な人を1人見つければ、「お、いいやつを見つけた。じゃあ、こいつと似たような奴を呼んでこい」となる。そして(同じような人が)2人もいれば、問題空間は埋まるかもしれない。
だけど、今はこれだと難しい。なぜかというと問題空間が広すぎるから。問題空間が広がった瞬間に、ぜんぜん違う世界が出てくるんです。
確かに、この人は個人としては優秀でしょう。「優秀な人間をターゲット人材として。似たようなやつを採用していこう」というのが、日本企業が今までやってきたことです。
そうするとどうなるかといったら、似たような人が集まってくるわけです。問題空間全体ではぜんぜん埋まっていない。
村中:何度も言いますけど、一人ひとりは優秀ですよ。でも、似ている人間が集まった時に何が起こるかというと、いわゆる「エコーチェンバー」というものがあります。
発想が似ている人たちだから「発想できないこと」も似ているし、発想の落とし穴も似ているわけです。そうなると「これがすばらしいよね」「そうだそうだ」とみんな盛り上がるわけですが、問題空間は埋まっていない。
こういう考え方をしだすと、「優秀な人間を採用する」というよりは「チームの中の多様性がどうか」が大事になってきて、問題空間を埋めるためには今までと違う人を呼んでこないといけないわけです。そうやって、問題空間を埋めていくことになります。
そう考えると、今までの価値観だったら決して優秀とは言えなかった人は、従来の視点で言う優秀な人からかけ離れているし、カバーできる面積も小さい。でも、この人がチーム全体ではなくてはならない人材であるということが容易に生まれるわけです。
「個人の中に能力がある」と考えるんじゃなくて、チームや組織の多様性の中に集合知を生み出すエナジーがあるんだと考えると、ぜんぜん違う世界が生まれてくる。これがニューロダイバーシティ的な発想なんです。
例えば発達障害と呼ばれている人たちは「丸」ですらないかもしれない。もっと単純に言うと(丸の人たちの中で)三日月の形をしてたりするわけです。丸い形の大きい人が優秀なところに三日月の形の人がいると、認識がバグるわけです。
そういう人たちのことを「発達障害」と呼んでいたとするならば、認知的多様性におけるイノベーションという発想をすると、それぞれに役割が見えてくる。
似たような脳をどれだけ集めても、その個人がどれだけ優秀であったとしても、イノベーションは生まれにくいわけです。
村中:じゃあ、脳や神経由来の認知的多様性とは何なのか。先ほど視覚的な意味で「景色を見てどこを見るか」という話をしましたが、もう1例。
この写真はものすごく好んでよく使うので、私の話を聞いたことがある人はだいたい見ているんですが、映画のワンシーンです。この場面の1個手前は、誰かが瓶をガシャーンと割ってちょっとやらかしている状態です。やらかした直後にパンと画面が切り替わります。
これは実験研究なので、みんなアイトラッカーという視線を記録する機械をつけて見ています。そうすると、この白い群と黒い群に結果がパカーンと2つに分かれた。白い群はほぼ男性の目しか見ていなくて、黒い群は女性の髪の毛あたりを見ている。
この実験を語る上で大事なことは、被験者の人たちは特に「映画を見てください」以外の指示を何も受けていないことです。つまり、でこの人たちはほぼ無意識この瞬間にこの画面を見ています。
だから「あのシーンの時、みなさんはどこを見ていましたか?」とあとで質問しても、きっと覚えていないぐらいの話なんです。だけど、こんなにきれいにどこを見ているかが分かれるんです。これって、確実に対人関係やコミュニケーションに影響を与えますよね。
この違いをどう解釈するか、もうちょっと科学的なお話にお付き合いいただきたいんですが、逆に言うと白い群の人たちは目の魔力が強すぎるでしょ。分散がなさすぎなんです。
他にも画面上には重要な情報がいっぱいあるのに、白の人たちは全員男性の目しか見ていない。そこに対して、黒の人たちのほうがちょっと範囲が広い。
村中:これはどう解釈されるかというと、「社会的情報に対する報酬感情の差」と言われています。ちょっと難しいですが、脳には「人間が大好きな脳」と「そうでもない脳」があります。
強烈に人間が大好きな脳の人は、人間が大好きだから、ビックリしている目を見開いた男性の目にしか意識が行かない。そうしないと、その人が何を考えているかとか、次にどう行動するか予測できないんですね。視線は社会的な情報を一番与えてくれる情報だから、人間大好きな脳の持ち主はそこに意識が向かうわけですね。
でも、あまり人間を特別扱いしない、「嫌いじゃないけど他とそんなに変わらん」という脳の持ち主の人たちは、先ほどの画面でも当然人の顔を見ていないんですね。もうちょっと違うところを見ている。
これもいくつか解釈があるんですが、口元は開いているので「この人が何を発言しそうか」という発言に意識が向いているんじゃないかと解釈されるし、このへんは、明確に髪の毛を見ているんちゃうかという話があります。
ここまで来ると、今日集まった方だとおわかりですかね。白がいわゆる定型発達と呼ばれる人たちで、黒が自閉スペクトラムと言われている人たち。こういう説明をされると、「この画面上でこっちを見ていること自体が障害の表れなんだ」と言われて、納得できますか?
人間には社会的情報に対する報酬感度の差があって、それがグラデーションに存在をしていて、高い人もいれば低い人もいる。そこに別に優劣はないよねという価値観が、ニューロダイバーシティ的な世界観です。
村中:そろそろ話をまとめます。私は企業の方に「ニューロダイバーシティってなんぞや」ということをご説明する時に、分解すると認知的多様性と心理的安全性の両立であると答えています。
なぜなら、「認知的多様性を高めていったほうがイノベーションが生まれる」と言いましたが、そんなに簡単だったら誰も苦労しないわけです。
認知的多様性が高い集団はエクスクルージョン(exclusion)、つまり排除と否認がものすごく生まれやすい。排除と否認が生まれやすくなるということは、最近流行りの言葉である「心理的安全性」が脅かされる可能性がすごく高くなる、ということです。
先ほど畠中さんが「一般教室の中に、小中学校で8.8パーセント、発達障害と認識されている子どもたちがいる」と言いましたが、あれは教員の方の印象に基づくアンケートなんです。
つまり、それだけの子どもたちが認知的多様性を教室の中で高めているんだけども、「排除の対象になっている」と読み解くこともできる数字なんです。
そうなってくると、認知的多様性というのはイノベーションの源泉です。企業活動で言うところの新たなアイデアとか、前進するパワーの元なんですが、認知的多様性を高めれば高めるほど心理的安全性の危機がすごく訪れるから、怖いわけですよ。うまくいかへん可能性が高いわけです。
村中:今日はデータを出しませんが、実は学術的にも「認知的多様性を高めると全体的な生産性の平均値が下がる傾向がある」ということがわかっています。だけど、分散が広いんです。
つまり、大成功するようなアイデアというのは、認知的多様性が高いチームからしか生まれていないというデータでもあります。どっちを取るか、という話です。
認知的多様性を低めて、安全に無難な仕事をしていくのか。認知的多様性を高めることによってリスクも高まるけれども、心理的安全性というテーマと真正面から向き合うことで、より個が活かされるようなビジネスを目指していくのか。
こういうことが問われているのが、ニューロダイバーシティというキーワードのメッセージです。
最後に、ニューロダイバーシティという話は、そもそも脳や神経由来の多様性があるか・ないかとか、それとも認めるか・認めないかという議論もすでに終わっているんです。
人間は多様です。そして、「多様でないものを多様にしてあげましょう」とか「すごくマイノリティな可哀そうな人たちを、私たちの仲間に入れてあげましょう」という話でもないです。
事実としてすでに存在をしている脳や神経由来の人間の多様性と私たちがどう向きあって、どのように仕事や働き方に取り入れていくのか。
今まであまり議論されてこなかったところを、ようやく遅ればせながら語れる素地ができてきたよね、そういうキーワードが生まれてきたよねというのが、ニューロダイバーシティというキーワードです。
ちょうど時間になるかと思います。ご清聴ありがとうございました。
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