ブルーボトルコーヒーのブランディングを担う井川沙紀氏が登壇

杉山信弘氏(以下、杉山):ブルーボトルコーヒー(以下:ブルーボトル)のStrategic Brand Advisorの井川さま、よろしくお願いします。

井川沙紀氏(以下、井川):お願いします。

杉山:たくさんの人が集まって、さっそくQ&Aも来ています。率直な意気込みをお願いします。

井川:たくさんの方にお店に行ったことがあるとお答えいただいて、ありがたく思いました。インタラクティブなほうがみなさんのニーズや知りたいことにも答えられるのではないかと思いますので、あまり一人語りしすぎないように、いろいろお答えできるようにしたいと思います。よろしくお願いします。

杉山:それでは、ご登壇よろしくお願いいたします。あっ、みなさん拍手をありがとうございます。

井川:何か質問などあれば適宜コメント欄にいただければと思います。「ブランドを『消耗』ではなく『定着』させるために重要なこと」をテーマにお話しさせていただきます。

まず私自身の説明を少しだけさせていただければと思います。これまでいろんなことをやってきましたが、1つテーマというか共通点があるとすると、PRという仕事にずっと携わってきた点です。あとはスタートアップとかブランドローンチみたいなことをずっとやってきました。

ブルーボトルには7年半ぐらいおりまして、人事・広報マネージャーとして入社したものの、日本の代表をやったり、転籍してアメリカのブランドの統括をやったり、いろんなことを経験させてはいただいています。

キャリアのベースであるPRの経験を活かして、これまでローンチに合わせていろんなことをやってきましたので、今日はそのあたりを具体的にお話しできたらと思います。

ブランドの「あるべき姿」を共通言語化

井川:まず「Blue Bottle Coffeeとは」。ブルーボトルは、2002年にジェームス・フリーマンという音楽家の創業者がスタートしたブランドになります。アメリカのオークランドという、サンフランシスコの隣にある町に本社機能も持つ1号店を構えました。

最初の海外店舗として日本に展開したのが2015年で、そこから今では韓国・香港、今年(2022年)からは中国にも展開し、世界中に100店舗強のお店を展開するコーヒーブランドになりました。

私たちはいろいろな言葉を掲げていますが、1つ大事にしているのが「私たちは、『美味しいコーヒー体験は人生をより美しくする』と信じています。」という言葉です。

個人的にもすごく好きな言葉ですが、入社した当時はこういった決まり文句みたいなものはまったくありませんでした。これを創業者と一緒に作り上げていったのが、私が入社してからの経緯になります。

サードウェーブの先駆けと言われるコーヒー屋さんをスタートしたわけですが、そこから店舗が広がり、会社が大きくなるたび、私たちのブランドの佇まいと言いますか、「あるべき姿」をみんなで共通言語として作っていかなければいけないという課題が出てきました。その中で作られた言葉になります。

私たちがすごく大事にしているのは、この「コーヒー体験」という言葉です。実際コーヒー屋さんなので、コーヒーを生業にしていると言いますか、コーヒーを販売することで売上を上げているわけです。

けれども、「私たちが大事にしなければいけないのは、コーヒーという『中身』だけでなく、それを取り巻く環境や、それが作り上げる体験だよね」と考えて、そのあたりを意識したブランドを世界中に作っていこうとしています。

味以外にもある「美味しい」の構成要素

井川:ちょっと踏み込んでご説明をすると、「美味しい」とはどういうことか。会社で定義を作ったんですね。当然「味」は、おいしさのいろんな部分を担っていると思いますが、ソーシングや焙煎、店舗で淹れるスキルなどを丁寧にやっていくことで、担保できるのかなと思います。

あと2つ、私たちが「美味しい体験」を作るために重要にしていることがあります。

1つが「ホスピタリティ」で、もう1つが「デザイン」です。いろんな飲食店さんでマニュアルがあったりしますが、ホスピタリティはお客さまがお店に入ると「いらっしゃいませ」と共通で言っていくみたいな。日本はそういう飲食店が多いかなと思います。

それが決して悪いわけではありませんが、私たちは店舗に来るお客さま一人ひとりをすごく大事にしていきたい。またコーヒーショップとして、毎日来てくださるお客さまを作っていきたい。そういう意味では、お客さまとの距離をすごく近くしていきたいと思っています。

一人ひとりのお客さまを満足させるためには、ホスピタリティがすごく重要だということで、そこにしっかり向き合って、体験作りをしています。また、ホスピタリティはお客さまとの対話だったり、店舗でコントロールできることだったりします。

みなさんにも共感いただけると思いますが、おいしい飲み物をぶっきらぼうに出されてもおいしく感じません。ホスピタリティも味の一部と考えて、「美味しさ」の中にこの要素を入れています。

もう1つのデザインですが、ブルーボトルコーヒーはよく「店舗デザインがおもしろいですね」とか「独特ですよね」と言っていただけますが、ジェームス・フリーマンが考えるのは、あくまでもコーヒーを主役にした空間作りです。

なのであまり色を使わず、コーヒーの茶色が引き立つグレーを基調にしたり、温かみがある木のマテリアルを使うといったことを重要視し、そういったことが「美味しさ」につながっているのではないかと考えています。

弊社では「コミュニティ型」と呼んでいますが、住宅街の中に佇むようなお店や、京都のお寺の近くにあって紅葉シーズンは行列ができるようなお店も、私たちのポートフォリオにはございます。

お客さまの体験を大事にして、そのコミュニティに合った店舗設計・店舗デザインを考えています。そういったことが全部揃って初めて、ブルーボトルの考える「美味しさ」が表現できるのではないかと考え、店舗を広げている状況です。

「美味しいコーヒー体験」を作るための3つのこだわり

井川:「美味しいコーヒー体験」を作るために会社でやるべきこととして、私たちは(スライドに挙げた)この3つを大事にしています。

1つは「コミュニティ」。今日のテーマにもありますが、特にコーヒーショップというお店の特性上、やはり地元の人たちにどうやって愛していただくかはすごく大事です。

たくさんメディアに出て、観光地化してお客さまに来ていただくような海外のブランドもあると思いますが、それが定着せずに日本から撤退してしまったブランドも我々は見ています。

そうならずに、地元の方たちに愛されるブランドとしてどう進化するか。コミュニティを意識した店舗作りや、バリスタや店舗のみんなと地元の人たちとの接点、コミュニケーションへの意識はすごくあります。

次に「サステナビリティ」です。弊社では創業当時から、どういったことで私たちが還元できるかを常に考えて、使うものやサービスを選んできました。

お客さまに、消費者として安心してお金を払いたいと思ってもらえるブランドであるために、ここはすごく重要視して、継続して取り組んでいかなければいけないポイントだと捉えています。

最後が「イノベーション」です。「美味しいコーヒー体験」を作るという意味では、当然店舗での体験も大事ですが、例えばお客さまのお家でおいしいコーヒーを淹れられるようにイノベーションしていくことも大事にしています。

我々は3年ほど前に、インスタントコーヒーも発売させていただいています。一般的なインスタントコーヒーに比べて作り方にかなりこだわり、あまり量産できない作り方にしたおかげで、カフェと同じようなクオリティのコーヒーが、お家でも淹れられるようになりました。

(スライドの)写真のドリッパーは実は有田焼で、日本で作っています。MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究生の方たちにコーヒーをおいしく淹れられるフローレート(水量)や、ドリッパーをどういう形状にすると一番良いかを考えていただきました。それを有田焼の技術で実現して、店頭で使ったり、お店で販売もしています。

こういったものをお客さまに届けることで、もっと「美味しいコーヒー体験」が広がっていくのではないか。ただショップを展開するだけではなく、お客さまとのつながり方のイノベーションも意識しています。

世界各店舗をライセンス契約ではなく、自社で運営する理由

井川:先ほどの繰り返しになりますが、これがブルーボトルの広がり方で、本当に少しずつではありますけれども着実に成長しているブランドになります。

全世界1店1店がすべて自分たちで経営をする、100パーセント子会社です。一般的によく言われる、ライセンスでブランドを大きくするのではなく、自社で運営しているところが特徴的かなと思います。それによって我々である程度コントロールをし、バランスをとりながら事業拡大を進められていると感じています。

私は去年までアジアでの展開にかなり関わっていました。会社として海外展開できるようなサイズで整備されていない中で、海外初店舗を日本に出し、そこからアジアに広げていきました。

日本はオペレーションやメニュー開発が得意なので、それらを日本で担ってアメリカに戻したり、韓国はけっこうイノベーションが得意なので、イベントを仕掛けてそれを世界に展開するなど、各国がリードするかたちでブランドを育てていく。

そういうことが柔軟にできるブランドはけっこう珍しいのではないかと思いましたので、スライドで事例を紹介させていただきました。

日本での具体的なお店の状況について、少し触れさせていただきます。日本では現状25店舗を展開し、6都市にお店を出させていただいています。

本当にいろんなタイプのお店があり、毎回一つひとつテーマを決めて、ゼロから店舗のデザイン・内装を進めています。そのテーマに基づいて設計士さんやメニューも決めていく。

お客さまの目に触れる部分はクリエイティブに、毎回お客さまがその土地で楽しんでいただくための設計を心がけています。一方で、バーの中はほとんど変えずにテンプレートをちゃんと活用します。

カフェをただ運営するだけではなく、スペシャルティコーヒーという新しいものをお客さまに知っていただきたいという観点で、いろんな取り組みをやっています。

日本発で海外に展開した3つの取り組み

井川:これらはすべて日本での取り組みで、ここから海外に展開しているものです。

1つ目が「ラウンジ」というコンセプトになります。

現状は日本と韓国にも展開があって、予約制のコースメニューのお店になっています。南禅寺の麓に京都カフェというカフェがありますが、そちらの2階部分を改装し予約制のカフェにしているんですね。

純粋にコーヒーを楽しんでいただきたい思いはあるものの、深く知っていただく機会がなかなかなかったりするので、コーヒーをコース形式で楽しんでいただけるメニューや、ペアリングという考え方を導入したお店になります。

例えば南禅寺で紅葉を見て、帰りに寄ってゆっくり座ってコーヒーを楽しんでいただきながら、コーヒーのことを学んでいただく。バリスタとのコミュニケーションもとりながら楽しめる空間を作っています。これはアメリカでも今後展開していきたいと思っているプログラムで、そういったことを積極的に日本から発信しています。

次にこれも日本での取り組みから始まり、今ではアジアで定期的に行っているものですが、「ポップアップ」ですね。

これ(スライドの写真)は渋谷でのポップアップですが、全国各地でいろんな方たちと接点を持つために、いろんな催事場やデパートでポップアップをやっています。

マーケティングリサーチも兼ねて、新しい土地でお客さまと触れ合うことで今後の出店戦略を行っています。反応が良かったエリア・地域が次の出店候補地となり、そこからお店を選んでいくプロセスも始まっています。

最後にカフェでの新しい取り組みとして、今年からスタートしたコーヒートラックがあります。

こういった(スライドの写真のような)トラックを作ることで、いろんな場所でコーヒーを楽しんでいただく体験をお届けできると思っています。

コーヒーは外とか中とか、どこで飲むかでけっこう味が変わるんですね。お水もそうですけど、空気とかその場の環境によって、味の感じ方はすごく変わります。なので外で楽しんでいただけるアウトドア ブレンドも開発しながら、豊洲の公園や夏は宮崎の青島のビーチの前でコーヒーを出しました。

可動式のお店ができたことで、できることが広がりました。いろんなシーンを作り出すことができたことで、新たなファンの方たちに楽しんでいただき、ブランドを認識していただけていると思います。

オンラインでも始めたコーヒーの魅力を伝える工夫

井川:また、我々はオンラインビジネスもやっています。コロナの時期はカフェを閉めていた時期もありますし、多くの方が外出が難しかったこともあり、オンラインを活用してたくさんのお客さまにコーヒーをお届けしようとオンラインサービスをスタートしました。自社サイトの他にも楽天ストアや、Amazonでも一部のアイテムの販売もさせていただいています。

いろんなかたちでレシピをお届けしたり、我々のコーヒーの魅力をお伝えするインスタライブをスタートしたり、コロナ以降、オンラインでのお客さまとの接点作りを積極的に行っています。

(スライドの写真の)下に「ブルーボトルメンバー」と書いていますが、購入されるとメンバーに入っていただけて、ポイントがつく仕組みになっています。それを使って例えば送料を無料にしたり、オンラインクラスに使っていただいたり、いろんなかたちでお客さまとさらに接点が深まるような仕掛けをメンバーのプログラムに組み込んでいます。

現状は5万人弱の会員さまがいらっしゃいます。売上構成比は自社が6~7割ぐらいで、今後もどんどん新しい商品やプログラムを拡充させて、広げていけたらいいなという感じですね。

駆け足にはなりましたが、我々のビジネスの概況と現状をお伝えさせていただきました。