企業変革の半分以上は、最初のフェーズで失敗している

荻原直紀氏(以下、荻原):冒頭で申し上げましたように、チェンジマネジメントは非常に奥の深い世界です。今日すべてをみなさんにお伝えするのはなかなか難しいんですけれども、触りだけでもお伝えしたいと思います。「変化を進める原則と手順」という話をさせていただきたいと思います。

その前に、そもそも組織変革というプロジェクト、あるいは活動は非常に難しい。平たく言うと「失敗確率の高い活動」であると。これはさまざまなデータで出てきております。

古くはTQMであったり、リエンジニアリングだったり、M&Aをすればそのあとに文化融合、あるいは組織統合という活動がある。様々な組織変革のプロジェクトが古今東西からあるわけです。

しかし、多くの企業変革プロジェクトの半分以上は、実は最初のフェーズで失敗しているとジョン・コッターさんがが明らかにしています。ちなみに冒頭で本の名前は読み上げませんでしたけれど、彼の本を参照させていただいていまして、チェンジマネジメントの世界的な第一人者です。今、ハーバード大学の名誉教授でおられますけども、彼らの調査からも明らかなように、なかなか組織変革は難しい。そういう前提があるわけです。

どんな失敗に陥ってしまうのか、我々もさまざまな調査をしております。これですべては説明できませんが、多くの変革活動が失敗した場合の理由はこの3つのどれか、あるいは、この3つの複数が重なっていることが大半です。

仕組みを入れることが目的になる「仕組み作って魂入れず」

上から解説していきたいんですけれども、1つ目は「仕組み作って魂入れず」というパターンです。さまざまな組織変革がありますよね。最近で言えばオープンイノベーションとか、デザイン思考を取り入れるとか、DXを取り入れるとか、ちょっと前の働き方改革とか、さまざまな変革があるわけです。

仕組みを入れると社員は動き方が変わる、マインドが変わる、あるいは行動が変わると想定してしまい、組織図を変えるとか、パッケージやERP、あるいは成果主義やデザイン思考など、システムや仕組みを入れることが目的化してしまう。「何か新しい仕組みを導入すること」がゴールになってしまうというパターンの失敗です。

目的や意義に共感できない社員は、何か新しい仕組みが入っても、残念ながら行動変える理由がありません。形骸化した仕組みが導入されるだけで、当初の目的が達成されない。こういう時に無理矢理社員を変えようとすると、多くの場合、やったフリをされることになる。報告上はやっているんだけど、実際にはやっていないということが起きる。これが「仕組みを作って魂入れず」というパターンです。

「掛け声倒れ」「熱意の切れ目が縁の切れ目」

2つ目が「掛け声倒れ」というパターンです。掛け声は何でもいいんです。「モノ売りからソリューション」「モノからコトへ」とか、今だったら「イノベーション創出」とか。さまざまな勇ましい変革の掛け声は掛かるんだけども、社員の行動環境は何も変化しない。こうなると、現実とビジョンの乖離に社員のフラストレーションがたまるだけで、具体的な行動が起きない、起こせないことになります。

例えばですけど、「モノからコトへ」っていろんな業界で、長らく叫ばれています。仮に「モノからコトへ」ってみなさんの会社が叫んでいるとしましょう。営業さんとかマーケターにも、「モノではなくてコトだ」と掛け声が掛かっているとしましょう。

ところがその営業さん、あるいはマーケターの年度末の成績、業績評価は、相変わらず売った箱の大きさ。売った箱の売上で評価される。これ、典型的な掛け声倒れのパターンですね。結局のところ、「モノからコトへ」と言っているのに、社員の行動環境は大きく変化していない。

社員は見透かすわけですよね。「モノからコトへと言っているけど、結局モノを売ってくれということじゃん」こういう状態が続く。これが「掛け声倒れ」というパターンです。

3つ目のパターンが「熱意の切れ目が縁の切れ目」というパターンです。これは動きだした時には、熱意ある人がリードすることで、そこそこまで活動が動くんです。でも、いつまで経っても会社から十分なリソースが配分されない。推進者の熱意に頼るばかりで、活動が広がらない。

こうするとそのうち、推進者が異動してしまったり、あるいは引退してしまったり、推進者が「いつまで経っても広がらないから俺もういいや」と、熱意が切れたところで活動が停滞して、終了してしまう。こういったパターンです。

先ほども申し上げたように、これですべての組織変革がうまくいかない理由は説明できません。でも、こういったパターンは極めて多いのです。この背後にあるのは、言ってみればチェンジマネジメント不足、あるいはチェンジマネジメントに対する理解の不足と言えるのではないかなと思います。

経営者が好む、3つの「組織変革の神話」

チェンジマネジメントはどうするのかということですけれども、どうするのかの前に、組織変革の神話。神話ですから実際は真実ではないんですけれども、3つだけご紹介したいと思います。

みなさんのなかにも、こう思っている方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。1つ目は、組織を変えるには、「まず社員の意識変革から」だ。つまり社員の意識をまず変えなければ、変化は起きない。これを好んで言う経営者の方って多いんですね。

ロジカルには正しそうに聞こえるんです。まず、社員の意識が変わる。社員の意識が変わると社員の行動が変わる。社員の行動が変わると会社の風土が変わる。会社の風土が変わると最終的に成果が出る。なんか、正しそうに聞こえるじゃないですか。

でも実はこれ、さっきのジョン・コッターさんもそうですけど、チェンジマネジメントのさまざまな研究から、この順番ではないという結論が出ています。ではどういう順番なのか、のちほど触れたいと思います。

「同じこと」は、少なくとも6回いう必要がある

それからチェンジマネジメント神話の2つ目は、これも経営者にとってはそう思いたいものなんですけども「話せばわかる。伝えればわかる」。さまざまな意味で違いますね。こんな簡単なことはまったくありません。

データがあるんですけれども、アメリカ軍隊のある調査によると、上官がある命令をして出してから、実際に組織が動くまで、平均6回の命令が必要だったという結果が出ております。

よく上司の方で、「同じことを2回も3回も言わせるな」と怒る方がいらっしゃるんじゃないかと思うんですけれども、少なくともアメリカの軍隊のデータによると、2回や3回では足りないというのが真実です。少なくとも6回は言ってくださいねという問題があります。

それからもう1つ、みなさんに質問です。人に説得されて行動を変えたこと、最近1年間にあったでしょうか。おそらく、ほとんどの方がないのではないかと思います。絶対に効かないとは言いませんけれども、話して人の行動が変わる、あるいは意識が変わるなんてことは、極めて例外的な条件でしか起こらないというのが、人間の本質だということです。

全社員を一気に変えるアプローチは、ほぼうまくいかない

3つ目の神話は「全社員を一気に変えよ」。これは特に公的機関に多いですね。一部の組織とか部署を特別扱いできないので、変化を起こす時には一気に全部でやるというアプローチなんですけれども。これもごく一部の例外的な状況を除いては、ほぼうまくいかないです。

今申し上げた例外的な状況というのは、会社が極めて危機的な状況で、来月、来年にもうちの会社が危ないかもしれないというぐらいの危機感が共有されている場合は、「全社員を一気に変えよ」とか、「話す、伝える」ということで、人が動くことがあります。

ただ、みなさんはどうでしょうか。チェンジマネジメントをするシチュエーションでは、多くの企業の参加者がおそらく「明日、明後日会社がまずい」ということではなく、会社としては回っているんだけれども活性化していない。新しい価値がなかなか生まれてこない。みんな下を向いて働いている。辞める奴が多い。

そういった状況だとすると、こういう「全社員を一気に変えよ」というアプローチはほぼ難しいというのが、チェンジマネジメントの原則です。よく考えればわかることです。1人を説得するのも大変なのに、100人、1,000人をいきなり説得できるわけがない。単純にそういうお話でもあります。

「意識を変えると行動が変わる」は、実は逆

では、チェンジマネジメントの教科書による、変革の正しい手順はどうなのか。それがこちらになります。当然、企業の状況によって少しずつ変えてはいきますけれども、大原則はまず「熱い社員を集める」。問題意識の高い方々の行動力、突破力にまず懸けるというのが1つ目です。

彼らに実際に行動してもらうのが2つ目です。3つ目が、行動してみることで意識が変わる。さっきとの違いに、お気づきになられましたでしょうか。聞くとなんとなく正しそうに聞こえるのは、「意識を変えると行動が変わる」という話でした。しかしチェンジマネジメントの世界では、これを逆だと言っています。

行動してみると意識が変わる。みなさん、そういう経験のほうが実際多いんじゃないでしょうか。怖いと思ってたけれども、行ってみたら意外と大丈夫だった。まずいと思ってたけど、食べてみたら意外とイケた。どうですか? 意識が変わって食べるんじゃないですよね。食べてみて「あ、意外とイケるわ」と思って意識が変わって、次からは普通に食べられるようになる。これが変化の原則なんです。

ですので、まず行動してみる、させてみる。彼らの意識が変わる。周りで見ていた方の意識も変わる。

「褒める」ではなく「祝う」が大事

次がとても大事です。新しい行動をしてみることで、なにか新しい結果が出ますよね。ここの時点で体は、当然まだ大きい成果なんか出ているわけないんですけれども、小さな成果が出た時に、これを組織的に、みんなで「祝う」んです。

この「祝う」ことが大事です。「褒める」ではありません。「褒める」というのは上から下ですから。祝うというのはみんなで一緒に、平等です。この「祝う」という行為は極めて大事です。

祝って、みんなで祝福することで、「ああいうやり方もありなのか」とか、「ああいうやり方、ああいう行動を今、会社は求めているのか」ということを、見ていた人にメッセージを送るんです。それによって、初めてマジョリティが動き出す。ここで最後に仕組みを整えると、大勢が新しい行動をすることを後押しし、新しい文化の醸成に近づいていく。こういう順番なんですね。

ですので、意識を変えるのではなく、行動することが先にあることと、とはいえ、最初に行動してみるってちょっと勇気がいりますから、「やりたいくない」と思っている人とか、「そんな勇気はとてもとてもありません」という方に、無理強いしても難しい。

最初から「この会社、このままではいかん」とか、「顧客にこういう新しい価値を届けたいと思っている」とか、そういう熱い思いを持っている方々に、行動する環境と余白を与えるのが、最初の一歩になります。

問題意識の高い「ダイナモ」を見つけるには

今申し上げました、「変革のツボ」がまず1個目。次に、問題意識の高い人。これを「ダイナモ」、日本語で言うと「発電機人材」みたいな意味合いなんですけれども、私たちは「ダイナモ」と呼んでいます。彼らを集めて、権限・自由を与えるということです。言ってみれば「場をつくる」ということです。

これを申し上げると、よくこういう反論をいただきます。「うちにはそんな社員、もう残っていません」という方が多いんですけど、ちゃんとテーマを作って場をつくれば、必ずダイナモが出てくるというのが私たちの経験則です。ダイナモを集めるうえで、ダイナモかどうかを判断するのに一番よいアプローチは「公募」ですね。

なんらかの熱いテーマを会社、あるいは部署で作って、「我こそはという方は手を挙げてくれ」と募集する。もちろん、会社が本気だということを見せないと、手が挙がらないかもしれませんけれども、公募に手を挙げる方は、間違いなく問題意識の高い、熱量の高い方ですので、そういうふうにダイナモを探していくという手もあります。

ちなみにこれ、先ほど申し上げた、私どものチームが書いています。去年日経BPから出した『ダイナモ人を呼び起こせ』という本にあります。一つ言えることは、30年前の日本企業には、ダイナモは普通にいたんですね。

会社に必要なのは「優秀なヤツ」から「元気なヤツ」に

今日は時間の関係で、ダイナモがどういう人か、1個1個細かくは説明しませんけれども、「善い目的に向けて行動できる元気なヤツ」です。会社では「優秀なヤツ」がこれまで持てはやされてきましたけれども、優秀なヤツではなく、「元気なヤツ」、問題意識を持って、熱量があって、境界を飛び越えていく。こういうのがダイナモです。

こういうダイナモ的な行動は、さっきの試行錯誤とPDCAでいうと、完全に試行錯誤型の行動ですよね。しかし、ここ30年の日本企業の経営というのは、PDCAでオペレーションを磨く系をやってきたので、こういうダイナモ的な行動を排除してきたわけですね。

「それは計画にないだろう」、「君が思っているだけじゃないのかい。必ず儲かると言えるのか?」、「それ、エビデンスはあるのかい」と言いながら、ダイナモ的なチャレンジとか、ダイナモ的な意見の発露とか、ダイナモ的な実験的行動とかを排除していく力学が極めて強かったのです、ここ30年の経営は。

これまでの日本的経営がオペレーション一辺倒だとすると、それをオペレーションとイノベーションの両立にリバランスする。これが、先ほど申し上げているチェンジマネジメントの焦点であり、そのためにはダイナモの突破力を活かすことが必要です。

それから、ダイナモというのは、決して特殊人材ではありません。別にイーロン・マスクとかスティーブ・ジョブスを探せと言っているわけではありません。これはごく普通の人が内面に持っているものです。

ダイナモ的なもの。非ダイナモ的なもの。もちろん個性によってバランスはあるとは思いますけども、本来組織の中にダイナモが生息していれば、自然と自分の中でのダイナモ的素養が育まれていくものです。

変革の初期段階では、燃えるものから燃やしていく

しかし、今までの日本企業の経営は、あまりにもオペレーション一辺倒だったので、このダイナモ的なものを殺してしまう力学が強すぎた。ですので、これを変えていくのが、基本的なチェンジマネジメントの焦点であり、今の多くの日本企業で求められている、ポイントということになります。

「変革のツボ」の2つ目は、MBAの文脈で少し話しましたけれども、外に出て、外を観ることで、それを鏡として自らの課題に気づくということです。蛸壺の中にいると蛸壺の問題は、よくわからんということです。

外に出てみて、ぜんぜん違うものを見ると、うちの会社ってこんなにひどいのかとか、逆に捨てたものでもないなとか、こういうことが見えてくるわけですね。逆に言えば、外にも出ないで課題を特定して、チェンジマネジメントのポイントを考えるのは、とても難しいということです。

先ほど、「全社員は一気に説得できない」と言いましたけれども、チェンジマネジメントの初期段階では、とにかくダイナモに注力することです。ダイナモって組織の中では少数派です。

ついつい少数派ではなく、多数派の方々に気が取られますよね。「お手並み拝見」という風に見る方とか、冷めた目で見る方。そういう方が気になると思いますけども、変革の初期段階では、燃えるものから燃やしていく。これしかありません。

オイルのようにすぐに火が付く人材。あるいは新聞紙のように、ちょっと火が回ればすぐ付く人材から、木材のような方。最後、石ころのように絶対に燃えない方。当然いろいろいるわけですね。初期段階、火を起こす段階で、石ころに一生懸命火をつけようというのは、無駄だということです。

オイルのような人材、新聞紙のような人材。ちょっと例えがうまくないですけれども、そういった人材を見つけて、そこを燃やしていくというところからしか、基本的に変化の道筋はないというふうに、考えていただいていいと思います。

そして、さっき申し上げた小さな成果ができた時、これが火の手を拡げるチャンスです。小さな成果を物語って、共に祝うことで火の手を掲げて、「あれっていいな」と思っている人を増やす。

「やりたいと思っていたんだけど、勇気がなかった。だけど、これだったら俺も行ってみよう」という、次に続く方々をここで増やしていく。そのためには、「物語る」こと。先ほども話した「共に祝う」こと。これがとても大事ということになります。

変化は「辺境」から起こす

これが最後のスライドですけれども、本日はさまざまな役職の方がご覧いただいているのではないかと思います。若手でまだマネジメント層じゃない方もいらっしゃるかもしれませんし、あるいは経営層もいらっしゃれば、ミドルマネジメントもいるんではないかなと思います。

最新のチェンジマネジメントのトレンドは、偉大なリーダーあるいは変革推進者が、1人で行うのではなく、できるだけ多くの人と一緒に行うということ。

ここに書きましたのは、経営者とダイナモの「卒琢同時」がとても大事ということです。「卒琢同時」という言葉は仏教用語なので、初めて聞く方もいらっしゃるかもしれません。これは鶏の雛が孵る時、内側から雛鳥が、外側から母鳥が絶妙なタイミングで同時に殻を突くことで、殻が破れて孵る。そういうことですね。

今、凝り固まった経営の仕組みを変えていくためには、経営が母鳥として、そしてダイナモが雛鳥として、両サイドから揺らして突いていかないと、なかなか殻が割れない。それくらい、多くの企業の経営は、オペレーション一辺倒で凝り固まっているのではないかなと思います。

みなさんが若手だったら、手を取り合ってくれる経営者はどこにいるかなと探す。あるいはみなさんが経営者に近いポジションであれば、一緒に動いてくれる、暴れてくれるダイナモは、いったいどこにいるんだろうかと探す。こんな目で見て、タッグを組むところからはじめるのも、1つのポイントではないかと思います。

一番下に最後書きましたけれども、基本的には、変化というのは、中央より辺境の方が起こしやすいです。殻が薄いということですね。変化への抵抗が最も強いのは、常に本部・本社ですので、常道は変化は辺境で起こし、内側に向けて流入させ、やがて傍流から本流にしていくということを、最後にお伝えしたいと思います。

5分くらい残りましたので、最後はもしみなさんからご質問とかあれば、少し質疑応答させていただきたいと思いますが、いったん「ポジティブなカルチャーを作るリーダーの『チェンジマネジメント』スキルとは?」というお話は、これにて終了させていただきたいと思います。

ご清聴ありがとうございました。