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ポジティブなカルチャーを作るリーダーの『チェンジマネジメント』スキルとは?(全3記事)

「確実に儲かるのか?」は、イノベーションの芽を摘む殺し文句 悪気なく社員のやる気を削ぐ「硬直しきった組織」を変えるには

多摩大学大学院が主催で行われたセミナーの模様をお届けします。ナレッジ・アソシエイツ・ジャパン代表で2023年4月に多摩大学大学院MBA教授に就任予定の荻原直紀氏が登壇し、「チェンジマネジメント」をテーマに講演しました。あらゆる企業や組織は、事業成長とともに規律統制が強くなり、創造性や活力が失われていきます。再び新たな価値や事業を生み出すためには、「チェンジマネジメント」のスキルが必要だと荻原氏は語ります。本記事では、日本企業が「オペレーション」に偏り「イノベーション」が起きない原因について解説されました。

日本企業に求められる「オペレーション」と「イノベーション」の両立

荻原直紀氏:なぜ、今、多くの日本企業で、チェンジマネジメントが求められているかというと、これにつきます。「OとIの両立」というのは、オペレーションとイノベーションの両立です。「OからIにしましょう」と言っているわけではありません。会社にもよりますが、企業の今の売上の90数パーセントはオペレーションサイドから上がっています。

ですから、それぐらいの割合の方々が、主にオペレーションに関わっていることになります。

とはいえ、オペレーションだけをやっていれば、未来永劫社会に存続できるか、あるいは市場に価値が提供できるかというと、そんなことはないですね。新しいものを生み出す、イノベーションも回っていなければいけない。

組織の活力を生み出す原動力って、やっぱり左(オペレーション)より右側(イノベーション)にあるわけですね。右側(イノベーション)は試行錯誤することが仕事です。仮説を立てて、お客さまや市場に「こういう価値はどうでしょうか」ということを新しく提案する。そのための技術ややり方を開発して、製品化・商品化していく。本来的に、わくわくする要素がたくさん詰まっているわけです。

イノベーションの芽を摘む「殺し文句」

ところが、今の日本企業のほとんどは、左側(オペレーション)の原則のみで経営されていて、かつ下手をすると、それが悪いと誰も思ってない状態です。何が一番危ないかというと、「経営・事業イコールPDCAだ。」と思っていると、慣れ親しんでいるPDCAの原則を試行錯誤が行われている事業や活動にも適用してしまいます。

そうすると、機会の芽を摘んでしまうわけですね。イノベーションは、基本的に不可能に挑戦することです。それを試行錯誤するタスクですから、基本的にエビデンスは完全に揃わないわけです。エビデンスがすべて揃うのであれば、もう誰かがやれているということですから、それはイノベーションではないわけです。

しかしながら、多くのマネージャーは、よかれと思って、イノベーション活動に、こう言うわけですね。「エビデンスはあるか」「確実に儲かるのか」。これはもうイノベーションの芽を摘む、最も確実な殺し文句でありまして。これを言ってしまうと、試すことすらできなくなってしまう。

これが続くと、みなさん学習するわけですね。「試さないほうがいいよ、試そうとすると、『エビデンスあるか』って言われるから。『計画にあるのか』って言われて怒られるから」。

それが続くと、試すという行為すらやめる。これは、さらに不活性化が進んだ状態です。みなさんが不活性化、イノベーションが起きない、社員の活力がない、こういう悩みでお集まりいただいてるんだとすると、おそらくこれ(不活性化)のかなり後半のステージにおられるのではないかなと思います。

日本企業の経営課題は「燃える社員を生み出せていない」こと

実際にこういった経営になっていることを示すデータがいろいろあります。比較的気が滅入るデータなので、さらっといきます。

世界と比べてですね、日本の企業の経営は世界最低レベル。厳しい書き方ですが、これは自戒を含めてです。まず、燃える社員を生み出せていないという、厳然たる事実があります。

士気・熱意があると答えた社員は、日本は20人に1人。東アジアと比べても、世界と比べても、もう断トツ最下位というのが出ているわけです。

また、残念ながら経営者への信頼度も非常に低い。今、データがある国の中で、日本は韓国に次ぐ下から2番目。こんなところにいるわけですね。

でも、「人材には投資してきたよね」という声がよくあるんですが、日本の企業は人作りを熱心にやってきたというのも、どうもデータから見ると実は幻想だったようです。

まず(表の)左側は、労働者の能力不足が経営課題だと答えたマネジメントの割合です。もう残念なぐらい断トツですよね。日本は5社に4社、あるいは5人に4人の経営者、管理職が、労働者の能力不足が経営課題だと言っています。

イギリスに至っては、一番右、たった12パーセントです。日本は、他のあらゆる国に比べて断トツで能力不足が経営課題であるということです。そして、どうもそれは、人作りにむしろ投資してこなかったからだというのがこの右側のグラフです。

先進国と比較した時の、日本の「人への投資」の問題点

これ、左からアメリカ、フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、日本と並んでるわけですが、何を示してるかというと、GDPに占める企業の能力開発投資の比較です。

1ヶ国ごとに一番左の黒いバーから、95年から99年、以下右にいくごとに、2000年から2004年、2005年から2009年、2010年から2014年と並んでいます。

これはどういうことかというと、日本のグラフが、ものすごく小さいですね。95年から99年の時代から、日本企業の能力開発費への投資は、イギリス、アメリカなど先進国に比べると約3分の1ぐらいであったと。それがさらに、2010年から2014年と年を追うごとに下がっていっています。

今はGDP比率0.1ということで、他の国々が2から1の間にいますから、10分の1から20分の1しか投資できてないということが、このデータから見えてくるわけです。

さまざまな要因がありますから、なぜこうなってるのかっていう議論は、今日は時間の関係で割愛したいと思います。燃える社員がいない、エンゲージメントが低い。信頼関係も低い。人作りにも投資していないという経営が続き、かつ、オペレーション一辺倒で経営してきた結果、こんな状況になっている。だから、今、チェンジマネジメントが求められているということです。

どんな会社も、経営に「おっさん力学」が働いている

これは、後ほど出てきます『企業変革を牽引する新世代リーダー ダイナモ人を呼び起こせ』という本で我々が書いたポイントですが、「おっさん力学」という言葉があります。初めて聞かれたかもしれませんが、簡単に言うと……。

すみません、きつい言葉ですけど。「どんな会社も似たようなおっさん、おじさんたちによって経営されている」という意味合いですね。

50代以上、下手したら全員60代以上の日本人男性、その会社にしか勤めたことのない方々で役員が構成されている状態ですね。これでは、意識的・無意識的な同質化圧力、同調圧力が非常に強くなるということ。データから見ても、女性・外国人管理職比率が未だに世界最低ということからも明らかです。

もう1個の大事なポイントは、エビデンスの過剰重視やPDCA至上主義は、イノベーションや組織活性化と極めて相性が悪いということです。プランになければやらせない。エビデンスがなければ次へ進めない。これは本当にイノベーションや組織活性化とは相性がよろしくないのです。

「分析しすぎ、計画しすぎ、コンプラしすぎ」っていうのは、我々の師匠でもあります一橋大学の野中郁次郎名誉教授が、日本企業経営を変えよということで、最近強くおっしゃってることです。英語で言うと、オーバーアナリシス、オーバープランニング、オーバーコンプライアンスですね。

オーバーアナリシスは、詳細の数値に基づくエビデンスがなければ、決して信用、採用しないという風潮。

それからオーバープランニングは、計画を立てたら、環境や状況が変わってもコースは変えられない症候群。

コンプラしすぎとは、もちろんコンプラは大事なんですけれども、本質・インパクトよりも形式・手続きを重視するという症候群ですね。

こういう状況になればなるほど、組織の硬直化が進みます。多くの日本企業がこれに近い状態になっているので、今、チェンジマネジメントが求められているといえるのです。

「組織の官僚化」は世界共通の課題

硬直しきった組織に活力を与え、再び試行錯誤できる組織へと導く。そういうリーダーになるスキルが、今強く求められているというのが、本学でこれからチェンジマネジメントを教えていく1つの大きな背景になります。

ちなみに、これは決して日本企業固有の問題ではありません。組織や事業が大きくなっていくと、組織が官僚化していく課題。かつオペレーションが肥大化していって、イノベーションが小さくなっていく課題。これは世界共通です。

ただ、グローバルに見ると、欧米では、チェンジマネジメントをしっかりやって、そうならないようにしたり、「チーフカルチャーオフィサー(CCO)」という最高組織文化責任者を置いてリードしたりすることを、けっこう前からやってきています。日本とは少し事情は異なりますが、課題としては共有しています。

もう1つ言うと、先ほど私は、Japan Innovation Networkのスタジオディレクターもさせていただいてるというお話をしましたけれども。

今ご覧いただいてる図はJapan Innovation Networkのイノベーションマネジメントシステムを解説した1つの図式です。

実はこのイノベーションマネジメントシステム、すなわち組織でイノベーションを起こすための経営システムのあり方は、すでに国際規格になっています。ISO56002という規格になっています。この日本語訳も、JINでされています。

世界で取り入れられている「チェンジマネジメント」

今日はこれには深入りしませんが、ISOってみなさんどうでしょうか。多くの方は、あまりイノベーティブな印象は持たれないと思うんですね。

でも、これが国際規格になってるってことは、イノベーションを起こせる経営システムのあり方には、すでに国際的な合意があるということです。

つまり、古い組織でもイノベーションを起こすための経営の諸要素、組織の状況、リーダーシップのあり方、イノベーションの計画の立て方、試行錯誤のやり方、組織的な支援体制の作り方、その評価の仕方ということについては、すでに国際的な合意があって、規格になっているということです。

この規格で、基本的に何をうたっているかというと、今日お話ししているオペレーションとイノベーションが両立して初めて、企業経営であるということです。それがすでに世界的には常識化されつつあるというのが、今日のメッセージの1つでもあります。

もし、みなさんの組織がオペレーション一辺倒に凝り固まってしまっているのだとすると、それを解きほぐしてオペレーションとイノベーションを高度に両立する。試行錯誤をしたり、個の思いをもとに実験してみたりする。そういった組織、あるいは個の活力を取り戻すためのプロセスをマネージしていくのが、チェンジマネジメントです。

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