クローズドな会話をできるだけ避けるための工夫

吉原寿樹氏(以下、吉原):では、いよいよ後半に入ってまいります。今度は逆に「『マネージャーの状況をメンバーに共有する仕組み』をどう作る?」についてお話ししていきます。

これは大きく分けて3つです。上から「グループウェアで予定を共有する」「公開していいやり取りは、できるだけkintoneの公開スペースで行う」「分報」です。

一番上については、冒頭でGaroonのスケジュール機能をご紹介したところとイメージが近いのですが、時間の都合もありますので下の2つに絞ってお話ししていきます。

まずは「公開していいやり取りはできるだけ公開スペースで行う」というものですが、これは伊藤さんのチームの例ですよね。

伊藤優香氏(以下、伊藤):はい、そうですね。私は総務部門なんですが、サイボウズの場合は総務が人事本部の中に含まれていまして、こちらは人事本部のマネージャー同士のやり取りです。

人事本部というと、けっこうクローズドな話が多いイメージがあるかもしれないんですが、非公開にしなくていいものはできるだけ公開スペースで行う方針にしています。

一番上の方が「@人事本部マネジメント」と青字で書かれていますが、これは宛先で、ここには人事本部の各部の部長が含まれています。この宛先に含まれているのは数人と少ないんですが、「いいね」が21件ついてるんですね。

少なくとも21人、それ以上のメンバーがこの投稿を見て共感を示した。「見たよ」「いいね」と思ってくれてるというのが、目で見てわかります。

出社時のように、マネージャーの様子が見える安心感

伊藤:マネージャー同士・部長同士の会話が見える状態になっているのは、周りのメンバーの安心感にもつながってくるんじゃないかなと思っています。

吉原:なるほど。「マネージャーたちは最近こういうトピックに注目してるんだな」というのがメンバーもわかると、動きやすかったり、「あの件についてちゃんと対応してくれてるんだな」というのがすごく確認しやすいですよね。

すごく基本的なところかもしれないんですが、こういう感じでマネージャー同士の会話が見えることは、リモート時代(のコミュニケーションにとって)はすごく大きそうですね。ありがとうございます。

2つ目は、先ほども出てきた分報です。さっきは「メンバーの状況を共有してもらう」というものだったと思うんですが、当然なんですが、逆にマネージャーの状況を共有するのにも分報が使えます。

実際にある日の私の分報を持ってきたんですが、私のチームのメンバーが担当してくれていたイベントで動画データを使うことがあって。

「その動画ファイルをチェックしてますよ」という趣旨のつぶやきをしたんですが、そのつぶやきに対して「そういえば、この動画のここが気になってるんですけど」という感じで、そのイベントを担当してくれてるメンバーが声をかけてくれました。

全員が出社していた頃で比喩するなら、私がパソコンで動画ファイルを開いてチェックして、後ろを通りすがったメンバーが「その動画なんですけど、ちょっとここが気になっていて……」と声をかけてくれたようなイメージかなと思っています。

出社時の「絶妙な距離感」をITツールで再現

吉原:ちょろっと一言文字を書いて、画像をペタって貼るだけで、「うちの上司は今、こういうことを気にしてくれてるんだな」とわかるので、これだけでもマネージャーの状況がすごくメンバーに伝わっているんじゃないかなと思っております。

というわけで、こちらもまとめに入っていきます。まずは最初の伊藤さんのお話にあったように、マネージャー同士のやり取りを公開できるものはないか。あるいはマネージャーのやっていることでも、「別にメンバーに言っちゃっていいよね」というものはないか。

ちょっと面倒くさいんですが、リモートの時代だからこそ、あらためてまずはそこを疑ってみてください。「別に公開して大丈夫だよね」というものがもしあれば、それを「メンバーが見にいこうと思えば見にいけるかたち」で共有していただくのがいいのかなと思います。

イメージしてほしいんですが、例えば先ほど「分報は便利なんですよ」とお伝えしたんですが、下手したら分単位でつぶやくようなものを、マネージャーから毎回ボソボソとEメールで共有される側のメンバーの気持ちになってみてください。逆に苦痛だと思うんですよ(笑)。

なので、サイボウズの場合はkintoneを使っているんですが、マネージャーが発信してる、あるいはマネージャーの会話を気になったタイミングで見にいこうと思えば見にいけるツールを使っていただくことで、出社時代の絶妙な距離感が再現できるかなと思います。ぜひ、こちらも押さえていただければと思います。

本音を言いやすい場をオンラインでどう作るか

吉原:というわけで、いよいよ最後です。飲みニケーションのような、本音をより言いやすい環境をどう作る? という一番難しいトピックになると思います(笑)。

これもなかなか悩ましいながら、いろいろと考えて振り返ってみた結果、私たちがやっていることはこのへんかなと思います。

文字にしてしまうと基本的なところも多いかもしれないんですが、「本音を言ってくれてありがとう」ということがあれば、まずはそれに対してしっかりリアクションをします。

コメント機能で返信するかたちでもいいんですが、サイボウズのツールの場合は「いいね」機能があちこちに搭載されているので、ポチッと「いいね」を押してあげるだけでも、「見てるよ」「いいね」「よく言ってくれた」というニュアンスが伝わることも非常に多いです。なにかしらリアクションをするようには心がけてます。

あとは先ほどの分報のように、まずはマネージャーから発信していきます。「こんなことやっていますよ」というものはもちろん、「実は最近こういうことで迷ってるんだよね」とマネージャー側からも発信していくことで、メンバーからも本音を言いやすい環境が作れてくるのかなと思っております。

メンバーの投稿には、すかさず「いいね」でリアクション

吉原:これは実際にオンラインでの分報にリアクションしている例です。(スライド)右から説明するんですが、私のチームのメンバーが「もうなにもかもがダメな気がしてきた」と、なかなか悲壮感あふれる書き込みをしてくれた時があって(笑)。

それに対して、ちょこちょこっと「どんな感じ?」というコメントをしてみたんですが、こういうコメントやリアクションの積み重ねで、「『ヤバい』っていうこともちゃんと言っていいんだ」という安心感につながってくるんじゃないかなと思っています。

(スライド)左側が伊藤さんのチームの話だと思うんですが、これはちょっとハイコンテクストな予感なので、ご説明をお願いします。

伊藤:(笑)。そうですね。日付と時間が右上にありまして、20時40分というちょっと夜遅めの時間です。リモートワーク中に夕ご飯で中抜けをしていたメンバーが、この時間に「再開します」と投稿してるんですね。「あ、業務再開するのか」と。

それに対して、後輩にあたるメンバーが「はい?????????????」って入れてるんですね(笑)。「先輩、この時間から再開ですか?」というリアクションです。

それに対して私は直接何も言ってないんですが、後輩の「はい?」に対してすかさず「いいね」を押すことで、「残業がけっこう多くなってるけど、最近業務はどうなの?」「大丈夫なの?」「見てるよ」というメッセージを、「いいね」で伝えてるということですね。

吉原:なるほど。「見てるよ」というサインだったり、ある意味で「応援してるよ」「心配」「気にかけてるよ」というサインですよね。

伊藤:そうですね。「なにか必要があれば助けるよ」というメッセージも、ここで伝わるんじゃないかなと思っています。

吉原:リモートだと、隠れ残業ってけっこう困るじゃないですか。こういう感じでリアクションしてあげることで、「実際の勤務時間をちゃんと言っていいんだ」ということにもつながってくるのかなと思います。

オフラインで「安心の土台」を作ると、心の距離が縮まる

吉原:とはいえ正直に言いますが、この1年くらいで少しずつコロナ禍が改善されてきて思うこととしては、事前にオフラインで「安心の土台」を作っておくことも大事だとは思います。

「チムビル」と書いてあるんですが、実は最近サイボウズでは「対面型のチームビルディングを支援しますよ」という制度もトライアルで運用されています。なぜかというと、一度オフラインでコミュニケーションを挟むことで、オンラインでも発言しやすくなったという事例があるんですよね。

ここは単純に、オンラインとオフラインの得意・不得意なのかなと思っています。今は「オフラインを絶対にしちゃダメですよ」というわけでもないと思うので、こういう感じで使い分けている例が増えていますね。

伊藤さんのチームでも、「最近あえてオフラインでやったよ」というものはありましたか?

伊藤:人事本部マネジメントといって、各部の部長が集まって1泊2日で中長期の戦略について話し合ったりとか。あともう1つ、みなさんの会社にもリモート入社世代っていらっしゃるでしょうか?

入社式をオンラインでしていたり、入社してすぐにリモートワークが始まってしまった世代を含めて一度合宿をすることで、リモートワークでなかなかチームに馴染めた感覚が持てていなかったメンバーが「すごく話しやすくなった」と。一度めっこり(対面でしっかりと話し合う)合宿をやったことで、心の距離が縮まったという事例はありました。

吉原:なるほど、ありがとうございます。

会議の目的に合わせて、あえてオフラインを活用することも

吉原:今の話を踏まえると、「ここでオフラインを使うといいですよ」というのはきっとあるんじゃないかなと思うんですね。

こんな感じでまとめてみたんですが、先ほど人事のマネージャーの方たちでやられていたように、戦略を議論する、長時間かけてじっくり話す会議のような場合は、あえてオフラインでやるのもありなんじゃないかなと思っています。

あとは新しいメンバーが入ってくる時ですね。新しいメンバーって本当に不安なんですよ。「オンラインじゃなくても不安なのに」という状況だと思うので、ここぞというところではチームでオフラインで話す場を設ける。

メンバーが入ってきて間もないタイミングで、「この日はチーム揃って出社しましょう」と決めて出社しているチームは、サイボウズ社内のあちこちで見受けられます。

また、懇親会系のイベント。熱量がめちゃくちゃ伝わることが大事なイベントなんかでは、オフラインを使っているケースはすごく多いのかなと思います。

というわけで、こちらもプチまとめに入っていきます。オンラインの場合に大事なこととして、まずはすごく意識的にリアクションをやる必要があるかなと思います。

コメントでもいいですし、サイボウズ製品の場合は「いいね」というリアクションでもいいのかなと思います。これがあるかないかですごく違ってくるので、まずはここが大事かなと思います。

あとは、別にオフラインが絶対に禁止というわけでもなければ、状況に応じてオフラインの良いところを使い分けてあげることは、これからのハイブリッドワークの時代ではすごく価値があることなのかなと思います。

出社時の良さをオンラインで再現する、4つのポイント

吉原:というわけで、いよいよまとめに入ってまいります。最初にまとめた、4つの「出社時代の良かった部分をオンラインでどう代替するのか」です。

同じような感覚や同じような結果を目指すのは大事なんですが、やり方は変えましょうということです。無理にWeb会議とかで再現しようとしない、ということですね。

目で見えていたもの、例えばスケジュール、タスク、コンディションとかは、基本的な情報共有を確実にしていただくことでカバーできる部分は多いのかなと思います。

また、耳で聞こえていた部分について。会話に直接参加していなくても、覗きにいける仕組みを実現できるITツールを使っていただくことで、だいぶ近い状況を作れるのかなと思います。

また「出社時はマネージャーの状況をメンバーに把握してもらえていた」という点について、まずマネージャーは「公開できる情報はないかな?」というのを、このオンライン時代にあらためて確認していただきたいです。

「これは公開しても大丈夫だな」と思うものについては、メンバーが見にいこうと思えば見にいけるかたちで共有していくことが大事です。逆に、全部が全部共有されてもメンバーとしては迷惑なわけですから、絶妙な距離感で共有できるツールをぜひ使ってください。

また、飲みニケーションのような精神的な距離が近いコミュニケーション、本音を話せる感をどう作っていくかについて。オンラインでは、まずは意識的にリアクションを増やしてください。

場合によっては、使いどころを見極めて引き続きオフラインも使うといいのかなと思っております。ぜひ、参考にしていただけますと幸いです。

共有する会話と、非公開にする会話は使い分け

吉原:というわけで、セッション本編はこちらで以上です。冒頭でご案内していましたとおり、ここからはいくつか質疑応答をできればと思っております。

では、どんな感じで質問をいただいているか見てまいりましょう。……おっ、いろいろいただいていそうですね。ありがとうございます。時間の都合もありますので、いろんな方が特に気になっていそうなものを中心に、いくつかお話ししていければと思います。

じゃあ、まずはこの質問にいってみましょうか。これはすごくありそうだなと思うんですが、「1on1の会話の中に、個人的な話などメンバーへの伝え方を気をつけないといけない内容も出てくるので、すべてを公開することに抵抗感があります。そんなことはあまり起こらないでしょうか?」。

これは、1on1の共有アプリを使われている伊藤さんにご回答いただきましょうか。

伊藤:まさにこういうことはあると思います。メンバー本人にとってもマネージャーの耳には入れたくないんだけど、例えば「伊藤さんのああいうところ、ちょっと嫌なんですけど」という議題で相談したいことって絶対にあると思うんですよね(笑)。

吉原:(笑)。

伊藤:そういう時のために、アプリの中に「極秘」チェックボックスをつけています。極秘チェックをつけると参加者以外に共有されない設定ができるようになっていて、関係者として追加したメンバーにだけ共有できる仕組みを整えてます。

吉原:必要に応じて、究極の非公開設定みたいなものができるってことですね。ありがとうございます。

テキストコミュニケーションのトラブルを減らすために

吉原:これもありそうだなと思ったんですが、「テキストコミュニケーションだと、発言した時の発言者の感情や、どういう意図で発言したのかわかりづらかったり、勘違いしてしまうことがあると感じています。このような問題が同様に発生している場合、どのように対応しているのかお聞きしたいです」。ありますよね。

伊藤:ありますよねぇ。

吉原:私もそこまでテキストコミュニケーションが得意っていうわけでもなくて。パッと書くのは得意なんですが、どこまで配慮できているかというと、正直なかなかうまいこといっていない時もあるなと思っています。

とはいえ、テキストコミュニケーションでいろいろ共有できることはメリットがすごくあって。Web会議しか使えないよりは、圧倒的に仕事の効率も上がってくるので。もちろん、これはこれでトラブルが発生することも正直あるんですが、その都度一つひとつ対応していく。

「実はあれはそういうつもりじゃなくて、こういうつもりで書いたんだよね。書き方に問題があったから次から改善しますね」という感じでコミュニケーションを重ねていくことで、少しずつ改善していってるかなと思います。

おっしゃるとおり、そういう難しさもあるんですが、とはいえこのリモート時代はテキストコミュニケーションがないとなかなか難しいので、難しさを踏まえた上で日々改善していっている感じかなと思います。

適切な距離感を保つための“第三者”の役割

伊藤:あと、これが大事だなと思うことが1個あって。わだかまりを感じているメンバー同士が一対一で、「あれってこういう意味だったんだよ」というコミュ二ケーションを取るのは、あんまり良くないなと思っています。

第三者に入ってもらって、「なるほど。そういう意図だったんですね」という整理をしてもらえると、距離感がうまく取れるようになるんじゃないかなと、いくつか対応していて思いました。

吉原:なるほど、確かに。ファシリテーターじゃないですが、そういう役割も今後は必要なのかもしれないですね。ありがとうございます。

ちょっと質問が増えてるかもしれないので、もう1回見てみますと……おぉ、どんどん来ていますね。ありがとうございます。伊藤さんは「このへんが気になるな」という質問はありそうですか?

伊藤:そうですね……。あ、分報アプリの質問がありますね。

吉原:「分報アプリは1つのアプリにメンバーがレコードを追加する仕組みですか? それともメンバー専用のアプリがあるんでしょうか?」。

伊藤:これはkintoneをご存知の方が登録してくださったのかなと思うんですが、kintoneの「スレッド」という仕組みでやっています。「人事本部分報スペース」というものがあって、その中に1人1つスレッドを作って、そこをどんどん更新していくような仕組みがサイボウズでは多めかなと思います。

吉原:そうですね。

リモートワークのメンタル不調には「あえて出社」も効果的

吉原:(質問に答えられて)あと1つか2つくらいかなと思うんですが……これを伊藤さんにお聞きしてみてもいいですか?

「お話しできる範囲でいいですが、コロナ禍でコミュニケーション不全からメンタル不全を起こす社員が増えました。サイボウズさんではその推移、また施策をやった結果の変化状況はいかがでしょうか?」というものです。

伊藤:はい、ありがとうございます。全社的な取り組みとしては、サイボウズには人事本部の中に「すこやかチーム」という、健やかに仕事を遂行していくことを支えるチームがありまして、具体的な対応はすこやかチームが個別に対応をしております。

メンタルヘルスの件数の推移は、なかなか具体的にはお伝えできないんですが、「ちょっと不調を抱えている」という相談とか、分報のつぶやきでも(メンタル不調についてのコメントを)目にする機会は増えていると思います。

実際に自分のチームでも、少しメンタルが不安定になってしまったメンバーがいました。その時にどういった対応をしたかというと、「たまに出社してもらう」というのが意外と効果がありました。

リモートでなかなか変化がない状況で気が滅入ってしまって、テキストコミュニケーションの裏の裏を読んで疲弊してしまう、みたいなことが起こりがちなメンバーだったので。

出社してそのわだかまりを解いたり、通勤で体を動かす。オフィス出社をメンタルヘルスとかフィジカルヘルスのセルフケアの一環として位置づけて勧めたりもしていました。

吉原:なるほど、ありがとうございます。ご参考になればと思います。というわけでお時間が来ましたので、質疑応答もこちらで以上とさせていただきたいと思います。ご清聴いただきありがとうございました。

伊藤:ありがとうございました。

(会場拍手)