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成長限界突破の鍵はストーリーにあった!「成長企業のための、ストーリーによる経営戦略」(全4記事)

人の意見を聞かず自分の信念を通すのに、周囲に「サポーター」 経営危機でも「なんとかしてあげたい」と思われるトップの特徴

「ストーリーによる経営戦略」をテーマとするクロスメディアグループ主催のイベントに、『ブランド戦略論』の著者で中央大学名誉教授の田中洋氏と、「空調服」の開発、製造・販売を行う株式会社セフト研究所の元取締役・西村統行氏が登壇。本記事では、経営危機でも折れなかった創業者・市ヶ谷弘司氏の信念や、「SDGs」「サステナブル」時代の空調服の戦略などが語られました。

ヒットのきっかけは鉄道のレール交換を行う企業での採用

田中洋氏(以下、田中):空調服が発売されたのが約20年前。

西村統行氏(以下、西村):初号機はちょうど20年くらい前ですかね。

田中:私もその頃、そういうニュースを耳にした気がします。空調服が世間にクローズアップされるようになったのは、やはり東日本大震災の頃ですか?

西村:実際にクローズアップされ、売上が伸びたのは、東日本大震災以降の2〜3年目だったんですね。こういう商品は今までにないので、マスコミは飛びつくわけですよ。言葉を選ばずに言うと、物珍しさにつられて、「こういうものを紹介してみました。いいですね、涼しいですね」という感じでしょうか。でも、なかなか買われないんです。

東日本大震災がやっぱり大きかったということも1つあるんですが、もう1つ大きかったのはお客さまの声です。

これは社名を申し上げてもいいと思いますが、大和軌道製造株式会社さんが、会社として初めて空調服を本格的に導入いただいた企業さまだったそうです。何をされる会社かというと、真夏に鉄道のレールの交換をやっています。それは夏じゃないとできないんです。なぜならば、夏の暑い、鉄が伸びきる時が適切という条件もあるからです。

しかしものすごく過酷な作業で、従業員の健康・安全を考えた時に、大和軌道製造の当時の森川善男社長と(市ヶ谷)会長が出会いました。おもしろいからやってみようとなって、初めてお客さまから「これは本当に命を守る、現場のみんなを助けてくれるツールだね」と言われました。

そういうことで、「企業さま単位で、今あるユニフォームを空調服仕様のユニフォームに変えませんか」ということを本格的に始めたのが、東日本大震災の後からですね。そこで「空調服」や「DIRECT COOLING」というインナーブランドを徐々にPRし始めて、それからガッといった感じです。

空調服以外にも展開する「クールな世界」

田中:今のお話を聞いてすごくおもしろいと思ったのが、最初に暑い国に行かれて、「この暑さをなんとかしたい」という「想い」があった点です。そこから遡って「地球全体から何かできないか」とか、いろんな発想を巡らして服に行き着かれたというプロセスを非常に興味深くおうかがいしました。

生理クーラー理論というのをまずお考えになり、それではちょっと堅いので、「DIRECT COOLING」や「FANtastic COOL LIFE」とか、そういうワードをお考えになったわけですよね。

西村:そうですね。生理クーラー理論はどうしてもアカデミックなブランドイメージになるので、もっとわかりやすくやるというのであれば「DIRECT COOLING」や「FANtastic COOL LIFE」でどうだろうかと考えた。

ちなみに、「FANtastic COOL LIFE」の「FAN」は空調服のファンと、いわゆるファンになる・楽しむといういろんなものがあって、「クールで快適な生活をしようよ」ということをブランドイメージにしています。これを含めて空調服の拡販をし、ブランドと営業戦略を合致させたのが、初期のブランド戦略ですかね。

実は空調服だけではなく、空調カーシートというのもあります。例えばドライバーはお尻とかが蒸れるので、ここでも空調服の生理クーラー理論を使っています。あと、東日本大震災の時、空調の設定温度を28度にするという努力義務がありましたよね。

田中:ありました。

西村:そうすると、空調座布団という「座・クール」を使って、少しでもオフィスでの生活を快適なものに、と提案してました。最近のヒット商品ですと、空調リュックがあります。リュックの人は、背中がびしょびしょになりますね。

田中:なりますね。

西村:私も使っていますが、空調リュックだと夏でもものすごく涼しいんですよ。クーラーがいらないみたいな。もう1つ、すごく人気があるのが、空調ベッドです。僕もダメですけど、いわゆるエアコンがダメな方っていらっしゃるじゃないですか。

田中:わかります。

西村:空調シートを引けば、風邪は引かないし、生理クーラー理論でちゃんと気化熱で暑さを取ってくれて快適になる。エアコンの温度も上げられます。そういういろんなクールな世界をやっています。

経営危機でも折れなかった創業者の信念

田中:西村さんはこの会社で営業やマーケティングもリードされてきたと思うのですが、今おっしゃったような商品展開もそうですし、どこに何を売っていくかを会社の中でかなり議論されていますか?

西村:議論していますね。最初はガテン系と言われる建築現場を中心としたところと、法人のユニフォーム市場への営業・プロモーションを強化しました。

市ヶ谷は生理クーラー社会と言って、人間に自然に備わる機能を使って涼しくクールな生活を送る社会の実現という想いがあったので、「もっと一般的なのが必要だね」ということで、空調リュックや空調ベッドなどが開発されました。

ブランド的にはより一般化していくために元サッカー日本代表の中澤佑二さんを起用したり、創業者の想いと商品、マーケティングのプランの3つをより三位一体でやるためのブランド戦略や広告戦略、マーケティングを実際にやっています。

田中:「風を纏え」ですね。

西村:そうです。商品の販売サイトとして、会社名のセフト研究所の子会社に株式会社空調服がありますが、開発会社はセフト研究所という構造です。

もう1つ、「市ヶ谷の想いを伝えたいよね」ということで、セフト研究所とは別に市ヶ谷弘司のオフィシャルサイトも作りました。

彼の頭の中とか発明とか、商品になったもの・ならなかったものも含めて、「アイデアで世界を変えていく」という世界を表現するサイトも分けてやっています。

田中:空調服という会社の根本に市ヶ谷弘司さんという方がいると思います。

「変わった方」という言い方をされましたが、スティーブ・ジョブズもそうだったと思いますけど、やっぱりそういうユニークなお人柄じゃないと本当に世界を変えられないということなんでしょうか。

西村:当時いた方にうかがうと、ブラウン管がアナログからデジタルに変わった時、会社は相当、経営的に厳しかっんですが、その際、「アナログからデジタルに行きましょうよ」とみんなが言ったんだけど、彼はそこを見向きもしなかった。

自分はアイデアで何かを生み出したい、空調服とか生理クーラー理論をやりたいんだと。今は結果オーライですが、当時はもう……。

田中:私は本を読ませていただきましたが、やっぱり人が離れていったり、いろんなこともかなりあった。

西村:そうです。だって、生命保険を解約してまで資金に充てたとか、とんでもない状況でした。彼はやはり自分をすごく信じていたんでしょうね。僕は会長と長くお付き合いしていますが、自分の思った信念に関しては曲げないどころか、人が何と言おうと自分をすごく信じていると思います。

だから、「人と違っていいんだ。一緒になる必要はないんだ」「僕はこれしかできないから」みたいな、そういう方です。

創業者の周りに仲間が集まる理由

田中:そうなんですね。私も本を通じてしかわからないのですが、ある意味ものすごく純粋な方ですね。

西村:純粋です。

田中:お金を儲けようとかはあんまりない。

西村:ぜんぜんないです。

田中:何かを実現されたいという想いがすごくある方ですよね。

西村:そうなんです。もともと早稲田の理工学部を出ているので、物理とか科学に対する造詣はすごく深い。

「なんで鏡に映った自分の右手と左手が逆になるんだろうね」ということを本気で考えて、「こういうアイデアをやりながら、世のため人のためにやれないかな」と純粋に考えている方です。

田中:なるほどね。そういう純粋な想いがないと、なかなか世界を変えることはできないのかなと、その本を読んで思いました。

西村:あと、純粋が故に彼ができないことをサポートしてあげようというパートナーというか、仲間が集まってきやすいと思います。

田中:あ、なるほど。

西村:彼ははっきり「僕はマネジメントができないから」「宣伝のことはよくわかんないから」と言います。どっちかというと、会長の周りには内部・外部も含めて、会長をなんとかしてあげたいという人が多いです。

田中:なるほどね。

西村:すごく純粋だから。

田中:ソニーの創業者もそうだと思うのですが、一方がある意味で夢見る人だと、それを実現するかたちを作るのがもう一方になる。こういう人はなかなか1人では代表ができない。うまくチームになるのが大事ですね。

西村:そうですね。ちょっと余談ですが、会長の息子さんに市ヶ谷透さんがいらっしゃるのですが、透さんは空調服の営業会社の社長で、彼はどちらかというとバリバリの営業マンです。だから、親と子でこうも違うのかと思いました。

この絶妙な組み合わせは、神さまが作った絶妙なあやみたいなものだと、私たちは外から見て思います。

田中:なるほどね。一種のチームプレイみたいなのがあるのはすごく大事な話なんでしょうね。

西村:今でも夢見ていますよ。「こういうのどうかなぁ」みたいな。

田中:なるほど。

「SDGs」「サステナブル」という追い風

田中:今日はお時間がなくて本当に申し訳ないのですが、空調服について短い時間でコンパクトにお話しいただきました。

ベッドの話とかいろいろしていただきましたが、最後に、今後空調服はどう発展していくのか、その方向だけでもいいのですが、お話しいただければと思います。

西村:会長はアイデアマンなので、商品開発に関してはいろんなものを開発する予定でいます。

今の世の中では「SDGsとかサステナブルな地球環境をやらなきゃいけないよね」と当たり前に言われています。SDGsのことを知ってか知らずか、会長はもう20年以上前からなんとかアイデアで世界を変えていく、より良くしていくという想いを持っている。

我々のブランド戦略的には、建築系以外にもより一般的にこういった機能や商品を届け、どちらかというとSDGsやエネルギー効率とか、サステナブルなイメージやコンセプトだったり、メッセージをより強くしていこうと考えています。

私どもは、空調服を着て3年作業すると、電気代の削減や、エアコンのフロンガスの削減で約60万円の価値を生めるので「3360効果」と言っています。

そういった地球環境にいい、より大きなグローバルな視点で、私たちの考え方やサービスを提供していきたいと思っています。

田中:空調服の話を非常に要領よくお話しいただき、我々もよく理解できました。若い方にとって必ずすごく役に立つ話だし、そういうことが世の中にあるんだと、市ヶ谷弘司さんの大きな構想力を聞かせていただいた気がします。ここでいったん対談は終了とさせてください。ありがとうございました。

西村:ありがとうございました。

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