自己啓発本を読んでいいのは「元気な時」だけ

下園:性格が悪いとか思う人は、自分の性格を変えようと思うわけよ。そしてコミュニケーションをなんとかしようと、いろんな本を読むわけだよ。

森田:私です。

原田:改善できると思うもんね。

森田:自己啓発本とか大好き(笑)。

原田:私なんて好きだからそういう本作っている。

下園:けっこう重要なことだから覚えてください。自己啓発本というのは1段階仕様。つまり通常モード仕様なんです。

原田:なるほど! 元気な人。

森田:元気な時だけ。

下園:例えば元気な時だったら「あなたから声を掛けるんだよ」とコミュニケーションできますよね。ところが2段階になって、不安感と対人恐怖的な感じ、自信のなさといろいろない交ぜになった時、自分から声を掛けられるかというと、なかなか「でも忙しそうにしているし」と、声を掛けられないわけよ。そういう時に「だめだな」と思うの。自責の念もあるわけ。

森田:先生がお歳暮という話をしていたけど、どうも無理そうだわって。

下園:そうそう。つまりね、2段階、3段階の人はアドバイスをもらうと、自分ができていない、やれていない、やらなきゃというすごくつらい思いをしがちなんですよ。そして、「パフォーマンスをしてもうまくできない」と感じやすいので評価しやすいんです。

なのでクライアントさんには、基本的には2段階になっていると僕が判断した時には、「いろんなサイトとか見ちゃダメよ。本とか自己啓発本とか読んじゃダメだし、とりあえず、努力は棚上げして、元気になったらそういう努力をしなさいよ。どうしても読みたいんだったら、2段階で読めるのは僕の本だけだよ」と言っています(笑)。

(一同笑)

『教えて先生 もしかして性格って悪くなるの?』(すばる舎)

「嫌な記憶」は、完全にリセットすることはできない

原田:やはりどうしても苦手な相手がいたり、過去にいざこざがあった相手というのは、どうしても感情がリセットできないというか。

下園:記憶ね。

原田:いったん何か嫌なことがあると問題が決着しても、その次にもう声が掛けづらいとか、感情をリセットはできないという感じになっちゃうんですけど、それはもうしょうがないことなんですかね。

下園:今、(心の疲労レベルの)3段階の話をしましたがその3段階は「状態」なんですよ。なので、例えばお休みしたりちょっと休息したり、体力が回復するようなことをしたらパッと上がっていきますよね。今原田さんがおっしゃったような対人関係とか、恒常的に自分の反応に影響してしまうのが「記憶」というやつですよ。

人に関する嫌な記憶とか、ちょっとトラウマっぽい感じの自分の行動に影響するような体験。これがずっと残ってしまうことがあります。過去検索するとその出来事にパーンと思い当たるので、人はこの記憶をなんとかしたいと思うもんですよ。

森田:思います。

下園:でもこれも無理なんですよ。

森田:無理なんですか(笑)。解消したい記憶がけっこうあるんだけど。

下園:無理なんだよね。

「嫌な記憶」は、実は安全に生活するためのヒント

原田:私たちはそんな無理なことがいっぱいあっても生きていけるんですか? 

下園:まあまあ何とかね。無理というより、そっちのほうが無理なことを要求されるんじゃなくて、もともと記憶というのはそんなに簡単に書き換えられてしまったら、私たちの生活が成り立たないんですよ。日本語を忘れたらどうですかね。「日本語が大嫌いだから忘れたいんです」とか言う人がいたら。

(一同笑)

森田:どうしましょう。もう何もできないかも。

原田:死んじゃう。

下園:「掛け算の九九、忘れたいんですけど」って。

森田:難しいですね。それは。

下園:忘れろってできないですよ。僕は七の段が最近怪しいけど。

(一同笑)

森田:七掛ける八あたりはちょっと危ういですね。

下園:難しい。

森田:(笑)。

下園:そこにヒントがある。記憶はなくならないの。それは大切なものだから。過去に自分が大変つらい思いをして、その記憶を覚えておいたほうがいいと、原始人的に評価されているものなんです。

そういう記憶があるからこそ、私たちはちょっと苦手なタイプとかがちゃんとできて、その人から距離を取れるようになっていったり、「あそこの職場に行くのはもうちょっと怖い」と、それを避けるようになる。安全に生活するためにはとても重要なことです。

「変えようとする努力」を止めた方が楽になることも

下園:一方で、ちょっとその記憶が行き過ぎてずっと怖いイメージばかりあると、日常生活が送りにくいことがありますよね。それは一生続くかというと、本当に怖い体験だったら一生続きますが、それほどでもない体験だったら、思い返してそれを使わないこと。情報なのでそれを使わなければ、だんだん風化していきます。七の段は風化していっているんですよ。あまり使わないから。

森田:(笑)。けっこう使わないかも。

下園:使わないから風化している。だから記憶がまったくなくならないわけじゃないんだけれども、それをなくそうなくそうとする努力。無駄な努力のほうがエネルギーを使います。

自分の性格を変えよう、記憶を変えよう、もっと良い自分になろうと、小学校時代に一生懸命努力をして良い大人になろうとした、そのモードでずーっと生きていくと、とにかく自分を変えたい、修正したい、努力したいという思いがあるんだけど、これがあるともう変わらないんですよ。

いくら身長を高くしようとしても、大人だから無理ですよ。これまで何年も生活してきた自分の性格部分、これも変わらないんです。そうした時に、それを変えようとする努力を止めたほうが楽になるんですね。

森田:抗わないというか。

自分なりの折り合いをつける「あるがまま」のスタンス

下園:抗わない。森田療法の「あるがまま」というスタンスなんです。

原田:森田療法というと、森田さえさんとはまた別の森田療法というのがあるんですね。

森田:心理学者の。

下園:森田さんのご先祖(笑)。

森田:(笑)。だといいな。

下園:抗わないというのも、大人になるにしたがって勉強すればなんとかなるわけじゃない。勉強とかアドバイスとかは、今の自分に対する危険をちょっと含んでいるんですよ。自信がなくなるのが、もっと強くなっちゃうんです。

しょうがない部分がある。でも努力はする。でも変えなくてもいいところがある。この間のせめぎ合いですよね。ここもさっきの2段階でがんばる・がんばらないみたいな感じで、やはり生きていくうちに、自分なりにだんだん折り合いをつけていくべきものだと思ってください。

森田:抗わないということと、あとは頼れる先を見つけていく。

下園:ああ、それは重要。「少しのことにも、先達はあらまほしき事なり(吉田兼好『徒然草』第52段より)というように、要するに人生の今の尺度を決める旅というのは、大変難しい旅なんですよ。

その時にさっきの頼れる人じゃないんだけど、他の人たちはどのラインでやっているのかなというのを、見たり、話したり、教えてもらったりすることはとても重要です。人は違うし環境が違うから、その人と同じラインにはならないよね。だけどその人が学んだ経緯とか考え方とかというのは、参考にはなるよね。

「人に頼る」「弱音を吐く」ことも、生きる上でのスキル

森田:お話を聞いていると、案外「自分は性格が悪いな」とか思っていても、自分が努力してできることはすごく少なくて、「できないんですね」と抗わないとか、「これができないんだけどどうしましょう」と相談するとか、そういうことのほうがむしろ大事なんですね。

下園:そういうストレスが強いケースでは大事ですね。ストレスが弱いと自分だけで行けるわけですよ。だからこれからいろんな予想もつかないストレスに遭うことも想像すれば、やはり自分でがんばるだけじゃなくて、人に頼るとか弱音を吐くとかそういうスキルをぜひ磨いて。

森田:それがスキル。

下園:まずどこまでという判断をせないかんわけでしょ。あまり判断が早かったら「何だ、あいつ。人ばかり頼って」ということになるわな。だからかなり難しい精神活動なんですよ。がんばる一辺倒だけだったら子どもでもできるんですよ。

森田:(笑)。なるほど。

下園:だから僕は「子どもの心の強さ」と呼んでいるんですね。でも大人の心の強さは、子どもの心からシフトする段階を見極めなきゃいけない。さらに1人でやるわけじゃないので、さっき言ったように事前準備から人にどういうふうに頼むか、どこまで頼むかというかなり難しい活動をせんといかんのです。

逃げとかそういうことで避けていると、本当に大きいストレスの時に逃げ遅れる。生き延びられないということになるので。「大人の心の強さ」と僕は言っているんですけどね。ぜひそっちも鍛えていただきたいと思いますね。

子育てがうまくいかない時に子育て本を読むのはNG

森田:そろそろ8時を過ぎてしまったんですけれども。

原田:まだたくさん質問が残っており、大変申し訳ない限りなんですが。

森田:3つしか読めなくて申し訳ない。

下園:ごめん。俺がしゃべり過ぎた。

森田:私が追い質問し過ぎた。

下園:(笑)。

原田:でも子育てのことで、「ついつい子どもにきつい言い方をしてしまいます」みたいなことで、お子さんの年齢はさまざまなんですけれども、やはりストレスが溜まるし、きつい言い方をしてしまって、自分が嫌になってしまうというお母さんがけっこう多いみたいなので。

下園:そう。一番最初に言ったけど、私がいろいろお話を聞く中では、お母さん方、本当に大変な戦いをしているだろうと感じています。

森田:そういう時もやはり周囲に頼るというのと、「私は子育てはこれぐらいだわ」という感じの諦めを持つということ。

下園:そうそう。トータルでもう1回言うと、子育てがうまくいかない時に通常やるのは、子育ての本を読むことなのよ。

森田:ああ、私です(笑)。

下園:例えばその子育ての本を読む森田さんが、2段階だったら、もう本を読んではダメ出しの連続になるわけよ。どんどん落ちて行ってどんどん性格が悪くなってしまう。

森田:(笑)。そうなんですよ。

まずは自分のエネルギーをうまくコントロールすることから

下園:なので読まないで、まずは、もちろん子育てを楽しくやる。楽しくやって子育ても充実した、これも1つね。子育てのHOW TOを学んでうまく子育てしたい、これがもう1つ。

でもね、3つ目の自分のエネルギーを上手にコントロールしないと、いくら上の2つをやろうと思ってもできないのよ。子育ては長いから、そこの意識もきっちり持っていただきたい。長いからね。1週間だったらやっていけるよ。でも1週間じゃないから。

森田:そうですね。1週間だったらできます(笑)。

原田:それが見えないからつらくなる。

下園:そうそう。長期戦だからね。そういう視点でがんばっていただければと思います。

森田:ありがとうございます。

原田:そんなところでしょうか。

森田:みなさん(のご質問を)、お読みしたかったですが。

下園:質問をたくさんしてくださった方、そして今も質問してくださった方、いらっしゃるとちょっと聞いたんですけれども、十分にご説明できなくて申し訳なかったと思います。ありがとうございました。

森田:ありがとうございました。

原田:でも、一部は本を見ていただけると、そこにも答えになることが書いてあると思いますので、ぜひぜひそちらもよろしければお手に取ってご覧いただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

森田:お願いいたします。