元陸上自衛隊の心理教官と考える「性格が悪くなる」わけ

原田知都子氏(以下、原田):みなさん、今日はご参加いただきましてありがとうございます。すばる舎の編集担当、原田と申します。今日登壇いただく下園先生と森田さんについて、まず簡単にご紹介から始めたいと思います。よろしくお願いいたします。

森田さえ氏(以下、森田):よろしくお願いします。

原田:まず下園先生からご紹介させていただきます。NPO法人メンタルレスキュー協会理事長、元陸上自衛隊衛生学校心理教官、心理カウンセラーでいらっしゃいます。1959年鹿児島生まれ、1982年防衛大学校卒業後、陸上自衛隊に入隊。その後陸上自衛隊初の心理幹部を経て、自衛隊隊員のメンタルヘルス教育、リーダーシップ育成、カウンセリングなどを手掛けていらっしゃいます。

大事故や自殺問題への支援も数多く、現場で得た経験をもとに独自のカウンセリング理論を展開していらっしゃいます。近年はコロナ禍でNHKやJ-WAVE、NewsPicksなど、活躍が急増していらっしゃいます。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

下園壮太氏(以下、下園):よろしくお願いします。

原田:次に森田さえさん。ライターとして今回の本(『教えて先生!もしかして性格って悪くなるの?』)に参加していただきました。企画の段階からいろいろご協力いただいて、今に至っています。いつも本を制作する時は、この3人でまずどういう内容を盛り込もうかなと、ワイワイお話をしながら作ってきたという経緯がありまして、今回のセミナーに私と森田さんも参加させていただくかたちになりました。今日はよろしくお願いいたします。

森田:お願いいたします。

『教えて先生 もしかして性格って悪くなるの?』(すばる舎)

原田:下園先生、ではまず本の内容に関係するところから私もそうですが、みなさんお仕事されていたり、家族の中でいろんな役割を担ってく中で、いつもニコニコしているわけにはいかず、だんだんストレスが溜まってくる。やらなければならないことがいっぱい増えてくると、ふとした時にイライラしたり、疑り深くなったりします。

「仕事を始めてからきつくなったね」なんて言われたりすると、「私、性格悪くなってない?」と思うことがありまして。「こういう悩みに答える本が作れたらいいな」と思い、このたびの本のきっかけになりました。

鬱と人間関係の問題が、同時に進行していく問題

原田:先生、さっそくなんですけど、人の性格は最初は良くても、悪くなったりしていくものなのでしょうか(笑)。

下園:原田さんの素朴な疑問を提示していただいて、そこからこの本の企画が始まったんですよね。私がカウンセリングなどをしている中で感じる「性格の悪さ」で言うと、私の場合カウンセリングでクライアントさんに初めて会うことばかりではなくて、自衛隊での日常生活を観察する機会もあったんですよね。

自衛隊で生活しているうちに、だんだん鬱っぽくなっていく人も観察されました。そうすると、いわゆる人間関係の問題や仕事の問題が顕著になってくるのと、鬱状態が、同じ感じで進行していくんですよ。

(人間関係の問題は)周囲からは「あの人、ちょっと嫌な人だよね」「ちょっと変わっているよね」と思われるところから始まるんですけどね。「あの人変だよね」という感覚を持たれながら、鬱になっていくこともある。

その人は私のところに来てカウンセリングを受けるんですが、「確かに私、最近いつもの自分じゃなくて、人間の醜い部分とか情けない部分とかが露呈している。こうあるべきなのにそうできない」と、かなり自分自身にダメ出しをするんですね。

森田:自分自身に。

下園:能力にも性格にもダメ出しをすることが多いんですよ。やはり日頃から自分を律してきていた人ほど、自分に対して情けなさや自責の念を強く感じている。それに対して私が基本的にこの本でお伝えしているのは、一貫して「これは一時的なものなんですよ」ということです。

鬱っぽい状態の1つの「精神的な偏り」が、自分から見たら性格が悪くなっている状態で、周囲から見ても性格が悪くなっている部分が見える。それが非常に多いんだろうなと思っているんですね。もしかしたら本当に性格が何らかの原因で悪くなっていたり、もともと悪い人とかもいるかもしれません(笑)。

森田:もともと悪い人(笑)。そこが知りたいんですよね。もともと性格が悪いのか? それとも何か理由があって悪くなっているのか。

下園:いきなり核心部分だね。

鬱状態は「自分の過去」への見方も変えてしまう

下園:僕がさっきの説明をしたら、クライアントさんは「もともと私、性格悪いんです」と言うのよ。

森田:(笑)。そんな気がしちゃう。

下園:鬱というのは身体症状もあるんだけど精神症状もあるから、もし疾患として見る場合は、精神科疾患として見られるわけです。精神科疾患は、本人のいつもの見方・感じ方よりも、ちょっと偏るようになります。

(鬱状態は)その偏り方がちょっと独特なんですよ。自分を責める思考や自信がなくなる思考がすごく強くなり、世の中をネガティブにみる不安な思考が強くなるんです。要するに見方が変わる。見方が変わると、自分の過去を見る時の見方も変わっちゃうんですよ。

「自分は以前からこんなダメだったんだ」と、鬱っぽい時はみんなそうおっしゃるんです。

森田:事実がどうであれ、過去を悪いほうに捉えてしまうようになる。

下園:そう。「私はずっと性格が悪かったです」と。鬱状態から良くなってきて「あなたはこんなこと言っていたんだけどね」と言うと、「そういうところもあったかもしれませんけれども、いいところもあって、だんだん『自分は自分なんだな』と思えるようになりました」と、少しニュートラルになっていく。

森田:ちょっと戻ってくるんですね。

下園:そうですね。いろんな方々を見てみると、一時的に性格の悪くなるというケースが多い。みなさんが「私の性格は悪いんじゃないかな」と悩む時に、一時的にグッと悪くなっているというパターンがけっこう多んだろうなということで、この本に内容をまとめてみたところです。

慢性的な疲労から鬱状態になる「3段階理論」

原田:「一時的」というのは、どれくらいの間と考えればいいんですかね。

下園:本書でもお伝えしていますが、「3段階理論」と私が提唱しているものがあります。だんだん疲れてきたり、慢性的な疲労が溜まって鬱っぽくなることが、現代人の場合はほとんどだと思ってください。

疲労が溜まっていわゆる「プチ鬱」状態になると、世の中に対して4つの偏った思考、つまり「自責感」「不安感」「自信の低下」「負担感」(が強くなります)。これは疲労しているからで、「これやってください」と言われた時に負担に思う感じですね。

森田:わかる(笑)。

下園:疲れていると、日頃やっていたことができなくなる感じがあるよね。

森田:ありますね。

下園:これが揃うと、さっき言った「性格が悪い」という感じが滲んでくるんです。

森田:疲れていると、「それってどうしても今じゃないとダメですか?」とか言っちゃいますよね。

下園:そうそう。鬱っぽくなる前は「じゃあ私がやります」みたいに(積極的だった)人が、さっき言ったみたいに「それって本当にやる意義ありますか?」みたいになるんです。2〜3年ずっとやってきたことなのに、その時になって言ってしまう。

森田:そうそう(笑)。

下園:それが2段階目で、3段階目になったら鬱状態と言われるような状態です。この時には3倍負担だし、3倍自分を責めるし、3倍自信がないので、なかなか社会で活動するのが難しくなるんですよ。身体症状も非常に強くなります。

世の中のお母さんは、基本2段階の「モヤモヤモード」

下園:問題は2段階です。2段階目は、まだ活動できちゃうんです。活動できるからがんばってしまう。自分が性格が悪いと感じる人ほど、自分の責任だから何とかしなきゃと思ってがんばるんです。そういう人こそ苦しい。人よりも2倍のダメージを受けながら、2倍の負担感を抱えながら、社会でニコニコ笑いながら仕事をしています。

一方で、ニコニコ笑っているばかりじゃなくて、滲み出る「あの人ニコニコ笑ってて、結局こんなことしたよ」という波もすごく大きくなるので、一貫できなくなるんですね。

森田:わかる(笑)! 私です。

原田:2段階目でモヤモヤしている時というのは、すごい苦しいですよね。

下園:でもね、じつは、今のお母さんたちはもう基本2段階だと思いますよ。

原田:すでに、最初から。

下園:2段階の上なのか下なのか、いろんな環境によって個人差はあると思うんだけども、今の時代の子育ては本当に大変なんじゃないかなと思います。しかもかなり(子育てしながら)働いている人もいらっしゃる。加えて20年ぐらい前よりも出産年齢がかなり後ろ倒しになっているんですよね。

先ほども言いましたが、現代人の鬱っぽくなるケースは、がんばってがんばって疲労が蓄積された結果というケースが多いので、疲労と年齢は関わってくるんですよね。どうしても10代、20代のような元気さはないので、今のお母さんたちは本当に大変な中やってらっしゃると思います。

原田:せっかくなので、ちょっと本の宣伝じゃないんですけど、画面を共有させていただきます。第2段階というのはこの。モヤモヤモードのところですよね。ここになっちゃうと苦しくなってしまう。

がんばり屋さんほどモヤモヤモードで粘ってしまう

下園:このモヤモヤモードがベースにあるんだけれども、社会に出ている時には通常モードです。ニコニコ笑っているんですけれども、1人になった時には闇落ちモードになっていく。闇落ちモードになってくると、今度は料理もできなかったり、お片付けもできなかったり、お化粧することもできないくらい落ち込むこともあるわけですよ。

原田:うーん、なるほど。

下園:原田さんの質問は「(性格が悪いと感じる期間は)どれくらい続きますか?」ということだったんですけれども、「何をやったらどれくらい疲れますか?」って、いろんなケースがあるわけです。とは言いながら1つの目安として、元気な通常モードの人が残業ばかりワーッとやるとか、すごいストレスフルな人間関係にさらされているとか、そんな感じだと3ヶ月から半年ぐらいで、2段階にグーっと深まっていくと思ってください。

森田:そんなに早いんだ。

下園:ただそこで若い人、例えば40代以前の人は、2段階で粘るんですよ。2段階の期間が長く続くんです。本当に苦しい戦いですけれども、みんなに遅れたくなくて粘れるわけです。

ところが、50、60歳になってくると、粘れないのね。だからストッと落ちて、もしろ「しょうがないか」と体制を立て直すことができる。そのほうが、リカバリーが早かったりするんですよ。がんばり屋さんほどモヤモヤモードでグーッと粘っちゃうんです。

森田:じゃあポジティブに言えば、「性格が悪い人」はむしろ「体力がある人」とも言える。

下園:そうだね(笑)。間違いなくそれは体力があると思いますよ。モヤモヤモードで長引けるのは、体力と能力がある。自分のパフォーマンスがあまり上がっていなくても、2分の1の実力で社会に求められるようなことができる人が、かなりいるんですよね。