DXの勇者たちが集結

青野慶久氏(以下、青野):みなさまこんにちは、サイボウズの青野でございます。本日はCybozu Daysにご来場いただきまして、誠にありがとうございます。今年のCybozu Daysは「宝島ーDXの勇者たちー」というテーマを設定させていただきました。

DX、デジタルトランスフォーメーションという言葉が使われるようになって、だいぶ経ちますけれども、おそらく今日いらっしゃっているみなさまも、さまざまなかたちでDXに取り組んでおられることと思います。

せっかくの機会ですので、みんなで取り組んでいるノウハウをこの場に持ち寄って、意見交換をして刺激し合って、そしてまた今後の改善につながるようなヒントを「お宝」として持って帰っていただく趣旨でこのテーマを設定させていただきました。

こちらのProduct Keynoteでは、DXに先進的に取り組んでいる企業、システムインテグレーター、自治体にお越しいただきまして、お話をうかがっていきたいと思います。

その前に少し自己紹介をさせてください。青野慶久と申します。1971年生まれ、51歳になります。サイボウズを創業した時は26歳だったんですが、そこから25年経ちまして今に至ります。

会社の概要になります。最初は3人しかいなかったサイボウズですが、25年経ちましてもう1,000人を超える大企業になってまいりました。日本で10拠点、海外でも8拠点ということで、随分大きな会社になってまいりました。

製品も紹介させていただきます。主な製品が4つあるんですが、いつもはkintoneからいきますので、今日は「メールワイズ」からいっていいですか(笑)。メールはどうしても自分の個人ボックスに入りますから、属人化しがちですよね。それを共有して読んで、みんなで返信する。属人化しやすいメールをチームワークに変えるお宝ツールが、このメールワイズになります。誰でも導入しやすい製品になります。

「サイボウズ Office」は中小企業で必要となる……例えばスケジュール共有、掲示板、ファイル管理、ワークフロー、報告書など、さまざまなアプリケーションがワンパッケージになった製品になります。こちらは私たち創業の時からありますから、もう25年経ちますが、まだ販売が伸び続けているベストセラー製品になります。

そして左下にいきまして「Garoon」。こちらは大規模なお客さまにも対応できるようにしたグループウェアになります。大規模でも管理機能が充実していたり、それから拡張機能もあります。最近はAPIが揃ってきましたから、さまざまなシステムと連携もしやすくなっております。

そして最後に「kintone」。今やサイボウズを代表する製品となりましたが、ドラッグ&ドロップで、プログラミングせずにコーディングなしで業務アプリケーションが開発できます。こういう業務アプリケーション開発プラットフォームになります。今、この4製品を私たちの主力商品としてご提供しております。

星野リゾートのDX推進施策

青野:それでは前置きはこれぐらいにして、さっそくDXの勇者たちをお招きしたいと思います。まずお一人目のゲストは、今や日本の観光業を代表する企業となりました星野リゾートさんのデジタル化、そしてDXを牽引している久本英司さんです。大きな拍手でお迎えください。久本さん、よろしくお願いします。

(会場拍手)

ようこそお越しくださいました。ありがとうございます。

久本英司氏(以下、久本):お招きいただき、ありがとうございます。

青野:軽装ですね。Tシャツは星野リゾートさんのですか?

久本:星野リゾートのTシャツではなくて、私たちの情報システムグループユニットというチームのユニフォームです。

青野:なるほど、情報システムチームでユニフォームを作られているんですね。

久本:みんなの一体感を作ろうと思いまして(笑)。

青野:いいですね、ありがとうございます。最初に少し、星野リゾートさんの中でどのようにDXに取り組んでこられたか、ストーリーをお話しいただけませんでしょうか。

久本:わかりました。「10分ぐらいで紹介して」と言われたんですけど、20ページぐらい作ってきちゃいました(笑)。ざっと流して、そのあと青野さんに突っ込んでいただければと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

まず星野リゾートのミッションは「旅は魔法」です。こういうのを長く説明するとどんどん時間がなくなっちゃうので、バンバンいきたいなと思っています。星野リゾートのビジョンは「世界で通用するホテル運営会社になる」です。言葉の意味としては、まだ私たちは世界に通用するレベルじゃないという意識がありますので。

まずは世界の競合に「星野リゾートは競合だ」と見てもらえるようになろう。そういったことが私たちの現在のビジョンになっています。

まず最初に、星野リゾートはコロナ禍をどう生き残ってきたのか。こういったところを説明したいなと思っています。2年前の2020年4月にいきなり売上9割減になりまして、会社もヤバいということで、代表の星野佳路から「18ヶ月間の生き残り戦略」が出されました。

「現金をつかみ、離さない」「必ず復活するので、復活に備えて雇用を維持する」。このような新しいことを2つやると決まったら、諦めることを決めないといけないので、「顧客満足度とブランドの優先順位を下げる」と決めました。その結果、私たちはマイクロツーリズムという市場を作ったりして、なんとかここまで生き延びてきたと思っています。

そんな中、私たちIT部門が何をしてきたかをお話します。とりあえず、ITでやれることは一応全部やってきたと思っております。2年前のCybozu Daysでお話しさせていただいた大浴場の混雑可視化はIoTのデバイスから6週間で作ったものですけど、こういうものもすぐ作ったりしました。

「Go To トラベル」キャンペーンに対応したりしました。今も全国旅行支援がものすごく大変なんですけど、どんどん制度が変わる中、システムで対応してこれたかなと思っております。

情シス部門は「成長の足かせ」だった

久本:これらがなぜできたかは、変化を前提としたIT戦略が間に合ったからだなと思っております。変化前提の開発体制や自前化できる組織や経営判断のプロセスなどもそうですね。あとはkintoneも含まれますけど、変化に強いプラットフォームを作っていく。こういったところを含めたIT戦略が間に合ったからだなと思っております。

このIT戦略をどうやって作ってきたかというと、話は2013年に遡ります。当時、私たち星野リゾートはどんどん大きくなっていたタイミングだったんですけど、規模の拡大についていけなくて。私たち情報システム部門は「成長の足かせ」と社内で陰口を叩かれていたんですね。

そういった中、いくつかの大きなプロジェクトで失敗もしまして、本当の意味で足かせになっていたんです。そういった状況から脱却していかなきゃいけないので、世の中のIT化がどうなっていくのか、2014年に私はいろいろ勉強し始めたんですよ。

今で言うDXは、当時は「デジタルビジネス化」と言われていたんですけど、すべての世の中がデジタル化していって、企業もそれに対応しなきゃいけないというビジョンがすごく提示されていました。「あらゆる企業はデジタルビジネス化に対応しなきゃいけない」「そのためにはこうすべき」ということが、いわゆるIT企業の中ですごく出てきていました。

私はそれを見て「これからのビジョンはこれだ」と思って、代表の星野(佳路)に「デジタルビジネス化に備えましょう」と言いに行ったんですけど。当時はいろいろな失敗をしていたので「そんなことよりも予算と計画通りに、このシステムを作ってくれればいいんだけどね」みたいに言われました(笑)。

「確かにそれもそうだな」と思って、デジタルビジネス化の能力を備えるところへの投資やリソースをかけるとは言えなかったので、それはこっそりやりつつでした。経営や事業の側からのリクエストに答える案件をやりながら、力を備えていこうと考えていきました。

それで当時、2015年に「変化に強いIT能力をこういうふうに作ろう」と、1年かけて考えて作りまして、その能力を身につけるのに5年間を費やしました。自分の中では、2020年までに身につけることを目標として決めました。

その時の何をどう身につけていくかは、当時は世界中の企業が「デジタルビジネスにはこういうふうに対応して変化に強くなろう」とたくさん言っていたんですね。それを全部やろうと考えて、私がとった戦略が「教科書どおりに身につけよう」ですね。ただその時、先ほど青野さんも「サイボウズは創業時3名」って言っていましたけど、2015年時点で私たちのチームも3人しかいなかった。

青野:情報システム部門は3人だけ。

久本:情報システム部門が3人。当時の会社はもう3,000人ぐらいの規模だったので、1,000人に1人でやっていました。実際にIT戦略を決めていく時に、もちろん会社の1つの戦略なので、会社が大事にしていることを大事にしようと思いました。

その1つが、星野リゾートの就業規則の前文に、代表の星野が書いた文章なんですけど、すごく競争の激しいホテル業界の中でコモディティ化を脱するには、「顧客に近い現場のスタッフが、自身でイノベーションを起こしていくことしかないんだ」と語っていたんですね。ここをすごく私たちも大事にしてIT戦略を考えていこうと思いました。

「サービスチーム」「フラットな組織」を掲げて

久本:星野リゾートの戦略を少し紹介します。細かく説明すると時間がかかってしまうので、私たち星野リゾートは教科書どおりの戦略をとることで有名というか、一生懸命やっています。その中でこのマイケル・ポーターという人の競争戦略を全社をあげて一生懸命取り組んでいます。

やるべきことをやっている状態を作ったあとに、競合に対してトレードオフを伴う独自の活動をいくつか選択し、その活動をフィットさせるべきと言っています。いくつかある中で2つ説明をしていきたいなと思っています。

1つが「サービスチーム」で、こちらはホテルのお客さまのサービスを、マルチタスクで1人のスタッフがやる考え方です。通常のホテルだとフロントや清掃、料理を作る人は全部別のセクションなんですけど、サービスチームは1人の社員が全部のセクションの業務をできるようにする取り組みです。

これは生産性だけではなくて、どちらかというと顧客満足度を上げるための活動として私たちは位置づけております。顧客接点が多いことでお客さまへの気づきが蓄積されて、より良いサービスを提供できる。

そこはお客さまへの商品提供にあたるサービスと、どういう魅力をお客さまに提供するかという商品開発にあたる業務を同じメンバーがやることで、お客さまにより良い体験を提供できる。そういったことを目指して取り組んでいます。

もう1つが「フラットな組織」で、これは一人ひとりが対等な立場で発信してディスカッションします。星野代表も総支配人も、それこそ新人の方もまったく分け隔てなく議論をしてディスカッションをして、ひとたび方向性が決まったら全員でその戦略に向かって一致団結して動こう。そういう行動を伴う活動です。お客さまの前で行っている現場のイノベーションを促進させるための組織の変革として、ずっと大事にしてきているものになります。

こういった星野リゾートが大事にしている考えをベースにIT戦略を整理したんですけど、それが大きくスライドに書いてあるものです。目指すものは変化前提の企業活動を支える仕組みであって、これをチームの力と基盤の力、システムの力の掛け合わせで作っていこうと考えました。

チームの力は、作りたいものを間違わない力、作るものを間違わない力、あとは作り方を間違えない力。こういうかたちで整理をしまして、作るものを間違えないところには、経営判断のプロセスをしっかり作ることも入れて考えていました。

「全社員IT人材化」でデジタル化にまい進

久本:こういったかたちで進めてきた戦略の1つが、この「全社員IT人材化」です。もともとは先ほど紹介した就業規則に書いてある、ここがヒントになっています。当時のいわゆるグローバルで展開しているすごく大きなホテルさんと私たちとの大きな違いは、予算規模が100倍ぐらい違うんですね。

IT人材も当時3人でしたけど、一番大きかったハイアットさんは300人ぐらいでやっていたんですよ(笑)。100倍の差を埋める時に、私たちはフラットな組織文化もあるし、サービスチームにマルチタスクでなんでもやるチームも現場にいたので、彼らにITの能力をつけてもらったらIT人材が300人じゃなくて3,000人、4,000人になるんじゃないか。そういったところの着想でスタートしたものです。

いろいろ進めてきましたら、kintoneの活用に関しても(星野リゾートの)小竹(潤子)さんがkintone エバンジェリストに選んでいただくところまでこれたかなと思っております。これも本当に最初は単なる思いつきからスタートしたんですけど、長く続く活動になれたかなと思っております。

作ってきたシステムを世の中に提供していくには、いろいろな実現の仕方があると思うんですね。いわゆるプログラミングするプロコードもあれば、ローコードもあれば、ノーコードもあると思います。kintoneはノーコードだと思うんですけど、これらもどれかを選ぶのではなくて、全部ポートフォリオで組み合わせだと思っていろいろ進めてきております。

実際にプロコードでシステムを作る時に大事にしてきたのは、IT人材を外から採用するのではなくて、現場でお客さまにサービスを提供したスタッフの中から、システムで顧客に価値を提供したいと強く願っている人をたくさん集めてきました。その人たちはぜんぜんITの知識がないのですが、ゼロからつけてもらってシステムを作る担当になってもらうことに、すごくこだわりを持っています。

技術は時間をかければ備わるんですけど、顧客に何を提供するか、どう提供したいかという価値観はなかなか身につきません。そういった価値観を持っている人にスキルをつけることを、2015年からこだわっています。

ただプロコードで作ろうとした時には、実現する力も大事でした。当初は外注でいけるかなと思ったんですけど、難しいなと途中で思ってきまして(笑)。2017年ぐらいから少しずつエンジニアを採用し始めまして、今だと20名弱ほどのエンジニアが在籍しております。

これもプロコード・ローコード・ノーコード全部のポートフォリオを自前化していく時には、すべての領域で自前化していく必要があると思っています。「どう作る」を考えるのは社内から来てもらっていますけど、「どう実現していくか」はしっかり社内にエンジニアを採用することにも、こだわっています。そうしてきたら、現在59人の体制になりました。

青野:おぉ、20倍(笑)。すごい。

久本:ようやく20倍まできました。来年はもう少し増やしたいなと思っていますけど、今はあらゆることをチームでやっております。

変化に強い組織があらゆるシステムを作れる

久本:そういう意味だと全社のIT人材化という観点では、現場スキルでデザインできる現場出身のプロダクトマネージャーもいれば、組織文化にコミットしたエンジニアもいれば、あとはノーコードツールを活用しているのは全員現場出身のメンバーなので、そういったメンバーでやっています。

それに加えて全社員がIT活用できて、なんならkintoneを使ってどんどんシステムを自分自身で拡張できるようになっていくとよいなと考えております。当然そうやって、社内での自前化能力を高めていく時に、自分たちだけだとなかなか無理があります。そこに関しては、実はプロフェッショナルをパートナーとして一緒に進めさせていただいています。

何か私たちの仕事を頼むのではなくて、「私たちのメンバーを育ててください」と全員にお願いしていまして。例えば、システムを作る時のUMLモデリングだったら「児玉塾」を作ってみたり、UI/UXはとても大事なので、そういうプロのデザイナーの方と一緒にインフォメーションデザインなどを勉強しています。

その中でkintoneの活用は、ジョイゾーさんに私たちのスタッフをインターンで行かせていただいて、逆にジョイゾーさんからもインターンを受け入れたりしています。システムの作り方を、実際に星野リゾートじゃない現場で学んでくることも一緒にやってきております。

いろいろな工夫をして社員に、今で言うとリスキリングみたいなかたちになると思いますけど、IT化能力の自前化では試行錯誤をしてまいりました。

青野:ありがとうございます。すごいですね、まさに変化に対応する組織を作ってコロナに対応できるようになったという。でも驚いたのは、今日プレゼンをお願いしたら、私の中では「DXに取り組んでこんなシステム作りました、あんなシステム作りました」というお話が出てくるのかなと思ったら、ほとんどなかったですよね。基本「組織をこう作ってきた」と。

久本:そうですね。どんなシステムを作るかは、市場や競合や顧客の変化によってどんどん変わるんですよ。だから、どんなシステムを作れるようになりましたとか、作ってきたというのは大して重要じゃないと思っています。あらゆる変化に対応できる仕組みを、いろいろなレベルと手段で作れるような能力を持つのが大事だと思っています。

青野:すごい。今まとめていただいた感じですけど(笑)。どんなシステムを作ったかが重要ではなくて、ある意味どんなシステムでも作れるような組織を作ることのほうが、はるかに大事ということですね。

システムの「基盤」こそが重要である

久本:基盤も大事だと思っていまして、kintoneを一生懸命がんばってきたのもその理由です。システムを作る時に、ゼロからシステムを作るのはすごく大変ですよね。Excelも優れたノーコードツールだとは思うんですけど、データは情報が流れて価値を生んで、それが記録されてもう1回再利用されて価値を生んで、そういう繰り返しになっていきます。データを正しく残せるかもすごく大事だと思っているんですね。

なので、いわゆる業務のアプリケーションを作る基盤をしっかり整えておくのはすごく大事です。それを活用できる能力を一緒に高めていくのが、すごく大事にしてきた活動ではありますね。

青野:システムとしては、ある意味変化に対応できるための基盤が必要で、それを使える人材をこっちに揃えておくと。イメージはそんな感じですね。

久本:そうですね。人材もすごく大事ですけど、その人材自身がどんな基盤であるべきなのかをきちんとデザインして、それを確証できることは大事だと思っています。

1つは僕らはkintoneを使っていますけど、もちろんkintoneが苦手な領域もたくさんあります。青野さんに言うお話じゃないかもしれないですけど(笑)。そういった部分は、それ以外に適している基盤を探すか、もしくはなければ自分たちで全部作るという意思決定をしています。

その観点も、その時点で必要な業務システムを作るのではなくて、変化に対応できる業務システムの基盤は何だろうかをしっかり考えた上で、今、必要なシステムを作る。その基盤を作れる人、その上で動くアプリケーションを作れる人、両方社内に備えておくことが大事かなと思っていますね。

基盤を作るだけじゃなくて、活用しないとシステムは価値を生まないので。現場の人も含めて、私たちが整えてきたシステムが活用されないとただのゴミになってしまいます。

活用するために支援する私たちの能力も必要ですし、あとは活用する社員を育成するという言い方はおこがましいですけど、活用できる状態にいろいろ持っていくこともすごく大事な観点かなと思っています。

私たち情報システム部門はシステムを作るのが終わりじゃなくて、活用する場まで全部整理する必要があります。その場の中でしっかり基盤も選んで整えていくのが大事です。

その中の1つはkintoneだと思っているんですけど、kintone自体も「まだちょっと足りないな」と思うところはサイボウズさんに「足りません」とはっきり言いに行くところとかも含めて(笑)、すごく大事な活動かなと思っています。

青野:(笑)。良いコミュニケーションです。ありがとうございます。

「足かせ」部署のDX人材発掘術

青野:いくら基盤ができたとしても、3人の情報システム部門が10年経たずして30倍になっているわけじゃないですか。この人材の多くは内部から異動してもらったんですか?

久本:今は6割弱が内部からの異動で、4割近くが外部からの方です。

青野:外部からの登用と内部からの異動の両方ということですね。まだ外部からの登用はイメージが湧くんですけど、内部からの登用となりますと、それは星野リゾートさんに入社された方は、接客したくて入った人が多いと思うんですよね。

久本:そうですね。

青野:その人に「おいお前、情報システム手伝ってよ」と言っても「いや、ぜんぜんやりたくないんですけど」とか、そういう難しさはないんですか?

久本:基本的に全員に手を挙げて来てもらっていまして。

青野:なるほど。

久本:システムを使って業務もしているので、「このシステム、なんとかならないかな」と思っている人たちはいるんですよね。ただ「自分ではできない」とみんな思っているんですよ。そういう人たちに向けて「こういう思いがある人ならできるよ」というメッセージを社内ですごく出すようにしました。

当時は「足かせ」だったので、足かせの部署には誰も行きたくないじゃないですか(笑)。だから、まずは情報システムという仕事が魅力的に映るように、すごく自分たちを磨いて、積極的に発信してきました。そうすると中には奇特な方もいまして、「情報システムに行ってもいいかな」ってエントリーしてきてくれる人が何人かいたって感じですね。

青野:いやー、おもしろい。今もすごく大きなヒントをいただいたと思うんですよ。本当にDXの話になると、もう二言目には「人材がいません」なんですよ。社外から集めるのはなかなか競争も激しいので、いかにして中からDX人材を集めるか。その時に、現場で実は改善意欲の高い人たちがいて、こういう人たちに手を挙げてもらうと。この人たちに情報システムの知識を身につけてもらう。そういう流れなわけですね。

久本:そうですね。その時に先ほども言いましたけど、「見よう見まねで自分たちでやってね」というのは難しいんですよね。プロの方たちは、ITという業界で24時間365日、そればかり考えている人たちなんですよね。そういう人たちのこれまでのノウハウや知見(を学ぶ)。

「自分で仕事したい」じゃなくて「世の中こうなればいいのにな、こう変わればいいのにな」と思っている方もたくさんいらっしゃるんですよね。そういう人たちと最初に仲良くなって「私たちは自分たちで、そういう能力をつけていきたいんだ」というビジョンをお伝えすると、協力してくれる会社さんは何社かいました。それで、プロの能力を自分たちで身につけることもセットでやってきたという感じです。

青野:おもしろい。

「プロ」の外部パートナーと試行錯誤

久本:そういう仕組みがないと……最初にあまり育成の仕組みがないところに来ると、非常に苦労するんですよね。仕事だけはたくさんあるんですけど、ノウハウが何もなかったり足かせ状態だったりすると、すごく大変です。

僕らの最初の頃はずっと、そこを気合と努力で乗り越えてきていました。組織を急拡大していく時にそれをやるのはなかなか難しいので、きちんと育成できる仕組みを整えつつ走っていくという感じですね。

ただ、どう育成すれば上手くいくのかはわからないので、プロの人たちと対話したりディスカッションする中で、一緒に見出してきた感じです。教えてもらった感じではなく、ある同じ目標に向かってプロの人と一緒に試行錯誤しながら進んできたら、なんらかの型ができてきたのが最近の流れですね。

青野:いやー、おもしろいですね。3つ目のおもしろいポイントがきましたけど、システムを作ろうと思ったら普通は外注しようと思うんですけど、基本は内部を中心にやろうとすると。でも、外部を使わないわけじゃなくて、外部はしっかり最新の知識を持ってきてくれるパートナーとして参加してもらう。

それも単に「勉強会してください」などの話ではなくて、しっかり対話しながら「俺たちはこんなものが作りたいんだ!」とぶつかり合いながら、頻繁にやっている感じなんですか?

久本:そうですね。先ほどのジョイゾーさんのインターンは年に2回、交換留学みたいなかたちでさせていただいています。

青野:交換留学(笑)。

久本:「来月はうちから送りますね」「今度は受け入れますね」みたいなことをやっています。UX道場とモデリング塾の2つに関しては、毎週やっています。毎週2時間ずつ時間をとっていて、私たちのメンバーが出て「こういうこと考えたんだけど、どう思いますか」とディスカッションして学んでいっている感じですかね。

青野:なるほど、おもしろい。今ジョイゾーさんの名前が出たので、次のジョイゾーさん(笑)をもうお呼びしちゃいましょうかね。

久本:大丈夫です、お願いします。

ニューノーマルな伴走型支援のあり方

青野:勝手にお呼びしますが、今、星野リゾートさんと一緒に教育のプログラムされているジョイゾーさん、次は四宮社長がゲストですので、もしよろしければ大きな拍手でお迎えください。四宮さん、お願いします。

(会場拍手)

四宮靖隆氏(以下、四宮):裏でいきなり呼ばれて……(笑)。

青野:心の準備もできていない(笑)。どうぞおかけください。

四宮:どうも、よろしくお願いします。

青野:今のお話ですと、お客さまとシステムインテグレーターという昔の関係みたいな、「作ってください」「作りました」の関係ではなかったんですよね。伴走しながらキャッチボールしながら「一緒にやりましょう」みたいな、こんな感じに聞こえるんですけど。そんなイメージなんですか?

四宮:そうですね。それはここ最近始まったことではなくて、本当に久本さんと初めてお仕事をさせていただいた時から、もうそのような関係性でした。もう10年以上前からだと思うんですけども、お互い壁打ちするかたちで一緒に、システムをどう作り上げていけばいいのかを議論していました。たぶん今でもそれが生きているのかなとは思います。

久本:それが形になったのが本当に最近でした。インターン生の交換をしたんですけど、「こういうふうにシステム作っていきたいよね」「こういうの期待しているんですよね」みたいなことをラフに話すのは、もう10年ぐらい前からずっとやらせていただいていました。

青野:でも、正直インターンとなりましたら、僕がジョイゾーさんの立場であれば、「ノウハウを全部持っていかれるんじゃないかな」みたいな、不安感も出てきそうなんですけれども。

四宮:そこはまったくなくて。うちからも若手や新人を数名インターンで行かせていただいていく中で、我々はシステムのプロではあるんですが、そうすると逆に現場の方の肌感覚や考えなどは、なかなか経験できません。まさにそこを経験できるのは、逆にものすごくありがたいです。

青野:なるほど。ある意味「観光業とはこうなんだ」とか「ホテルの運営とはこうなんだ」という、最先端・最前線の情報を逆に持ち帰るんですね。お互いが非常に強くなるみたいな。

久本:たぶん、事業会社のIT部門の立ち位置や、社内での立ち振る舞いなどは、IT企業にいたらわからないと思うんですよ。ジョイゾーさんには、そこを体験してもらえたかなと思いました。

青野:なるほど。久本さん、これからご出張だということで。

久本:そうですね、九州に行かないと(笑)。

青野:九州(笑)。お忙しいですね。施設も全国にたくさんありますからね。もしよろしければ最後、今後の抱負などをお聞かせいただけませんでしょうか。

久本:いよいよ私たち60人にもなって、いろいろ仕込んできたこと、自前化能力がいろいろな意味で高まってこれたかなと思っています。人材面でもそうですし、基盤を整えるところもまだまだ道半ばですけど、ある程度整ってきたと思います。

「これから本当にやりたいことをやっていこう」というところを経営陣、星野代表とも合意をして進めているところです。なので来年は、今までずっと蓄積してきた力をドーンと1回発揮してみようと思います。またどこかでアップデートをご報告できればなと思っております。

青野:今日はすばらしいお話ありがとうございました、大きな拍手でお送りください。久本さん、ありがとうございました。

(会場拍手)

いやー、すごい。こんな顧客とパートナーの関係があるとは。これがニューノーマルかなと思いました。