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未来を切り拓く次世代リーダーをどう創るか(全5記事)

「自分のことは自分が一番よくわかっている」は半分以上が誤解 これからのリーダーに求められる「自己理解」の視点

「真面目に楽しい教育の創造」をミッションに掲げる株式会社ヒップスターゲートは、ビジネスゲームを中心に、新入社員から管理職向けの集合・オンライン研修を支援する教育コンサルティング会社です。今回は、同社が主催で行われたオンラインセミナー「次世代リーダー見聞録!」より、第5回目の最終回の模様をお届けします。『未来を切り拓く次世代リーダーをどう創るか?』をテーマに、東京大学星加良司氏、エール株式会社篠田真貴子氏、株式会社J-Globalジョン・リンチ氏、プロティアン・キャリア協会有山徹氏の4名が登壇。次世代リーダーを体系立てて育成するために必要なポイントが議論されました。

これからのリーダーシップにおいて、キーワードは「関係性」

小田桐正治氏(以下、小田桐):星加さん、(リーダーに求められる3つのキーワードについて)お願いできますか。

星加良司氏(以下、星加):みなさんから出されているものとだいぶ被っちゃいまして、しゃべることがなくなっちゃったんですけど、一応お話しをしたいと思います。

1つ目が「自己内省の視点」と書かせていただきました。有山さんからも「自己理解」というキーワードが出てきましたし、篠田さんからは「セルフアウェアネス」というかたちで出ていました。似たようなことなんですけれども、これからインクルーシブな職場環境を作っていくためのリーダーシップの在り方を考えていく時に、キーワードは「関係性」なんですよね。

これまで、それぞれの立場の人たちが個人としてどういうふうに成長していくかという、そのためのマネジメントとか人材開発とかが前面に出ていたんですけれども、これからのリーダーシップにおいてキーワードとなるのは「関係性」です。

「関係性」と一口に言ってもなかなかわかりづらいんですけれども、実はその中でもさらに肝になるのが、特にリーダーにとっての「自己内省」、自分自身について知るということです。「自分のことは自分が一番よくわかっている」という言い方がありますけど、それは半分以上誤解だと思っています。むしろ自分のことって、あまりよくわかってない。とりわけリーダーという立ち位置ではなおさらです。

私たちは「マジョリティ性」「マイノリティ性」という言葉なんかも使ってこういうテーマを考えているんですけれども、関係性の中で強い立場にある側の人は、とりわけ自分の置かれている立ち位置についてあんまりよくわかっていないという、ある種の認知バイアスが働いています。

ちょっと今日は詳しくはお話ししませんけど、そうであるとすれば、リーダーにとって「関係性」を焦点化していくためには、まずは自分自身がどういう関係の中での位置づけになっているのかとか、あるいは自分はどういう構造の中に巻き込まれているのかとか、そういうものを捉える視点を自分の中に持つことが非常に重要です。これが1点目のお話です。

一義的な「答え」が見つからない時代のマインド

星加:2点目に「問いへの好奇心」と書かせていただきました。これも「質問」とか「聴く力」とか、そういうキーワードとかなり被っているんですけれども。

私たちはどうしても仕事をしていると「答え」に飛びつきたくなるというか、最初に答えを知りたくなるという特性を帯びてしまう。そういう傾向が生じがちかなと思うんですが、簡単に答えがわかることは、大したことではないんですよね。

とりわけ、これだけ変化が激しくて多様性が高まっているような社会においては、なかなか一義的な「答え」はなかなか見つかりません。むしろわからないことの中で「何がわからないのか」とか、あるいは「わからないことをわかるようにするためには何を突き止めればいいのか」という、「問い」の部分を適切に常に持っておく。そのことを楽しめるというようなマインド(が必要)です。

「答えがないまま問いだけ持っていると気持ち悪い」という人もいるかもしれないんですけど、ちょっとがんばって、問いの状態を持っておくことの楽しさに関心を持つ。これがこれからのリーダーにとっては非常に重要かなと思います。

それから3点目として、「可能性を信じるマインド」と書かせていただきました。これはより正確に言うと「ポジティブな可能性を信じるマインド」ということです。

リーダーについて、日本では「管理職」という言葉がまだ広く使われていますけど、人を管理するとか組織を管理すると言うと、まず最初にコストについて考えましょう。あと、リスクについて考えましょう。明確な成果について考えましょうという話が前面に出がちで、それをきちんとマネジメントできるのが「良い管理職」だという前提がまだ強いかなと思うんです。

でもそこに抜けているのは「ポジティブな可能性」なんですね。コストというのは確実にわかるマイナス部分。リスクというのは、実はネガティブな可能性のことを言うわけです。

だから「リスクについてはちゃんと考えましょう」とよく言われるんだけれども、じゃあポジティブな可能性、起こるか起こらないかわからないけど、でもあり得るポジティブな未来についてどのくらい想像力を働かせてそこに賭けられるか、それを信じられるかみたいなところが、日本の管理職文化の中では非常に弱い。

この部分がこれからのリーダーに特に求められる要素として挙げられるのではないかということで、3点目に書かせていただきました。以上です。

「マイナスの可能性」は考えるが、「プラスの可能性」に意識が向かない

小田桐:星加さん、ありがとうございます。自己内省の視点で「マジョリティ性」「マイノリティ性」といった言葉も挙がっていました。

この後、ただいま伺ったお話しに対する共感点や、もう少し深掘りをしてみたい点についてコメントをいただきたいと思います。

ジョンさん、そして篠田さん、もう少し掘り下げたいキーワードや背景などはございますでしょうか。

ジョン・リンチ氏(以下、ジョン):一番最後に星加さんがおっしゃった、可能性を信じるマインドがすごく大事だなと思うんですよね。「成長マインドセット」に近いでしょうか。つまり過去のことを考えるんじゃなくて、将来について考える。そういうマインドをどのように作ればいいか。例えば私たちは駐在員などにそういうマインドになってほしいなと思うんですが、どのように育成すればいいかとか、何かアイデアはありますでしょうか。

星加:ありがとうございます。そこがまさに難しいところですよね。リスクマネジメントに関しては、非常にいろんなところで強調されるようになって、「マイナスの可能性」についてはみんなよく考えるようになったんだけれども、「プラスの可能性」についてはなかなか意識が向きづらい。恐らくこれは、欧米なんかと比べて日本は特に強いんじゃないかなという気がしています。

リスクについて考えることで、ポジティブな可能性を見出すことができる

星加:ここをどう乗り越えていくかってすごく大事だと思うんですけど、1つは、マイナスの可能性、まさにリスクについてもうちょっと深めて考えていくことによって、実はそこからポジティブな可能性を見いだすことができるんじゃないかと思います。

リスクって、何か悪いことが起こることだけにフォーカスされがちなんですけれど、当然将来の可能性なので、悪い可能性もあれば良い可能性もあるわけです。ちゃんと考えれば両方含まれているはずなので、適切にマイナス部分を減らしつつ、プラスの部分を増やしていく。

そういう自省の在り方とか、ものの考え方というのがどういうものなのか共有していけば、少しずつポジティブな可能性、プラスの可能性に目が向くのかなという気はしています。

あとは日本の学校教育全体が「減点主義」という、マイナスがないようにしていくこと、間違えないようにしていくことを重視する教育になっている。そのあたりのモチベーションを変えて、むしろプラスを評価していくような教育の在り方に変えていくことも1つのポイントかなと思います。

なかなか組織の中だけで完結するものではなくて、教育制度全般も含めて、少し長い目で考えていく必要があるのかなと思っています。

ジョン:ありがとうございます。つまり、半分ぐらいポジティブな可能性を考えましょうと。例えば「魔法があればどういう状況にしたいですか? 夢のような職場はどのような職場ですか?」とか。そうしたらビジョンを一緒に作っていける、「ポジティブビジョン」のようなものですね。

星加:そうですね。そういうメソッドも1つあり得るかなと思いますね。

ジョン:ありがとうございます。

リーダーは「自分は何者であるか」を客観的に見れることが前提

小田桐:ジョンさん、ありがとうございます。篠田さん、全体を見ての感想やコメントをいただけますか。

篠田真貴子氏(以下、篠田):ありがとうございます。いや、共通点が多いなというのが印象的でした。これをご覧になっている方はわからないかもしれないですけど、我々はまったく事前打ち合わせをしておりません。今日みなさんのお話を初めて聞いたのに、近いところがたくさんあるなと思いました。

中でも、私も1点目に挙げた「セルフアウェアネス」に星加先生がかなり近い表現をされていたし、有山さんのパーパスとかアイデンティティとかそうですし。要は自分は何者であるかということ。

かつ、ジョンさんも明示的にはおっしゃっていませんけれども、でもセルフアウェアネスがなければ他者との違いが認識されないわけなので、多様性が高いチームをリードしていくのに、まず逆に「言わなくてもいいぐらい当然でしょ」という感じでおっしゃっていたように思えたんですよね。

このあたりはそれぞれがおのおのの場所で、リーダーシップというものに対面していった時に、「今はこれだよね」という共通解に至っている。そこにおもしろさと、実際今の社会の流れはこっち側に行っているんだろうなという感想を持ちました。

ジョン:一応、私は賛成です。確かに客観性が必要ですね。自分について意識しなきゃならない。emotional intelligenceに近いものがなければ、こういうリーダーシップはできませんよね。

篠田:ジョンさんはお話の中でも、明らかにそれを前提にしたお話をされているなと、勝手に解釈しながら聞いていました。

ジョン:言えばよかったです。

篠田:いえいえ、とんでもないです。clarifyしていただいてありがとうございます。

「自己理解」を大前提にリーダーの教育を考えるべき

小田桐:今回みなさんから「自己理解」という共通キーワードが挙がっていますが、逆に言うとリーダーを育成する前提として進められているかどうかというとけっこう難しくて、できていないのではないか、抜けていたなという気がしました。

有山さん。リーダーの育成に当たって他の企業のみなさんは「自己理解」の観点をお伝えできているのでしょうか。リーダー自身になると、つい自分のことは経験値から知っているというバイアスがかかって、重要性に気づけていない方も多いような気がします。

有山徹氏(以下、有山):そうですね。そこで言うと、比較的リーダーの教育が、今のバズワードで言うとDXとか、少しテクニカルスキルに寄っちゃっているような企業も散見されるかなと思います。やはりどういう仕事をしたいのか、どういうふうに生きたいのかという「意味づけ」やスタンスが、そのテクニカルスキルを学ぶ前提の土台としてあると思うんです。

今の時代はそこを変えていく変革の時代だと思っていまして、まさにそれが組織内キャリアから自律型へ、自分がどうしたいのかと考える転換の1つでもあるかなと思っています。

やはりリーダーたるもの、アイデンティティですよね。みなさんから「セルフアウェアネス」であったり、キーワードはいろいろと出ていますけど、「自己理解」を大前提にリーダーの教育を考えるべきなんじゃないかなとは思いますね。

小田桐:有山さん、ありがとうございます。では、次のテーマにいかせてください。

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