転職が当たり前の時代の「採用活動」のキーポイント

鈴ヶ嶺友浩氏(以下、鈴ヶ嶺):みなさん、ご参加ありがとうございます。よろしくお願いします。職場から参加していただいている方もいらっしゃったりと、お忙しい中ご参加いただいてありがとうございます。

今日は「転職前提のZ世代『退職広報』で差をつける次世代の新卒採用」というテーマでやっていければなと思っております。今日参加してくれている方は、過去にTalkCampに参加していただいている方がほとんどなんです。

最初にオープニングというかたちで、私たちTalkCampのご紹介を簡単にさせていただいてから、今日は素敵なゲストスピーカー2名に参加してもらっていますので、ご紹介させていただいて話を進めていければなと思います。

オープニングをしたあとに、序論1でゲストスピーカーの栗原さんにお話をいただいて、序論2でゲストスピーカーの佐野さんにお話いただきますので、よろしくお願いします。

では、さっそくなんですがオープニングということで、簡単にTalkCampのご紹介をさせていただければなと思います。このTalkCampというコミュニティは、「はたらく人が幸せになる採用を増やす」というミッションを掲げて、2021年に立ち上げたコミュニティです。

主に新卒の人事関連の方にご参加いただいていますが、人事じゃなくても参加はできます。このミッションに共感いただける方と、よってたかって採用を良くしていきたいと考えて、去年から運営しています。

活動内容は定期的なイベントの開催であったり、あとはSlackを運営していますので、相談事項や悩んだことがあれば気軽に上げていただいて、人事の方同志、社外の人と気軽に触れ合えるような場を作りたいなと思っております。

「はたらく人が幸せになる採用」を増やすために

鈴ヶ嶺:私は、TalkCampコミュニティのオーナーとして代表をやらせてもらっています、鈴ヶ嶺と言います。知っている方がほとんどの中で、「はじめまして」と言うのもあれなんですけど。

今もまだパーソルキャリアに所属しているんですけども、実は今年で退職予定になっておりますので、もう間もなく卒業してしまうんです。来年からは、もうちょっと本格的にTalkCampの事業をやっていきたいなと思っています。

今日は事務局のパートナーとして、片桐さんと飯田さんという2人に参加してもらっています。片桐さんからも一言お願いできますか。

片桐彩乃氏(以下、片桐):みなさん、こんばんは。株式会社ブイキューブというWeb会議や、オンラインのWebイベントの配信のツールなどを開発しているIT企業で、人事・採用担当をしております。

私はTalkCampのビジョンに共感しまして、自社のためだけじゃなくて、学生のためや社会にプラスになるような採用活動をしていきたいなと思って参加させていただいて、今はイベントの運営も少しお手伝いしております。よろしくお願いします。

鈴ヶ嶺:もう1人、パーソルプロセス&テクノロジーで人事や採用をやっている飯田さんもパートナーとしてやってくれています。仕事の関係で少し遅れるんですけれども。

ということで、前段のご紹介はこれくらいにさせていただいて。冒頭にお伝えさせていただいた「転職前提のZ世代『退職広報』で差をつける次世代の新卒採用」というテーマなんですが、このテーマをみなさんと話すためには、キャリアの理論のところから考えたほうがいいかなと思っていて。

今日はキャリアの専門家の栗原さんにも来てもらっていますので、栗原さんと、退職学®を専門にやっていらっしゃる佐野さんと掛け合いながら、イベントを進めていければなと思っております。

これまでのキャリアの概念を変えていく

鈴ヶ嶺:では、ここでバトンタッチさせていただければと思いますが、栗原さんよろしいでしょうか。

栗原和也氏(以下、栗原):承知しました。ありがとうございます。ではさっそくですが、私のセッションを進行いたします。

「お前、どこにいんねん」という感じのところにいて恐縮なんですが、いろいろな事情がありまして。HR Japan Summitというイベントに参加をしていて、椿山荘からお届けをしております。本当は家から参加する予定だったんですけれども(笑)。たまたまご縁に恵まれて、こんなところにおります。

前置きはその程度にして、私からは「キャリアと向き合う」というお話をさせていただきます。

もともと日本タタ・コンサルタンシー・サービシズというインドのIT企業に勤めておりまして、人事になる前はエンジニア、並びに業務変革のコンサルをやっておりました。2017年から人事に異動して、年間50名から300名ほどのエンジニアの採用をやってまいりました。

2022年10月に独立して、一般社団法人プロティアン・キャリア協会でCGO(Chief Growth Officer)という立場になっております。

今までは組織内キャリアが当たり前だったところから、キャリアの概念を変えるチャレンジを開始しております。今日は退職学®の佐野さんにもお話いただきますが、その前提になる考え方もお伝えできればと思っております。すみません、部屋にノックが来てしまいましたので、いったん鈴ヶ嶺さんにお戻しします。

鈴ヶ嶺:ぜんぜん大丈夫です。

佐野創太氏(以下、佐野):つなぎますか?(笑)。

鈴ヶ嶺:どうしましょうか。どれくらいかにもよるなぁ、なんて思っていますけど。

佐野:今日、2人を呼んだ背景をしゃべってたら戻ってくるでしょう。

鈴ヶ嶺:そうですね(笑)。

人間は、ほとんどの情報を「概念」によって知覚している

鈴ヶ嶺:もともと栗原さんと出会って、TalkCampのイベントでご登壇いただいたりもしていたんですが、とてもすばらしいキャリアの理論を持っていらっしゃって。「感銘を受けている方」として、イチオシで挙げていただいたのが佐野さん。

佐野:そうなんですね。ありがとうございます。

鈴ヶ嶺:佐野さんをおつなぎいただいて、退職×キャリア理論というかたちでみなさんとお話しできればなと思って、呼ばせてもらいました。栗原さん、大丈夫そうですか?

栗原:すみません。何かの営業でした。

鈴ヶ嶺:(笑)。ルームサービスかなと思ったけど、違いました。

栗原:椿山荘、そういうのが来るんですね。

(一同笑)

栗原:戻ります。ご紹介ありがとうございました。のちほど、佐野さんのお話も楽しみにしております。

「変化の時代を生き抜く『キャリアオーナシップ』」ということで、さまざまお話をさせていただきます。今回の「退職」というテーマについて、人材版伊藤レポートでも「人材の流動性が高まるのは避けられない」という話があります。

変化の時代に入るにあたって、ぜひみなさんに知っておいていただきたいのは「概念シフトのイノベーション」です。(スライドを指しながら)ここに書いてあるんですが、人間は何かを知覚する時に、網膜から得た知覚情報はわずか4パーセントしか用いていないんです。では、何によって知覚しているかというと、「概念」です。

あとの話はややこしいのでいったん置いておくと、いわゆる先入観であったり、「これはこういうものである」という概念がみなさんの中にできあがっているんですね。

これをキャリアにおいて言うと、「キャリアの話をする=転職」「キャリアの話をする=今の会社に不満がある」とか、そういう切り口でインプットしてしまっている。

概念シフトをしないと、固定観念に惑わされる危険性も

栗原:これは永山(晋)さんという人が表されているプロセスなんですが、現実世界の予測をしてしまうんですね。実際にインプットとは別で、予測でトップダウンの処理をして知覚するというものがございます。

興味のある方はぜひ見ていただきたいんですが、これからの時代はいろんなものが変化していきます。変化していくので、概念シフトをしないと今までの考え方に囚われて善悪を判断してしまったり、良し悪しを判断してしまいます。まずは、そういう危険性をお伝えさせていただきます。

このあとにお話するのは「キャリア変革」ですね。「人的資本経営というあらたな潮流」。ここでは「あらたな」と言っていますが、人材版伊藤レポートにもありますとおり、ヒューマンリソースからヒューマンキャピタルマネジメントへの変革が始まっています。

すなわち、「組織のための人」から「人のための組織」に変わっていかないと選ばれなくなっちゃうよ、という段階に入っています。デジタル化・脱炭素・コロナによる変化など、今までの働き方のままだと納得できない人が増えているよねと。

さらに言うと、企業の寿命ももう限界だよねということで、「企業が考えるものをみんなでやれ」というのではなく、「みんなが考えてくれ」と。そこの質を高めることで、組織を発展させていく。

これが、ヒューマンリソースの人の最適化という考えから、人を中心にして人を育てて・組織を育てていくという、人的資本経営の根本的な概念だと思っております。

そのためには人事部任せではなくて、経営者も考えなきゃいけないよねというのが、人材版伊藤レポートの本質だと思っております。

「定年なき時代」への突入

栗原:こちらの数字を見ていただくと、「20年」「100年」とありますが、これは何でしょうか? 時間の都合もありますので進めちゃいますが、これは「企業の寿命」と「人生」だと言われております。

イノベーションが加速して、今のビジネスモデルの寿命は20年ほどじゃないかという話がされています。一方で、我々の人生は健康寿命も延びて、よく「人生100年時代」と言われておりますね。

1950年代から始まった就社社会、典型的な日本型正社員、終身雇用の考え方が終わりを告げようとしています。会社にずっといても、その会社が残るかはわかりませんので、個人が考えなければならない。

個人としては、人生100年時代の「定年なき時代」に入っているということで、役職定年後の働く方々が数々の結果を出されているんですね。今まさに40、50代の方々はこういうことを考え始める世代なんですが、我々の時代になったらさらにいろいろなモデルケースが出てくるんじゃないかなと思います。

まさに渋沢栄一さんがおっしゃるように、「40、50は鼻垂れ小僧、60、70は働き盛り、90になって迎えが来たら、100まで待てと追い返せ」。「いや、渋沢さん尖りすぎだぜ」と言われていた時代が、まさに現代で現実のものとなっているのかなと思います。

その中で、働き方やキャリアにおける変化は加速しています。例えば、転職を検討したい方が76パーセントという調査(結果)が出ていたり、定年退職の年齢は70歳雇用の努力義務が始まったりと、事実上退職がなくなってきている。

日本の「変化適応力」は、先進国の中で最下位

栗原:一方で、ご存じの通り日本の変化適応力は非常に弱いんです。先進国の中では最下位と出ております。

さらに、企業は長期的な人材育成を行うのが難しいということで、2,383社を分析したそうですが、人材の長期育成で「4以上」とか「3.5以上」と答えた人は0.数パーセントしかいないんですね。

「企業に育ててもらうのではなくて、自分で考えないといけないよね」という時代に入っていることを、まずはご理解いただきたいなと思います。これが、終身雇用が終わったと言われる背景です。

じゃあ、そもそもキャリアとは何か。今までのキャリア観は、職業、職務、職位、経歴という、いわゆるビジネス上の数字だったんですね。しかも過去のものだったんですが、これからは過去の蓄積プラス、「これからどうしたいのか」という未来戦略が「キャリア観」であると、プロティアン・キャリアでは捉えております。

すなわち、「こういう経験をしてきたんですね」「こういうスキルを持っているんですね」「じゃあ次はこういう仕事が向いていますね」という選択肢を与えるのが、従来のキャリア観なんです。

これからは「今までこういう経験をしてきました」「なるほど。これからあなたはじゃあどうしたいですか?」ということを、あらためて問う時代に入っていきます。

キャリア自律度が高い人は、人生満足度も高い

栗原:じゃあ「キャリア自律」とは何かと言いますと、技能的な自立や経済的な自立ではなく、自らの意志や自らの規範に基づいて行動できるかどうかということなんですね。つまり、自ら方向づけできる状態であることが、キャリア自律であると考えております。

キャリア自律度が高い層は、当然個人パフォーマンスも、ワーク・エンゲージメントも、学習意欲も、充実感も、さらには人生満足度も高いという結果が出ています。当然ですよね、やらされ感でやっていないので。やはりそういう人たちは年収も上がっていきます。

変化の時代に求められる人材要件として、もちろんテクニカルスキルも必要です。必要なんですが、それ以上にポータビリティスキルやスタンスが大事であると言われています。なぜかと言うと、時代が変化してしまうからなんですね。

「じゃあ、テクニカルスキルそのものが陳腐化してしまったらどうか」と言うとつらいわけなんですが、一方でテクニカルスキルを身につけるスタンス、学習意欲、求道心、探究心は「ポータビリティスキル」になりますが、こちらが極めて重要なんです。

なので、今後キャリアを開発する際には「このスキルを身につけたい」だけではなくて、そのスキルを身につけるためにどんな能力を発揮しているのか、自分にはどんな特性があるのかを見極めていくことが大事であると考えられています。

自分のやりたいことを「言語化」する大切さ

伝統的なキャリアとプロティアン・キャリアの違いをあらためてお伝えすると、伝統的なキャリアは環境変化が前提ではありませんので、組織内キャリア、つまり昇進、権力、地域、給料が目的になってきます。

そうすると、アイデンティティやアダプタビリティについても、「組織から尊敬されているか」とか「組織で生き残れるか」という、閉じた考えになってしまうんですね。そうではなくて、これからは変化が前提です。個人がキャリアの主体者になる必要があります。

そこで自分を突き動かすものは何かと言うと、組織から求められることではなくて、「あなたは何がしたいんですか?」「どういう状態だと、あなたは満足感、充実感、達成感を得られますか?」ということを、言語化することが大事なんです。

言語化しなくても今までの日本では組織から与えられた仕事でやってこられたし、うまくいっていたんですが、いざ環境が変化した時にそのままだ適応できないかもしれないというのが、今の状態だと思っております。