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第674回トレ経『映画シャイニングのNGから考える環境選択』(全1記事)

監督のこだわりが生み出した、映画史に残る「148回NG」の記録 映画『シャイニング』から学ぶ「自分を追い込む環境」の可能性

日本最大のビジネススクール「グロービス経営大学院」が、ビジネスパーソンに向けて、予測不能な時代に活躍するチャンスを掴むヒントを配信するVoicyチャンネル『ちょっと差がつくビジネスサプリ』。本記事では、名作映画から学ぶ「環境」の選び方について語られました。 ■音声コンテンツはこちら

映画『シャイニング』の「NG回数」から学ぶ、環境選択

加藤想氏:今日この放送を収録しているのは、2022年1月2日です。年始ということで、いつもよりリラックスできるよう、私の趣味の映画鑑賞から少しでも学びにつながるお話ができればと思います。

私は幼稚園の頃から映画が大好きで、小学生の頃には映画雑誌『SCREEN(スクリーン)』を隅から隅まで読んでいました。今日はこれまで見た映画の中から、大好きな映画『シャイニング(The Shining)』のお話をします。

映画界の巨匠スタンリー・キューブリックの作品ですが、主演のジャックニコルソンがアップになったポスターも印象的なので、知っている人も多いかもしれません。

あらすじは、冬の期間だけ閉鎖されたホテルに、小説家志望の主人公・ジャック、そしてその妻、さらにその息子の3人が新しい管理人としてやってきます。ただこのホテルは“いわくつき”で、過去の管理人は不幸に見舞われており、この一家にも事件が起こるというホラー映画です。

映画としておもしろいので、印象的なシーンだけでもたくさんお話したいのですが、今日はこの映画の「NG回数」に絞ってお話をしたいと思います。

148回のNGをいとわない、最高のシーンへの執着

十数年ほど前にDVDで『シャイニング』をレンタルした際、実際に撮影したカメラマンが各シーンの裏側を語るという特典映像が収録されていました。その中で「キューブリック監督が1シーンに40回NGを出すのは当たり前で、序盤のコックが出てくる数十秒のシーンでは、148回NGを出して、映画史に残る回数を記録した」と言っています。

あまりにもNGを出すので、映画の撮影が遅れに遅れて、同じスタジオで撮影予定だった『インディ・ジョーンズ』の撮影にも影響が出てしまいました。

では、なぜこんなにもNGを出すのでしょうか。カメラマンは「俳優から能力を引き出すため」と言っていました。実際に映画の中で、主人公のジャックがバーでお酒を飲むシーンがあるのですが、何度もNGを出され、最後の最後に絞りだした不気味で狂気じみた笑顔が、その後別の作品であるバットマンの悪役・ジョーカー役でも活かされているそうです。

ただ、単純にNGを下して追い込むだけでは誰でもできるかと思います。キューブリック監督のすごさは、映像へのこだわりと、すさまじい集中力にあります。

ほとんどのシーンでかなりのNGを出すそうですが、あっけなく一発OKのシーンもあるようです。俳優やスタッフがどれだけ疲弊していても、(監督の)集中力を切らさず最高のシーンに執着し続ける姿勢が、現場の士気を維持しているのかもしれません。

あえて負荷のかかる環境に身を置くことが、飛躍につながることも

もしもキューブリックのような上司が今の時代に存在したら、おそらくパワハラで訴えられると思います。ただし逆に考えると、可能性を引き出すために自分を追い込む環境に身を置くことは、有効であるとも思います。

話は変わりますが、新規事業のアイデアを考える際に、短い時間でアウトプットをする「クレイジー8」という手法があります。1分で1アイデアを出すのを8回繰り返して、やっとのアイデアを出すという手法です。

私自身もグロービスで仲間としたことがありますが、これが非常に難しいんです。最初の4つくらいは対応できるんですが、5つ目ぐらいからだんだんしんどくなってきて、7つ目に何とかひねり出した結果、案外これまでになかった新鮮なアイデアが出たことがあります。時間をもっとかけていたら、このような斬新なアイデアは出なかったように思います。

キューブリックのようなあからさまに厳しくて、ただ目の前の無限の可能性を信じて接する人は、最近は減っているのかもしれません。自分が飛躍するために、ある程度負荷のかかる環境に身を置くことも、一つの選択肢かと思います。

以前読んだ脳科学の本で、「人間は唯一失敗することで成長する生き物である」とありました。例えばひよこは(本能的に)、高いところに絶対に登らないようにプログラムされているそうです。人間は赤ちゃんの頃から高いところなどはお構いなしに何でも果敢にチャレンジします。

初めからやらないのと、やってみて修正しながら次に進むのとでは、大きく可能性の幅が異なります。2022年は今一歩、少しだけ、背伸びできる環境に踏み込んでみてはいかがでしょうか。

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