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ハラスメント文化の組織改革~心理的安全性の高い組織づくり(全2記事)

“ブロック塀”の組織で育った管理職と、”石垣”の組織を期待する若手 ハラスメントの常態化につながる「構造」のズレの問題

年間1万セッション以上の1on1を提供する「YeLL」では、その知見をもとに組織作りに関するセミナーを開催しています。今回は「ハラスメント文化の組織改革~心理的安全性の高い組織づくり」をテーマに行われたセミナーの模様を公開。取締役の篠田真貴子氏が、ハラスメントが起こる原因と解決策について提言を行いました。本記事では、ハラスメントが発生する「構造」の問題点について解説しました。

職場のハラスメントが常態化している現状

司会者:ではさっそく、篠田さん、お願いしてもよろしいでしょうか。

篠田真貴子氏(以下、篠田):はい。では私のほうからまず、今日のテーマ(ハラスメント文化の組織改革~心理的安全性の高い組織づくり)に入る手前の考え方を共有できればと思います。

「ハラスメント文化の組織改革」ということで、これは3年おきに出されている厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」の最新報告から、主なデータを持ってきたものです。

一言で言うと、常態化しているんですね。左のグラフが企業におけるハラスメント相談で「過去3年でハラスメント相談の傾向はどうですか」というもの。右は8,000人に、「過去3年のうちでハラスメントを受けた経験ありますか」と聞いたものです。

赤で囲っているところが、度合だとかはさまざまなれど「ありました」と答えている比率です。企業においては、パワハラが48.2パーセント。6,400社のうち48.2パーセントが「あった」と言っている。個人においても8,000人中、実に3割を超える方々が「あった」と答えている。これが我々が直面している現状です。

私もハラスメントがあった職場を複数経験しておりますし、その対応に当たったこともあります。当然その事案1個1個は個人名で語られる固有の事案であって、固有名詞があってその文脈があって、その中で解決を図ります。

しかしこれは本当に個人の問題なのか。たまたまその人がこうだったからとか、2人の間柄がどうだったからという、個別の問題だけで処理できる部分ももちろんあるんですけど、この高い比率を見ると、より「構造的な課題」であるという理解を我々が深めない限り、モグラ叩きのようになってしまう。こんなふうに、みなさんお感じではないでしょうか。

社会・組織の構造は「ヒエラルキー」から「タグ」へ

篠田:構造の課題と言っても、なにか「ハラスメントってこういうものですよ」と知識をつけるだけではありません。「私はこう見ています」という話をまずさせていただきます。つまり背景には、大きな社会構造の変化も影響しているんじゃないかという視座ですね。

「これまで」というのがいつ頃なのかと言うと、私が社会に出た約30年前、それから「今の管理職の方々が若者であった時代」です。それらと「今」ぐらい時間を離すと比較をしやすい。

30年前、25年前の日本社会は、今と比べると社会全体のヒエラルキーがきつかったです。大企業が上で中小企業が下。官が上で民が下。あるいはメディアなんかでも、いわゆるマスメディアが強くて一般視聴者が弱いという上下関係。こんなイメージの社会です。

ここでは出身や所属が大事なんですよね。親会社出身である。〇〇から出向である。あるいは職位や部署。このヒエラルキーと所属が明確という構造のもとでは、コミュニケーションも上から下へ決まった経路で伝達するのが、少なくともオフィシャルな経路になる。本当に上意下達の世界です。

それと対比させると、今起きている変化は、もちろんヒエラルキーとか所属・出身が大事じゃなくなったとまでは申しませんけれども、相対的によりフラットになってきている。我々のようなベンチャーと大企業がタッグを組んで、何か新規事業をやるということは、まったく不思議ではない世の中になりました。

あるいは言論空間においても、SNSを見ると全国紙と私のアカウントが同じサイズなんですよね。こういうフラットな世界に私たちは生きている。そうなると所属だけではなくて「タグ」、つまりこの人はどういう人なのか、どういう関係性を取り結ぼうとしているのかが、より大事になってきます。

一人ひとりの主観が活きてくる世界なので、コミュニケーションに関しても、言ってみればネットワークの中を往来する情報を自ら拾い上げて、自分の暮らし、ないし仕事に役立てていこうという自律的な世界が展開されているんですよね。

社会の変化で「いい会社」の定義も変化

篠田:こういう構造変化の中において組織では、OSが変わりつつある。あるいは変わらなくてはいけないと、社会から要望されているのが今だと思っています。「組織のOS」と言いましたが、それは事業とは何か、人間とはどういうものであるか、組織とはどういうものかという概念です。これが大きく変わってきているし、社会が事業に期待するものが変わってきているんじゃないかという視座なんですね。

社会が変わったという時に、組織や事業にどういう期待が寄せられているか。過去はやはりすごい会社、いい組織と言うと、やはり製造業のピカピカの工場のイメージでした。高品質なものが再現性高く、連続的にダーッと出てくる。

当然これができる組織は、まさに人が何人いて何時間働けて、こういうスキルを持っていますという。ボイラー技士1級、2級みたいな世界ですよね。

みなさんを均一にそろえてそれを力に変える組織体系を作ってきていました。例えると「ブロック塀」みたいなイメージです。つまり機械のような完成度で、客観的に人数がいたり、できる人、できない人という物差しがある。

これが優れた組織という世界だったので、私の世代に近い方々の新入社員研修は、「均一になれ」という研修ではありませんでしたか? 

それが今いいとされている会社って、よくメディアで見るGAFAMみたいなやつですよね。あれはIT系ですけれども、要は「知的生産をやっていこう」というのが今の組織です。いい組織、すごい事業というのは、やはり創造性とか独創性が強い。こういう世界に今、我々は生きています。

そうすると、そこで働くすごい活躍をしている人、あるいは組織としては、思考力とか感情とか価値観が合っている(かどうかを大切にする人間観が求められています)。

「構造の間のズレ」の中で起きるのがハラスメント

篠田:最近メディアを賑わせていますが、Twitterをイーロン・マスクが自分の個人資産で買って非上場化し、好き放題やっているんですよね。

でも好き放題やっている中で、要は「普通のエンジニアはいらない。ピカピカのエンジニアだけ数人いればいい」ということを明確に言って、人をバーっと切って、自分の価値観についてこられるスーパーエンジニアだけでやろうぜとしている。

世界でスーパーエンジニアと言っても、それぞれ個性がある。その違いをより研ぎ澄まして多様性を力に変えようと。という意味では「石垣」を作るようなもの。イーロン・マスクが人間らしいかというと議論があるかと思うんですけど、より人の個性を尊重するという意味では、人間らしい世界。

こっちがいい会社ですよねというふうに、先ほどの社会の変化に呼応するかたちで組織への期待値が変わっている。この構造の間のズレの中で起きるのがハラスメント。つまり社会であったり、特に若い働く方々も右の期待値でいる時に、左の世界で育った方々が管理職になっていて、普通にやっていることが右の世界にぜんぜんフィットしない。ここなんですよね。

マネージャーの役割は“石垣”を築くことに

篠田:これまで30年前か20年前にいいとされた組織はブロック塀的な組織です。「一様であること」が価値の源だったので、バラバラな個性を「一様になれ」と指導して鍛えていくのが上司の役割だった。

つまり汎用的な規範があって、それをより身につけている人がマネージャーになり、それを次の人たちに伝える。これが必要なコミュニケーションだったんです。しかし若い方々の期待値はむしろ右の石垣のような組織に移りつつある。

多様であるからこそ石垣は作れるんですよね。大きい石もあれば小さい石もある。尖っている石もあれば四角い石もある。その個性をまず理解して、適切な場所に「あなた大きくて四角いから、ちょっと下でドーンと礎石になって」「小さくてサラサラな人は間に入ってちょうだい」と(配置する)。これがマネージャーであり、必要なコミュニケーションに変わってきているんですよね。

それが人を主語にすれば「自己理解」や「他者理解」が必要であり、「聴く」「聴かれる」が必要です。この構造変化に我々は直面している。そのズレが例えばハラスメントというかたちになって表れるというのが、私の理解です。

これからの組織のOSは機械の組織から、人間らしさを発揮する組織へ。その構造変化の中でハラスメントが起きているんじゃないでしょうかということですね。

一般的にハラスメント研修と言っても幅があって、本当に丁寧な研修もあるんですけど、要は集合研修をやって知識を身につける。これを行えばハラスメントはなくなるのか。さっきの構造、理解をもとにすると、それも必要なんだけど、本当にそれだけで乗り越えられるんだろうかなという疑問は湧くかなと思います。

本質的な「自己理解」「他者理解」の深さが重要に

篠田:やはりハラスメントに限らないですが、今の経営課題、組織課題って、かなり人の主観が主軸になっている。先ほどお見せしたようなこれからの組織の期待値が、より人の価値観だとか思考をベースにするものですから、どうしても経営テーマもそうなる。

そうすると外側から戦略を変えたり、制度を変えたり、研修をするだけでは足りなくて、最後はやはり人が変わらないと組織は変わらないんですよね。

これは別に研修とか社内の風土だけではなくて、ビジネス自体がたぶんそうなっている。これはUX(ユーザー体験)に関する本なんですけれども、序章にこんなことが書いてあります。

「あなたが『顧客の立場に立とう』として頭に出てくるのは、普段『お客さま』とよんでいる人の顔ではないだろうか? しかし、本当に顧客の立場に立てたのであれば、頭に浮かぶ景色はあなたの企業、製品、または社員の顔や姿でなくてはならない。相手の立場に立つとは『相手から見た自分の姿』を頭の中に思い描く」ことですよと。

やはり社会の企業に対する期待値が、こうなっているという話ですよね。ハラスメント対応だけのために、なにかコミュニケーション術を表面的に学ぶよりも、本質的な「自己理解」「他者理解」の深さが今求められている。その中の1つのテーマとして上司・部下の関係があり、うまくいかなかった時の表れ方としてハラスメントがあるんだと思います。

そうすると、コミュニケーションの中で私たちが注意、意識を向けるべきは、相手の方がじっくり話せるか、または言葉になるかです。つまり「聴かれる」ことを通して「自己理解」をしていただいたり、その理解を聴き手側も受け取って、「なるほど。自分のことをそう思っているんですね」と理解し合うというところが、かつてのコミュニケーション、かつての社会にはまったくいらなかったパーツ。だけどこれからは必要なパーツになってくると思います。

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