卵を2つ産むのに、育てるのは「2番目の卵」だけ

ハンク・グリーン氏:想像力を働かせて、別の生き物になってみましょう。あなたはペンギンです。つがいの相手を見つけて子孫を増やすため、極寒の海を越えて繁殖地へ集まってきました。お相手はめでたく見つかり、巣を作って初めての卵が生まれます。

ところが、あなたはそれをすっかり忘れてしまい、卵はかえることなく死んでしまいます……。ペンギンは、いったいなぜこのような行動をとるのでしょうか。

こうした習性は一見無意味に思われますが、研究者たちはなんらかの理由があると考えています。この行動そのものには意味はありませんが、ペンギンの進化の過程が明らかになるというのです。

シュレーターペンギンは卵を2つ産みますが、面倒を見るのは2番目に産んだ卵だけです。

シュレーターペンギンはニュージーランドの固有種で、これまであまり研究が進んできませんでした。繁殖するのは、バウンティ諸島やアンティポディーズ諸島などの南極付近の絶海の無人島です。

シュレーターペンギンのデータ採集が多く行われたのは1990年代です。当時はバックストリート・ボーイズや『恋のマカレナ』が流行りましたね。僕にもこうした悪趣味なアルバムを買い漁った黒歴史があります。キャビネットのどこかに眠っているはずですが、新型コロナのロックダウン中に実家の誰かが掘り起こしているかもしれません。

話を戻しましょう。2022年にオンライン科学誌『PLos One』にある論文が発表されました。内容はシュレーターペンギンの「obligate brood reduction(間引き行動)」です。

シュレーターペンギンのメスは卵を2つ生みます。

1つ目は小さく、2つ目は大きく生まれます。産卵する卵の大きさが異なるのは、実は鳥では珍しくはありません。

1番目の卵を、意図的に巣の外に放り出すことも

ほとんどの鳥は1つ目に生む卵が大きな物ですが、シュレーターペンギンは最初に生む卵が小さい点で、他種とは異なります。これは「reverse size dimorphis(卵経の逆転)」と呼ばれています。

同じマカロニペンギン属のイワトビペンギンも卵を2つ生みますが、2つともちゃんと孵化させます。とはいえ、つがいが優遇するのは第2子です。

シュレーターペンギンは、最初に生まれる小さな卵を一切孵化させようとはしません。時には、意図的に巣の外へ放り出すこともあります。

また、卵を「見失う」こともあるようです。シュレーターペンギンは、いわゆる「巣」らしい巣を作ることはなく、営巣するのは荒涼とした岩場であるためです。

2つ目の卵が孵化すると、つがいは熱心に面倒を見ます。

シュレーターペンギンが1つ目の卵を落とす事故が単に多発しているわけではないことを確かめるため、研究者たちは親鳥が卵を落とさないよう、巣の周りに石を並べて囲んでみました。ところが、巣を改造してみても、親鳥は1つ目の卵を放置し、あまつさえ割ってしまうことすらありました。

これは、鳥類にはあまり見られない習性です。貴重な養分をただ廃棄してしまう卵に使うのは、あまりにも非効率だからです。エネルギー、生物が生命を維持する大切なもので、生殖に回されるのは余剰分です。

1つ目の卵を見捨てることが、最も「効率的」だった?

では、シュレーターペンギンはなぜこのような行動をとるのでしょうか。仮説がいくつか挙げられています。

コロニー内の争いで1つ目の卵が壊されやすいことを挙げる研究者がいますが、シュレーターペンギンは争いを好まないため、この線は薄そうです。

1つ目の卵はいわば「保険」であり、2つ目の卵が割れたり死んでしまったりした場合に備えるのだと唱える学者もいます。しかし、親鳥は2つ目の卵が生まれた時点で1つ目の卵を放棄するため、この説も考えられません。

そこで、これは進化への適応の結果なのではないかという説が唱えられました。

1つ目の卵は、ペンギンが繁殖地へ移動する最中に体内で作られます。エネルギーが乏しいため、サイズは小さくなると考えられます。では、なぜ卵を1つだけ生むことをしないのでしょうか。

シュレーターペンギンの祖先は卵を2つ生んでいたと考えられます。そのため、現在でも同様に2つ卵を生みますが、海で採餌するよう進化したため、2羽のヒナを育て上げることは困難であり、1つ目の卵へ費やすエネルギーを節約せざるをえないというのです。

確かに、1つ目の卵が形成されるのは海での移動中であり、親鳥が自分のために大量のエネルギーを必要としている時期です。そして、小さく生まれついてしまったヒナの生存は困難です。

シュレーターペンギンは、進化の結果について生命がうまく折り合いをつけた好例だと言えるでしょう。シュレーターペンギンの祖先は、おそらくは子孫よりも栄養状態に恵まれていたのでしょう。後の状況に子孫がやむなく対応した結果が現状だと考えられます。

2つの卵を生むべく運命づけられたシュレーターペンギンには、1つ目の卵を見捨てることが最も効率的だったのかもしれません。