本人が「自己変容したい」と思って越境しているわけではない

司会者先ほどお話があった越境学習で、みなさんが入られる環境設定(が重要)とおっしゃっていただきました。その環境を作っている我々からすると、そこがすごくリフレクションと親和性があるのが、ものすごく意図もしていますし、そういうつもりで作っています。

ですが自己変容を伴う学びを促す時に、どうしても企業側からの機会提供となった時に、極論ですけど、最初は本人が「ものすごく自己変容をしたい」という意識ではない状態で、越境の環境に送り出されている。そういうこともあるなぁと思って。

伴走しながら徐々に、それこそ器を広げることの喜びを感じたり、ご自身のメンタルモデルを自覚していただくことって、けっこう難しいなと思って。最初から全員が自己変容したいと思っていればいいんですけど。

そういうのがない時に、支援者としてどんなことが大事になるか。もし熊平さんが、そういう方に伴走されたり対峙される時に、どんなことを意識されているか、うかがえるとうれしいなと思ったんですが。いかがでしょうか。

熊平:はい。おっしゃるとおりで、私もずっとそういう人の学びに伴走する仕事をして、フラストレーションを抱え、生きてきた背景があって。それで4点セットを作りました。私はもう「やってください!」って4点セットを渡します。

事実を学ぶだけでなく、その矢印を自分に向ける習慣を作る

熊平:というのが、そういう人たちは自分に矢印を向けるのではなくて、多くの場合出来事に学んだり、こういうことがあるんだねとか、こういう状態なんだね、とファクトを学ぶ学び方で終わってしまっていて。習慣として、ファクトを自分につなげる思考回路がないんですよね。

この習慣を作っていただくために4点セットを開発したので。これはもうどれだけ強く求めても主体性を奪わない唯一のツールだと思っているんです(笑)。他のことは強制すると主体性を奪ってしまいますが、リフレクションは内に向くことを強制するので、主体性に向かわざるを得なくなるから。

なので、私はそれをいつもお願いしています。先ほどのザンビアの例なんかも、けっこうみんな立派な人たちばっかりだったんですけど。とにかく書いて記録を取ってもらって、ポストイットも事実・解釈・事実・解釈と溜め込んでもらいました。それを最終日にざーっと全部、みんなでリフレクションをしたわけですけど。最初は、何のためにやらされているかよくわからなかったという話もあります。

司会者:やっている間はですね(笑)。

熊平:やっている間は。でも、やっぱり最後は、もうなんでこうなったかがよくわからないけど、(自分のことが)よくわかったみたいな。だから自分に向くことをたくさんやっていただいて、それをリフレクションすれば、当然ですが自分が何者か、確信がすごく持てる。それも、他の人たちとの違いが出てきますから。なので、すごい効果があると思います。

司会者:なるほどですね。ありがとうございます。なので、しっかりそれを繰り返すことですね。

熊平:そう。繰り返す。人の話を聞くのがおもしろいから。

司会者:確かに。他の方と一緒に振り返るんですね。

課題を生み出した思考では課題は解決できない時代

司会者:けっこう質問が来ていますので、まず上からいきましょうか。最後のページ「自己変容を伴う学びとスキルや知識を得る学びの対比がありましたが、もう少し詳しく」という質問です。ちょっと先ほどのお話にも関連していそうですが。

熊平:よく言われることだと思うんですが、答えがある時代には、答えを導くための知識とスキルがもう用意されている。ですから、誰かがもう解決したことがあることは、大抵このスキルとこの知識があればできるよ、という話だと思うんですよね。

なので、そういう問題の解決であれば、今自分にないスキルとか知識があるんだったら、それを手に入れればいい。スキルや知識を増やしていけばなんとかなるんですが。

前例のない時代が前提になりますと、もはや知識とスキルがそのようには用意されておりません。その中でどうするか。自分の変容が必要になってくるという話です。

もっと言ってしまうと、アインシュタインの言葉ではないですけど、課題を生み出した思考では課題は解決できない。例えば今の持続可能な経済の発展のテーマも、資本主義のあり方が見直されている、みたいな話もありますけれども。

私たちの物の見方が変わらない限り、変わらないわけですよ。行動も変えられないし、結果も変えられない。だから、今、私たちが直面している多くのテーマは、私たち自身の変容を伴う問題解決が不可欠になってきている。企業の中でも、実際そうだと思いますし、社会もそうかなと思うんですね。なので、自己変容が前提になる。物の見方が変わることが、問題を解決する上で不可欠になってくる感じです。

司会者:ありがとうございます。いや、そういう学びの捉え方自体が、いいですよね。こうしたいなというか。私の場合、学校、学生時代の学び方が、いろいろな知識を得るスタイルが中心だったせいで、知識を得ることイコール学びのイメージで捉えてしまう感じは、やっぱりありますよね。

熊平:エリートの人は、みんなその学び方で成功してきているので。もちろん、知識とかスキルを増やすことが悪いわけではぜんぜんなくて、それはそれでいいんですけれども、プラスもう1つの新しい学び方も手に入れると最強ですね。

新しく出会った「ものの見方」を、自分のものにしていく

司会者:ありがとうございます。続いて、シロウさんからのご質問、いきましょうか。「せっかくの機会なので、越境、メタ認知、対話、リフレクション、今いただいたお話のベースには、ダブルループ学習の考え方がありますか」ということです。

熊平:もうそのとおりです。もうまさにダブルループ学習でございます。

司会者:せっかくなので、少しだけダブルループ学習についてご紹介いただくことは可能ですか。

熊平:はい。自分自身が経験から学ぶとき、結果と行動に焦点を当てることが多いと思います。しかし、行動の前提には思考と、その思考の前提となるメンタルモデルがあります。ダブルループ学習では、この前提も含めて学習するという考え方です。認知の4点セットを活用すると、ダブルループ学習が簡単にできるようになります。伝わりますかね。

司会者:私は伝わっているんですが(笑)。

熊平:ごめんなさい(笑)。

司会者:そうですよね。システム思考ともちょっと絡んできますから。

熊平:ね、システム思考の話でもありますね。

司会者:まず、シロウさんの質問には「あります」ということで、一時的な回答として、いったん置かせていただきますね。ありがとうございます。

今のお話の流れで、ミヨシさんのご質問です。「自分の価値観は、いったん括弧でくくる、保留するところにUnlearn(アンラーン)の考えが大事だと思いますが、簡単に補足いただければ幸いです」。

熊平:アンラーンが起きることは大事ですね。驚きとか違和感のリフレクションをして、自分が何を大事にしていたから違和感があったのか、大事にしていた物の見方とは違う物の見方がそこにあることを知る機会が大切ですよね。

その先にいくとすれば、例えば経済的な豊かさ=幸せの方程式ではない方程式が世の中に存在することを知って、そういうものの見方を新たに自分のものにしていく。なので、新しい物の見方が加わっていくので、アンラーン。おっしゃるとおりです。

司会者:まさに最後の、器が大きくなっていくことにもつながる考え方ですね。

熊平:そうですね。

越境学習におけるリフレクションは「継続」が重要

司会者:ありがとうございます。タカハシさんからですね。越境学習の期間。これはたぶん企業の方、経験を提供する側の視点としてですよね。どういう機会を提供できるといいんだろう。長さや継続についてをご質問でいただいています。もちろん個別差はあるとは思うんですけど。

熊平:ウィル・シードさんのものは、どういう感じですか。

司会者:ありがとうございます。確かに世の中にもいろいろタイプがあると(思います)。我々は、本業をやっていただきながら、3ヶ月程度社会課題とか異業種のプロジェクトにご参加いただくものを、これまでは一番長くやってきていますね。

だから数日のものよりはやっぱり一定期間、2~3ヶ月で頭の回路が切り替わってくるみたいなイメージで捉えているんですけれども。それぐらいの期間を、今は提供していますね。

熊平:それは、妥当かなと思います。3ヶ月はいい期間ですよね。変化が起きるのに必要な期間。1ヶ月目で始まって2ヶ月目で混沌として、3ヶ月で収まりがつくというか。

司会者:はい。そうですよね。

熊平:私のザンビアみたいにわりと極端な体験であれば、1週間あればなんとかなる。3日だときついよね。まず、現実を忘れるところから。

司会者:そこに没頭するというか、そこまでも大変ですね。

熊平:そう。やっぱり頭が切り替わっていく。これは、みなさんも、休暇でもそうなのではないかと思います。3日だと、やっと離れられたと思ったら会社に戻るみたいな(笑)。それと同じかなと思う。

司会者:確かに。そうですね。

熊平:フルだったら1週間は必要かな。

司会者:まぁもちろん、先ほど4点セットで、何度も何度もやっていただいたとお話がありましたが、その回路を作っていくために、継続が必要だと思うんです。なので、必ず1つのものに3ヶ月とかずーっと長くやらないと絶対無理、という意味ではなく、そのほうが効果が見込みやすいということですよね。

熊平:そうですね。いろんな設計、デザインによって、期間と効果を設計することは可能だと思います。

司会者:もちろん短時間でもすごくインパクトに残って、自己内省が深まることもありますよね。ありがとうございます。

前提を疑う「そもそも」を、会社の合言葉に

司会者:ミヤザキさんから。「日常の中で意識することが難しいのは、自分を持ちつつ、他者がいつもいる人たちになってしまうので、いつもと同じになってしまい、慣れてしまうことで、鏡になっていないのではないかと考えています。越境することは日常とは違い、異質な人たち、環境の中に入っていくものなので、鏡としての作用を強く感じることができるからではないでしょうか」。

熊平:そうですね。共通言語が確立してしまっている世界では、どうしても当たり前のことは、疑わない。疑わないだけではなくて、当たり前すぎて、あまりにも空気のような存在になってしまって、私たちは気づけなくなっていますよね。

だから、当たり前が壊れるとか、当たり前が通用しないとか。そうではない当たり前に出会うのはいいですよね。「え? そうか、私そう考えてたんだ」という考えに気づけるからね。そうでないと気づけないですね。

よく、「そもそも会議」をやる会社もありますけどね。「そもそもね」をみんなが口癖にする(笑)。そのぐらいやらないと、要はみんな語らないんです。

司会者:確かに。そうですね。ミヤザキさんも書いて下さっていますが、そういう意味では、周りの方と今みたいな「そもそも」という背景とか、裏側までしっかり聞き合えば、もちろん日常の中でも、お互いにより深く学び合うことはできるということですよね。

熊平:「そもそもね」「前提を疑おう」とみんなで合言葉を持てば。

司会者:なるほど。ありがとうございます。

「反省」と「内省」の違いは、失敗を学びにできるかどうか

熊平:反省との違いについてコメント書いていただいている方がいるので、反省の話もちょっとだけしてもいい?

司会者:ぜひぜひ。ありがとうございます。

熊平:これね、すごく重要な気づきをしてくださっていて、私も訴えたいことの1つです。反省は、残念な気持ちだったり、申し訳ない(気持ち)だったり、いろいろネガティブな感情が伴っているから、学びには最もそぐわない環境です。

リフレクションは、過去の経験について振り返る時に、うまくいってないかどうかはある意味どうでもいい、と言うとあれですけれども。結果よりも経験に意識を向ける。経験したら必ず賢くなっているでしょう。そういうことをリフレクションする感じなので。反省ではなくリフレクションと言っています。

そうすれば失敗もけっこう、学びのネタとしてはありがとうはずなんです。その位の気持ちで、失敗のリフレクションも楽しく手軽にできるなと思うので。ぜひ反省ではなくて、リフレクションをお願いいたします。

司会者:なるほど。ちょっと余談ですけど、ウィル・シードでは創業以来「失敗おめでとう」というキーワードを大事にしています。

熊平:あぁ、いいね。さすが。

司会者:むしろ失敗をしましょう、というね。日常の中ではなかなかそういう機会が作りづらいので、ある意味こういった研修といいましょうか。こういう機会を活かしていろいろチャレンジをしていただく。学習上、奨励していたりします。

熊平:いや本当に、挑戦したから失敗するんだからね~。そこを称賛してもらいたいけど、けっこう日本は全般的に、結果が出たら「その挑戦は良かったね」みたいな感じが(ある)。

司会者:そうですね。

熊平:違う違う! みたいな(笑)。9個の失敗があって、1個の成功なんだよ~。そういうカルチャーになるといいなと思いました。

自分の枠が広がっていくのは楽しいこと

司会者:そうですね。ありがとうございます。最後にぜひ熊平さんから、ご参加のみなさんに、今の質疑応答も含めて、一言いただいてもよろしいですか。

熊平:かしこまりました。みなさま、今日はどうもありがとうございました。ご質問もたくさんいただきまして、うれしいです。ぜひ越境学習、リフレクション、対話を実践していただいて。自己変容を、みんなで楽しんでやっていきたいなと思います。

自分の枠が広がっていくのは楽しいことだし、違う自分になっていくのもおもしろいことだと思うので。変わるというと、ネガティブな感情もまだ残りがちですけれども、前向きにみんなでアップデートしていく、そんな世界が作れたらいいなと思います。ぜひみなさまもリフレクション、お願いいたします。どうもありがとうございました。

司会者:ありがとうございます。ポジティブなエネルギーをいただきました。熊平さん、ありがとうございます。

熊平:ありがとうございます。