自分で作ってもいないアプリを広めることになった、ITド素人の奮闘

鈴浦直樹氏(以下、鈴浦):みなさん、こんにちは。アイホン株式会社の鈴浦直樹と申します。今日はリモートですが、大嫌いだったkintoneが大好きになった、私の5年間のお話を聞いてください。

まずは自己紹介です。私の名前は鈴浦直樹、37歳。妻と息子・娘の4人家族です。これまでの13年間、営業本部でしか働いたことがなかったのに、この4月からkintoneだけで情報システム部へ異動になったITのド素人です。ITのことはさっぱりわからないITド素人がkintoneの導入に挑んだ、5年間の奮闘記です。

会社紹介です。まずはこちらをお聴きください。……何の音かわかりましたか? インターホンの呼び出し音です。私が勤めるアイホンは、創業74年目のインターホン専門メーカーです。住宅やオフィスにはインターホン、病院や高齢者施設にはナースコールを納めており、世界の70ヶ国以上にアイホンの製品を供給しています。

そんなアイホンのkintone導入前の課題がこちらです。営業担当者は日々営業活動をしていますが、上司は部下の活動を把握しきれていませんでした。担当者の活動履歴は手帳の中や頭の中にあるだけで、当然部署間でも連携できておりませんでした。

そこで、その活動履歴を共有できるSFA(営業支援ツール)をkintoneで実現しようとします。2017年4月に、マンション用・病院用・高齢者施設用と販売先別に、外注でアプリを開発してリリースします。

リリースと同時に、私は営業管理部という部署へ異動になり、このアプリを浸透させることを命じられました。ですから、私はアプリの開発には携わっていません。ユーザー500人に対して、自分が作ってもいないものを浸透させなければいけませんでした。

現場からの反対意見にさらされる中で起こった事件

鈴浦:ここからのスライドは私のkintone好き嫌い度を、右上のハートマークで表現していきます。この時、社内では「kintoneはなんでもできる」と言われていましたので、期待感もあって、今ハートが3つ並んでいます。さあ、このアプリの評価はどうだったでしょうか。

「情報共有ができるようになった」と一部の方には高評価をいただきましたが、大多数の方には「情報が多すぎる」「画面が見づらい」といった不満が爆発していました。みなさんも言われたことないですか? 

もう一度言います、私はこのアプリの開発には携わっていないんです。ですからこんなことばかり言われて、kintoneのことが嫌いになりました。

さらに私は「やっぱりExcelがいい」と現場から言われ続けました。ほぼ500対1です。私は「俺が作ったんじゃねえよ」と思いながらも、それでも「使ってください」と言うしかなかったんです。どんどんkintoneが嫌いになっていきました。

とうとう事件が起きました。とある支店長から「kintoneは業務効率を悪くする」とはっきり言われてしまいました。さすがの私も限界で「機嫌が悪いので帰ります」と上司に告げて、その日は本当に帰ってしまいました。それぐらいkintoneのことが大っ嫌いだったんです。現場に対しては、使いづらいSFAを使わせるままとなります。

そんな事件があったとしても、自分のミッションから逃げるわけにはいきません。なんとかkintoneを使ってもらえるようにいろんなツールを探しました。

立て続けに訪れた転機、kintoneの推進者から開発者へ

鈴浦:まずは脱Excelです。みなさん、こんなこと聞いたことないですか? 「Excelファイルが開かない」とか「共有ファイルが読取専用になる」。これってkintoneでなんとかならないかと考えました。

2019年3月、kintoneをExcelのように表示できる「krewSheet」と出会います。krewSheetを使ったアプリがこちらです。まるでExcelのようだということで、予想以上に好評でした。初めてkintoneを好きになれた瞬間です。

それと現場から言われ続けた「やっぱりExcelがいい」というのは「やっぱりExcelの見た目がいい」ということだったんだとわかりました。

この頃から「Excelの代わりなら」と、kintoneを利用する方が少しずつ現れ始めます。転機は立て続けに訪れました。ハンコレス、ペーパーレスです。コロナ禍で在宅勤務が増えた時、上司から「kintoneでハンコレスはできるか」と聞かれました。私は「できます、やります」と即答です。

この時、社内で問題になっていたのは「連絡書」という、アイホン独自のExcel申請書の遅滞です。この連絡書は承認フローを固定できなかったので、システム化やkintoneのプロセス管理が使えませんでした。

連絡書はこのような流れになっています。メールに添付されたものをアシスタント社員が受け付けて、印刷して、捺印されたものをファイリングして、またメールでフィードバックする。これ全部、面倒ですよね。

ですから、連絡書アプリのコンセプトは3つ。「面倒な業務を1つでも削減すること」「マニュアル不要なわかりやすいUIにすること」「クリックを最小限にすること」。これらのコンセプトを実現するために「gusuku Customine」というツールを利用しました。

私のようなITド素人でも、プログラミング知識なしで簡単にkintoneのカスタマイズができるツールです。この瞬間、私はkintoneの推進者から開発者へ変身しました。

「連絡書アプリ」を作って、年間320時間以上も削減

鈴浦:およそ2ヶ月かけて出来上がったアプリがこちらです。申請画面を立ち上げると、部署名・氏名が自動でセットされます。プロセス管理でできなかった自由な承認ルートは、申請者や承認者が自分で次に誰に回したいかをセットします。

それと、主に承認者から「俺はどこを編集するんだ」という問い合わせがくることは想定済みでしたので、あらかじめ背景色を黄色くしておきました。

私はITのド素人です。それでもこんなことができたんです。このアプリには1,000個以上のカスタマイズが含まれています。承認されると自動でメール通知を発信しました。

Customineでのカスタマイズに加えて、「プリントクリエイター」というツールを使って、従来のExcel帳票と同じような出力帳票も作成しました。

このアプリの効果はすぐに出ました。まずは時間削減。先ほどの面倒な作業はすべてなくなり、連絡書は年間1,000以上申請されますので、このアプリだけで年間320時間以上削減できました。

続いて、承認コメントの充実です。これまでのExcel申請書はセルという枠のサイズもあったせいか、非常に淡白なコメントでした。ですが、枠のサイズを気にする必要のないkintoneにしただけで、これだけの文字量が入力されました。

どうですかみなさん、こんなに承認コメントを書けますか? なかなかできないですよね。社内では「承認された理由をあとから振り返ることができる」と高い評価をいただいています。

高評価の背景にあったのは「困りごとの解決」

鈴浦:さらに情報制限。これまでの連絡書は紙で出力されていたので、センシティブな情報もすべてアシスタント社員の目には触れていましたし、紙自体がキャビネットに入ったままです。それをkintoneのレコード閲覧権限を活用することで、必要な方のみがその情報を閲覧できるようにしました。

このアプリはハンコレスや自動通知が非常に好評でした。初めて自分で作ったアプリが高評価をいただいて、めちゃくちゃうれしかったことを覚えています。

でもよく見てください。この評価って裏を返すと、もともと困っていたことなんです。紙がイヤ、メールがイヤ。そういった困りごとをkintoneで解決すれば、受け入れてもらえるんだとわかりました。

連絡書は当初、営業本部だけで利用する予定でしたが、リリースから2ヶ月後には一気に全社へ広まりました。連絡書以外にも、ワークフローのアプリは次々とリリースされました。

さあ、kintoneへの抵抗がなくなったところで、もう一度SFAに挑戦します。前回の教訓を活かして、3つのコンセプトを掲げました。「販売先別アプリを統合すること」「基幹システムとの連携を強化すること」「項目を簡素化すること」。実現のために、失敗したアプリの検証を行いました。

二度としたくない作業を1つご紹介します。ユーザーって勝手なもので、「項目が多い、多い」と文句を言っておきながら、いざ減らすとなると「必要な場合もある」と言い出すんです。ですから私は、実態調査のためにハンドカウンターを使って、1万レコードすべて一つひとつ目視で確認しました。そして有効活用されていない項目は徹底的に削除しました。

開発の難しさよりも、ユーザーに寄り添った提案を優先

鈴浦:そういった苦労もありながら、およそ半年かけて出来上がったアプリがこちらです。マンションや病院といった販売先は、一覧画面の条件で切り替えています。上半分が案件の一覧、下半分が案件にひもづく活動履歴の関連レコードです。これもkrewSheetです。複数の方の活動履歴が1つの画面で見えるようになりました。

さらにこの活動履歴には工夫があります。営業担当者は情報を共有したい方をセットしておくだけで、自動でメール通知を発信します。メール通知を受けた担当者はすぐに次のアクションへ、自ら動き出します。

これまでは会議や個別に確認をした時しかできていなかった情報共有が、このアプリでリアルタイムにできるようになりました。kintone導入前の課題も達成しました。

今アイホンではどのようにアプリを開発しているか、実例を基にご紹介します。ある時「販売先別でアプリを4つ作ってほしいんだけど」と言われました。

私は「いやいや、ユーザーが混乱するので1個にまとめましょうよ」と。実は4つを1個にまとめるほうが開発者としては(作るのが)大変なんです。でも、私ももともとユーザーだったので、絶対に1個にしたほうがいいという自信があり、こちらからあえて難しい提案をしています。

「プルダウンが欲しいんだけど」と言われても、私ももともと営業でした。「その項目は絶対にチェックボックスのほうがいいです」と、ユーザーに寄り添った最適な提案をしています。その結果どうなったか。

「この前のアプリがすごく好評だよ! 営業担当者も使いやすいって言ってくれてるよ」と。これは開発者冥利につきますよね。ようやくkintoneのことが大好きになれました。

開発者もユーザーもハッピーになるために欠かせないこと

鈴浦:私はここまで5年かかりました。今ももしkintoneの導入に苦しむ方がいらっしゃれば、私からのメッセージです。kintoneは絶対に押しつけないでください。人は自分が使っているツールを否定されたくありません。必ず反発されます。

じゃあどうするか、まずは困っていることを見つけてください。紙がイヤ、メールがイヤ。そういった困っていることをkintoneで解決できますよ、それだけでOKです。

そして管理者の方へ。担当者任せにはしないでください。アイホンは今では全社員1,000人以上がkintoneを利用するようになりました。ユーザーの数が多ければ多いほど、全員を満足させることは絶対にできません。

開発要望がきた時、対応するのかしないのか、何から対応するのか。これらは管理者がしっかりとジャッジをして、担当者へ引き継いでください。

そして最後に、内製アプリの評価は必ずしてください。なぜ評価が大切なのかと言うと、ユーザーの期待に応えることができていれば、必ず新たな依頼がきます。依頼が続くことで、開発者のスキルや提案力もアップしていきます。それがまたユーザーの満足度アップにつながり、開発意欲もアップしていきます。結果的にみなさんがハッピーになるんです。

今ではアイホンもみんなkintoneが大好きになりました。最後にもう一度、この音を聞いてお別れしましょう。ありがとうございました。

(会場拍手)

平川紗夢氏(以下、平川):鈴浦さま、ありがとうございました。それではまずはZoom応援団のみなさまにおつなぎいたしましょう。たくさんの方が見てくださっております、ありがとうございます。

それでは鈴浦さん、私から1つだけご質問させてください。鈴浦さん、ご自身のことを「IT素人だった」と称されておりましたが、今ではkintoneやたくさんの連携サービスも使って、立派なIT担当者になられていると思います。今のご自身の心境はいかがでしょうか。

鈴浦:いえいえ、まだまだITド素人です。kintone以外のことはまったくわかりません。部の会議に出ていても、みんな何を言ってるかわからない状態です(笑)。

平川:なるほど(笑)。これからkintoneをもっと活用いただいて、より素敵なIT担当者になっていただければと思います。鈴浦さん、ありがとうございました。

鈴浦:ありがとうございました。

(会場拍手)