「人はいつからでもより良い方向に変わっていける」

中村英泰氏(以下、中村):僕の書籍(『社員がやる気をなくす瞬間』)にも関連しますが、「関係密度」って、やはり人と人があらためて何をしてきたんだろうか、何をしていくんだろうかって、その間にあるものが本来は大事ですよね。

『社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり』(アスコム)

タナケンさんに何回もおっしゃっていただいた「間」があって、その間を埋めようと努力をみんなしてるんですけれども、どうもハッキリしない。だけど、キャリアコンサルタントだからこそ見えているものはあると思うんですよね。なぜなら「理論」という道具を持ってるわけじゃないですか。

実際、人との関わりを通じた自分の実例をいろいろ持ってますよね。だから僕たちには「間」を埋めるための方法が見えてるんだけど、多くの人が見えてない。そこに対して、どう具体的に仕掛けていくのか考えることができるんです。

僕はこの(「キャリコンの輪」で)集まった人たちが何かということよりも、多くの人たちがもっと幸せになれると思うんです。人が求めている最終的な「幸福」に向けて僕たちができる可能性がたくさんあるはず。今までは一人ひとりで、どうしてもバラバラでやってたから勝てなかったと思うんですね......スペイン戦は(笑)。

田中研之輔氏(以下、田中):(笑)。

中村:三笘さんの最後の走り込みはびっくりしますよ。

田中:あれをやりたいってことですね。

中村:あれをやりたいですよね、みんなで諦めずに果敢に勝負していく。

田中:みんなで共有していったらいいし、僕が今、中村さんの話を聞いてて思うのは「じゃあキャリコンって何ができるの?」ってことで。僕は一言で伝えられる言葉があるなって思ってて、それは「人はいつからでもより良い方向に変わっていける」。これを教えることだと思うんだよね。

気づいている人と気づいてない人たちの格差の広がり

田中:理論あるいは伴走することによって、人はどんな状況だって誰だって(良い方向に変えることができる)。キャリコンはもともとダイバーシティ&インクルージョンですよ。つまり障害を持っていようが、あるいはセクシャルマイノリティだろうが、誰だろうが。あるいは職場で非正規雇用であるとか。いろんな条件があるわけじゃない。

だけどその状態は永遠のものではない。変わっていける。その時に「組織を変えよう」っていうのは組織開発のフレームかもしれないけど、まず目の前のあなたが変わっていこうよと。手に持っている携帯電話の形状は変えることはできないけど、あなたが入れるアプリを変えることはできる。そして1つ目に見るサイトを、ゲームじゃなくて、キャリアに関する知識でもニュースでも、変えていけるわけじゃん。

でも思うのは、それは誰かが伝えないと気づかないんだよね。だから中村さんがさっき「気づいてない人」っておっしゃってたけど、本当にそうなの。この「気づいている人と気づいてない人たちの格差」が、テクノロジーによってすごく大きくなってきてるんだと思うんですよね。

我々は出会った人、誰一人置いていきたくない。キャリコンの人たちがすばらしいなと思うのは、出会う人たちの可能性を絶対否定しないじゃん。だから学校現場の中学校・高校の先生だったら、キャリアに関する知識を基礎知識として入れてほしいぐらいですよね。なぜなら人の人生をプロデュースする人たちだからね。

そういう知識があれば、例えば今年振り返ってもまだまだ氷山の一角で、体育会系の部活動での体罰が、時代錯誤なのに未だに続くわけじゃないですか。あるいは企業現場でもなにかパワハラみたいなものは続くわけじゃない。ああいう人たちに少なからず、キャリコンの人たちが持ってる基礎リテラシーとしての(知識を知って欲しいです)。

人は変えていける。そのための4L理論であったり計画的偶発性理論であったりプロティアンだから。

中村:そうですね。

キャリコンは「つながりをプロデュースできる人たち」になれる

田中:本当に「つながり」は宝だから。だからみんなでどんどんつながっていく。そこでもう1歩みなさんと一緒にやりたいなと思うのは、みなさん自身がプロデューサーを担ってもらうこと。誰と誰をどうつなげて(いくか考えて欲しい)。

中村さんがタナケンと誰かをつないでくれた、とかさ。みなさんキャリコンとして、グラノヴェッターの「弱い紐帯の強さ」理論をもう少し噛ませれば、このキャリアコンサルタントの輪は、「つながりをプロデュースできる人たち」になれるかもしれないよね。

つまりキャリコンで相談を受けたAさんと、違う企業で受けたCさんをつないであげたら、すごく相乗効果が出るかもしれない。1対1でつないだらプライバシーの問題になるかもしれないから、そこで「みんな集まってね」って、場にしたらいいんだよね。それで30人、100人って輪が大きくなる。

そういうことを考えています。だから今がちょうど年末、2022年を振り返って思うことなの、2023年は同時多発的に、ここにいるみなさんがそれぞれの「場」を作って行けるといいのかなと。

「場」は、つながりの輪を空間化していくってことだよね。ネットワークの起点は、全部みなさんが四方八方自分の軸でやるんじゃなくて、場を作って。

今日の場もそうだと思います。3社の代表者が集まって、すばらしいよね。これって本当にイノベーションだと思う。バウンダリーを乗り越えていくことじゃないですか。

社会におけるバウンダリーなんて本当に一時的で、暫定的なものに過ぎなくて、まやかしだよね。それにとらわれちゃって「私は何年目の社員です」とか「私は何歳です」とかって(言い訳するんだけど)、カテゴリなんかなんら意味を持たない。

グローバルの経験をすると、肩書きなんて相対的に見ると日本の社会文脈の中で作られたものに過ぎないってことに気づくんです。だからいろんな「経験」には意味があるんです。

誰かと誰かがつながることは、「自分の経験」を広げること

中村:今やろうとしているのは、キャリコンの輪を通じた「関係性」ですよね。まさに人と人とがつながるというところ。本日のプログラムを通じて、納得したのは、僕たちは「やってきた経験」の中でしか自分事に思えないということです。

誰かと誰かがつながることは、「自分の経験」を広げるということです。それを今は、Twitterで発信して、それを見た誰かがまた他の誰かとつながってゆくことができる様になった、本来人がやってきたことなんです。

そうした繋がりの背景にある大切なことををどこかに置いてきてしまっている。もう一度僕たちがそれを再定義し直して、「つながり」を作っていくことで、あらためて総和としてできることの可能性が無限になると思うんです。「イノベーション」という言葉はあまり使いたくないですけれど。これこそイノベーションなんだと思います。

田中:うん、本当にそう思います。

中村:そこで僕らキャリコンが、自分の経験を開くための仲介役になっていく。それを、まったくの素人じゃなくてキャリアコンサルタントであるというところにこそ自信を持ってもいいと思うんですね。理論をたくさん知っているわけなので、それを今度は自分にどう活かしていくのかがポイントになりますね。

横のつながりは、1人が全部やる「労働集約モデル」を変える

田中:医者とか弁護士は、医師会、弁護士会って(コミュニティが)あるんですよ。職業的に医者というのは、例えば脳外科医だったら「私はロボットアームを使ってこういう手術をやった」という事例を共有するんです。そうすると1人が全部やる労働集約モデルから、患者さんに対する知見・ナレッジを共有することで、全国で、同時多発的に手術ができるわけね。

1人しかカリスマ脳外科医がいなければ、その人が稼働できなかったら手術ができないじゃない。そうしたら、(もし患者が4人いたら)残りの3人は亡くなられちゃうかもしれない。ということで、彼らは医師会なるものや勉強会を絶えずやりながらネットワークを作っているんだね。

弁護士は弁護士で、個人だけでやると法令に対しての解決策が偏ってしまうから、所属する弁護士会とかをベースにしながら、時代の中で変わっていく法令との向き合いの中で、事象、ケースに対して的確な答えを導き出そうとするわけじゃない。

キャリコンってどういう職業かと言うと、やはり1対1に強いんですよ(笑)。だからサッカーで言うと1対1に強いんだよ。これは特技。特技なんだけど、「1対1でどういうことが課題感になっているか」とか、「クライアントさんに対してはどういうふうに向き合ったらいいか」という、1対1の関係性を他の人に共有することはできるんです。

そもそも、キャリコンは医師や弁護士よりももっとパブリックに、社会的役割をはたせると思います。僕は社会的分析を得意としているからどう考えているかと言うと、医者は身体的に何か問題がある時に頼るよね。弁護士は、何か揉め事になってから頼るじゃない。

もちろんキャリコンはキャリアに悩んでる時に頼るんだけど、実はそこにグラデーションがあると思っていて。

キャリコン同士がつながるための「SNS」活用のススメ

田中:「キャリア」については、例えば軽度のうつっぽいかたちで悩んでしまっている人もいる。その場合は臨床心理、臨床カウンセリング、キャリアカウンセリングの手法で伴走しなきゃいけない。でも、次の対象が先ほどの(自分のパーパスを言えない)4,000万人だと考えるならば、その4,000万人の人たちは全員がそんなかたちで悩んでないわけ。ただモヤモヤとしている。

ドクターや弁護士ほど深刻レベルは深くないんだけど、なんとなく力を発揮できてないという人たちがものすごい数いるんですよ。

中村:広く深いですよね。

田中:そう。その時に、「なんでキャリアコンサルタントの人に相談するんだろう」ということも、実際のケースのビフォーアフターを見るのが一番わかりやすい。私のところに来てくれたAさんが、こんなふうに社会にまた復帰していっているとか、Bさんが企業の中でこんなふうにやっていっているという発信を、みんなにしたほうがいいのね。

これは恐らく、厚労省が用意している国家資格をあげるまでの過程ではできないと思うんですよ。みなさんがプロとなって巣立ってからやり続けることです。

キャリアコンサルタント業界を引っ張ってきた著名な先生たちに1つ足りないなと思うのは、やはり世代的なものでしかないと思うんだけど、SNSが苦手なんだよね。

本人はすごいパワーを持っているんだけど、本当はもっと横につながれたはずなんだよね。例えば、研究者が研究会をやっていて、たぶん70〜80人集まるんだけど、逆にいえばたった70〜80人しか聞いてないんですよ。

中村:そうですよね。

田中:「なんで700人、7,000人じゃないの?」と考えなきゃいけないのね。

我々はここに集まる。SNSで集まれて、YouTubeもある。Twitterもある。そうしたらもっと交流できる。だからこそキャリコンの輪が「1万人だよね」って掲げてくださったのにはすごく賛同するんです。100人じゃないんですよ。

ここに230人いるけど、「300人にしましょうね」じゃないわけじゃない?

中村:リアルな数字ですね。それって「目の前の数字」ですね。

田中:そう。だからある意味「キャリコン」という役割を我々が再認識した上で、まずベースのネットワークとして「1万」でいこうというのは、すごく具体的な数値としても的確だし、それを2023年に実現していければとてもいいですよね。そのための組織が集まるということだよね。

6万の有資格者たちはどこにいるのか?

田中:私からちょっと中村さんに聞いてみたいのは......(全国でキャリアコンサルタントの)登録者は、6万人いらっしゃるんですよね。

中村:6万人いますね。

田中:政府は10万人にしていこうとしていて、現在6万人いらっしゃる。その人たちはどこにいるの? ということを聞きたいんだけど。

例えば資格を取りますよね。そうすると......僕はそのへんがよくわからなくて。各地域で資格を取った。そうすると、その人たちはどこへ行っちゃうんでしょう?

中村:なるほど。いや......本当にいい質問です。

田中:(笑)。

中村:それが今回、我々がキャリコンの輪としてやっていく根底の話なんですけれど。現在6万人いるんですよ。私も10年やってきて、その方たちの得意な領域が1on1なんですよ。

なので1on1で、地域ではつながってはいるんです、ただそれを総和として1万人にしようと思うと、なかなか隣同士のつながりが浅いんですね。だからまさに今日のポイントは、田中さんが話してくれたように、その真ん中に誰が入るかなんですよ。

もともとは関係性とか、人と人とのつながりとか、過去と未来と現在をどうつなぐのかとか、その先にビジョンをどう描くのかとかって、キャリコンのみんなが得意なことで、それを理論で持っていて、自分自身ではメソッド化しているんですね。

だから互いにつながって、これをぱしっと当てはめていったら確実にもっと輪が広がると思うんです。

「キャリコン」の活動をオープンにしていくには

中村:さっきのグラデーションの話で、キャリア相談の対象となる4,000万人って、キャリコンが6万人いると考えると決して多い数字じゃないんですよ。ただ、僕たちが、いつどこで何をしているかがなかなかオープンになっていないので、アプローチができていない。この現実は、これまでもあるんじゃないかなと思います。

田中:みんなであれしたら? SDGsバッジみたいのを1個作ったら? 「キャリコンの輪バッジ」みたいなもの。そうしたらさ、(この人はキャリコンなんだって)可視化できるじゃん。

中村:それはありですね。

田中:弁護士バッジってあるよね。医師会はそれぞれあるのかもしれないけど。要はあれって、「リチュアル」って言うんだけど、儀礼的な協同コミュニティだよね。いわゆる創造的コミュニティを作る時に、道を歩いている人がひょっとしたらキャリコンなのかもしれないけど、誰がキャリコンかわからないんだね。

中村:(笑)。確かに。それは大いにあります。

田中:オンラインでもわからないんだよね。オンラインだったらいわゆるデジタルバッジを作って、必ず登壇する時には、「キャリコン」という名前を掲げるから、認知できるんだよ。だけど(そうしないと)誰がキャリコンかわからないわけね。

中村:なるほど。完全に盲点でした。

Twitterのプロフィール欄に「キャリコン」と書くところから

田中:もう1つ課題があります。キャリアというのはプライバシーに関わることだから、言っちゃダメだとみなさん思われている。これは正しいし、守秘義務があるんだけど、「活動」そのものに関しては言っていいと思うの。

例えば「教育界隈でキャリコンをやっています」とか、「ミドルシニアに向けてやっているんです」とか、「若手・新卒のオンボーディングで、私、伴走しているんです」というのは言ったらいいと思います。

今、私は話しながら同時にもう1個のモニターを見ていて、Twitterで連絡をくださる方を全員フォローしているんですが......。その時にもったいないことが1つだけあって。書いたほうがいいんですよ、プロフィールに。

例えば普通の人をフォローする時に、私たちはプロフィールの紹介文の中で、何をやっている人かって、絶対書いたほうがいいよね。それをやるだけで、みなさんの横の輪が一気に広がっていくから。たぶん何人かの方は、「私はキャリコンをやっているんだけど、誰もフォローしてくれないので、だんだんTweetしなくなりました」みたいな話になっていると思うんですよ。そこがちょっとしたきっかけで(つながりが)できるんです。

ある1人の方のアカウントを見てみると.......。

(中村氏のTwitterアカウントを表示する。https://twitter.com/shokuba_fuudo)

中村:(笑)。確かに、「キャリコン」ってありますね。

田中:所属企業との関係で表立って写真を使うことができなくたって、今の時代はアイコンでもいいんです。

でも、プロフィールには書くんです。「キャリコン」と入れるといいよね。あるいは「プロティアン」とか、そうやって書くとつながるから。少なくとも今フォロワーが3〜5人の人がいたとしたら、230人はいくじゃん。ここに230人参加しているんだから。そこからまずスタートを切ったらいいよね。

新しい機会が生まれる「つながりの可視化」

田中:みなさん、今日のセッションを聞きながら、コメントを打ちながら.......みなさん優秀だから(言われなくても)プロフィールに書いていますね。「キャリコンに向けて勉強中」。すばらしい。

「キャリコンです」とか「どこどこの分野をやっています」とか、あとは「年に何回やっています」とか。そうしたら、ある時からみなさんのところに「登壇してください」とか「話を聞かせてください」とか、いろんな話が来るから。それがつながりの可視化です。

中村:最初は自分でギブして地道につながりを作っていくので、「なかなか来ないな」と思うかもしれません。僕の場合はタナケンさんとプロティアン界隈でご一緒させていただいて、1年ちょっとやっていたら、具体的なオファーがちらほら来るようになりました。

田中:でしょ? だからどうでしょう、キャリコンのみなさま、歯磨きと1ツイートは日課にしませんか。

中村:(笑)。で、バッジを付けるんでしょ。

田中:うん、キャリコンバッジを付けて。だってプロじゃん。プロってそういうことですよ。 日本代表の浅野拓磨君は言ったよね。「僕は今から振り返ったとしても、1秒たりとも後悔しない4年間を過ごしてきた」って。

もちろん楽しい時間はあった。それもいいんだけど、我々だってキャリコンとして、みなさんはとにかくキャリアについて発信する。なんかいろんな理論を、「これは好きだ」とか「こんなケースがあった」とか、具体的に現場をやる。でも、我々が目指すべき方向性は、別に見えてないわけじゃまったくない。

中村:確かに。

田中:人をよりしなやかに、精神的により豊かに。経済的にも加わればいいんだけど、まずは内省的な部分で豊かな人生を送ってもらうために、みなさんはキャリコンになっているんだと思うんだよね。その全体的な方向性が共有できる集団は、強いと思うんですよね。

キャリアコンサルティングシップの可視化に向けて

中村:そうですね。ありがとうございます。僕もわかっている気になっていたところがあったんですけど、バッジはちょっと盲点でしたね。

田中:中村さんはそういうのは得意だからすぐできるね。

中村:いやいや(笑)。本当にこれは年内に立ち上げますよ。

田中:バッジを作るお金がなかったらクラファンもいいかもしれません。「キャリコンの輪バッジ」をみんなで出し合ってさ。出してくれた人にバッジをあげればいいじゃない(笑)。そうするとちょっと問題があって、キャリコンじゃない人も付け始めると(笑)。

中村:それは困りますね(笑)。

田中:難しいよね。でも広めるという段階に関して言うと、これからキャリアコンの資格を取りたいという人も付けてもいいと思うんだけどね。

中村:キャリコンじゃない人も申し込んでくれたら、キャリアコンサルティングシップの可視化と考えれば。いや、これはおもしろいですね。

田中:私があんまり話ちゃうと、次のプログラムも動いてしまうと思いますので...... みなさんと一緒により良いキャリアを作っていければと本当に心から思っていますので、また呼んでください。

司会者:タナケン先生、中村さん、ありがとうございました。話を聞いているだけで次の展開をいろいろ想像できますし、なんか勇気が出ますね。

田中:やりましょうよ、みんなで。『ウォーリーをさがせ!』と同じように、「キャリコンを探せ」ってやったら? 街にみんな出て「キャリコンの方〜!」とか言って、突撃インタビューとかね。

中村:(笑)。ありがとうございました。