夫婦2人で執筆した書籍『定年後夫婦のリアル』

大江英樹氏:みなさん、おはようございます。それではただいまから、『定年後夫婦のリアル』出版記念オンラインセミナーを始めたいと思います。

『定年後夫婦のリアル』の正式発売は(2022年)11月28日なんですが、都内の一部の書店ではもう店頭に並んでいるようです。そもそも、なんでこの本を書こうと思ったのかというきっかけですね。理由が4つ(スライドに)書いてあります。

理由1は「オファーをいただいたから」。日本実業出版社の佐藤さんという編集の方からご連絡をいただいて、「こんな本を書きませんか?」と言われたのが、もう半年ぐらい前ですかね。オファーいただいたからというのが、まず第一の理由です。

よくよく考えてみると、先般私どものほうでも、株式会社オフィス・リベルタスという会社を作ってちょうど10年経つので、創業10周年の記念セミナーをやったんですね。

その時にも「こういう本を出しますよ」という予告をしたんですが、ちょうど会社を辞めて、私も家内も2人で仕事を始めて創業10周年なので、いい記念になるしこの年に2人で書くのもいいなということで、書いてみた。これが理由の2つめですね。

3つめは「今までにないタイプの本だったから」という理由です。1番と2番はわかりやすいんですが、「今までにないタイプの本だった」とはどういうことか、説明しないとわからないと思います。

まず、夫婦で執筆しているということです。世の中で、ご夫婦2人で1つの本を執筆しているケースは意外と少ないんですね。

例えば、それぞれが自分の得意の分野や専門分野についてコメントしている本はいろいろあります。ただ、同じテーマにそれぞれが違う角度からコメントしている内容の本は、実はあんまりないんですよ。だから、ちょっとおもしろいタイプだなぁと。

夫婦だけでなく、独身でも参考になる『定年後夫婦のリアル』

例えば終活の話、お金の話、仕事の話とかいろんなテーマがあるんですが、そのテーマに対する夫の言い分、妻の言い分というかたちで、それぞれの視点でコメントしているのがちょっと変わった点かなと思います。

基本的にはすべて体験に基づく話です。もちろん、一部は人に取材した話のエピソードを載っけたりしているのもありますが、原則は全部体験に基づく話なので、どれも机上の空論ではないということですね。

それから4つめ。『定年後夫婦のリアル』というタイトルなので、当然夫婦で読むべき本だと思う方がわりと多いと思うんですが、決してそういうわけでもなくて。これ、実は1人でも読めるんですね。1人で読んでもけっこうおもしろい。

実際に発売前にプロモーションも兼ねて、出版社の方からいろんなところに本を渡していただいたり、送っていただいているんですけれども、独身の方からも「おもしろかった」という声をいただいていることが多いです。

そんなわけで、ぜひみなさんも読んでいただいて、楽しみにしていただいたらいいんじゃないかなと思っております。

定年を機に、これからの夫婦生活を考え直す

じゃあさっそく、今日の本題に入っていきたいと思います。定年とは、誰にとっても一大事です。例えばずっと会社で働いていて、いよいよ60歳になって定年を迎える人にとっても一大事ですが、パートナーがいらっしゃる方だったら、男でも女でも関係なくパートナーにとっても一大事です。

だからどうしても、定年という1つの大きな節目で、定年後の生活やいろんなことを考えてやっていかないといけなくなるわけですね。

もうすでに亡くなられた方ですが、上方落語で桂米朝さんという噺家の方がいらっしゃるんです。その米朝さんの落語の枕に「目に付いた女房この頃鼻に付き」という川柳が登場します。

川柳といえば、「サラリーマン川柳」というものがありましたが、この「サラリーマン川柳」の中の傑作でとってもおもしろかったのが、「粗大ごみ、朝出したのに夜帰る」というやつですね。これ、奥さんと旦那さんそれぞれに対しての、ちょっと揶揄しているようなところがあるんです。

でもですね、鼻に付こうが、粗大ごみだろうが、やっぱり捨てるわけにはいかないわけですよ。定年後は、一生付き合うことになるのが夫婦なわけですね。ですから定年を機会にして、夫婦としてこれからどうやって生きていくのかな、と考えてみる機会は必要なのではないかなということで、この本を書いたわけです。

これは7つの章からなっております。第1章、生活。第2章、仕事。第3章がお金で、第4章が健康、第5章がコミュニケーション。第6章が終活。最後には記事というよりは、2人の対談みたいなかたちで書いているんです。

第1章から第6章まで、それぞれ人生においては非常に重要なテーマばかりです。私も妻もどちらかというと、資産運用とかiDeCoとか、そういったお金に関する話題をいろんなところでお話しする機会が多いです。(書籍の内容も)お金が中心と思われるかもしれませんが、そういうわけではない。

「友だち」だと思っていたのは、ただの仕事仲間だった

やっぱり老後、定年後はいろんなテーマがあって、それぞれがとっても大事なことなので。それぞれの章を合わせると、全部で40項目ぐらいあるんですよ。

だから、本を読んでいただいたら40項目全部が出てくるんですが、今日は1時間でその40項目を全部お話しすることはできません。私から3つ、それから妻から3つ、それぞれから3つずつテーマを取り上げてお話をしていきたいなと思います。

まずは私から。ここからは夫の一言、私からの一言で3つのテーマについてお話をさせていただきたいと思います。

まずはこれ。第1章の「生活」の5番目に出てくるんですが、こういうタイトルの記事ですね。「『現役時代に友だちはたくさんいた!』と思うのは、そもそも勘違い」。定年後に友だちを持つことは、とっても大事なことです。これはもう、いろんなところで私も言っているし、多くの人も指摘していることですね。

ところが、私がいろんな企業に出掛けていってこういう話をすると、みんな「ふふん」「いや、そんな心配なんかする必要ないよ」「だって俺なんか、もう毎年年賀状を600通ぐらい書いているんだぜ」「もう友だちはいっぱいいるんだよ」と言うんですね。

でも、私はそれを「本当かなぁ?」と思うんです。現実にいろんな方に話を聞いたり、それから取材した記者の人に話を聞くと、「現役時代は友だちがたくさんいたんだけど、退職してから数年経つと、途端に友達がいなくなった」と、よく耳にするんですね。

それに対して私は「あなたは間違っていますよ」「別に退職したから急に友達がいなくなったのではなくて、そもそもあなたに友だちなんかいなかったんだ」と言っています。

それは友だちではなくて、単なる仕事仲間だったんですね。だから、仕事仲間、あるいは知人と「友だち」は、明らかに違うんですよ。これは勘違いしてはいけない。

定年後のキーワードは「自立」

それから部下についても、「以前は部下がとっても慕ってくれたのに、最近は声をかけてもなんだかんだ理由をつけて断られて、飲み会に誘っても来てくれない」みたいなことも言われるんですよ。

そんなの当たり前の話ですよね。だってその部下が慕ってくれていたのは、あなたが人事上の評価権を持っていたからです。たったそれだけのことですよ。だから気にしているのはあなたのことではなくて、ボーナスの査定です。

会社を辞めてしまったら、ぜんぜん知らないおじさんですからね。そんなに関わり合いになりたくないわけですよ。当たり前です。

こういうことに気がつかないでほったらかしていると、気がつけば孤独なおじさんになってしまっているんですね。だから、周りに友だちもいないから、どうしても奥さんにまとわりついたりすることがあるわけですね。

また、企業の中でやるセカンドライフセミナーとかライフプランセミナーって、出てきた講師がいい加減なことを言うんですよ。「定年退職後は奥さんを大事にしなさい」とか。それ、今は大事にしていないのかよ、という話じゃないですか。そうでしょ?

そんなしょうもないことを言うから、濡れ落ち葉みたいになって、ずっと奥さんにまとわりついたりしてしまう。これはもう絶対にだめですよ。やっぱり、定年後は自立しないといけない。

そういう意味では、SNSはいいやり方だと思うんです。SNS、特にFacebookなんかはけっこう年配の人の好むメディアなので、利用されている方も多いと思います。ただ、これもやっぱり注意が必要です。

「現役時代にたくさん友だちがいたんだから安心」は誤解

なんで注意が必要なのかというと、SNSでのつながりはそんなに強くはないので、リアルなつながりのほうが大事です。私もSNSだけのつながりはあんまり信用していません。実際に会ったり話をしたりしないと、どうかな? と思ってます。

だから、SNSをきっかけにするのはいいんですが、同時にコミュニティを持つ、あるいはコミュニティに所属することがすごく大事なことではないかなと思います。私もいくつか自分でコミュニティを作ったり、あるいは作っていただいたコミュニティに入らせてもらったりしています。

ただ、あんまり1つのコミュニティにべったりと入り込んでしまうと付き合いが狭くなってしまうので、できるだけいろんなコミュニティに顔を出しながらやり取りをしています。そういう中でも個人的に親しくなった方なんかとは、リアルで友だちになってお付き合いをしています。

38年間勤めていた会社を辞めて10年経つんですが、10年経ったからというわけではなくて、会社を辞めて2~3年のうちに会社時代の知り合いはほとんどいなくなりました。当時の同じ会社に勤めていた知り合いで、今でも交流があるのはせいぜい5、6人ですね。それぐらいのもんです。

その代わり、辞めて以降はコミュニティに入ったり、仕事でのつながりがあったりして、親しくなった人はたくさんいますよ。北海道から沖縄まで、全国を合わせたらたぶん300人ぐらいいるんじゃないですかね。それぐらいのお友だちができています。

だから、やっぱりコミュニティを大切にすること。それと、人のために何かやってあげることが大事ですね。これは仕事をする上でも大事ですが、仕事以外でも、自分にできることを人のためにしてあげることが、人とのつながりとか信頼感を作っていくことになるので。

「現役時代にたくさん友だちがいたんだから安心」というのは、絶対にそんなことないですから。本当に気をつけていただきたいと思います。

「サラリーマンは現役時代は自信過剰」

それから2つめ。これはみなさんもびっくりすると思うんですが、第2章の「仕事」の項目の5番目に出てくるところです。「『自分は大した仕事なんかしてこなかった』と思うべし!」が、私の意見ですね。

私もずっと長い間サラリーマンをやっていたのでわかるんですが、だいたいにおいて、サラリーマンは現役時代は自信過剰です。退職する時は途端に自信喪失してしまうんですが、会社にいる間はだいたい自信過剰ですね。

「俺のことを人事部はちゃんと評価してくれていない」「俺の実力はこんなものではない」「あいつより俺のほうがずっと仕事ができるのに、あいつはゴマすりが上手だから偉くなった」とか、どうしてもそういうことを言いたがるんですね。

現役時代は、本当に自分の仕事を過大評価しすぎです。結果として、家事、育児に対する無理解が起こりがちになるんですね。よくありがちなのは、「俺はこんなに毎日しんどい思いをして、一生懸命大変な仕事をしてる。家族を養うために必死で仕事しているのに、主婦なんて気楽なもんだよな」とか。

「ちょっと子どもの手がかからなくなると、やれ友だちとランチだ、テニスだ。気楽でいいよな」みたいなことを言う人がいるんですよ。特に50代以上ぐらいの人の中にはね。若い人はそんな人、あんまりいないと思うけど。

いつまでも自慢話をする“迷惑な人”にならないために

要は、あまりにも自分のやってきたことに対する自己肯定感が強すぎるんですよね。逆に言うと、そういうことを言うと本当に嫌われます。知らないうちに、すごく尊大な、偉そうな態度になっています。

まあ、これもある程度無理もないんですよね。今の50代以上ぐらいの人は、多かれ少なかれ大黒柱バイアスがあって、自分は一家の大黒柱だと思い込んでしまっている。本当はぜんぜんそんなことないんですけどね。

外で仕事ができるのは家族のコミュニケーションがあってのことだから、必ずしもそういうわけでもないんですが、「自分が」と自慢したがるというか、すごくそういう気持ちになりがちですね。

よくわかりますよ。自慢したいことは山ほどあるけど、そんなもの他人にとっては何の興味もないんですよ。

だから自己肯定感の強すぎる年寄りは、いつまでも過去を引きずって、昔の自慢話をしたがる迷惑爺さん、老害爺さんになってしまうんですね。これはもう本当に、迷惑以外の何でもないです。こういう人、本当にたくさんいますよ。

おそらく今日のセミナーに出ておられるみなさんは、そういうことを真面目に考えようと思って話を聞こうとしておられるので、そんなことはないと思うんですけどね。こういうセミナーに出ていない人、「あなたですよ」と言いたい人が、私もいっぱいいるんですけれども。そういう人たちは本当に注意しないといけない。

大事なのはこれまでの会社人生ではなく、これからの人生

それに対して、「自分は大した仕事なんかやってこなかったんだ」と思っておくことは、すごく大事です。大事なのは、これまでの会社人生ではないんですよ。そんなものもう終わってしまっているんだから、大切なのはこれからの自分の人生ですよね。

「自分は大した仕事なんかやってこなかった」と思うことで、これからは気分を一新して、新しいことをがんばろうという気持ちになれるわけです。

ですから私も「大した仕事なんてやってなかったよ」と思っているんですよ。10年前に会社を辞めた時から、そう思おうと自分自身に言い聞かせてきたんですけれども、本当に年を経るごとに「ああ、ぜんぜん大したことをやってこなかったなぁ」と思います。

実際に自分が「現役時代にこんなことをやったなぁ」という仕事の思い出はもちろんありますよ。ありますけれども、それは自分が所属していた会社の名刺の力でできたことが多くて。自分自身の力になってくると、「いやぁ、大した能力もなかったな」と思うんですよね。

そういう気持ちを持つことが、迷惑爺さん、老害爺さんにならないために必要なことだと思うので、特に男性の方は気をつけていただきたいなと思います。