「逃げてもいい」と言われても、逃げる場所がない

遠藤洋之氏(以下、遠藤):(視聴者から)次はすごく壮大なご質問をいただいています。「『いい学校』というのは何なんでしょうか」。一言で答えるのはなかなか難しいかなと思うんですが、いい学校って何なんでしょうか?

今井紀明氏(以下、今井):これは本当に個人的な見解ですが、やはり「子どもの権利が尊重されている学校」なのかなと思っています。各学校や自治体によって状況が違うので、子どもたちの意見を聞きつつ、学校作りができているのか。

学校単位というか自治体とかのレベルにもなってくるとは思うんですが、実は「ユキサキチャット」でこの間不登校のアンケートをとった時に、10代の中高生から言われたのは「『逃げてもいい』というメッセージは出ているけれども、正直逃げられないじゃん」と。

「学校が要因を作っているにも関わらず、家にも逃げられない子はどうすればいいんだ。しかも、その要因と向き合っていないのって学校じゃん」という意見もありました。他にもさまざまな意見が「ユキサキチャット」上に300人くらいから来ていて。

子どもたちの意見とか、考えやニーズをなかなか聞いて来なかったのが学校なのかなと思っているので、まずはそこの部分を変えていく必要性があります。

日本の学校に足りないのは「子どもたちの意見を聞く」こと

今井:これは民主主義的な意見・感想かもしれないですけど、日本は一定程度学力保障はあるかもしれないですが、「子どもたちの意見を聞く」というところが弱かった部分だと思います。

いい学校を作る上で、子どもたちの意見を聞くというか、子どもの権利を保障していくという視点は、学校をよくしていくために必要だと思っていますね。

遠藤:ありがとうございます。僕も一言だけ。もともと教員を目指していて、教員を志した時はそこまで考えてはいなかったんですけど、大人になった今考えてみると、学校での思い出って今でも覚えていることがたくさんあって。そのほとんどが「褒めてもらったこと」だなと思っていて。

10代、10歳未満は自分の性格を形成する上ですごく重要な時期だと思うので、いわゆる「自己肯定感」じゃないですけど、褒めてもらえる、認めてもらえるような経験がたくさんできるような学校体験が増えたらいいなと思っています。

続々と質問をいただいています。

今井:めちゃくちゃ質問が来ていますね。すごいな。みなさん、ありがとうございます(笑)。

遠藤:ありがとうございます。「学校と外部機関をつなぐ役割を担う団体や、個人が充実できるような仕組み作りに向けて、登壇者(今井氏と遠藤氏)ができることは?」。これ、先に僕からいいですかね。

今井:どうぞどうぞ。

遠藤:僕らの会社はITの事業と人材の事業をやらせていただいているんですが、ITの事業のほうではDX、機械化、IT化をどんどん進めていきます。

人材のところでいうと、「Sangoport」というメディアを運営していて、いわゆるマイノリティの方であったり、あとは時短で働くママさん、パパさん、シニアの方の就労支援をさせていただくことで、こういった社会の実現につながればいいなと思っています。

教員だけでは、福祉の相談に対応するのが難しい

遠藤:当社はビジネスを展開している会社なので、ビジネスを通して、プラスアルファでSAKURUGメンバーに働きやすさや働き甲斐を組織として提供できればなとは思っています。今井さん、どうですかね。

今井:これも難しい質問ですが、学校と外部機関をつなぐ役割ですね。「ユキサキチャット」自体は学校との連携はめちゃくちゃ強くて。

ほぼ毎日とまでは言わないですが、学校のSSW(ソーサシャルスクールワーカー)と呼ばれる方とか、SC(スクールカウンセラー)の方から問い合わせが全国から来ていて。「この子を支援していただけませんか?」という相談が本当によく来ています。

食糧支援や現金給付支援での文脈が多かったりするんですが、学校単体だけでは難しい。学校の教員だけだと、福祉的な相談に専門性をつけていくのはかなり難しいと思っていて。

先生にあまり求め過ぎていくのも難しいなと思っているので、NPOとの連携を充実させていく必要性はあるのかな思っています。政府に関しては、孤独・孤立の文脈で、官民の連携プラットフォームを作っています。

そっちはそっちで民間とか官がくっつきながらやっているので、学校に関しても「連携先としてこういうのがあるよ」とか、例えばD×Pのポスターを設置させてもらってもいるんですが、もっと支援の幅を充実させていく必要性は大きくあるのかなと思っていますね。

どうしても課題が大きい時代に、政府だけが動けないという実情もあったりもするので。それはそれ自体大きな問題だと思うんですが、民間からなんとか作り上げていって、それをモデルにして、政府にも提案していくことが必要だと思います。

カタリバさんとか、他のNPOさんもいろんな連携をやっていますが、まずそういった実例をどんどん作っていくことが、私としてはできることかなと思います。民間企業としても、できることを模索していく。SAKURUGさんのように模索していくというのが、必要なのかなと思います。

遠藤:ありがとうございます。

「意見を出すこと」も、個人でできる支援の1つ

遠藤:その流れで、次の質問が「個人でできること」というご質問です。「すべての子どもが家庭環境や経済状況に左右されずに教育を受けられるようになるために、個人でできることはありますか?」ということです。

これは僕個人としても、今井さんにぜひお聞きしたいなと思っているところです。それこそD×Pさんに支援をさせていただいたり、あと実は今日はチャリティの……。

今井:ありがとうございます(笑)。チャリティTシャツね。

遠藤:着させていただいているんです。個人的には、こういうご質問を個人の方からいただけることがすごくうれしいというか、心強いなと思う反面、じゃあ実際にできることは何がありますかね。

今井:何個かあるかなと思っていて。まずはTシャツありがとうございます。着てくることをぜんぜん知らなかったので、僕もチャリティTシャツを着てくればなぁと。それは置いといて。

個人でできることはいくつかあるかなと思っています。1つは、文科省がパブリックコメントを求める時があるんですよね。各官庁から求めることがあるんですが、例えばさっきのフリースクールの話だったり、オンラインで授業を受けられるようにしようとか、そういったことをパブリックコメントから意見を出していくことは必要かなと思います。

なかなか政治に反映されないところはあると思うんですが、けっこう官僚の方々は見ているので、そういったところで意見を言っていくことが必要かなと思っています。

個人交渉ではなく、集団になって声を挙げていく

今井:あとは、民間のNPOへの協力。寄付とかボランティアでもいいと思うんですが、D×PだけじゃなくていろんなNPOさんが実例を作ってきているので、実例を作っていくことに対してお金を出すとか、協力をする。時間を割いて協力するところが必要なのかなと思っています。

ユキサキチャットも、この半年で何回官庁に呼ばれたか。D×Pは大阪のNPOなんですが、何回も東京から「来てくれ」と言われて、提案させていただいたんですよね。なので、民間企業から比べたら大した規模じゃないんですが、小さな規模だとしても実例が作れるという意味では、寄付をするとか。

例えば民間のNPOさんが求めているボランティアに参加して実例を作っていくとか。個人でできるのは、声を出すこと。あとは、寄付とかボランティア。ここが大きいかなと思っていますね。それ以外に挙げれば、選挙に参加するとかいろいろあると思うんですが、まずはそこができることかなと思っています。

遠藤:ありがとうございます。あっという間にあと10分くらいなんですが、もう2つだけ行っちゃいたいなと思っています。

「フリースクールの支援は経済的な負担が大きいので、資金援助が必要です。そういった声を伝えて実施するためには、どこに交渉するのが効率的でしょうか?」というご質問です。ここに交渉すればすべてが解決する、というところは、なかなかないかとは思うんですけど。

今井:交渉となってくると、個人単位だと難しいですよね。やはり面になって声を挙げていかなければ、なかなか難しいなと思っています。声を挙げる時に重要なのは、1人ですることではなくて、グループで数になって声を挙げていくことが必要になってくると思うので。個人交渉だと、どうしても力が弱くなってしまうことはあると思います。

人が集まることで「無力」が「微力」になる

今井:ただ、民主主義のこの社会において極めて重要なのは、グループを作って大きな数になっていくことで、実は無力じゃなくて微力になっていって、微力がもうちょっと大きな力になっていくところだと思うので、そこの部分は必要かなと思っています。あと、現実的な解決方法としては奨学金とか、いろんな民間のサービスも出てきてはいます。

場合によってはなんですが、経済的に親御さんを頼れない家庭は、子どもさんから連絡が来れば「ユキサキチャット」の給付支援も検討もできますので、何かしら言っていただけたらと思っています。私たちはかなり柔軟に対応していっておりますので、何か言っていただけたら思っております。

遠藤:ありがとうございます。今井さんの言葉の「無力ではなく微力になる」というのが、すごくいいなと思って。

今井:そうですよ。

遠藤:僕自身も事業をしていると、自分のやりたいことに対して無力感ではないですけど、「すごくハードルが高いな」と思ってしまうこともあるんです。そこで何もしないよりは、少しずつ続けていくと微力になって、それが大きな力になるということで、僕も勇気をもらったような気がします。

今井:ありがとうございます。特に社会において、1人の力はかなり弱いですが、それが数になっていくとちょっとずつ力が溜まっていく。D×Pも同じなんですが、寄付者さん、月額の寄付のサポーターさんが2,700人くらいいて、その方々が積み上げてくれたおかげで、今の事業ができてきているので、そこがやはり大きいですよね。

積み上げてかたちが大きくなっていくと、かたちになった提案ができるので、そこが大切だなといつも思いますね。

遠藤:なるほど、ありがとうございます。

苦しい時は、親も「感情を出す瞬間」を持つ

遠藤:じゃあ、もう1つだけ。

「子どもが不登校になると子どもが気になる。ケアしなきゃ。でも生活のために働かなきゃ。いろんな現実に板挟みになる親御さんが多い。そんな方に向けて苦しい時の働き方や心の持ち方。子どもとの関わり方など今井さんからのアドバイスやコツはありますでしょうか」ということです。切実ですね。

今井:これは僕が言ったら、すさまじくおこがましいというか。

遠藤:いやいや。

今井:ちょっと話がずれるかもしれないんですが、僕自身はステップファーザーで2人の子どもを育てています。ステップファーザーとは何かというと、パートナーと結婚して、パートナーの連れ子を育てていること。つまり、血のつながりがない子どもたちなんです。

僕自身は不登校にはなってないんですが、悩んだ時期があって、すごく苦しい瞬間がありました。不登校の環境だとまったく違うと思うんですが、しんどい時は訪れるかなと思っていて。

その時に僕が特に大切にしていたのは、もし不登校のお子さんをお持ちの方で、パートナーさんがいらっしゃったら、パートナーさんとの対話をすることが大事かなと思っていて。僕は夜になるべく時間を空けて、週2~3回話す時間を必ず設けていて。意見がかなり違ったりもしました。

もしパートナーと話せるようじゃなかったら、相談先がすごく大切かなと思っています。実は僕はコロナ禍でステップファミリーファーザーになったので、相談先が少なくて困ったんですが、相談することが大切だと思います。

つまり言葉にしていくこととか、感情を出す瞬間を持つとか。泣いてもいいと思うんですよね。

親が気持ちを我慢すると、子どもに当たってしまうことも

今井:苦しい時に感情を蓋にしておくと、どうしても子どもに当たってしまったりもすると思うので、ぜひ親御さんには泣く場所や気持ちを吐露する場所を大切にしていただきたいなと思っています。正直、本当に厳しいと思うので。

それを変えていくための取り組みとして、こういった話の場があると思うんですが、苦しい時に相談できたり、気持ちを吐露する場所ですよね。(相談相手は)知らない人がよかったら、知らないところ。

実はカタリバも親御さん向けにオンライン相談もやっていますし、カウンセリングとかさまざまな民間の機関もあったりするので、そういったところで話をしていくこと、頼っていくこと。パートナーに頼れなかったら、そういったことも必要なのかなと僕は思っていますが。短めに答えちゃいましたけど。

遠藤:いえいえ。思いは十分に伝わりましたし、大変なことを乗り越えていらっしゃる今井さんだから刺さりますよね。

今井:いやいや、ぜんぜん。

遠藤:今井さん、あと5分くらいしかなくて。

今井:そうですよね。だと思ったから、早めに切りました。

遠藤:ありがとうございます(笑)。最後にD×Pさんの取り組みと、今後についてをお話しいただいて、最後に我々Sangoportの話をして締めたいなと思います。

今井:ありがとうございます。

若年層のセーフティーネットづくりを目指して

今井:D×Pの今後としては、新しいセーフティネットを作っていこうと思っています。特に今は、10代の若年層のセーフティーネットができていない。困窮相談のオンライン相談は政府もしていませんし、若年層支援は圧倒的に弱いので、それを作っていきたいなと思っています。

なので、今日は法人とか行政の方もいらっしゃると思うんですが、今は徳島市と一緒に連携していて。企業さんだと、10代、20代がいる場所にポスターやカードを設置していただいているので、ぜひ一緒になってサポートすることができればと思っています。

個人の方や法人の方、月額寄付のサポーターも1,000円からやっておりますので、ぜひ参加していただけたらうれしいです。一緒になって10代の孤立の問題を解決できたらと思いますので、ぜひよろしくお願いします。

遠藤:ありがとうございます。「ここを聞いてみたい」「こんなことって可能ですか?」ということがあれば、気軽にご相談していただいて問題ないということですよね。

今井:そうですね。何かありましたら、ぜひ言っていただければと思います。

遠藤:よろしくお願いします。僕も今井さんから学ばせていただくことがすごく多いですし、D×Pさんの一員になれているのが個人としてもすごくうれしいなと思っているので、また一緒にいろいろできればと思っています。

今井:ありがとうございます。不登校や、親御さんからの相談があった時など何かあったら連携できたらうちもうれしいです。

遠藤:ありがとうございます。

D&Iを目指す採用マッチングプラットフォーム「Sangoport」

遠藤:あと1分ですが、当社のSangoportも簡単にご紹介させてください。D&I、DEIを推進する採用マッチングプラットフォームでして、働くママさん、パパさん、シニアの方、LGBTQと呼ばれるジェンダーに悩みを抱えている方の採用支援をやらせていただいています。

もし企業さんで「人を採用したい」というニーズであったり、「お仕事を新しく探している」という方がいらっしゃいましたら、ぜひSangoportからご連絡いただければと思っています。あっという間の1時間でしたが、今井さんありがとうございました。すごく学ばせていただきました。

今井:というか、今日は早かったですね(笑)。

遠藤:久しぶりに。

今井:もっと語りたかったんですが、楽しかったです。

遠藤:楽しかったです。ちょっと早いですが、2023年もよろしくお願いします。

今井:「良いお年を」だとちょっと早い気もしますが、ありがとうございます。

遠藤:早いですね。ご参加いただいたみなさん、本日はお忙しいところありがとうございました。引き続きよろしくお願いいたします。