クリエイティブディレクター・三浦崇宏氏の強み

三浦崇宏氏(以下、三浦):あらためましてThe Breakthrough Company GO代表、PR/CreativeDirectorの三浦です。よろしくお願いします。

(会場拍手)

今日は(スライドの)「1.自己紹介」「2.なぜクリエイティブが必要なのか」「3.クリエイティブはどのように機能するのか」、そして時間があれば「よくある質問~マーケティング・ブランディングとクリエイティブの関係」という話をします。

これ、実は全部で90分くらいの講演なんですね。僕は「The Creative Academy」というクリエイターやマーケター、起業家向けの短期間の教育プログラムをやっていますが、その一発目で話す講義を、今日は40分だけ抜粋してお話しします。

(スライド)5、6の「実践篇」と「改めて」はクリエイター向けのスクールでお話しする部分なので、4の「クリエイティブをどのようにつくるのか?(概念篇)」くらいまでお話する予定です。

まずは自己紹介です。(スライドに表示したような)こういう会社をやっています。

早稲田大学の第一文学部を卒業して、その後2007年に博報堂に入りました。博報堂というと、普通はマーケティングとか営業とかPRとか、縦割りの職制でキャリアを送っていくんですね。

僕の場合は、問題児みたいな社員だったので、最初はマーケで3年やって、その後PRで3年やって、その後クリエイティブというかたちで転々としまして。この時転々としたことが結果的に、今の自分の武器になったと思っています。

つまりクライアントさんのマーケティングから、クリエイティブ、ブランディング、そしてPRまで一環してサポートできると。これが今の僕の強みになっているんですね。

博報堂で10年働いた後、独立しました。グロービスさんもまさにVCの事業をとても強く展開されていますけれど、僕ももともとは「スタートアップを応援する広告の会社」を作りたいと思って独立しました。

独立から6年くらい経った今は、スタートアップだけでなく、ファミリーマートさん、損保ジャパンさん、ソニーさんなど、けっこう大きい会社のクライアントさんの仕事もやるようになりました。(スライドに表示したのが、僕の)キャリアですね。

広告代理店におけるクリエイティブ

もう少し自己紹介を続けます。博報堂は広告代理店です。広告代理店とは、基本的には「メディアの枠を取引すること」をやっているんですね。いわゆる、不動産会社に近いビジネスモデルです。今日この場にも、実際(広告代理店で)働かれている方もいるかもしれませんけど。

その不動産のメディアという枠を取引する時に、「じゃあその上に、どんな広告をのっけようか」「どんな映像を流そうか」という話をする。その時に、ある意味オマケとしてクリエイティブがいるんですね。

それに対して僕らは、「『クライアントさんの事業』や『クライアントさんの社会の認識』まで変えることができるはずだ」と考えました。なので、博報堂は広告代理店ですが、GOは「変化と挑戦の会社だ」と自分たちを規定して独立しました。

「クリエイティブの力で、社会のあらゆる変化と挑戦にコミットする」をテーマにやっています。今社員数50人で、売上35億円くらいの会社になっています。クライアント数は160社くらい。いわゆるコンサルティング、マーケティングの会社としては、非常に順調に成長している感じですね。

フロントのメンバーで会社の売上利益を割ると、生産性としてはマッキンゼーとかBCG以上の数字を出すことができていて。僕らは「クリエイティブというものが、いかに社会に対して、顧客に対して価値提供できるか」を証明したいんです。こういう気持ちで会社を作っているので、ここまでの5年間の冒険の中では成長を実感できていますね。

最近やった仕事では、例えばファミリーマートさんのプライベートブランド「ファミマル」というものがあります。これは去年の10月にローンチして、そこから1年間で、ファミリーマートさんのプロダクト、プライベートブランドの全部を作り変えるお仕事をしていて。

おかげさまで今、ファミリーマートさんの売上がすごく伸びています。業界で3位だったんですけど、今2位まできているんですね。

あと、もしかしたら使っている方もいるかもしれませんが、コーセーさんの雪肌精ですね。かなり老舗のスキンケアブランドです。植物由来のプロダクトなので「無刺激である」ということを売りにして、世の中にデビューしました。でも、それから10年20年と経ち時代がオーガニックや植物由来などが当たり前になって、そういったことにみなさんが驚かなくなっている。もう古いブランドになっていて。

既存ブランドをV字回復させた実績

そういうタイミングで羽生結弦さんをタレントとして起用して、「エイジレス、ジェンダーレス、そしてサステナブルな属性を持った化粧品ブランドである」ということを訴求しました。これも、おかげさまでめちゃくちゃ売れています。

ファミリーマートさんのファミマルは完全な新商品で一気にグッと伸びたんですね。一方、コーセーの雪肌精は、もともとあったブランドをV字回復させた事例です。

もともとあって、売上や認知が緩やかに落ちてきたブランドをV字回復させる。マーケターとしては、実は新商品のスタートよりもこういうV字回復のほうが難しいと言われています。去年はこの両方で、会社としての実績を作ることができて良かったなと思っています。

それからワンメディアさんという会社の事業開発をしたり、彼らの新規事業の宣伝広告を渋谷駅で打ったりとか。

あるいは東京都書店組合さんですね。今「木曜日は本曜日」というテーマでやっています。紙の書籍離れから書店に足を運ぶ人たちも減っていて、書店さん、今すごくピンチでして。

この10年で、15,000店舗あった書店が11,000店舗に減少しているんですね。非常に難しい状態というタイミングで、「街の方々が街の書店に行くようなキャンペーンを作れないか」とお話をいただきました。東京都の助成金をいただいて、「木曜日は本曜日」ということで、「毎週木曜日は本屋さんに行こうよ」というキャンペーンをやっています。

また、グロービスさんのような長期のビジネススクールではないんですが、先ほど言ったようにクリエイターや経営者向けに、半年で集中的にプログラムを受講できる「The Creative Academy」という講座もやっています。

あとは「THE CREATIVE FUND」という、我々クリエイター・プロデューサーがスタートアップをハンズオンで支援する投資ファンドもやっています。出資しているのは以下の企業です。

電動キックボードの「LUUP」、スマート/コネクテッドハウスと言われている「NOT A HOTEL」という高級不動産のスタートアップ、ペットフードのDtoCをやっている「PETOKOTO」、レシート買取アプリの「ONE」。(これは)レシートを撮影して送ると、ポイントになるサービスを提供している会社ですね。

このあたりへの出資と、ブランディングやプロモーションもやっていて。こういった(スライドのような)CMを作ったり、LUUPのロゴを作ったり、車体のデザインをしたりですね。我々は「出資した上で、会社の成長もサポートする」というやり方をしています。

我々の会社のこれまでを簡単にまとめた映像があるので、ご覧ください。

【映像再生】

うちの会社のWebサイトにもありますので、興味があったら観てみてください。

広告とクリエイティブの違い

僕はクリエイティブディレクターという仕事をしていますが、この中にクリエイティブディレクターの知り合いがいる人っていますか?

(会場挙手)

1人、2人くらい。ありがとうございます。もしかしたら同じ業界の方かもしれません。「クリエイティブディレクターとは一体何か」。このことを、今日は先にみなさんと合意しておきたいと思います。

クリエイティブディレクターとは、「広告の専門家」とされています。電通とか博報堂で15年くらい働くと、プロジェクトの責任者になれる役職がクリエイティブディレクターなんですね。

ただ我々GOでは、そのようには捉えていません。クリエイティブディレクターとは「クリエイティブの専門家」だと考えています。広告とクリエイティブ、これは違うものです。広告とは「アウトプットのかたち」であって、クリエイティブとはその手前にある「能力」や「考え方」の問題です。

要は、柔道とかボクシングという競技があるのに対して、その手前に「強い」という事実がありますよね。競技者として、人間として。我々は、その部分がクリエイティブだと思っています。

Appleの時価総額の変遷に見る「クリエイティブの価値」

今日は「社会現象のつくり方」を1つのテーマにしていますが、そういったことを考える上でも、今クリエイティブというものがものすごく重要な時代になっています。じゃあ、なぜクリエイティブが必要なのか。これを話していきましょう。

(スライドにあるのは、)グロービスの関係者の方々も、もう耳にタコができるほど聞かされていて、何度も目にしていると思います。世界の時価総額ランキングですね。

今から30年以上前の1989年では、1位~24位はほとんど日本の企業でした。一方で2018年。ここ最近ですけれども、1位~20位の間に日本の企業はほとんどありません。

この30年の間に、日本企業はとても衰退してしまった。一方で、グローバルではITを中心とした企業がどんどん成長している。今は日本が成長から取り残されてしまった時代です。

もうちょっと見てみると、例えばグローバルの時価総額トップ5はバーッと推移しています。

これを見ると、この20年はAppleが時価総額を世界的に成長させていった時代でもあるわけですね。じゃあAppleとは一体どういう会社なのか。もちろんみなさんiPhoneやMacBookなど、いろいろ持っている方も多いと思います。

Appleとは一体何かというと、パソコンの会社でもなければ、インターネットの会社でもない。彼らは「世界で最もデザインに投資している会社」なんです。世界で最もデザインに時間とお金と人を投資している会社が、結果的にグローバルで最も時価総額を高めているという事実。これが、すごくシンプルにクリエイティブの価値を説明していると思います。

あるいは国内でアンケートをとった時に、半数以上の企業が「今の2倍以上デザインへの投資を増やしたい」と答えています。すごくシンプルなんですよね。

「モノがいい・安い」など、機能と値段が同じ時に、我々は何を選ぶか。「なんとなく好きなほう」「なんとなく持っていて誇らしいと思えるほう」「なんとなくかわいらしいほう」「なんとなくかっこいいほう」を選ぶ。

今、市場における購買の意思決定の原因として、デザインがものすごく重きを置かれているんです。これは、みなさんの生活で考えればイメージできると思います。

人口減少時代の日本でできること

もう1つクリエイティブの話をします。「資本主義経済の限界」という言い方をよく耳にすると思います。これはどういうことか。簡単に言うと、日本社会においてはこれからお話するようなことなんですね。

資本主義において、今年は1万円のものを100人に売ったとします。そうすると当然、来年はもっと売りたいわけですよね。じゃあ来年は1万円のものを200人に売ります。これって、人口がどんどん増えている時には当然のようにできたことですよね。でも今、日本は人口が減っている。だからこれが簡単じゃないんです。というか、ほぼ不可能ですよね。

今日はここに100人いらっしゃいます。これは僕のシールです。後で欲しい人にはあげますけど、例えばこのシールをみなさんに1,000円で売ります。100人のうち半分が買ったとします。じゃあ「来週の講義はこの倍の人が来ると思います」と言われたら、「またその半分が買うんだろうな」と思いますよね。

でも「来週の講義は、今日の半分しか来ません」という時に、シールの枚数の売上総数を増やすのは、ほぼ無理ゲーですよね。今、人口が減りつつある日本で、資本主義経済を維持するというのはそういうことです。

高度経済成長期だったら成立していたロジックなんです。1万円のものを今年100人に売ったら、来年は200人に売ろう。がんばろう。できる。でも今、人口が減っているタイミングでそれをやるのは相当難しいことです。

だとしたら、我々は何をするか。すごくシンプルに「来年は12,000円のものを100人に売る」んです。つまり値上げです。

もう1つは「来年は1万円のものを100人に2回ずつ買ってもらう」。リピートを創出することです。基本的には、この2つのほうが合理的だし、言ってみればこの2つしかないんです。これはなんとなくイメージできますよね。

つまり、「値上げ(単価の向上)」あるいは「リピート(体験の向上)」です。

我々はなぜ「おかわり」するのか。それは購入した体験によって、「自分にとって価値がある」ことを実感できたからですよね。

例えばそれがサプリだったら「飲んだらなんか痩せた気がする」と。あるいは家電なら「買った時のお店の方がものすごく丁寧に接客してくれて、わからないことを懇切丁寧に教えてくれた。次に買う時もあの人から買おう」と。

あるいは、「体験そのものを意識させない」やり方もあります。自分で1個サプリを買ったら来週も届く。再来週も自動的に届く。お金を引き落とされている感覚もなく、自動的に買っていく。つまり、「リピートさせるには体験を磨き込んでいく」のが1つの道なんです。

ブランディング・値上げが大事な理由

このように「モノは変わらないけど、価値を変えることができる」ことを、我々は「ブランディング」と呼んでいます。モノは変わりません。

例えば、コーヒーってセブンイレブンで100円で買えますよね。でもみなさん、スターバックスに行くじゃないですか。別にそんなに味は変わらないですよ。もちろん、この中には味に詳しい方もいるかもしれないけれど、言ったらそんなに変わらない。でもスターバックスに行くのは、我々は「そこに何らかの価値がある」と信じているからです。

もう1つ、なぜブランディング・値上げが大事かというと、こういうことなんですよ。インターネットが普及しました。これはグローバルで考えると、例えばイギリスやアメリカ、フランスの人からすると、それすなわち「自動的なグローバル化」なわけです。

それまでは手に届く範囲の人にしかモノが売れなかった。それが、インターネットによって世界中の人と連絡を取ることができる。世界中の人にモノが売れるようになった。あらゆる商売をやっている人にとって、インターネットの登場は「自動的なグローバル化」を意味していたんですね。

それに対して、日本では語学の壁があったので、すぐに「モノを海外に売る」という発想にはならなかったんですね。世界中で市場が広がって、結果的に世界中の物価が高騰したと。一方、日本は市場が広がっていなかったので、労働価値が据え置きのままだった。

日本では賃金は上がらないのに、世界の物価高騰に合わせて物価だけが上がっていって、経済が停滞している。今はこういう状況です。

だからこそ今、「日本の経済の勝ち筋は値上げにある」と言っても差し支えないんです。今あるモノを、少しでも高く売っていく。モノは同じでもいいんです。どうやったらそこに、「高く買ってもらうロジック」を作れるか。どうやったらそこに「価値を感じてもらえるブランド」を作れるか。これがものすごく問われている状況です。

日本経済を救う2つのカギ

もう1つ。モノは変わらないけど、体験を変えることもできますよね。先ほど言ったように、サブスクのかたちにする。あるいはみなさんがスターバックスで買うのは、おいしいからだけじゃないですよね。あのお店で落ち着く体験ができるから。あのお店に流れている雰囲気が好きだから。

あるいはみなさんが保険に入る時、不動産を買う時、もちろんモノの条件も大事です。でもそれ以上に、高額商品を買う時は売ってくれる人のホスピタリティや人間力が大事になりますよね。モノは変わらないが、体験を変えること。つまり「モノを買う」という時に、モノ自体の価値をサービスに変えることで、リピートしてもらうことができます。

日本ってもともと、生産力、資源、テクノロジーで諸外国に勝てない状況ですよね。もちろん高度経済成長期では護送船団方式によって強い生産力を持って戦うことができていた。でも、今はそれはできなくなっている。

そもそも現代では、モノの「機能と価格」に差がつかないんです。みなさんがヨドバシカメラやビックカメラ、どこでもいいんですけどテレビを買うとします。どれも品質に差はないですよ。値段にも差はないです。

じゃあ何で差をつけるのかというと、モノ単体ではないんです。「モノにまつわる体験を磨き込むこと」で価値を作っていくしかない。売ってくれる人のホスピタリティ、輸送が楽、アフターケアがめちゃくちゃ優れている。そういったことです。

こう考えた時に、日本特有の「おもてなし」とか、柔道・華道・茶道・剣道のような「道」という概念がヒントになります。この話は後ほどしますね。

なので、日本経済を救うカギは「値上げするためのブランディング」と「リピートを作り続けるためのサービス化」であると。このことは、なんとなく理解してください。このブランディングとサービス化には、クリエイティブの力が必要不可欠です。今日はこういう話をしたいと思っています。