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『遅考術』著者 植原教授に学ぶ、頭のいい人は遅く考える!? 思考の質を深める10の方法とは(全3記事)

“間違った答え”を避けるために、あえて遅く考える「遅考術」 発案者が語る、自分の考えを「疑うこと」から始める思考術

直感的・反射的に結論を導き出してしまったり、間違った情報に惑わされないためには、「遅く考えること」が大切。そんな、遅く考える思考法を身につけるための方法を解説した『遅考術(ちこうじゅつ)』の著者である関西大学総合情報学部教授の植原亮氏が、遅考術を身につけるためのポイントを紹介します。本記事では、イベント参加者からの質問に回答しながら、遅考術の汎用性の高さについて解説しました。

「マニュアル」と「オート」という2つの思考モード

財前英司氏(以下、財前):さっき「マニュアルモードから練習していると、オートモードに変わってくる」という話がありましたが、正直我々も興味がないことは、どこまで行っても興味が沸かないじゃないですか。それをやり続けるのは大変だと思うんですが、マニュアルモードをがんばって続けると、ある時にどこかでオートモードに変わるのか。

よく「量質転化の法則」と言われますが、何かを上達するために一定の「量」をこなしていると、ある時それが「質」に変わる。今日もちょっとお話ししたんですけど、ファンダメンタルというか基礎ですよね。スポーツでもピアノでも何でもそうですが、基礎練習ってめちゃめちゃつまらない。

「これをやっていてどんな意味があるのかな?」なんて思うようなことでも、実は繰り返して自然にできるようになると、その後の技の習得につながったりする。「ちょっとおもしろいな」と思えることをがんばってやっていると、ある時それがオートモードに変わる、みたいな感じですかね。

植原亮氏(以下、植原):また本文中の話になるんですが、古代ギリシャのアリストテレスがそういうことを発言していました。自分にとって、自然なことというのは心地よい。だからそれは楽にできるので、まさにこっち(オードモード)側ですね。直観で考えるというのは、ごく自然な思考の流れで考えます。

それに対して、不自然なことや自分にとって慣れていないことは苦痛である。だからあまりやりたくないんだけれども、それでも習慣というかたちにまで親しんで染み込ませていくことで、心地よいものにも変わっていく。その可能性があるんだと言っているわけですね。それは私も正しいと思っていて。

遅く思考する「遅考術」は、どんな場面でも使える

植原:ちょっと苦しいところはあるんだけれども練習を続けていくことで、やがて自分にとって「第2の自然」になると、アリストテレスが言っています。ここでいう「自然」というのは、人間にもともと備わったものという意味ですね。

本能ともいえるような「第1の自然」と違って、本来は不自然だった、馴染みがなかったものも修練を通じてやがて第2の自然(Second Nature)に変わっていく。そうなってくると、自分にとって親しみやすい心地のいいものとして働いてくる。そんなイメージですね。

財前:そうですね。それが、今日で言うオートモードですね。最初は自分にとって不自然だったのが、やり続けることによって自然になってくると。

植原:まさにそうですね。

財前:ふだん仕事をしていて、何か問われたことに対してパッと答えが出たり、パッと考えたりできるようになるには、どれくらいの鍛錬が必要なのでしょうか。反復することって、1人でやるのはけっこう難しいですよね。

植原:せっかくSNSのようなコミュニケーションの手段がありますので、直接面識がないような人とも、こういう取り組みについて共有する。そういった工夫はできそうですね。

財前:そうですよね。やはり1回読んだだけでは身に付かないというか、これを知ってそのまま特定の事象に当てはめるお手軽ツールというよりは、「遅考術」はすごく汎用性が高い思考法なので、身に付けるまではすごく大変なんだけど、いったん身に付けると非常に有用です。

汎用性が高いというのは、どういう場面であろうが、どういう仕事に就こうが、はじめての事態に遭遇しようが使えるようになってくる、という考え方ですよね。

(遅考術は)特にこれからの時代には必要になってくるんじゃないかというのが、先生の主張というか、この本を通じてお伝えしたいことなのかなと思いながら読んでいました。でも、やはり1人でやるのはけっこう大変だな、モチベーションがなかなか難しいなと思います。

植原:難しいですね。

財前:ありがとうございます。

考えすぎて動けない時の対処法

財前:ここまで一気にワーッと来ましたが、「ここをもうちょっと詳しく聞きたい」とか、もしくは今のお話を聞いて思ったことでもけっこうなので、何かありますか?

質問者1:貴重なお話ありがとうございます。僕から2点ありまして、1個目が前のスライドのところなんですが、人によっては考えすぎて動けないパターンがあるかなと思います。

分析をしたり、止まっちゃう人はまずやってみたり、考えながら動くことも必要かなと思うんですが、そういう人がどう切り分けたり行動すればよいのか、植原さんに考えを教えていただきたいです。

もう1個が、行動を起こす上でのモチベートの管理、動機を与えることに関してです。例えば会社でチームを組んでいて、いろんな目的が走っている時。チームにはリーダーがいてメンバーがいると思うんですが、メンバーのモチベーションを管理するとなると、一人ひとり思うことや受け取り方が違うので、なかなか難しいと思うんです。

動機を与えるのが大事かなと思うんですけど、それについて植原先生からご提案があれば教えていただきたいです。

植原:グルグル回って考えが落ち着かないというか、先に進まない場合ですね。1つは、堂々巡りをしてしまう時に陥りやすい考え方のパターンを知っておくのは、対処法になるかなと思います。

バイアスを知っておくのも1つの手ですし、他の観点を使って検討を加える。他の人と相談するでもいいですし、文献に当たってみてもいいですが、自分だけでやっていくとどうしても限られた視点になってしまうので、突破するためのやり方としてそれはありかなと思います。

最終的に仮説は試さないといけませんので、実行してみて、3番まで考えた上で、それでも「これはうまくいかないんだ」ということはもちろんあります。でも、そうなったらまた1や2に戻っていただいて、ブラッシュアップをしたり、他の可能性を探っていただく。これが1点目ですね。

質問者1:はい。ありがとうございます。

「100パーセント正解が出るような思考法」はない

植原:2点目の、モチベーションの管理をグループの中でどうするか。これは非常に難しいところではあるんですが、具体的な目標が必ずあるはずなので、それに対して自分たち、特に個々のメンバーがそれまでにどのような貢献をしているのかを明確にする。

次に取り組むステップで、目標にどのくらい近づくことになるのかを明示化するような仕方で、示してやる。こうすることで、比較的モチベーションが維持しやすく、バリューが高まるかなと考えますね。

あとは、それに先立って記録を取っておくのも1つの手ですね。記録として「自分たちがここまで進んだんだ」というのがあった上で、「じゃあ次のステップへどれくらい進むか」を示すということですね。

質問者1:ありがとうございました。以上になります。

質問者2:植原さん、貴重なお話ありがとうございました。僕が疑問に思ったことというか、「どうするんだろう?」と思ったところがあります。先ほど、オートモードとマニュアルモードとの2つを挙げてもらったと思うんですけれども。

最初のスライドにあった「植原」という漢字が間違っていたことがあるように、だいたいオートモードに落とし込んでも、やはりミスが見つかる。そういう時には、マニュアルモードに落とし込むことが必要というか、「オートモードでもミスをする」という自覚が必要なのかなと思ったんですが、何かやられていることはありますか?

植原:まさにそうですね。ある局面でオートモードになるまでに熟練したことであっても、我々は間違うわけです。1つは、それについて自覚をしておくことですね。何事も100パーセント正解が出るような思考法はあり得ない。

それがわかっていると、もう1つ手だてが取れて、先ほどグループ・組織の話が出てきましたけれども、複数人で仮説なりを検討することで、オートモードでも「ここが間違っているかもしれない」と指摘する視点が確保できるんです。

多様な視点を持って思考することで、より正解に近づける

植原:ちょっと平凡な言い方になりますが、多様な視点。多様性が組織の中にあるメリットが、まさにそこにあるわけですね。オートモードになるぐらい訓練しても、みんなが同じ思考をするようになるわけでもないんですね。

それがまさに大事なところで、訓練の結果、なおも残る多様性が組織の中にきちんと確保されている限りは、個々のオートモード化されたご自身の思考の間違いも、それなりに検出されやすくなって、よりましな解決案が生み出される可能性が高まると考えられます。

質問者2:オートモードに落とし込んだあとでも、多様な視点をもって疑っていくことが大事ということですね。ありがとうございます。

質問者3:認知科学とかで、反証反駁されているものがあるじゃないですか。ああいうものに関して、植原先生はどうお考えですか?

植原:例えば、「再現性が今はない」と議論になっているところですね。

質問者3:よくTwitterとかで出ているマシュマロ実験とか、二重プロセス理論でも欠陥があるとされているのが、アメリカの「Journal(Journal of the American Chemical Society)』に載っていると最近知ったんですが、どのようにお考えでしょうか。

植原:ラディカルなケースとマイルドなケースで、いろんな対処の仕方があります。最もラディカルなケースは、もちろん全部やり直しになりますね。

哲学、あるいはそれに関わるような仕方で認知科学の成果を取り入れる限り、無傷で、どこまで行っても間違いが100パーセントないという立場に自分は立つことはできない。こういう視点を常に取り続けて、いずれ新しく別の議論が出てくるのであれば、そちらに向かうというのが1つです。

これはかなりラディカルなので、おそらくそこまで行きません。実際に起こるのは何かと言うと、認知科学や行動経済学などで話をされている知見の、どれがどのくらい妥当なのかがきめ細かく明らかになっていくというのが、これから起こると見込まれることなんですね。全部を投げ捨てることはおそらくなくて、それなりの部分が残るはずなんです。

「再現性30パーセント」は、実は低い数値ではない

植原:それに「再現性が低い」と言っても、人間のことなので、実は「再現性30パーセント」というのはかなり大きいんですね。

強調の仕方によりますが、「70パーセントの再現性がない」と言うとぜんぜんダメな研究に思うかもしれないんですが、人間という非常に状況の影響を受けやすくて、個人差も大きい存在からすると、30パーセントの再現性は実はとてつもなく高いのかもしれない。

そう捉えた場合には、かなり使える知見ということになるわけですね。また、認知心理学の研究の中でも、1970年代からむしろ繰り返し再現性が確かめられて、かなりロバスト(外部の影響によって影響されにくい性質)な知見として扱ってよいものもあると思いますね。『遅考術』でも取り上げていますが、リンダ問題などがそうした例といえます。

一方、マシュマロ実験や社会心理学の一部については、けっこう疑念があるとは言われているんですが、それにしてもまだ検討の途中であろう、というところですね。認知バイアスについては、かなり信頼できる部分は今でもあると考える次第ですね。よろしいですか?

質問者3:ポパー主義の立場に立つ、ということですか?

植原:はい。「可謬主義」と言ってもいいんですが、科学であれ哲学であれ、間違う可能性が常に残る仮説のままである。こういう立場でいます。

質問者3:ありがとうございます。

自分の身の回りの「情報環境の信頼性」を見直す

質問者4:植原先生、お話ありがとうございます。私がちょっと感じたのが、まずは自分を否定するところから始まって、マニュアルモードで考えを深めていく。最後の3つ目のパターンの時に人に聞いたり、自分から証拠を取ったりする行動に出ると思うんです。

他人と相談する時に、「間違っている」と言いますか、白と黒と付けにくいグレーゾーンの答えもあるんじゃないかなと思うのですが、どこに自分の思考を落とし込んだらいいのかをお聞きしたいです。

植原:難しいところなんですが、周りの人間がバイアスまみれで、信頼がおけない可能性さえあるということですね。それは極端ではあるんですが、まったく懸念ゼロというわけではない。なにがしかのバイアスのもとに誰もがある。

1つはそれを積極的に捉えて、「他の人なりのバイアスがあって、自分とは違う方向から見解を述べることができる存在なんだ」と捉えてあげる。

もう1つは、あまりバイアスまみれでも困るので、時折でいいので自分の身の回りの人からなる、あるいは自分がふだん使っているネット情報など、自分が置かれた情報環境の信頼性をチェックしてみることですね。

自分も情報ネットワークの中のある結節点としての存在ですので、ネットワークに結び付くどこかに置かれている。そのネットワークがどのような在り方をしていて、どのくらい信頼性があるのかを時折確かめてみる。

例えば、頑なに自分の見解を変えないことは良くないことのようなんですが、うまく捉えれば、頑固一徹でその観点から常に何かを述べてくれる、ありがたい人でもあるわけですよね。そのことを理解しておくのも1つの手かなと思います。

思考をアップデートしないと、間違いを起こすこともある

質問者5:私はわりと思い込みが激しいタイプかなと自分で思うんですが、年とともに、そのせいでミスをすることがだんだんあると思っています。

せっかく学習して得たもののはずなのに、オートモードでミスを起こしてしまうのはどうしてなのでしょうか。年齢とともに記憶が破損したりして、オートモードの劣化が起きているみたいなことが、科学的にあるんでしょうか。

植原:「本能」という言葉がさっきも出てきましたが、それによる人間共通の弱点という方向もあります。もう1つは、やはり個人の経験に基づいて起こってしまうような、ある種の「偏り」ですね。

例えば、若い時に学んでそれがうまくいっていた。しかし、うまくいっていた時と環境や条件が変わっていったにも関わらず、それをアップデートしていないために起こってしまう。このような人間の生物種としての偏りと、個人が学んできた中で条件が変わっていってしまったために起こる。そういった2点があるかなと思っております。

質問者5:わかりました。ありがとうございます。

バイアスを疑い、自分自身を否定してみる

質問者6:先ほどの3つのステップのはじめに、「まず否定しましょう」というところがありました。一方で他者から言われた意見に対しては、否定というより肯定して、建設的にできるように物事を考えていこく思考、という気がするんです。

ついつい否定を意識していくと、そちらにも悪い影響があるのではないかと思うのですが、そのへんはどうでしょうか。究極は周りに友だちがいなくなっちゃうんじゃないかと心配するんですが(笑)、いかがですか。

植原:1番目は、あくまでも自分の中で思いついた考えに対してで、他の人の見解を直ちに否定することではないということです。

他の人の見解は、むしろ3番(「もっともだと思える仮説にたどり着くまで粘り強く考える、他の人と相談するのも有効」)で役立つところなので、「自分の考えは間違っているかもしれないんじゃないか。その上で新しい考え方としてはこんな仮説が考えられる」と。

「他の人に聞いてみたらどうだろう?」と参考にするというところで、いったん否定するというのは自分の考えについてです。ちょっと功利的ですけれども、他の人は自分の仮説を鍛えるための存在だと捉えていただいても良いと思います。

質問者6:ありがとうございます。物事を意識してやっていこうというよりも、つい否定から入ってしまいそうなイメージがあって。

植原:それはそれで別のバイアスな気がしますので、もしご自身にそのような傾向があるのであれば、常にネガティブに捉えるのではなくて、ポジティブな側面もあるんだというのを見ていく。こういうモチベーションを持っていただきたいところではありますね。

質問者6:ありがとうございます。

財前:「自分にはそういうバイアスがあるんじゃないか」と、自覚するということですね。おっしゃるとおり、他人を否定したらなかなかうまくいかなくなっちゃうので、自分自身を否定していくというかたちですかね。

自覚したことを可視化すると、やるべきことが見えてくる

質問者7:私は今、ゼロ秒思考をしているんですが、一般的に「頭の回転が速い人はすごく頭がいい」みたいな話がありますよね。それは、マニュアルモードをすごくしっかりやってオートモードになったからということで、自分の中で解決はしたんですけれども。

私自身、自分の考えが堂々巡りになっちゃうタイプの人間なので、ゼロ秒思考で自分の思っていることを1分間でバーっと書いて、整理しています。それは、マニュアルモードに入る前の段階という認識でいいんですかね?

植原:直観的に自分がどのように考えてしまうのか、その直観を直接行動に移すのではなくて、直観そのものを目に見えるかたちにするわけですよね。そうすると、いったん目に見えている自分の思考が検討の対象になりますから、まさにこれですね。

「条件の見落としがあるのではないか」とか、「実は他にもっともな仮説が実はあるのではないか」という、その出発点になるという意味では、マニュアルモードのほうに移っていると言えますね。

質問者7:そうしたら、遅考術の中の方法の1つ捉えたらいいということですね。

植原:そうですね。例えば1番(「Aではないのではないか」といったん否定する)に戻った場合も、思いついた考えをいったん否定する時に、「そもそも自分は何を思ったのか」を自覚して捉える必要がありますね。その段階としても大事ですね。

質問者7:わかりました。ありがとうございます。

財前:これは我々も起業相談の際によくやっているんですが、自覚したことを目に見えるように可視化することで、足りないこと、やるべきことなどを確認できる。今言われたように、(自分の直観的な考えを)書かれているというのが、1つポイントなのかなと思います。

植原:人間の記憶はとても貧弱なので(笑)。

財前:頭の中でやるのは難しいですね。

質問者7:ありがとうございます。

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