2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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財前英司氏(以下、財前):本日の華麗なるゲスト講師ということで、植原先生にお越しいただきました。先生は今、高槻にある関西大学の総合情報学部で教授をされています。一言で言ったら、めちゃめちゃユニークな先生です。
総合情報学部はITや情報系の学部なんですよね。その中で、哲学系でいろんなことを教えているという、すごく変わった先生です(笑)。それだけでも「どういうことだ?」となると思うんですが、今日は先生が書かれた『遅考術(ちこうじゅつ)』という本の中身についてお話ししていければなと思っています。
この本(『遅考術』)を持っている方は、53ページを見てください。「時代によって道徳が移り変わる」という事例が書いてあるんですよね。その中に、『ある明治人の記録』という本について言及されているところがあります。
これは、柴五郎という(会津藩士の)人の遺書をもとにした話です。現代では、歴史好きな人もあまり知らない人も、「明治政府は薩長が江戸幕府を倒して作った」みたいな考えがありますよね。幕府側の会津(今の福島県)は賊軍みたいなイメージですよね。
錦の御旗を掲げて「朝敵の会津を倒せ」とか、白虎隊の悲劇などをなんとなく知っているかもしれないですが、我々の多くは「歴史の勝者側」からだけでしか見ていないんです。この本は、いわゆる賊軍とされた会津側からの視点を得ているのが、すごくおもしろいんですよね。
現代の話だと、「ロシアが悪でウクライナは可哀そうな犠牲者」みたいに言われていますよね。プーチンが悪者、ゼレンスキーは悪に立ち向かう指導者みたいな。メディアが二項対立させた情報などで、なんとなくそう思ってしまっているけど、正義の反対は悪ではなく、別の正義がある。視点や立場とか見方を変えると、ぜんぜん違うんですよね。
僕らは薩長側とか、もしくはウクライナ側から見ていたりするんだけど、視点を変えると会津側やロシア側にも大義や言い分があるのではないか。どういう視点から見ていくかというのも、今日は先生にいろんなお話をしていただけるんじゃないかなと思っています。
財前:これも個人的に言いたいだけなんですけど、「100万回死んだねこ」の絵本を知っている人はいますか? でも、「100万回死んだねこ」というのは言い間違いなんですよね。実は正式なタイトルは『100万回生きたねこ』です。
福井県立図書館が『覚え違いタイトル集』という本を出しているんですが、司書さんが窓口で聞いた言い間違いの事例を集めたもので、けっこうおもしろいんです。「猫が100万回死んだ本を貸してください」「下町のロボット」「おい桐島、お前部活やめるのか」「人生が片づくときめきの魔法」とか(笑)。
人は自分が見たいように見るし、覚えたいように勝手に覚えてしまう。今日はそのへんの直観と熟慮という話にも、先生に触れてもらおうかなと思います。
というわけで今日の進め方としては、そもそも「遅考術」、遅く考えるとはいったいどういうことなのかとか、その必要性。どういうふうに遅考することが、どういったことに役立つのか、そしてなぜ必要なのか。それに関しての2つの思考モード。こういったベースの考え方がありますので、ここから先生にお話しいただきます。
植原亮氏(以下、植原):みなさん、こんばんは。ご来場ありがとうございます。(スライドを指しながら)ではさっそく、ぜひ学んでいただきたいところなんですけれども、これについて。
財前:ここのどこかに間違いがあるんですよね。わかりましたか? 植原先生の「植」が埴輪の「埴」になっている。このように、けっこう思い込みで書いてしまうことがありますよね。実はそれも本に書いてあるんですね。
財前:ここでは(レッスンを)10個と書いているんですが、10個やっていたらたぶん1日かかってしまうので、今日は本当に肝の肝の、最初の「遅く考えるとは」という部分のレッスン1と2について、いろいろお話ししていただければなと思います。
植原:「遅く考える」とはどのようなことか? というところから、説明をしたいと思います。大きく2点、遅く考えることの要素を考えております。1つ目が「思考の間違い」です。私たちはある特定の場面や状況に置かれると、極めて思考のエラーを犯しやすくなる。そういったことをまずは知っておく、ということですね。
直観的に日常的なモードで考えていくと、しばしば間違いを犯しやすくなっていく。まずは「ここは誤りやすい箇所なんだ」というところに注意を向けて、気を付けて、そして回避するというのが第1の段階です。
もう1つ、回避した上で何をするか。間違いやすい箇所なのだから、注意してうまく考えてなるべく正解に近づけるような、思考のための適切なツールを用いる。
(スライドに)「アイデアや妥当な仮説を導き出す」とありますが、ただ「うーん」とがんばって考えるだけではなくて、きちんとした道具立てがありますので、それを身に付ける。どのような道具なのかを理解する、そしてそれを適切な場面において適用する。これが大事ですね。
1番目の思考のエラーについては、私たち人間自身がどのような存在なのか。特に思考、認知の側面に関していかなる弱点を抱えているのか。比較的、こういったことは最近明らかになってきているわけですね。
認知科学、心理学、あるいは伝統的な哲学においても、「人間はこういった誤りを犯しやすい」と言う知見が蓄積されているわけですね。これついてよく理解した上で、注意を払える場面、ここぞというときに気をつける。これができるようになってくるというのが1つ目です。
植原:2つ目は「思考のツール」ですね。先ほど「哲学が専門で情報科学の学部にいる」という、かなり変わり種ということでご紹介いただきましたが、まさに哲学は、思考のための思考をいかに行うのか、そのための道具を開発・蓄積した学問でもあるわけですね。
哲学の問題は極めて難しくて、基本的には大雑把に「存在とは何か」みたいなところから始まりますし、あるいは善、悪といったものの本質はどこにあるか。そういった問題自体が非常に難しいので、うまく考えることさえ難しかったりするのです。
そこで、うまく考えるための道具も哲学の中で作られてきました。そうした蓄積がありますので、それも組み合わせて紹介していき、それを身に付けて思考の中で使っていく。それが2番目です。本書の中で「思考のツール」「思考の道具」と言う時には、そういったものを指しています。
財前:みなさんはこれからこの本を読まれると思うんですが、ふだんは今言った哲学とか本質的なことを考える機会は、なかなかないのではないでしょうか。それがこの本では対話形式で事例を書いていますから、読み進めながら身に付けられるんですね。
そこで先生にお聞きしたいんですが、「遅考術」ということで、そもそもなぜ遅く考えることが求められているんでしょうか。
植原:1つは、直観的にも十分正解に近い思考ができる場面はあるんですが、ある意味それはルーティンとなっているような課題に取り組む場面に限られるんですね。しかし一方で、ルーティンですべて済むような課題ばかりではない状況、時代の急速な変化が考えられます。
私たちが出会う問題は、直観的に対処すれば済む問題だけではなくて。一連の状況を考えると、次にいつ新しい問題、あるいは直観的に考えると間違ってしまいかねない問題に直面するか、わからないわけですね。
植原:直観だけで対処するのではなくて、いったん踏み止まって「もしかするとここで自分は間違ってしまうかもしれない」「陥りやすい罠があって、それに陥ってしまうかもしれない」といったことを知っておく。
そもそもそういった場面があって、もしかしたら自分がそういう状況に置かれているかもしれないということを、きちんと自覚する。いったん踏み止まって、間違いの可能性を検討する。適切な思考が進められているかどうかも検討する。ここに遅い思考の必要性があると考えた次第ですね。
財前:今はめちゃめちゃ情報が溢れていて、動画やTikTokが流行っているように、すごくインスタントに・短く知りたい、「早く答えが欲しい」というか、なかなか遅く考えることが難しくなってきてはいると思うんですが、そのへんはどうやってクリアしていけばいいんですかね。
植原:まさに、ある種の情報テクノロジーで「答えらしきもの」が向こうからやってくるような状況に自分が置かれているんだ、という自覚が大事です。放っておいても、自分から情報を取りに行かなくても、答えらしきものが向こう側からやってきてしまう。
しかしそれは、誰かの意図のもとに加工されて、都合よく飲み込みやすくなっている情報かもしれない。こうしたことを考えると、人間の頭の弱点に付け入るような仕方で情報が届いている。そういう可能性まで考えないといけないわけですね。こうしたことに対して、まずは自覚的、意識的であるべきだと思います。
財前:そうですね。まずは自覚することがすごく大事だというわけですよね。
財前:遅く考えることを自分自身が自覚しておかないと、我々も知らず知らずのうちに一方的に情報を浴びせられたりしてしまう。
この本の最後にも書いていますが、ついつい陰謀論的な話にも「そうなんじゃないか」となってしまいがちですよね。でも、そこでいったん立ち止まるというか、まずはここを自覚していることが大事なんですよね。
植原:本の特徴として、50何問か問題が用意されているんですが、自分自身の頭の弱点、弱みをなるべく自覚できるような問題、トピックを用意しています。その点で(本書には)工夫があると考えています。
単に「こういうところを誤りやすいんだ」と解説するだけではなくて、実感してもらうということですね。問題に取り組んでいただいて、「自分も含めて、まさにここでエラーを犯すんだ」ということが身に染みていただけると、自覚的になれます。
財前:まさに「無知の知」じゃないですが、自分が自覚していなかったことすら自覚していなかったことを、自覚する。知らないことすら知らない。意味、わかりますか?
(会場笑)
財前:まずは自覚、自分がどういった認知をするのかを知る。そこから「よりよい思考を生み出す」というところで、適切なアイデアや妥当な仮説を導き出す方法とかは、このステップの中にも入ってきているという感じですかね。
植原:まさにそうですね。
植原:けっこう原理的な話もしている場面がありまして、特徴的なのは、因果関係とその把握の仕方の部分だと思っています。原因と結果の関係のことをまさに「因果関係」と言いますが、この世の中の動きは何らかの原因があって起こっているわけです。
ある意味我々は、因果関係の把握は非常に得意ですが、得意過ぎるせいでエラーもしばしば起こす。そういう在り方をしているわけですね。因果関係に対してはどんなタイプの間違いが起りやすいのかという、ある種の整理ですね。
リストも作っておりますが、それが目安となって思考の道具となってくれます。明確に状況を捉えて、自分がどんな間違いに陥っているか、その可能性について検討するための道具になってくれる。
それから、科学で用いられている考え方もそれなりに取り入れています。因果関係をきちんと把握するためには、実験や調査が欠かせないわけですね。その基本的なアイデアがどういったものであるのかを解説して、問題にも取り組んでいただく。(『遅考術』は)そんな作りになっていますね。
財前:ありがとうございます。
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