2024.11.25
「能動的サイバー防御」時代の幕開け 重要インフラ企業が知るべき法的課題と脅威インテリジェンス活用戦略
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森戸裕一氏(以下、森戸):今、藤野さんと市川さんから「昨今のデジタル社会において、デジタルコミュニケーションが中心になる中、投資家と企業の関係性が変わってきたんじゃないか」という話をお聞かせいただきました。お二人のお話を聞いて、田村さんはどう感じられましたか?
田村穂氏(以下、田村):ありがとうございます。「投資家のみなさんとどうつながっていくのか」「どうつながっていかなきゃいけないのか」ということが、いつも心の中にあって。じゃあ、5年後、10年後はどうなっていくのかな? っていうのが、素直な質問です。ちょっと漠然とした質問ですけれど。
5年、10年つながり続けるために、我々にとって何が大事なのか。もちろん一番大事なのは「嘘をつかないこと」というのは理解しましたが、もう一段違ったメッセージをいただけるとうれしいなと思います。ちょっと違う話で申し訳ないんですけど。
森戸:藤野さん、いかがですかね? これから2030年、2040年に向けて、世の中はどんどんデジタル化が進むと言われてます。これから先5年と考えた場合、先ほどの延長線上で、投資家と企業のコミュニケーションはどう変わっていくんでしょうか?
藤野英人氏(以下、藤野):本当の意味でのインサイダー情報が必要なんですね。それはどういうことかと言うと、もちろん法律に触れるインサイダー情報は取っちゃいけないわけです。例えば、直近の数字がわかるようなデータを取りにいくのは良くないです。
でも、投資にとって非常に重要なのは「真のインサイドインフォメーション」なんです。それは、今流行りの言葉で言うと「パーパス」なんですよね。
藤野:要は、「この会社はいったい何が目的で、何をしたいのか?」「それはどれだけ本気なのか?」ということがすごく大事になってきます。その中で「パーパス」「Why」「意味」「ビジョン」「ミッション」などの言葉があります。
最近は「パーパス経営」という言葉が使われますが、自分の会社は何を目的として、何をやろうとしているのか。つまり、何を解決しようとしているのかが本当に大事なんですね。
その問題解決が完全に達成されなければ意味がなくて。逆に、そのための商品なら何でもいいことになる。それは、時代やお客さまの変化に合わせて手当てしていけばいいわけですから、実はその元の元がすごく大事なんですよね。
よく、「What」「How」「Why」と言いますよね。僕ら現場にいる人間は、「何をするのか」にすごくこだわる。実際に説明も「どういうものを作るんだ?」「何をやるんだ?」ということに関心が集まります。
でも、Whatよりもっと大事なのはHowですね。「どのようなやり方で、それを提供するんですか?」ということを考えることが、もっと重要。でも、さらにその先のWhyがとても重要になってきます。
投資家において、「長期投資家が優れていて、短期投資家はダメ」ということはぜんぜんないんです。これもすごく大事なので。でも企業には、より長期的な視点で結びつくことを重視する方が多い。だからそういう場合は、より長い目線で議論するんです。パーパスで語り合うのがいいと思いますね。
それで心がつながって、パーパスに対して「信頼できる」ということになったら、投資家は長い目線で投資してくれることになる。
藤野:だから「パーパスは何か?」というところが大事だと思います。人の本の宣伝になりますが、そこらへんのことは『2030年会社員の未来』に書いてありますね。
市川祐子氏(以下、市川):ありがとうございます(笑)。藤野さんに宣伝してもらって光栄です。
藤野:実はけっこう、ガバナンスやパーパスについて書かれている本ですよね。
市川:そうです。ありがとうございます。ちょうどスライドを用意したので、ご紹介しますね。
藤野:あら、なんか狙ったように(笑)。
市川:狙ったように(笑)。
藤野:いや、僕はぜんぜんこのスライド知らずに言ってますからね。
市川:私も「藤野さん、事前に見ていたのかな?」と不思議に思って聞いてました(笑)。
(スライドの図のように)3重の円の真ん中にWhyがあるんですね。その外側にHow、Whatがある。シリコンバレーのアクセラレータープログラムに参加した時に、ベンチャーキャピタリストの人が「Whyが一番大事だ」と書いていました。その時は「起業家にピッチの作り方を教える」というプログラムだったんですね。
そのキャピタリストが「How、Whatも見るけど、Whyに納得しなければ投資しない」とおっしゃっていて、「Whyがしっかりしていれば、環境が変わっても必ずサバイブできるし、人もついてくる」という話をしていました。
Whyは、やはりパーパスですね。Howは、どう参入障壁を築いているか。参入障壁の一番大きなものは「組織」や「カルチャー」ではないかと、藤野さんの著書にもそういうことがたくさん書かれていたと思います。そして一番外には利益、How muchですね。これは私が付け足したんですが、価値創造とはそういうつながりかなと思っています。
世界トップクラスの運用資産額を保有する、アメリカのブラックロックのCEOが、2019年に企業のCEO向けに書いたレターの中で「パーパスと収益は表裏一体だ」と言っています。「やはりそうなんだな」と思いました。
投資家にはいろんな方がいらっしゃいますが、パーパスにご納得していただいた投資家のみなさんは、10年くらいの長い目で見てくださる。「投資しているポイント、評価しているポイントがブレなければ、株価が乱高下しても持ち続けます」とおっしゃってくださることが多かったんですね。
森戸:なるほどですね。「プレゼンの講座で」ということでしたが、一般的には(What・Why・Howを含んだ)コンプリートメッセージのお話ですよね。
市川:そうです。
森戸:では次のテーマ、「投資家が選ぶ企業の条件」に移りますね。私は前職が富士通だったのですが、富士通さんが「パーパス経営」と言われています。そして、そこからDXを進めていくとも言っています。そういったことを、どうやって外部向けにメッセージを発信していくか? ですね。
先ほど花王さんの事例では「ESG経営に対する取り組み」というメッセージがありました。さらに「それはどういうステップで進んでいくか」というところも明示されています。
藤野さんとしては、IRも含めた外に対する情報公開・ディスクローズの世界では、どのような部分が見られていると考えられますか?
藤野:まず、一般論として話しますが、投資をしたい会社には3つの条件があります。当然、僕ら投資家としてもこの3つの条件を満たしている会社を探しています。第1番目は「お客さま第一主義」。とても大事です。投資したくないのは「会社のご都合主義」ですね。
2番目は「長期目線」。ダメなのは「短期目線」です。3番目は「データ主義」。これはかなり重要で、後半の話につながっていきます。もしくは「科学が大事」。ダメなのは「勘と経験」「過去の成功体験」です。
1、お客さま第一主義。2、長期目線。3、データ主義。1、2、3ともに「当たり前だろう」と思われるかもしれませんが、これがなかなか難しい。すぐに「会社都合主義」「短期目線」「勘と根性」になりがちです。
なぜかと言うと、意外と日本のディスクロージャーや体制が、どちらかというとそちらに向いているからです。「月次で数字を開示してください」「四半期で決算を出して3ヶ月後にチェックしますよ」となっているのですから。
「上場する時に予実管理が大事だ」と言われますよね。予算と実績を見ていく。だいたいの取締役会は、予実管理のチェックなんですよ。
「予算はどうなりましたか?」「実績はどうなりましたか?」「その差分はどうですか?」「それはどうなりましたか?」というのを、月次で見ていく。だから、実は真面目にやればやるほど、日本企業は必ず短期目線になる構造を持っているんです。
だから実は、ちゃんと会社経営の中で「10年後話そう」「そもそも僕らは何のためにいるんだ」ということを考えなきゃいけない。さっきのパーパスとかWhyの話もそうですよね。
藤野:僕は以前、投資会社にいました。3社ぐらい大手の会社にいたんですけど、サラリーマン時代に「社長、『投資とは何か』について今度じっくり話しましょう」と言ってみたんですね。そしたら社長は「お前、仕事しろ」って。
でもAmazonだと、「Buyとは何か」「買うとは何か」ということをとことん考えていて、哲学者も雇っているんですよ。「『買う』ということの哲学的な意味は何だろう」と常に議論をしていて、経営陣が合宿して話をしたり、若手のセッションもある。
でも、どうしても僕らは、今言ったような予実管理を中心に行ってしまう。それをいかに脱していくのかということは、日本の大きな課題だと思います。
森戸:なるほど。実際にそういうところをきちっとディスクローズして、IR情報を出している会社もあれば、未上場であれば出していないと。コロナの前まで、藤野さんは全国のいろんな企業さんの現場に出向いて、そのあたりを見ていたんですよね。
藤野:そうですね。実際に何を話すのかというと、社長さんに対して「最近何が気になっているんですか?」「どの仕事をしていると楽しいですか?」とか、意外とずっとそんな話を聞いています。
それから「どういうビジョン・ミッションですか?」という話をする時には、「それを社員にどう伝えていますか?」「いつ伝えていますか?」「社員はどのくらい知っていますか?」「じゃあこの3つ、唱和できますか?」「できるとしたら意味がわかりますか?」とか、けっこう細かく聞くんですよ。
そうすると、だいたい言いよどむんですよね。でも、経営者って特殊な人が多いので、嘘のない目で「ちゃんとやれています」と言う人もいるんですけど(笑)。そういうところも含めて議論していくことがすごく大事で、そこに尽きるんです。
藤野:足元の数字がどうのこうのを聞きすぎると、まさに危ないインサイダーの話になるし、僕らの場合はファンドサイズが大きいから、小さい会社だと投資するだけで3ヶ月かかるんですね。
そうすると、3ヶ月投資して、売るのも3ヶ月かかるから、やはり保有が数年になる。だから、その目線で話す必要があるんです。「今月がどうであるか」なんて話は、ぜんぜん意味がないんですね。
大きな社会変革の中で「この会社・この経営者は、真に時代に対応して成長できるのかどうか」ということを確認することがすごく大事です。だから、「社長が言っていることは口だけじゃない」ということを確かめるために、実際に現場に行って直接聞くんですね。
現場の人に「これって企業原則の3に則しているね」と話した時に、ポカンとしてないか? とかね。これ、けっこう厳しいんです。僕も経営者として、それをやられたら嫌ですからね。
森戸:なるほど。逆に選ばれる側の企業として、投資家の方々にどういう情報を発信したらいいのか。市川さんはどんなことに気をつけられたのでしょうか?
市川:いろんな投資家がいるので、藤野さんのお話とは対極の、短絡的なものの見方をする人もいます。そういう人たちも投資家としては大事なので、「伸びている」あるいは「儲かっている」ということのどちらかを見せていく。このように収益性を重視するところもあります。
一方で長期の投資家は足元の収益性だけではなく、「将来の成長性」「リスクの少なさ」、DCF(ディスカウントキャッシュフロー方式)的に言うと、「割引率の小ささ」を見るんですね。本質的な強さを聞いてくる投資家さんもいる。だから、「本質的な価値はこれです」ということを、どう表現するかが大切ですね。
市川:例えば赤字事業があって、それを立て直すのに「売ります。影響額はいくらですか?」だけしか聞かない投資家もいれば、「それはどうやってやるんですか?」と聞いてくる人もいて。
例えば「人を送り込んで、その人がこんなことをやっています」「目標設定の置き方を変えました」「目標設定の中にパーパス的なものが入りました」とか、そこまで説明することもあるんですね。きっと藤野さんはそういうことをやられているんだなと、今聞いて確信しました。
例えば海外のヘッジファンドみたいな方は、数字的な影響を端的にパパッと答えることを求めます。だから、それを簡潔に答えられることと、一方できちんと長期投資の方に向けて「本源的な価値はこれで、それに向けて何をやっているか」と説明できること。この両方を用意できるようにしていましたね。
森戸:なるほどですね。ありがとうございます。
藤野:今度はすごく一見簡単な話になるんですが、実はけっこう見ているところがあるんですね。短期的なところを見ていないかというと、そうではなくて。でも「儲かっていますか? いませんか?」と聞きに行くのは、あまりにも稚拙で良くない。だから、意外と僕らが見ているのが「ホームページの改変履歴」なんですね。
森戸:(笑)。
市川:そんなところを見られているんですね(笑)。ドキドキします。
(一同笑)
藤野:儲かってくる、もしくは売りたい商品があってそれに自信があると、ホームページにお金をかけるんですよ。(反対に)開示が鈍ると、ホームページの改変履歴が落ちるんですよ。
クローリング(クローラーがリンクをめぐってWebサイトを巡回し、情報を複製・保存すること)してみて、それまで活発にホームページを改変していた会社の更新がピタッと止まると、ほぼその後に下方修正が出ますね。
森戸:(笑)。
藤野:逆にバンバン改変し始めると、自信のある商品がある、もしくは数字が良いのがわかっているので、予算を使いにいっている時もあるんですよ。
だから意外とインサイダー情報には当たらないけど、「会社というものは、こういう時にはこうなる」と考えれば、見えてくることがいっぱいあるんです。そういう目でよく観察すること。よく企業を見ることが、とても大事ですね。
森戸:なるほど。田村さん、ちょっと苦笑いもされていますが、いかがですか?
田村:びっくりですね。
(一同笑)
田村:「出す数字」や「書きっぷり」がどう見られるのかばかり考えていて、ホームページの(写真の)笑顔は何年も変えていませんでしたね。びっくりしました。
森戸:デジタル社会なので、そういう意味でもやはり「どこが見られているか」「実際に見ているかどうか」といった情報も必要ですよね。
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