「ムダ」か「付加価値」かを分ける3つの質問

田尻望氏:さぁ、この「付加価値」をつくるために大切なこと。「そもそも付加価値とは?」という話です。これが今回の講演の中でのメインのお話です、「付加価値(成果)はどこにあるのか?」。

価値軸、コスト軸を分けて、価値がこれだけ見えた時に、ニーズがここにある。原価がここにあった時、付加価値(成果)はどこにあるのか。この本を読んでいただいた方であればわかると思うのですが、いかがでしょうか。

まずバツなのはニーズの上のこの部分ですね。ただけっこうここと言う方は多いです。「お客さまのニーズを超えてより良い製品を、もっと良い仕様で!」……ここのことを、ムダと言います。作ってはならない。

実はムダか付加価値なのかということを分ける、本当に簡単な問いがあります。それは「その機能があることで買うの?」「その機能を使うの?」「それを使ったら、お客さんは『役に立った』と言って使い続けてくれるの?」。この3つの質問に対して全部イエスなら、それは価値があります。でもこの3つの質問に対して、答えがすべて「わからない」だったら、それは作らないほうがいいですね。

「お客さまが買うのに役立つけど、使うかどうかはわからない」というのは、ありかもしれません。しかしながら今言った買う・使う・役に立つ、この3つにノーなのであれば、その機能はムダです。

キーエンスが作っているのは「潜在ニーズ」を叶えるもの

じゃあどこが価値なんですか? まず1つ目、お客さまの期待を叶えるところ。顕在ニーズを叶えるというのが価値です。実際にはキーエンスという会社はここのニーズ、ここの価値はあんまり狙っていません。狙っているのはこちらです。「ニーズの裏のニーズ」、潜在ニーズ。お客さまも気づいていないところというのを訴求しにいきます。そしてこの部分のニーズを叶えにいきます。

キーエンスという会社は記事とかでは「キーエンスはお客さまの『欲しい』と言うものは作らない」と言っているんですね。なので「ニーズ以上のものを作っている」と思われるかもしれないんですが、これが違うんですよ。

お客さまが『欲しい』と言うのは、お客さまが期待している顕在ニーズのことを指しているんですね。それで、彼らは潜在ニーズを作っているだけなんです。お客さまは潜在ニーズには気づいていないから、欲しいと言わないんですよ。自分が欲しいことに気づいていないので、欲しいと言わない。でも欲しい。それが潜在ニーズ。彼らはここにアプローチしています。

このニーズより上のところはは「気づかされても要らない」というものなんですよ。「その機能? あるんだ、でもいらない」。これがムダです。「その機能があるんだ、欲しい!」これが潜在ニーズです。キーエンスが作っているのはこちらです。

じゃあ顕在ニーズと潜在ニーズ、何が違うんですか? 最も違うなと私が思うところは、検索できるかどうかです。Googleで調べることができるかどうかですね。顕在ニーズは検索できます。だって知っているから、欲しいと思うから。しかし、潜在ニーズは検索できません。

そして重要なことは、もしその検索ワードを知っていたとしても、検索できないということです。なぜならその検索ワードが自分の問題解決になると気づいていないので、意識の外なんですよ。だから検索できません。

キーエンスの営業利益率が高い理由は「値引き」がないから

ではキーエンスという会社はどうやっているのか。その潜在ニーズを気づかせるんですね。「工場長。御社の業界で言うと、こういうところで生産性アップが求められていますよね」。「うん、求められている」と。

「業界の最先端で言うと、この装置の中のここにこうしていくと、こんな生産性向上がありますけれども、これはご存じでしたか」。「知らなかった。でも確かに生産性が上がるね」。

これが潜在ニーズにアクセスをして、価値が作られた瞬間です。そこからさらに彼らは、その時点で「実はこの生産性のアップですけれども、この機能を使うことによって実現できます」「うん、確かに」「この機能は業界初で特許出願中です」「なるほど」「価格、○○(円)でいかがでしょうか」と。

今、私はちょっとまどろっこしい話をしました。こんなに単純にはいかないですよ。ですが、今の私のお話の流れと仕組みによって、お客さまができなくなってしまったアクションがあります。何でしょうか。

そう「相見積もり」です。どういうことか? 「生産性がアップしました。価格は、これです」の間に何か言いましたよね。「生産性がアップします。それを叶えるのはこの機能です。この機能は業界初で特許出願中です。価格は○○です」。

業界初で特許出願中のものに、どうやって相見積もりをとるんですか? とれるかもしれないですけど、「特許出願中」と言われたら、(他社で見積もれるところは)ないですよね。だから相見積もりされないんです。値引かれないんです。

キーエンスと他社で、なぜあんなにもキーエンスが営業利益率が高いのか、他にも理由はあります。でも大きな1つの理由として「値引かれないこと」です。他社とキーエンスは、実は定価レベルで言うとそんなに変わりません。キーエンスがちょっと高いぐらいです。

しかしながら、値引き率がぜんぜん違います。他社がめっちゃ値引かれたとしても、キーエンスはあんまり値引かれません。理由は今の話の通りです。生産性が上がる付加価値と、業界初×特許出願中という差別化が同時にお客さまにあてられるので、相見積もりされない仕組みになっているわけですね。

キーエンス以外の会社でもやっている「世界初、業界初」

さぁ、そんなかたちで見ていくと、(スライド中の図の)ニーズのところで空いていますね。そうです。ここも付加価値のポイントです。みなさんも覚えておいてください。人の欲望には終わりはないように、人のニーズにも終わりはないです。

どれだけ願いを叶えようとも、どれだけ生産性が上がろうとも、どれだけうまくいこうとも、願い、つまりニーズは終わりがないです。ここ(スライド中の図の空白の箇所)に、まだ作られていない付加価値が存在するんですね。

ポイントです。このまだ作られていない付加価値があったとしたら、「あれ、お客さん、これがなくて困ってるぞ。このお客さんも困ってる。あれ、業界の中で同じことで困ってる。あれ、他社も作っていない。私たちも作っていない」。

他社も作っていなくて、自社も作っていない。そのニーズを初めて見つける。業界の中で、もしくは世界の中で初めて見つけ、それを世界で初めて叶える商品を開発しました。そして、販売します。

これを「世界初、業界初」と言うんですよね。「世界一、業界一」ではないんです。世界一、業界一はスペックの話で、初はニーズの話です。

そう、彼らはニーズを、世界で初めて見つけて、世界で初めて叶えました。ニーズを業界で初めて見つけて、初めて叶えました。これを世界初・業界初と言っているわけです。そうすると、意外と中堅・中小・大企業のみなさんも世界初・業界初をやっていませんか。

私は、意外とやっていると思います。年商100億円を超えるような中堅会社さまであったら、だいたい業界初は持っています。ただ残念ながら、今の話のように、「業界初」と「付加価値」と、そこから続く価格設定がうまくできて営業利益の確保になっている会社さんで言うと、すごく少ない。だから、こちらを活用していっていただければと思います。

「業界に詳しい」ことは有利なわけではない

ニーズを見つける時、「でもお客さまのほうが詳しいから」と言われることがあるんですよ。

「業界の人が詳しい」って弱気になってしまうんですね。そんな人にには「業界の人は、業界に詳しいか?」という質問をして、実は「詳しくない」ということをお話ししたいと思います。

実際にはある一定のラインまでは詳しいんです。でも、ある一定以上詳しくはなれません。なぜか。(次のスライドを指して)こんなかたちだからです。

じゃあ、ちょっと業界の中での仕組みを考えてみましょう。私たち、例えばAメーカーさんに営業を仕掛けに行きました。「よく来たね」と言われますかね。

紹介とかだったら言われるかもしれません。しかしながら、通常は「なんで来たの」と言われますよね。通常は営業されるのは嫌です。

だから私たちは常にやらないといけないことがあります。それは、お客さまに成功をお届けする。人は常に自分の成功を願っています。その自分の成功をお渡しすることができたら、もちろん「いや、いい情報を持ってきてくれたね。○○さん、ありがとう」と言われます。

じゃあ、Aメーカーさんが欲しいと思う成功はどこに落ちていますか。そう。こことか、こことか、ここ(スライドの図の、他社メーカーと販売会社の間や、販売会社と顧客の間)に落ちてるわけですよね。業界の中に落ちているわけです。

業界の人は業界に詳しいか。重要なのは、別に業界に詳しいことが有利なわけではないんです。業界の中での「成功事例に詳しいか」が価値なんです。

成功事例が一番あるのは、業界にアプローチしている外の人

さぁ、もう1回聞きましょう。業界の人は業界に詳しいか。詳しくなれるのか。Aメーカーさんにとって、B・C・Dメーカーの成功は知りたいが、一番知りにくいですよね。だって競合だから。

だから例えばトヨタさんは、自分の成功事例には、おそらく世界一詳しいでしょう。しかしながら、自動車メーカーの生産性向上、生産性アップについては、キーエンスが日本一、世界一詳しい。

なぜなら、すべての自動車メーカーで成功事例を手助けしているから。成功事例が一番集まるのは、実は業界の中の人ではなく、業界にアプローチしている外の人です。

そう見ると、私たちの立場として、どの部分に詳しくなるのか、勇気を持って見れませんか。大企業の人は自社に詳しいか。詳しくないです。もちろん、ある一定(のレベルまで)は詳しい。しかしながら、それ以上は詳しくなれないんですね。A部長、B部長、C部長、D部長はライバル関係です。

だからA部長に行ったところでB部長と仲がいいとは限らない。A部長に行ったところでC部長の部の目的とかは知らなかったりします。

そう、外にいる私たちが「A部長にもB部長にもC部長にもD部長にも全部アプローチして統合した結果、最も効果的なのはこの施策ですよ」と役員に言ってあげると、それが通る可能性が高いわけですね。大企業の人は自社に詳しくなれないんです。

お客さまが経験できないことを提供する「付加価値優位性」

そして、人は人生に詳しくなれないです。これはBtoCの話ですね。わかりやすいのは結婚式であったりとか、不動産、お家ですね。人生に何回も買うことはないと思います。

だからAさんからすると、それを買ったことによって日々の生活や人生全体がどうなるか。経験がないんですよ。じゃあ誰が知っているんですか。そう、売り手である私たち。Bさん、Cさん、Dさんがうちで結婚式を挙げて、うちで不動産を買って、うちでおうちを買って、うちで○○を買って、どうなったのかを知っているのは、売り手である私たちだけです。

私たちが教えないといけないのは、商品だけではなくて、自分たちの商品を買ったことで、その後にその人たちがどんな利点やどんな感動を得たのか。どんな人生の変わり方をしていったのかを教えてあげないといけないんです。だって、お客さんは知らないから。そこが価値なんですよ。

提供する価値の分野において、お客さま以上に詳しくなれる。そうすると圧倒的他社優位性につながります。これが「付加価値優位性」。価値がある優位性です。

これを作り上げていっていただくと、みなさまがどの分野に行ったとしても活躍できる人になるのではないかなと思っております。

人が価値に感じない「ムダ」のコスト内訳

さぁ、そんな中、先ほどムダは作ってはならないというお話をしました。なんでムダを作ってはならないのか。ムダはここ(スライドのグラフ内の「価値」側)から、こっち(スライドのグラフ内の「コスト」側)に乗るからです。

ちょっと想像してほしいんです。2019年度、ある会社さんの洗濯機で、ウルトラジェット水流は「洗浄力が違う」という打ち出し方をした会社さんがあったんです。

それを見た時、私は「これは例として出さねばならないと」思いました。みなさんにお聞きしたいんです。過去5年でも7年でもいいですけど、洗濯機の洗浄力に困っている方を見たことありますか? 洗濯機の洗浄力ですよ。ないですよね。

私も妻に聞いてみましたが、「いや、洗浄力はもういいと思うんだよね。でもさ、匂いとか、音とか……あと、埃が出ちゃうこととか、デザインとか大きいよね」。と言っていました。

では、困っていないものを、「これ、めちゃくちゃ洗浄力上がったんです、いかがですか」と言われたら、「別に?」と思う。だから価値側には何も乗らないんです。

このムダは何を表すのか、言っていきますね。開発コスト、製造原価、製造のコスト、マーケティングコスト、営業の方々のコスト。これが全部乗っかります。

さらにもう1個乗っけておかないといけないのは、営業の方が既存の商品を売っていたとすれば、「売れていたであろう売上」まで失っています。それでいて価値側は何も乗らないんですね。だから損失が出るんです。

「ムダか付加価値か」の判断軸を持つ

このムダかムダではないかだけで、日本の会社の営業利益はめちゃくちゃ変わります。

この判断軸を持つだけで、正直なところ、日本が変わってもおかしくないのではないかというぐらいやるべきことが変わるはずです。みんなスペックであったりとか、人が価値に感じないものをやりすぎです。

それをやるから、それで動かす人たちの命の時間もムダになるし、金もムダになるんです。だから、このムダというものをなくしていかないといけない。いくらこれだけ利益や価値を叶えても、ムダがこれだけあったら意味がありません。このムダもなくしてやらないといけないですよ、というお話です。

この考え方については、この本の中にも書かせていただきましたが、みなさんどんな気づきがありましたでしょうか。ぜひ自分の会社を見てみて、本当にムダがないかな、と思っていただければと思います。

多くの会社さまで今の「付加価値かムダか」を考えるだけで、営業利益率が上がってもおかしくない会社が、「あります」というレベルではないです。当てはまる会社「ばっかり」です。もちろん私の会社も。

ムダか付加価値か。それを切り分けていただくだけで利益の出る会社はいっぱいあると思います。ぜひ、見分けはじめてみてください。

「価値」とはお客さまが感じるもの

さぁ、付加価値を作るために大切なこと、2つ目。この2つ目だけお話しして、今日は終わりにしたいと思います。価値やお客さまが感じること。「1つのストーリー あるホテルの物語」。これは私が今回の本の中でも書かせていただいた内容です。

私が結婚式を挙げたホテルに、妻との結婚10年目のsweet10のお祝いのために行こうと思ったんです。やっぱり原点に戻っていきたいなと思いまして。

さすがに、今は子どもが3人おりますので、夜泊まるのはちょっと難しいということで、デイユースで頼みました。

さらにお祝いしたいなと思い、ルームサービスの予約の電話をした時のエピソードです。電話をして料金を聞いたところ、1階のイタリアンのお店だったら、ルームサービスを含めてだいたい4万円か5万円ぐらいだったんですね。「なるほど」と。でも10年目のsweet10だしなと思ったんですね。

そこは、フレンチや和食があるホテルだったんです。ちなみにこの時点で私はネットで見ていたので、そこの価格を知っています。けれども聞いてみようと思って。「ちなみに、フレンチもしくは和食だったら、これっておいくらになるんですか」と聞きました。

そしたら、そのホテルの方が、たぶん良かれと思ってですけれども、絶対に言ってはいけない言葉を付け加えて言ってきたんですね。

「田尻さま、こちらですが、少し高くなっておりまして、19万円するんです」と言われたんですね。「なるほど」と。私は最終的にデイユース自体はそのホテルで取りました。しかしながら、食事に関しては外でとりました。

なぜか。「絶対言ってはいけない言葉」とは何だったか。そう、「高くなっておりまして」ですね。「高い」とは、誰の価値観ですか? 僕ですか? 僕が高いって言いました? 言っていないですよね。

「あなたのsweet10には19万円をあなたが払うだけの価値はないよ」と、そのホテルの方の価値観を僕に押し付けたかたちです。その方はそんなこと思っていないと思いますよ。でも、そういう意味です。

例えば高級車を買いに来たお客さんに対して、「あなたはそんなもの買わなくていい。燃費とコストのいいこっちを買ったほうがいいよ。だって、燃費がいいから」と言っているのと変わらないことをされた気分です。

価値とはお客さまが感じるものです。もしも私たち(売る側)が価値を感じて話すのであれば、私たちはお客さまよりも高い価値観を持って進めなければならないと思ってください。

売る側はお客さまより「高い価値観」を持つ

うちの会社に、それを実践してくれた方がいらっしゃるわけですよ。その方にこの話をしました。そうしたら「田尻さん、私だったら田尻さんに最低50万円は使わせています」と。19万円を断った僕に50万円を使わせる。「どういう理屈ですか」と聞いたんですね。

「私だったら田尻さんがご結婚される前、そしてご結婚してから今に至るまでのエピソードを、全部聞くじゃないですか。奥さんにどれだけ迷惑かけたか。全部聞くじゃないですか。そして田尻さんたちが、これからどうしていきたいかも全部聞くじゃないですか」。

「その1日がきっかけで、これまで10年間かけてきた苦労を奥さまが全部許してくれて、みそぎになって。かつこれから10年間、ずっと幸せに暮らしていけるような、そんなきっかけの日にする。例えば、部屋が花束で埋められていたり、気づいたらホテルの方々がお祝いしてくれたり。そんなサプライズを全部してあげる。田尻さん、いくら払います?」。

文脈が変わったことがわかりますでしょうか。私は、ランチをしに行こうとしたんです。その方は、その人は、「あなたはこの日をプチ結婚式にして最大のお祝いをしなさい」ということに変えてくれたわけですね。

それは最低50万円かかるなと。一応松・竹・梅ではマックス200万円、200・100・50かなぁと言われました。確かに払っちゃうなという感覚です。この高い価値観をしっかりと持つことができたとすれば、実は人は、価値に対してお金を払います。

自分自身がお金を稼ぐのもそうですし、会社としてどんどん収益を上げていくところに関しても、その価値を作り上げて、お客さまにそれを感じていただく。

それができるようになっていったとすれば、みなさまがより成果を上げられ、より価値を作る人になれるということをお話しさせていただきました。ありがとうございます。