自分では気が付きにくい、隠れた「高ストレス」

日比谷尚武氏(以下、日比谷):それでは、よろしくお願いします。じゃあここからは、調査の結果の紹介をします。いったん加勇田さんにバトンタッチということで、お願いします。

加勇田雄介(以下、加勇田):本題の調査のご紹介をする前に、まず調査に利用した「ANBAI」というアプリを簡単にご紹介をさせていただければと思います。特徴としては3つありまして、1つは「気づく」というところですね。

沢木さんは1日9件会議があったんでしたっけ? 9件会議をされていても「大丈夫ですよ」ということだったんですが、実はストレスは気づきにくいということがわかってきています。

実は、ビジネスパーソンの20パーセントが本当は高ストレスなんだけども、気づいてない。なので、突然休職する原因の1つになりかねないということがわかってきています。

日比谷:もしかしたら、この「ANBAI」というアプリを知らない方がいるかもしれないから聞きますが、スマホのアプリで個人のストレス度合いがわかるということですね。

加勇田:そうですね。スマホのカメラに指を1分ぐらいかざしていただくと、今お話ししたような自覚ができないストレスも可視化ができるアプリですね。

日比谷:なるほど。それで定点観測をしていると、(自分のストレス負債に)気づくということですね。

加勇田:そうですね。「気づく」というところがポイントになっています。

仕事だけでなく、私生活でもストレス度をチェック

加勇田:2つ目は、隣にいらっしゃる志村先生に監修していただいているんですが、気づくだけではなく改善するところまでやりたいということで、メンタルヘルスに密接に関わってくる睡眠の改善プログラムなどを提供しているところが特徴です。

沢木恵太氏(以下、沢木):今、インストールが完了しました。

加勇田:ありがとうございます!

加勇田:実は「ANBAI」というアプリの前に、「ストレススキャン」というみなさんが自由にダウンロードできるアプリがありまして、そちらも合わせると累計で340万ダウンロードになっています。豊富にデータがあるので、同じ年齢の人と比較して、自分のストレスがどういう状況なのかもわかるようになっています。

いろんな使い方ができますよということで、最近増えてきているのは育児休暇中のお母さんやお父さんが、今どれくらいストレスを抱えているのか(を知るために)利用いただいたりと、そういった使い方もあるというのが3つ目ですね。

日比谷:データが溜まっているんですね。職場とか仕事のシーン以外でも、ストレス度合いを見える化するという試みが始まっているんですね。

加勇田:そうですね。

テレワークは、むしろ「やったほうがいい」

日比谷:ここからは調査結果の本題に入りたいんですけれども、(スライドは)これはさっき出ていたものですね。

加勇田:そうですね。このスライドだけを見ると、「テレワークをやらないほうがいいよね」という印象になりかねないと思うんです。私もこのスライドだけで「テレワーク反対派ですよね?」みたいなことをよく聞かれるんですが(笑)。

(スライドを指しながら)左側のグラフは、テレワークの有無でフィルタリングせずに聞いた人たちのグラフですね。そしたら、全部で37パーセントの方が高ストレスということがわかっています。

日比谷:左側の円グラフで、グレーの人は低ストレスで、赤がストレスのある人。

加勇田:そうですね。

日比谷:テレワークをしているか・していないかに関係なく、全体の3分の1ぐらいがストレスを感じていると。

加勇田:右側が何かと言うと、週1日以上テレワークを導入されている方に同じことを調査したら、実は高ストレス者の割合は17パーセントになるんですね。全体的には半分以上減るということがわかっているので、「テレワーク=悪」じゃないんです。むしろやったほうがいいですというのが、このグラフでお伝えしたいところです。

日比谷:週1日以上テレワークをしている人に絞ると、高ストレスの人は減っている。

加勇田:ということがわかっています。要因としては睡眠時間の改善とかもあるんですが、このあたりは専門家の志村先生にのちほどご紹介いただければいいかなと思います。

テレワークをしていない人のほうが、ストレスが高まりやすい

加勇田:次は志村先生が調査したデータなので、志村先生に解説いただければと思います。

志村哲祥氏(以下、志村):やはり、テレワークをやっていたほうがストレスが軽減することがわかっています。さっきは「生産性が下がるかどうか」という結果だったんですが、今回に関しては心身のストレス反応、ストレスチェックの調査件数の合計点数です。これが上がるか・下がるかを見ていまして、上がる確率を表しています。

まず、右のオレンジのほうは仕事のストレスが上がるかどうか。要は仕事が忙しくなるとか、家族や友人からサポートされないとか、眠りが悪化するとか、そういうことがあるとストレスが上がってきたりします。

それに対して緑色のリモートワークの調査結果を見てみますと、週1・2回も週3・4回も、そしてフルリモートでもストレスが下がるんですね。

この「0.75」というのは、0.75倍のリスク軽減ということなので、実際には数十パーセント(ストレスが)改善するし、フルリモートの場合は0.6なので、むしろ1.6~1.7倍くらいはストレス反応が改善する率が高い。ということで、リモートワークはやってない人のほうがストレスが上がりやすいという結果が出ています。

日比谷:なるほど。なんとなく感覚的にもわからないではないと思うんですが、データで見るとちゃんとわかりますね。

約6割の人が自分のストレスを自覚できていない

加勇田:テレワークで高ストレスになる方もいるのは事実なので、テレワークで高ストレスになる方の特徴をいくつか調べたんですが、その中の1つとしてわかってきたこととして、57パーセントの方は(ストレスを)自覚ができていないんです。

従来のストレスチェックでは高ストレスと判定されないんだけども、「ANBAI」というアプリを使って、ストレスを測定するための自律神経を測定しているんですね。それで調査をすると、高ストレスと判定がされる方が57パーセントいらっしゃるということで、(ストレスは)自覚がしづらいというところが特徴になってきます。

日比谷:さっきまではテレワークとストレスの関係を見ていたけれども、今度は別の角度で、テレワークの中でも高ストレスの人はどんな人なのかを見たということですね。

加勇田:そうですね。特徴の1つとして「自覚しづらい」ということがわかってきました。じゃあ、なんで自覚がしづらいのかを簡単に絵で示してみたのが、右のものですね。

「なんで1日4件の会議で(ストレスが)増えるのか」ということを、簡単に図にしてみたんですが、まずは会議があって集中します。そうすると、ストレスに対抗しようとしてアドレナリンが出るんです。

日比谷:ストレスがかかると、アドレナリンで体を守ろうとする。

加勇田:守ろうとすると、むしとアドレナリンは一時的にパフォーマンスを上げてしまうんですね。たぶん、私も今その状態なんですけど。

(一同笑)

加勇田:今日「ANBAI」で測ったらすごく高い数値が出たので、今はマックスまで行っていると思います。

ただ、そうすると生産性やパフォーマンスは上がっちゃうので、「自分はストレスがかかってないだろう」と感じちゃうんですよね。

“できる人”に会議が集中して、よりストレスを溜め込む

加勇田:組織としては、パフォーマンスが高いと仕事を任せたいじゃないですか。

日比谷:「やる気があるし、この人はパフォーマンスが出ているな」と思うんですね。

加勇田:そうです。弊社でも起こっていたりするんですが、さらにその特定の人物に会議が集中する。そうするとさらに会議が増えていく……というかたちで、自覚はしてないんだけども、特定の人物に4件以上会議が集まってしまうことが発生しているんじゃないかなというのが、今回の調査結果の分析ですね。

「抵抗期」という概念があって、それが(ストレスを)自覚がしづらいところにつながってくるんですが、後ほど志村先生に解説いただこうかなと思います。

日比谷:実はテレワークのストレスは自覚しにくい人がいるよという話と、テレワークが原因かどうかわからないけど、できる人に会議が集中して結果的にストレスをため込むことがある、ということですね。

加勇田:そうですね。

沢木:今、先生が(ストレス度を)測っていますね。

志村:はい。

沢木:僕も今測りました。

加勇田:ありがとうございます。

日比谷:ここに登壇する前にアドレナリンが出て、高ストレスという結果が出るかもしれないという。

沢木:僕は低ストレスでした。

日比谷:おお(笑)。

沢木:リラックスしています(笑)。

日比谷:今日、9個会議が終わったから。

沢木:会議が終わったので、もう大丈夫なんです。

(一同笑)

アドレナリンが出る「抵抗期」には注意が必要

加勇田:つまりこれはどういうことかと言うと、テレワークはやりすぎると良くないんですが、やりすぎでなければテレワークはやったほうがいいんです。やり方に問題があるんです。

日比谷:あとは、ストレスを持っている人は自覚していないけど、実は高ストレスの場合もあるから気をつけようということですね。

加勇田:そうですね。

日比谷:その例として、できる人がアドレナリンを出してがんばって会議をしようとしちゃうので、会議ができる人に集中して集まってしまうと。

加勇田:そうですね。

日比谷:ありがとうございます。もっと聞いていきたいんですが、まずは志村先生からデータの解説をお願いします。

志村:まず最初に、加勇田さんが話された「抵抗期」って何だろうかということなんですが、人間の体はサバンナとかで暮らしていた頃と変わりませんから、何かがあったら「戦わなきゃ」「逃げなきゃ」となるんです。体に大きなストレスがかかると、一時的にアドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾールとかが出てきます。

「今からたくさん心臓を動かして、筋肉も動かして、頭も動かして戦うぞ」「逃げるぞ」というふうになるんです。(ストレスがかかると)一時的にはパフォーマンスは上がるんですが、ずっと続くのは本当はまずいんです。

抵抗期にはなんとなく体も軽くなるし、動けちゃうじゃないかと。ただ問題は、それがずっと続いていると、特にコルチゾールというストレスホルモンによってだんだん神経細胞が弱っていくんです。

会議が続くと、ずっと「臨戦態勢」になってしまう

志村:(ストレスホルモンが)ずっと出続けていると、だんだん神経が弱っていっちゃって、ニューロンという神経細胞がヘタっちゃうんですね。そして、これがずっと続いちゃうとうつになっちゃうんです。なので、一時的な体の「がんばれ」という反応を使い続けるのは、実はよくないんです。

日比谷:(抵抗期の時は)一時的に「がんばろう」となってしまう。

志村:自然界では(動物が抵抗期になっているのは)5分、10分とか。ただ、それが何ヶ月も続いたりするのは、人間だけができちゃうんですね。

(スライド)右に出ているのが、交感神経、副交感神経活動の話です。興奮する物質が出ている時は交感神経活動が働くので、気分は緊張・興奮して、血圧は上がり、体温もちょっと上がる。筋肉は力が強くなって、呼吸は早くなって、消化は抑制されるんです。

パフォーマンスは一時的には上がっているんだけど、さっき言ったみたいにこれが続いちゃうのはまずいんですね。「ANBAI」というアプリではこれを見ていて、(交感神経と副交感神経の)バランスがおかしくなっているというか、明け方に交感神経活動が活発になっているのは、体的には無理をしているんです。

これを検出したのが、さっきの加勇田さんの1日の会議の回数。会議が続いちゃうと、体は臨戦態勢になるというか、あんまり続けるのはまずいということです。

日比谷:なるほど。