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ビジネスのルールがわかる「会計」の考え方(全1記事)

会計を学ぶ利点は、ビジネスの「ルール」がわかること 『会計の地図』著者に聞く、仕事とお金の関係性

世界経済が低迷する中で、ビジネスにおけるお金の動きはどうなっているのでしょうか。会社のお金の出入りが分かる「会計」というルールには、利益が上がる仕組みや、自分の仕事と社会のつながりを知るヒントがあります。また、企業の健康状態や価値が分かれば、これまでの仕事のやり方を見直したり、株式投資や転職時の参考にもなります。ベストセラーとなった『会計の地図』著者の近藤哲朗氏に、会計に詳しくなくても分かる、基本的な考え方についてお話しいただきました。

ビジネスパーソンが会計を学ぶ意味

ーー生活に関するお金の話は日々ニュースにもなっていますが、仕事に関わる「会計」という言葉になると、急に難しく見えてしまいます。そこで、『会計の地図』でお金の流れをわかりやすく説明されている近藤さんに、まずは「会計」が何なのかを教えていただけないでしょうか?

近藤哲朗氏(以下、近藤):まず、会計というのは「会社のお金の出入りを説明するもの」なんです。英語では「アカウンティング(説明する)」と言われますが、単にお金の出入りを記録するだけではなく、特に投資家などお金を出してくれている人たちに説明するという意味が含まれていると思います。

『会計の地図』は、企業の会計について書いた本ですが、会計を学ぶ利点は「ルール」がわかるようになることです。上場企業は3ヶ月に1回決算短信を出さなきゃいけないと決められているなど、会計は法的な拘束力のあるルールとして使われています。

会計という概念自体はまだ何百年かしか歴史がないですけど、このルールを知って使えるようになることで、一般社員の方が経営者や取引先とも話せるようになるかもしれない。バラバラの業界やビジネスの話も、同じ数字で語れるようになるのがすごいところだと思いますね。

ビジネスをしている限りは、なにかしら会計に関わっているはずで、自分の仕事の影響を測るためにも必要だと思います。

ーー売上や利益という言葉を知らないビジネスパーソンはいなくても、会社でお金の流れを教えてもらうことは少ない気がします。でも、売上を「何人がいくら支払ったのかの合計」というふうに理解すると、客数と単価を上げる施策を考えようとか、日々の実務に活かせますね。

近藤:そうですね。漠然として見える売上も、分解してみると要因が見える。そこから具体的に何をやるべきかがわかってくるんです。

利益を増やす方法は2つ

ーー例えば自分の給料を上げたいと思ったら、会計の流れで言うところの何を意識して仕事をしたらいいんでしょうか?

近藤:給料の原資は利益なので、基本的にはまず売上を上げることですかね。利益を増やすには「売上を増やすか費用を減らすか」しかないんです。

もしコーポレート部門やバックオフィスといった、直接売上を上げる仕事ではない場合は、何かしらの費用を下げることに貢献してもいい。効率的な働き方によって生産性が上がれば、費用が減って利益が増えるので、それでもいいわけですよね。自分の仕事で、どこに貢献できるかを意識するといいと思います。

僕も企業の方にご依頼いただいて、会計の講演をすることがあるんですけど、特に新卒や入社年数の浅い方、初学者の方は「売上と利益の違いがわかってなかった」ということもよくあります。会計で使われる言葉は意味や関係性がわかりにくいので、まずは売上や費用、利益の関係性を理解することが大事かなと思います。

「9つの流れで見る会社のお金の流れ」の図を、『会計の地図』の最初に載せたのは、個々の用語はまだわからなくても「会社というのはこうやってお金が回ってるんだ」ということを、まずは映像で示すように伝えたかったんですよね。

この9つのステップは、細かくすると10でも15でも書けるんですけど、最低限この9つの流れがあるなと思っています。僕自身が会計について勉強した時も、細かい話が多くて、全体像がなかなか見えなかったんです。だから、まず全体像を理解してもらってから、それぞれの言葉の意味を順番に見ていってもらうといいと思います。

ーー確かに、まず用語から理解しようと思って挫折しがちですよね。

近藤:そうそう。だから、「地図」として色を塗りつぶしていくかのように全体像をとらえて、細かい説明はその中にあるという構造にしたかったんですよね。

業界やビジネスによって異なる「利益を出す速度」

ーー会計を知ることが、お金の流れが見えるようになることだとすると、例えば自社や競合の業績、あるいは転職先の会社のことも見えてきますよね。「利益の出やすさ」のお話も、比較的理解しやすいというか、仕事に関係があると思えそうな内容だなと思いました。

近藤:損益分岐点の話ですね。ここでの「利益の出やすさ」をより正確に言うと「利益を出す速度」と言うんですかね。いかに早く利益を出せるかが何で決まるのかという話です。

売上高に対してどれだけ利益があるのかを「利益率」と言いますが、それは各業界によって違うんですね。IT業界は比較的利益率が高いと言われたりもしますけど、業界やビジネスの構造によって違ってくるんです。

損益分岐点、つまり「いつになったら利益が出るのか?」は、みんなが知りたいと思うことですが、変動費と固定費という2つの費用に分けて考えるといいんですね。売れても売れなくてもかかるのが固定費で、いわゆる家賃や人件費です。変動費は売れれば売れるほど増える費用。原材料費などもあてはまりますね。

だから、変動費と固定費という言葉の前に「売上に対して」とつけるとわかりやすいんです。売上に対して変動するのか固定なのかで、「固定費型のビジネス」「変動費型のビジネス」に分けられて、どちらの割合がより大きいのかが、そのビジネスの性質を決めると。

固定費が大きいのはたとえば航空産業やホテル業界などで、まずは固定費を回収していかないとならないので、利益が出るスピードは遅いけれど、一定ラインまで行けば大きな利益が見込めます。その「一定のところ」が損益分岐点なんです。

ただ、特に航空産業やホテル業界は、コロナ禍で人の移動がなくなってしまうといった外的要因に大きな影響を受けましたよね。一度損益分岐点に達しても、上がり下がりがあるので、固定費が大きいというのは難しいビジネスだなと思います。

「一般的にはこう」と言われているものの実態を知るには?

ーーそうですね。赤字が続いているTwitterは、今かなりの人員削減をしていますが、固定費を削って、できるだけ早く利益が出やすい状態にしようということですよね。逆に固定費も変動費もあまりかからない産業はどんなところでしょうか。

近藤:やっぱりニッチな産業というか、あまり規模が大きくない産業になると思います。規模が大きくなってくるとビジネスの性質上、どちらかは多くなるものなので。いわゆるIT業界は固定費がそんなにかからないイメージですけど、GoogleやMetaは自ら率先して海底ケーブルの建設をしていますよね。

小売や卸も変動費が大きいとよく言われますけど、「一般的にはこう」というものがありつつも、実際はふたを開けてみないとどちらがどうなのかはわかりにくい部分もありますね。

ーー実態を知ろうと思うと、決算書を見たりすることが大事になるんでしょうか?

近藤:そうですね。でも、決算書には「変動費・固定費」とは書いてないんです。

厳密に言うと、会計には「財務会計」と「管理会計」の2種類があります。管理会計は会社ごとにカスタマイズして、みんながわかりやすいように使っているもの。財務会計はもっとルールが厳格に決まっているもので、変動費と固定費に分けるのは管理会計的な考え方なので。

『会計の地図』では両方混ざっているんですが、財務会計と管理会計で使われる言葉が違うのは、ちょっと注意点ではありますね。

ーーなるほど、難しくなってきました(笑)。それでも決算書が読めるようになると、実務だけでなく投資をする時にも役に立ちますよね。

会社の健康状態や価値を見極める「手がかり」

近藤:そうですね。株式投資という意味だと、テクニカル分析とファンダメンタルズ分析という2種類の分析の考え方があります。そのうち、テクニカル分析は基本的に株価の上がり下がりを見て投資をするので、決算書を見ないで投資をすることもあります。

一方ファンダメンタルズ分析は企業の価値を自ら見極めて投資をしていくので、決算書が読めることは必要だと思います。

「損益計算書(PL)」「貸借対照表(BS)」「キャッシュフロー計算書(CF)」の3つの書類のことを財務三表と言うんですが、特に損益計算書と貸借対照表の2つはよく見られると思います。

簡単に説明すると、損益計算書は「1年間の利益がどれだけ増えたか・減ったか」が分かる書類で、キャッシュフロー計算書は「1年間の現金の使い道」がすべて分かる書類です。

貸借対照表は、よく「企業の健康状態」を測るものと言われますが、企業の財産の状態が分かるものです。貸借対照表は、「お金がどこから来たのか」と「そのお金をどう使ったのか」という、2つの側面でお金を記録しているのが特徴ですね。

財務三表が読めると、企業の健康状態や成績を数字から読み取れるようになるので、これら3つを見れば基本的には、投資や何かを判断するにも使えるかなと思います。あとはPBR(株価純資産倍率)やROE(自己資本利益率)といった、財務指標を見ることもあると思いますね。

日本の上場企業は、なぜ市場で評価されていないのか?

ーー「日本は海外に比べて給料が低い」というニュースをよく見かけますが、これは日本企業の利益率が低いからということなんでしょうか。

近藤:要因として「利益率が低い」「収益性が低い」と言われたりしますよね。企業の価値を測る指標の一つがPBR(株価純資産倍率)で、純資産に対して時価総額がどれだけあるのかを示しています。ただ日本の上場企業の半数が、PBRが1倍未満なんです。

「企業価値」と「時価総額」という言葉がありますが、厳密には企業の価値は時価総額だけではなくて。時価総額は、あくまで株がマーケットで売買されている中で「株価×株数」で計算されたものなんです。本来は、有利子負債と時価総額を合わせたものが企業価値と言われますけれども。

ただ、PBRが1倍未満ということは、自分たちが持っている純資産以下の時価総額と見られている。つまり、それだけ市場から評価されてないということで、理論上は「会社を解散した方がマシ」と言われる状態なんです。僕はそれを聞いて、すごくショックだったんですけど。

「なんでそんなに評価されてないんだろう」と思って、PBRを分解してみるとPER(株価収益率)とROEという指標が出てきます。日本はROEも低いんですよね。このROEはさらに3つに分解できるんですけど、特に利益率、収益性が低いと。

つまり単純に稼げていないというか、売上に対して利益が低いんですね。社員だけでなく、経営者にもお金は行っていないと言われていますが、株主に行っていたり。そもそも生産性や効率性も低くて、誰にも還元できていないのかもしれない。

そこは本当にみんな、「なんでこんなに給料が上がらないんだろう?」って思っていると思うんですけど(笑)。将来的な人口の問題や環境問題や政策といったマクロな要因が株価や給料に影響しているかもしれないし、1社1社の努力ではどうにもならない部分がやはりあるなとは思いますね。

日本企業の価値を高めるためにできること

ーー複合的な要因ですね。会計を通して、日本の企業がどういう状態なのかを分解していくと、この先の解決策のヒントもありそうな気がしますが、何をしたらいいのでしょうか?

近藤:僕は、これから日本の企業がPBRを上げるためにやっていくべきなのは、「のれん」を意識して活動することじゃないかなと思っています。のれんというのは、ブランドや信用やノウハウといった、経営努力や創意工夫の結果として得られる、目に見えない価値です。

ちょっと難しい言葉ですが、本来は「自己創設のれん」と言うんですね。のれんには「自己創設のれん」と「取得のれん」の2種類があります。

一般的にのれんと言うと、投資家なども含めて「取得のれん」のほうがイメージされやすいと思います。これはM&Aなどで企業が買収された時、買収額と純資産の差分が「取得のれん」として第三者に値付けされて、「無形固定資産」という資産に入るんです。

でも、「自己創設のれん」は自分で作り出すもので、第三者には認識されていないので、資産計上できないんですよね。目には見えない不確かなものではあるんですけど、それを引き上げていくことがPBRを上げていくことにもつながるんじゃないかなと思っています。

ここ数年、ブランドやパーパスといった「目に見えない価値」が重視されるようになってきていますが、社会への貢献は儲けることだけではなくなってきていますよね。

その企業が何のために存在するのかとか、社会に対してどんなインパクトをもたらすのかということが重要で。「ステークホルダー資本主義」という言葉もありますけど、あらゆるステークホルダーに配慮したかたちでの経営が求められています。

お客さんが喜んでくれていても、そのために劣悪な環境で1日10数時間も従業員を働かせていたりすると、そこでの負の影響はまわりまわって長期的に自分たちに跳ね返ってくる。目に見えない価値を上げていくだけでなく、毀損しないこともすごく大事だなと思っているんです。

企業がSNSなどで炎上するのも、本来配慮すべきステークホルダーが見えていなかったことが理由の一つになっていることも多いと思います。経営者だけではなくて社員一人ひとりが、そうした目に見えない価値を意識していくことが、時価総額や日本企業の価値を高めていくのかなと思っています。

ーー価値を上げることと、減らさないようにすることのどちらも大切というのは、利益を上げる時の考え方とも通じますね。会計を知ることで、ビジネスやお金の流れはもちろん、お金に換算できない価値が企業に与える影響の大きさもよく分かりました。お話ありがとうございました。

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