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変革は地方から~富山発スタートアップ会談~(全4記事)

「不可能だ」と言われ、銀行にも相手にされない“地獄の3年半” 異色の半導体ベンチャーが、世界初の技術を生み出した軌跡

富山県成長戦略カンファレンス「しあわせる。富山」で行われた、「変革は地方から~富山発スタートアップ会談~」のセッションの模様をお届けします。新潟県妙高市の“異色の半導体ベンチャー”コネクテックジャパンや、北海道発・地域活性型ベーカリー「小麦の奴隷」など、さまざまな地域の起業家が登壇し、デジタル技術も活用しながら活躍する起業論をお送りします。

各地域から、異色の起業家たちがセッションに登壇

司会者:それでは、さっそくトークセッションに入っていただこうと思いますが、ここからの進行は本日モデレーターを務めていただく廣岡さんにお願いしたいと思います。廣岡さん、お願いいたします。

廣岡伸那氏(以下、廣岡):よろしくお願いします。今日の(イベントセッションの)一発目ということで、セッションしていきたいと思います。

実は朝の9時くらいからこの5名で打ち合わせしていたんですが、盛り上がって。おそらく地元出身の僕がしゃべる機会は2分ほどしかないと思うんですが、時間いっぱいみなさんに激と唾を飛ばしていただいて、楽しい時間にしていきたいと思っております。

また、聞き手のみなさんにお願いがあります。今日の5名は「先生」や「成功者」が話していると思いたいところなんですが、そうではなくてイチチャレンジャーが話しているので、みなさま自身が「自分はこの先何ができるか」という視点で情報を受け取ってお帰りいただきたいと思います。

おもしろい話なんですけど、この話をしたら藤野さんの時計が反応しまして、siriがいきなり「はい、それはできません」と答えたんですよ。びっくりしたんですけれども。

(会場笑)

新潟県妙高市の“異色の半導体ベンチャー”

廣岡:さっそくではございますが、ゲストの紹介ということで自己紹介を進めていきたいと思います。順番はどうしましょうか。スライドが出ましたね。

平田勝則氏(以下、平田):スライドが出ちゃったので私から。

廣岡:みなさん拍手をお願いします。

(会場拍手)

平田:この位置、みなさんに完全に背中を向けていてすごくやりにくいんですが、コネクテックジャパンの平田です。新潟・妙高市からやってきました。

我々は世界で始めての技術で、IoT向けの半導体の実装をやっています。簡単に言うと、IoTはいろんなものに、どんな材料の上でも半導体が搭載されることなんですが、それをやるには世界中がぶつかっている「260度の実装温度の壁」を超えなきゃいけないんですね。

13年前には「バカだ」「不可能だ」と言われたんですが、ペットフィルムに半導体をくっつけると、260度だとこんな状態で、あと1秒当てるとクシャクシャになっちゃう。なんとなくイメージが湧きますよね。

我々は、80度という世界で初めての低温実装技術で、ペットフィルムをそのまま半導体にくっつけることがができます。このような技術が普及すると、たとえばユニクロの服にも直接、センサーを付けられたりする可能性も出てきて、そういった未来に挑戦しながらやっているところです。

僕は富山県に縁があるんですが、きっかけになったのがこの地図です。富山県さんが発行しているこの地図を見て、「日本って小さい」と思うのか、「日本から一番のマーケットはどれだけ近いのか」と思うのか。

この地図は櫻井よしこさんから教えていただいたもので、富山県さんの発行されたこの地図に啓発を受け、80度実装を武器にアジア圏で戦いを起こしている今日この頃です。

ちなみに今はこのマーケットだけで、日本のGDPの半分くらい年間約300兆円のIoT市場に2025年前後には成長しているので、富山のみなさんとのご縁で一緒に攻めていけたらなと思うところです。以上です。

廣岡:ありがとうございます。拍手をお願いします。

日本から世界に発信する、山形のニットメーカー

廣岡:では、続いて藤野さんお願いいたします。

藤野英人氏(以下、藤野):藤野英人と申します。富山県の成長戦略会議の委員も務めさせていただき、スタートアップの戦略会議の座長もしています。

本業は、レオス・キャピタルワークスという会社の投資業です。2003年に会社を作りまして、日本で最大級のアクティブ投資信託、ひふみの運用をしています。今は運用資産残高が約1兆円(※2022年9月時点の概算)の規模で、お客さまが約123万人、毎月100億円の積立をしていただいています。

ベンチャー企業を応援する、それから若い会社を応援することも好きで、全国いろんな会社に投資をしてきました。でも、これから富山が非常に熱いと感じていまして、私の時間のかなりの部分を富山県に割いて、富山県がもっともっと元気になるように力をお貸ししたいなと思っております。今日はよろしくお願いします。

廣岡:ありがとうございます。では、佐藤さんお願いいたします。

佐藤正樹氏(以下、佐藤):山形から来ました、佐藤繊維の佐藤と申します。4代に渡って、90年ほど山形で糸作り・ニット作りをしています。

ここ数年で日本のものづくりの0.5パーセントを切るようなニット業界ですが、そんな中で今までにないようなものづくりをして世界に販売したり、今までのようにヨーロッパを追いかけないものづくりということで、逆に日本から世界のCHANELやHERMESなどのトップブランドに糸を販売しています。

自社ブランドにおいては、アメリカ、ヨーロッパと世界で販売していたんです。売りに行くのもいいんですが、売りに行くのではなくて、山形に自分の工場を新しく買いまして、山形に世界中から人を呼ぶ、地方でしかできないビジネスを展開しています。

もともと、うちのものづくりは大手を追いかけるビジネスじゃなくて、自分たちだからできるものづくりをやってきたんですが、これからすごく重要なのは、私たちのものづくりをどう世界に発信していくか、どう山形に人を読んで集めるかというビジネスにすごく力を入れている会社です。今日はよろしくお願いします。

北海道発のベーカリーブランド「小麦の奴隷」

廣岡:ありがとうございます。では、橋本さんお願いします。

橋本玄樹氏(以下、橋本):みなさん、こむぎちは。

廣岡:こむぎちは。

橋本:株式会社こむぎの、小麦の奴隷グループの代表の橋本玄樹です。全国でパン屋をFC展開していまして、今は75店舗の出店と130の契約が決まっております。

富山でいうと黒部店がオープンしており、次は12月6日に砺波でオープンしますので、ぜひみなさんお客さんになってください。以上です。

廣岡:ありがとうございます。実はこのセッションは、北は北海道、そして山形、新潟、富山ということで、富山が最南端なんですよね。

(会場笑)

廣岡:びっくりですね。ですから今日、会場のみなさんは「寒い」って言っちゃいけない空気があるかもしれませんが、体調が悪い方はすぐ手を挙げていただきたいと思います。

それと(登壇者の)共通点なんですが、山形から来られた佐藤さんは、衰退する伝統産業をいかにして自分の代でグッと上げていったかがキーなのかなと思います。平田さんは、どういう目的を持って新潟県妙高に拠点を設けて、世界展開を目指しているかというところがキーなのかなと思います。

橋本さんに関しましては、地元とぜんぜん違う北海道という地を選んで、ノリと勢いでいろいろやっちゃったというところですね。

橋本:ノリですね。人生ノリで(笑)。

廣岡:そして藤野さんにはいつもどおりなんですが、全国世界の起業家はどういうふうにスタートアップから成功していくのか。そして、どういうハードシングスがあるのかをお伝えいただければと思います。

ITやDXに囚われず、パンを訪問販売する「攻めの売り」

廣岡:ではさっそく、本日のテーマでございます。本日のテーマは、地方だからこそなし得る起業スタイルがあるのか・ないのかというところで、自由闊達にご意見をいただきたいです。じゃあ逆回りで橋本さん、どうですかね。

橋本:さっき打ち合わせでもちょろっと話したんですが、「地方だから」とか「東京だから」という幻想に囚われずに、とりあえずやることをやるだけかなと思いましたね。

廣岡:やはり、行動こそが真実だと。

橋本:みんな本当に動かないんですよ。

廣岡:そうですよね。そもそもけっこうハードな経験もされていると思うんですが、特に自分がやっておいてよかったことってありますかね。

橋本:やはりパンを売りに行く訪問販売です。待つだけじゃなくて、攻めの売りですね。

廣岡:IT、DXを無視して訪販と。

橋本:はい。アナログです。今日はデジタルの話かもしれないですけどね(笑)。

廣岡:やはり「行動こそが」ということですかね。

橋本:そうですよね。

銀行にも投資家にも相手にされない“地獄”の期間

廣岡:じゃあ「行動」というところでいうと、平田さんはどうですか。

平田:そこは本当に共感です。元大企業にいて、スピンアウトして自分で始めたんですが、名刺がなくなった瞬間に銀行も投資家も誰も向いてくれない地獄の3年半がありました。だけどその時の政権の施策で、(高速道路料金が)土日1,000円というのがありましたよね。あれを使って、創業者3人で日本全国走り回ってコア技術を開発しました。

廣岡:ETCのやつですね。

平田:はい。実はその車を今年の3月に廃車したんですが、13年で59万3,000キロ走りました。

廣岡:その車の身にもなってほしいですけどね。

(会場笑)

平田:沖縄以外全部走り回って、2,000社近く回りました。さっきのお話と一緒でリアルテックなので、温度、匂い、五感、パッション、いろんなものを実際に回って伝えたら、かえって地方のほうが熱い人たちが多くて。

人脈を作りながら、最初の3年で生産ラインがないのにこれを作っちゃったんですよね。日本中の企業をつないで、これを銀行に見せたらお金が出てきた。こういう方程式で行きました。

廣岡:じゃあ、勝手に作っちゃって逆算するみたいな感じですかね。

平田:そうそう。

廣岡:行動ですかね。

平田:行動ですね。

繊維産業だけでなく、食品やライフスタイル雑貨も展開

廣岡:佐藤さんはどうですか?

佐藤:事前の打ち合わせの時も、企業に共通することは行動力しかないかな思いました。私も新しいことをどんどん始めていますが、お二人とちょっと違うのは、私の場合は代々ずっと伝わるものづくりがあって。特に先進国において、繊維産業は世界的に衰退産業です。

そんな環境の中、労働資源型のビジネスなので、それを武器にすることは不可能だと。ただ、それをいかにビジネスにするかということで、よりマーケットに近いところに進出していったり。ただやはり、従来のマーケットやアパレルからすごく圧力をかけられたりもしました。

そんな中、アメリカで自分のブランドを発表して、そのあとヨーロッパで発表して自分のブランドを移していったんです。今はネットもやっていますが、どんどん直営ショップを展開して、卸売りも直営ショップ。

「自分のブランドの最終形は直営ショップだ」と思ってたんですが、この頃交流をしていたら、小売りの最終形は直営ショップじゃないなと思いました。

ということから、今度はライフスタイルのビジネスということで、洋服からライフスタイル雑貨とか、山形のイタリアンレストランだったりと、糸を作っている人間なんですが食品のプロデュースもしています。

廣岡:糸から食品ですか。

佐藤:私は佐藤正樹と言うんですが、来週も東京のテレビ通販で「正樹デー」というのがあって。そこで、私がプロデュースした山形で作られる食品を販売したりもしているんです。

好きなものを極めて「オタク」になると、新たな市場が生まれる

佐藤:先ほどもお話がありましたが、実際に背負ってやっている「守らなくちゃいけないもの」と、「攻めるもの」。オタクになっていくというか、好きなものをどんどん突き詰めていくと、そのうち新しいマーケットや協業が生まれたりするので、まさに思ったらすぐ行動が絶対かなと思いますね。

廣岡:創業の方も、何代続いていても「とにかく行動」というのがありましたね。「行動、行動」と言っておきながら、僕の自己紹介を忘れていました。

(会場笑)

廣岡:僕は、富山県富山市で全国の理容サロンさんに化粧品を卸すメーカーをやっています。富山で化粧品メーカーというと「……」という感じでして。

「なんで医薬品じゃないの?」「常備薬じゃないの?」「なんで化粧品なの?」とかいろいろ言われるわけなんですが、正直ノリと勢いと、みなさんと一緒で「行動」で作ったなとつくづく思いました。

地元の産業だけに固執するわけでもなく、いろいろとピポットされてやられている方と、市場を読まれた方と、「そこにあったから」という行動ですね。

橋本:たまたまですよ。

廣岡:たまたまですね(笑)。やはり「行動」しか出てこないですね。

ビジネスを始める時は「小さく・すぐ始める」ことが大事

廣岡:藤野さん、ほかの起業家の方の行動で開いたケースって何かありますかね。

藤野:身近な例で話をすると、引退したサラリーマンの人が「蕎麦打ちが趣味」とか言って、よく蕎麦屋をやったりするんですよ。50歳くらいから蕎麦打ちに目覚めて、蕎麦を打って。「銀行に勤めていた」みたいな人にけっこう多いんですが。

(一同笑)

藤野:ずっとユーザーの立場にいて、お金は貸したことあるけれども店を運営したことはない人は、すごく立派なものを作るんですよ。友人に金融関係が多いので、「蕎麦屋をやりたい」と言われたら、「やめとけ。とりあえずバザールとかで作ったものを売ってみろ」と言うんだけど、しないんですよ。

それをせずに、2,000万円とか3,000万円を投資していきなり蕎麦屋を始めちゃうんですが、それはダメなんですよ。蕎麦屋をやりたいと思ったら、まずは蕎麦を作って、土日のアンテナショップでもなんでもいいから売る。

そして売って、お客さんと対話する。そこでめちゃめちゃダメ出しを食らうから、じゃあいくらで売ったらいいのか、何を売ったらいいのか、自分は何が得意なのかを見てやるべきなんですよね。だから、とにかく小さく・すぐ始めることが大事です。

廣岡:スモールスタートですね。

藤野:大きなお金でどーんとやるのがまずいんですよね。

佐藤:小さい失敗を数限りなくやっているんですけど、小さい失敗は大事ですね。

“成功の方程式”は、どんなビジネス書にも書いていない

佐藤:行動してどんどん失敗して、本を読んで勉強するよりも、自分で経験の中から自分のビジネススタイルを見つけていくのが一番強い。アメリカなんかは典型だと思う。いろんな本を読んだけど、書いてあることはほとんど全部嘘だったんですね。

(一同笑)

橋本:ほとんど。

佐藤:「自分の商品を売るにはこれだ」というのを、自分自身で見つける。

平田:成功の方程式はどこにも書いていない。

廣岡:朝の打ち合わせの時にみんな共通でしたけど、「成功の方程式はないよね」という話ですね。

平田:ないです。

藤野:だけど、いつもこういうところで聞かれるんだよね。「どうやれば成功しますか? 3つ教えてください」とかって(笑)。

(一同笑)

藤野:(成功の方程式は)ないですよ。まずはトライ。やるしかないんですよね。

廣岡:成功の法則はないと思うんですが、今日のテーマでもある「しあわせる」というところは、各々で幸せの定義は作れると思うんですが、成功ってなかなか定義がないですよね。

藤野:そうですね。だから実は、成功の定義も人によって違うんですよ。お金持ちになりたいのか、継続する事業を作りたいのか、それともお客さまに喜んでもらいたいのか、いろいろなんですよね。「成功」と言われてみても、具体的に成功のことをよく考えないでやっていると、なかなか本当の成功ができないですよね。

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