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新規事業開発に向かない組織の条件(全4記事)

満杯のタスクの上に「残業なし」での新規事業開発も追加… 企業のイノベーション実現を困難にする3つの壁

「新規事業に挑戦する皆さまに“本当に”有益な情報を提供する」をテーマに、業界トップクラスの企業担当者をゲストに迎えて開催されるSpreadyの主催イベント。今回は「新規事業開発に向かない組織の条件」と題して、累計3,000社以上の新規事業プロジェクトの支援実績を持つ株式会社Relicの松永正樹氏と一江健一郎氏が登壇。Spready社の代表・佐古雅亮氏のモデレートのもと、成長し続けられる会社の共通点や、新規事業と既存事業の違い、そして組織における新規事業開発で「よくある壁」などが語られました。

新規事業開発を支援する中で見えた壁

松永正樹氏(以下、松永):今回は「新規事業開発に向かない組織の条件」という、ちょっと大それたタイトルになっています。Relicでさまざまなご支援をする中で、どうしてもクリアしなければならない壁がたくさん見えてきまして。特に「組織面において見られる」ことが共通していたんですね。それが今回の着想のきっかけとなりました。

今、佐古さまからご紹介いただきましたけれども、あらためて自己紹介をさせていただきます。株式会社Relicの松永と申します。(スライドの)プロフィールのように、自分は大学教員としてのキャリアが長いんですね。

直近では福岡にある九州大学のビジネススクールで、リーダーシップとか組織論などの教員をしておりまして。その契約が切れるので「どうしようか」というタイミングでRelicにジョインした次第でございます。どうぞよろしくお願いいたします。今日はRelicからもう1名、一江も来ております。

一江健一郎氏(以下、一江):Relicの福岡支社長の一江と申します。松永と一緒に福岡拠点の立ち上げをやっております。私はもともと福岡県福岡市出身で、大企業、中小企業、スタートアップやコンサルも含めて、それぞれの立場でいろんな新規事業開発に携わってきました。

コンサルにいた時も某大手交通事業者さんに、1年間DX推進責任者として出向していました。ですので、みなさんの会社におけるお悩みもよくわかると思います。本日はよろしくお願いいたします。

佐古雅亮氏(以下、佐古):よろしくお願いいたします。

新規事業を軸にした3つの柱

松永:では、「Relicってどんな会社なのか」ということを簡単にご紹介させてください。創業7年目のまだまだ若い会社で、新規事業を軸に主に3つの事業の柱を立てております。

まずは「インキュベーションテック」ですね。Relic自体が自社プロダクトを作っていまして、主に新規事業に関わるSaaSのプロダクトを展開しています。次に「事業プロデュース」です。他社さまの新規事業開発をご支援するコンサルティング中心の業務で、自分と一江は基本的にこちらの仕事に携わっております。

それから「オープンイノベーション」。こちらはSpreadyさまをはじめとするビジネスパートナーと提携をしながら、他社さまと一緒にイノベーションに取り組んだり、Relicがスタートアップに出資をしたりと共創を行う取り組みです。このように3つの柱でいろいろやっていますが、共通するキーワードとして「新規事業」があります。そんな会社だとご理解いただければと思います。

幸いなことに、業界・業種、そして規模も問わずさまざまな会社さまとお仕事をご一緒させていただいています。代表の北嶋(貴朗)は書籍も書いておりますので、本日アンケートをご回答いただければプレゼントをさせていただきます。ぜひ、お目通しいただければと存じます。

またうれしいことに、最近いわゆる「企業ランキング」みたいなものに名前を載せていただくこともありまして。『フィナンシャル・タイムズ』の「アジア太平洋地域で顕著に売上が伸びた企業ランキング」に挙げていただくこともできました。

成長し続けられる企業の共通点

松永:本日お集まりいただいた方々には釈迦に説法かもしれませんが、「なぜ今、新規事業開発やイノベーションが必要なのか」という話を、前段としてさせてください。

いわゆるプロダクトライフサイクルというものがありますよね。どんな事業であっても最初に立ち上げて、伸び始めて成長しても、その後は成熟してどこかで必ず衰退するタイミングが来ると。

よくあるのが既存事業、特に主力事業に陰りが見えてきたから、そこで初めて新規事業を考え始めるパターンですね。でも、どうしても新規事業は不確実性が高くて、既存事業に比べてマーケットがどこにあるのかわからない。さらにどんなプロダクトが刺さるのかもわからないから時間がかかるんですね。だから、そこから考え始めるのでは遅いんです。

むしろ、まだまだ既存事業が伸びている時にこそ着手して、次の事業の柱を育てていくことが大事であると。このタイミングも、組織に関わってくるポイントなのでご紹介いたしました。

実際にそうやって主力事業を切り替え続けている会社は、成長を止めることがありません。有名な事例としては、富士フイルムですね。もともと写真フィルムの製造販売をしていましたが、その生産技術や強みを活かして、化粧品や医療用画像解析に参入しています。

また任天堂はもともと花札の製造販売だったのが、総合ゲームメーカーになりましたよね。ソニーももともと商品はトランジスタラジオだけだったのが、今は総合エンタメ企業であり、金融であり、保険であり、いろいろやっていると。こういうかたちで、常にイノベーションを起こし続け、新規事業を立て続けることが重要なんですね。

新規事業と既存事業の違い

松永:では、なぜそれが難しいのか。このあたりから今日のテーマに少しずつ入っていきます。一番大きなポイントは、既存事業と比べてやはり「不確実性が高い」ということ。お客さんがどこにいるか、誰なのかそもそもわからないし、その顧客がどんなニーズを抱えているのか、何をやれば課題解決になるのかもわからない。当然、データもないと。

だから既存事業に比べて時間がかかる。それなのに、既存事業の評価体系では当たり前の、例えば「3年以内に結果を出す」ということが新規事業にも求められてしまうことがあって。「まだ市場がどこにあるかもこれから探索するというステージなのに、結果を3年で出せと言われましても……」ということがあると。

当然、既存事業と新規事業では求められる人材のケイパビリティも違ってくるわけですよね。計画をしっかり立てて、それを着実に予実管理しながら進めていくのが上手な人が、新規事業でも同じように輝くとは限りません。逆もまた然りです。

新規事業の場合は、どちらかというと自分で考えながらどんどんいろんなことをやる人。打率よりも打席数を重視する人が活躍をします。これを組織側から考えると、そういう人をちゃんと評価する仕組みが必要だということになります。

このあたりから「あるある話」にどんどん入っていきますので、佐古さんも一江もどんどんツッコミを入れてください。

企業のイノベーションにブレーキをかけるもの

松永:(スライドには)主に組織面での「よくある壁」をまとめてみました。

今日のタイトルにも関わってきますが、新規事業開発をやっていく時の「アクション」や、やる人の「マインド」にブレーキをかけるものは何か。

いろいろありますが、1つはそもそも全体の戦略や方針がないから「やらなきゃいけない理由」がなくて、いきなり上からどんどん「新規事業をやってください」と言われる。なので、どうしたらいいのかわからない。

あとは、「やれ」と言われても、「どれぐらいのことを、どれぐらいの時間軸でやったらいいのかが曖昧である」と。これ、ありませんか? 

佐古:あります。

一江:「新しいことをやらなきゃいけない。面白いアイデアを持ってこい。以上」みたいな(笑)。

松永:よくよく話を聞いてみると、「3年で10億円かな」と言われてしまうと。既存事業ですでに顧客基盤があって何が売れるかもわかっているならまだわかる。でも、ゼロからですよ。「10億円って、グロース市場に上場できますけど」みたいな。ゼロからスタートして3年で上場、IPO達成って、まあまあ無茶ですよね。

佐古:確かに。

松永:こういうところが定まっていないから、上の方も詰めていない状態で「新規事業をやってください」と言ってしまうケースがけっこうあるんですよね。その場合、「どのぐらいのリソースを投入すればいいのか」ということも実は決まっていないケースもある。これが1つ。

もう工数100%なのに、さらに「残業なし」での新規事業開発

松永:2つ目は、既存事業ありきの組織ですね。当たり前ですけども、既存事業をベースに作られているので、さっきお話ししたように「行動よりも計画が求められる」とか「失敗が許されない」といったことがあります。

新規事業の場合、失敗をして、学びを得て、次に何をするかが鍵なんです。でも、この場合は失敗した瞬間にゲームオーバーになってしまうのでどうしようもない。これもよくあります。

あと意外に多いのが(スライド)右下です。「新規事業をやってください」と言うものの「既存業務もやめずに続けてください」みたいな。工数100パーセントでふだんの仕事をやっている中で、さらに「新規事業をやってください」と。

「じゃあ今の仕事は、もうやらなくていいんですね?」「いや、それもやってください」「それでは工数が120~150パーセントになるんですけど?」「そうですね。でもコンプライアンスとかあるんで、残業もしちゃいけません」とかです。一江が苦笑していますけれど、大企業ではこういうことがありますよね。

一江:あるあるですね。顧客へのインタビューに、お客さんが捕まる業務時間中に行こうとしても「業務時間中は通常の仕事をしてください」と言われてしまうとか。「じゃあいつ話を聞きに行けばいいんですか?」みたいな。

松永:ありますね。あと、新規事業をやるという時に、当然チームで意見交換をしたり、リサーチをしたりする必要があると思います。そして、なぜかそれは業務時間内にやってはいけないことになっていて。特に初期の段階ではありますよね。

これが何段階か経ていて、「役員プレゼンをクリアしました」「社長プレゼンをクリアしました」「いよいよ本格的な事業化プロジェクトを立ち上げます」というところまで進むと正式に工数がつくというケースは、わりとあります。

まだ最初のアイデア段階だったり、事業のタネをこれから作っていく段階だと、なぜか「手弁当で夜な夜な自由時間にやってください」みたいになったりする。すると、そもそもタネが出てこない。から、役員プレゼンまで上がるものも出てこない。そんな悪循環になっている。それはそうですよね。だってそもそもタネがないんですから。

これに関連するものとして、3つ目は新規事業開発に適した「仕組みや制度がない」ということですね。

「何かやりたい」という社員はどんな会社でもけっこう多いんです。でも、いざやろうと思った時にそれを提案する制度が整っていない。

あったとしても「それを提案したらどうなるのか」というところが意外とわからない。提案するにしても「上司の承認を取る必要があるのか」など、実は情報がなかったりする。これもけっこう見受けられます。

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