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『ESG投資で激変!2030年 会社員の未来』出版記念セミナー 10年後を生き抜く!ESGが変える「お金」と「働く人」のルール(全5記事)

大きな「夢」がある会社は、つまらないことで問題を起こさない 費用対効果では測れない「ムーンショット」が今必要な理由

「本に学ぶ、明日が変わる」をメッセージとした新しい書籍系デジタルメディア日経BOOKプラスが主催で行われた『ESG投資で激変!2030年 会社員の未来』出版記念セミナーの模様をお届けします。著者のマーケットリバー市川祐子氏と、公認会計士の田中靖浩氏、楽天グループ楽天大学学長仲山進也氏の3名が「10年後を生き抜く! ESGが変える「お金」と「働く人」のルール」をテーマにディスカッションを行いました。本記事では、企業も個人も「夢」を描くことが必要である理由が語られました。

費用対効果では測れないような夢を語る「ムーンショット」

仲山進也氏(以下、仲山):僕がチームビルディングのお手伝いをしている会社で、よなよなエールを作っているヤッホーブルーイングという……

市川祐子氏氏(以下、市川):ヤッホーブルーイングさん! めちゃくちゃ楽しい夢中な会社ですよね。

仲山:そのヤッホーで、働き方とかチームビルディングの文脈で集まった社内の勉強会で、中途入社して半年ぐらい経ったタイミングの人が言っていたことが、すごく印象に残っていて。

「前職の時は、人格を家に置いて出社してました」という表現をしていたんですよ。「ヤッホーは自分の人格で働けるからすごく楽しいです」と。

市川:(笑)。田中先生、これを聞いてどうですか。

田中靖浩氏(以下、田中):身につまされるなー。「人格を家に置いて出社する人」(笑)。最近のアメリカの経済学者の人が、おもしろいこと書いてまして。市川さんが書いてるESGとか、その種の「お金のルール」が変わってきたというのは、周知の事実ですよね。

長期持続的な目標を定めるのは当然として、その先にいきましょうということを書いてるんです。民間企業がこれだけがんばってんだから、今度はパブリックの政府の役割も変わらねばならないって書いてまして。

その先生が言うには、もう1回ムーンショットの原点に戻る必要なんじゃないかって言っているんですよ。

市川:ムーンショット?

田中:ケネディ大統領が「月に行きましょう」って宣言するわけですね。当時のマスコミや識者は、月に行って費用対効果で良いことがあるんですかって訊ねるんです。ケネディは「ありません」って。そんなの行ったことがないんだからわからないと。

ただ、行くことを目指せば、きっとなにかが生まれるにちがいないから、自分はそれに賭けたいと。それがいわゆるムーンショットです。

費用対効果では測れないような、夢に向かうことが、政府に求められているんじゃないか。今はちょっと逆ですよね。民間企業に倣えというわけで、費用対効果の論理を政府に持ち込もうとしています。美術館とか博物館にも企業の論理が入ってきて、ケチになっているんですよ。

市川:うーん、もったいないですね。

田中:ケチでは芸術を守れません。むしろそこはムーンショットが大事なんじゃないかと。

ムーンショットはやることに価値かある

田中:実はこれ、企業の仕事も同じですよね。費用対効果だけじゃなくて、熱い会社、夢のある会社を目指さないかと。パーパスという枠組みで語っていいのかわからないですけど、夢が必要だと思うんですね。

私はムーンショットが、個人にも必要だと思うんですよ。私にはあります、自分のムーンショットが。今、人生で一番ムーンショットが高まっています、だからあんまり歳を取らないと思うんですよ。俺にはやりたいことがある、いまの自分ならできるかもしれないっていう自分への期待が、若い頃より今のほうがはるかに高い。

でかい目標があるんですよ。「それが達成出来たら、良いことあるんですか?」と聞かれたら、知るかそんなもん、って内容ですが。

仲山:その目標は、聞いていいやつですか。

田中:今はちょっと黙っておかせてください(笑)。

(一同笑)

田中:2人にはお酒を飲んだ時に言います。

市川:わかりました(笑)。

田中:ケネディが言うように、それが叶ったら何が起こるか、儲かるかはわからない。でもやっぱりやることに価値があることってありますよね。

人間は会社を辞めても自分の夢を描くことができる

市川:そうですね。よく三木谷さんが、月に行く目標があるからロケットができたのであって、飛行機を改良しても月には行けないって言うんですけど。

ロケットを作ってる過程でいろいろな新しい技術ができて、それが結果的に、民間のいろいろな先進的な技術革新につながっています。後付けでも別に良いじゃないかみたいな。それはムーンショットに夢中で取り組んだからこそですよね。

田中:がくちょも、そういう遺伝子を持って楽天の店舗さんに接してるから、人気があるんじゃないかなと思うんです。やっぱりムーンショット的な動きしてる店舗ってありますよね。ぜんぜん知らない国に学校を作るとか、へんちくりんなことやっている人がいるじゃないですか(笑)。

仲山:それこそヤッホーブルーイングも楽天に出店している1社なわけですけど、ミッションが「ビールに味を。人生に幸せを。」なんですよね。そして、目指してるところが「ビール会社としてノーベル平和賞を受賞しよう」っていう。

市川:(笑)。

田中:冗談で言いながら、どっか本気だと思うんですよ。そういう人間って会社を辞めても自分の夢を描けると思うんです。夢を描くのが上手であることはすごく重要だと思う。今、すぐ「具体的にガバナンスが」って言うじゃないですか(笑)。

市川:いえいえ、でもガバナンスって、実は私、日本取締役協会という、ガバナンスを追求する協会の会員なんですけど、今年ヤッホーブルーイングの井手直行社長がゲストで来て「ガバナンスの観点でムーンショットが必要なんじゃないか」みたいなことを言われているんですよ。

田中:すばらしい。そういうのがない役員はクビにしましょう(笑)。

市川:そうそう、そういう話なんですよ! もうそういうのがわかんない取締役じゃダメですよって、なりつつあって。実はまともなほうに日本は行こうとしてるんじゃないかと。

田中:そう行くと良いですね。

ムーンショットの目標があると、ガバナンスの問題が起きない

田中:さっきがくちょが言ったように、そういう大人が増えると子どもも見習ってそうなると思うんですよ。「働くのって楽しそうだな」ってなる。「歳取るのって意外に楽しいかもしれないな」ってイメージを描かせるのは大人の責任だと思います。

仲山:あとは、ムーンショットの目標があると「この仕事のやり方でノーベル平和賞がもらえるだろうか」っていう問いが、全員に立つようになりますよね。基準が上がる。そうすると、ガバナンスで問題が起こることもなくなっていきます。

田中:自然と、会社の金をちょろまかしたりしなくなります。

市川:確かに。大きいムーンショットを達成しようと思うと、つまんないことをやんなくなる(笑)。

仲山:やってる場合じゃなくなる。

田中:がくちょ、今度「ムーンショットの作り方」っていうセミナーを一緒にやろっか(笑)。

仲山:やりましょう!

市川:私は傍聴したいと思います(笑)。

「ルール変更」を楽しめない人の気持ち

田中:市川さん、3つ目のテーマがまだじゃないですか?

市川:はい、3つ目いっていいですか? 「ルール変更を楽しめる人、楽しめない人」。冒頭でも「実はルールが変わってきました」ってお話ししました。変わってきたようで変わってないとも言えるんですけれども、お金のルールとか働くルールが変わってきています。それを楽しめるか、楽しめないか。

私は楽しめる人なので、楽しめない人の気持ちがあまりよくわからないんですけど。考えるのが疲れる人なんですかね。昨日と同じことを今日もやりたい人なんですかね。

例えば、去年の田植えと同じ時期に今年も田植えをしたいと。でも気候は変動するからそれを考えてやんないといけないんだけど、それでも去年と同じ時期に今年もやりたいっていう人なんですかね。変わってることを楽しめないっていうのは、なんでなんでしょうか。遺伝子? 教育? 余裕の有無? 夢中じゃないから?仕事が楽しくないから?どうですか? そもそも賞味期限切れの社会課題を追っかけてるからなんでしょうかね。

仲山:それこそ自己実現が組織の中に溶けているような働き方をしていると、別にやりたいからやってるわけじゃなくて、言われたからやってますっていう働き方になるんじゃないですか。

田中:家に置いてくるんですね、自分を。

仲山:そう、本当の自分は家にいるから。そうすると、指示をこなすだけでやりたくもない仕事をしているわけで、それを積み上げてゲットした既得権益を「ルール変更されました」といって奪われると、「今までガマンしてやってきたのに、ふざけるな」みたいな気持ちになるだろうなと。

究極の「ルール変更にやられた人たち」を描いた演劇

市川:チャットのコメントに、「ルール変更の意味がわからない場合は楽しくない」とか来てます。おもしろい。

仲山:「このルールでやっていくからがんばれよ」って言われたからがんばったのに、なんでルール変えるんですか!? みたいな感じ。

市川:変化が怖いからとか、ムーンショットを楽しめないとかですかね。田中先生は思い当たることはありますか。

田中:もうダメだ、我慢ができない! 今日は市川さんの会だから黙っていようと思っていたんですけど、ちょっと関係ないネタを話していいですか?

(一同笑)

田中:もうダメ(笑)。今日の昼間、舞台を観てきたんですよ。『レオポルトシュタット』という舞台です。85歳のトム・ストッパードという有名な脚本家が書いた作品で、コロナでずっと延期していて、みんなリモートで稽古して、やっと今日できるという舞台だったんですね。

20世紀初頭のウィーンを舞台にしたユダヤ人の物語です。4世代にわたる一族の物語なんですが、私も他の観客もみんな、最後の結末は知ってるんですよ。ナチスが現れてどうなるのかって。息苦しくなってしょうがない。最後そこに至るってわかっているのでね。

その悲劇を自分がユダヤ人であるストッパードが書いている。『スター・ウォーズ』とか『インディ・ジョーンズ』を作って、人を楽しませてきた脚本家です。

ウクライナ情勢もあって「最後に、これ作らないと死ねないな」っていう思いがあったのだと思います。すごい暗い話なんですが、すごい良い話で。これこそが究極の「ルール変更にやられた人たち」なんですよね。人類史上、最も悲惨なルール変更。

何代にもわたって自分たちが大切にしようと思ったもの、名誉であるとか、子孫に遺したいお金、そんな自分たちの「パーパス」がだんだん踏みにじられて、最後はアウシュビッツの強制収容所に行ってしまうわけですよ。

ルールが変わる時「受け継がれるもの」もある

田中:彼らを通じて、ストッパードは観客に「あなたたちはどう思うんだ」って問いかけた感じなんです。市川さんの本に沿って言うと、世の中のルール変更って、よき社会をつくるためのものですよね? 劇のユダヤ人家族もルール変更に対応しようと試みますが、壊滅的にそれがうまくいかないんです。

じゃあ彼らユダヤ人はすべてを失ったかといえば、予想しなかったものがちゃんと続いているんですよね。ストッパードも一族の子孫なわけですから。

ユダヤ人ってお金に強いじゃないですか。財産を理不尽に没収され、祖国を持てなかったからこそ、お金を守る知恵が身についているんですよね。

ルールが変わるとき、なかなかうまくいかないこともある。だけど、ちゃんと受け継がれるものがあるという、救いみたいなものを感じさせてくれる舞台でした。

どんだけがんばってうまくいかないかもしれない、でもそれで良いんだっていう思いにしてくれた舞台だったなー。

市川:へー、それは観てみたい。

田中:推薦します。よかったら行ってください。

市川:行ってみたいと思います。

ESG投資でもルール変更がされている

田中:ルール変更ということで言えば、今でいうウクライナのように、「どうしてこんなことが許されるんだ」っていう不幸が起こってしまうことがあるんです。

市川:確かに、そういう意味ではESGのルールが今変わっていて。ESG投資家は今まで武器を作っている会社には投資しなかったんですけど、ヨーロッパとか基準が変わってるところもあって、武器にも投資し始めているESG投資家がいて、賛否両論あるんです。

まだどれが正しいのはわかんないんですけど、武器がないほうが平和に決まってるじゃないですか。さっきの長期投資家なら、長期的に社会が安定のほうが良いわけで、なので武器がないほうが良いんですけど、この(ウクライナ侵攻の)瞬間には、民主主義を応援するために武器を是認しているという。

それが正しいのか正しくないのか、私にはまだわからないけど、そういうことをやってる投資家も出ている。その一方で、それはおかしい、ESG投資家の欺瞞だと言って攻撃してる人もいて。難しいルール変更の最中にまだいる感じなんですよね。

田中:そんな悩みを持つ市川さんには、この舞台は推薦できるな(笑)。割り切れないですよ。簡単に割り切れるほうがむしろおかしいんだって。

市川:確かに。「今、ESG投資で1つのルール変更がされていますよ」っていうのがこの本のメッセージでもあるんですけれども、「これからもどんどん変わりますよ」っていうのが1つ言えることですかね。

『ESG投資で激変! 2030年 会社員の未来』

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