10年後を生き抜けるのは「変われる人」「自分で考えられる人」

市川祐子氏(以下、市川):まず大きいテーマを3つ用意しています。

1つ目のテーマは、「10年後を生き抜ける人・心配な人」。私からまずいって、次に学長、田中さんといきますか。

「10年後を生き抜ける人・心配な人」。生き抜ける人は変われる人ですかね。あと、自分で考えられる人。

世の中がどんどん変わってるじゃないですか。そこに対して、今までの日本の企業はちょっと部活っぽいところがあって、「取りあえず先輩のいうことを聞いとけ」みたいな……。

昔は先輩のいうこと聞いておけばあんまり考えなくてもよかったんだけど、今はそれでは生き残っていけない。自分で考えなければいけなくなってしまったのが、大きな違いなのかなと思っております。すごい簡単ですけど、がくちょはいかがですか。

『ESG投資で激変! 2030年 会社員の未来』

仲山進也氏(以下、仲山):10年後ということは2032年ですか。本のタイトルだと2030年。さっき紹介していただいた僕の本は、「組織のイヌ」以外に「組織のネコ」という働き方があってもよいのではないか、という話です。「イヌ」は組織に忠実で、会社から言われたことをきちんとやることに重きを置くタイプ。

「ネコ」の人は自分に忠実で、どちらかというと会社の指示だからというより、ちゃんとお客さんに価値が提供できているかに重きを置きます。会社の指示に納得いかないと、しれっとスルーすることもあるタイプ。

市川:しれっとスルーもできちゃう人ですね。

仲山:他にもライオンとトラがいます。

事業や組織の価値が“賞味期限切れ”している、昭和97年型の企業

仲山:そもそも「組織のトラ」「トラリーマン」というコンセプトを提唱したのがファンドマネージャーの藤野英人さんです。

市川:レオス・キャピタルワークスの。

『「組織のネコ」という働き方』

仲山:そうです。その藤野さんが最近、「会社には2種類あって、令和4年型と昭和97年型がある」という表現をされていました。

市川:昭和97年ですか。

仲山:そう。今年は昭和でいうと97年にあたります。要は高度経済成長のときにぐいっと伸びた時の事業の価値だったり、その時に出来上がってきた組織の価値って、たぶんもう賞味期限が切れかけてたり、すでに切れてしまっている状態ではないかと思うのです。

でも、そのまま事業を続けて今に至っている会社。そういう昭和97年型の企業に所属していて、忠実にイヌとして組織の指示に従っている人は、10年後がけっこう心配かなって。

市川:うーん、そうですね。ずっと昭和なままの組織の指示に従ってると、ちょっと大変ですよね。

仲山:賞味期限の切れた食べ物を配りまわっている感じじゃないですか。がんばればがんばるほど、社会に腐った食べ物を広めてしまう。それをもしかしたら今やっているかもしれないと思う人は、ちょっと心配かなと。

市川:そうですね。先月、コモンズ投信という、藤野さんの会社と似て個人にしっかり売っていく投信会社の伊井哲朗社長と対談したんですけど、伊井さんも同じようなことを言っていました。賞味期限の切れた社会課題を追っかけていると、どんどん過当競争になってしまうと。

未来を考えるときにぶち当たる「定年」の壁

仲山:田中さんはいかがですか?

田中靖浩氏(以下、田中):あ、ごめんなさい。また油断してました。自分が主催者じゃないとすぐ油断しちゃいますね。自分が主催者だとけっこう緊張感をもって取り組むんですけど、がくちょがゲストでいるし、もう二人に任せればいいや、ほっときゃ話してくれるだろうみたいな。

市川:いえいえ。

田中:「10年後を生き抜ける」って、今回の本の帯にも書いてあるお題ですよね。10年後が心配な人、そうじゃない人という話だと思うんですけど、このお題いただいた時に、私とお二人でこの課題の意味が違うなと思ったんですね。

というのは、私は今59歳で、59歳の10年後は69歳なんですよ。一般論として59歳の人が69歳になるって、「定年」という高い壁を越えるわけですよ。

でもお二人の場合は、おそらくその壁を越えないで済む年齢なんです。50歳の人の10年後は60歳で、まだ会社員やっている。年齢によって10年後の意味がぜんぜん違うんです。

ですから20歳の人、30歳の人、40歳の人は、この市川さんの本のタイトルにあるように、会社員としての未来だと思うんですよね。自分が会社員としてどこまで出世していくかとか、がくちょのいうところのイヌでいるのかネコでいるのかという話だと思うんですけど。

場合によっては私の年齢だと、10年後はイヌでもネコでもなくなっている(笑)。もしかしたら「俺は何者なんだろう」というところに突入している可能性があって。

仲山:野良になってる。

田中:そんなこと言ったら、私はずっと野良なんですけど、今日いらっしゃるみなさんにも考えて欲しいことがあります。

「会社員の未来」は、その先の定年後まで考えられた人が成功者

田中:ESGとかSDGsなど、最近のテーマで、持続的な社会を作るとか環境に優しいとか、「長く続く」ことが大切だと言われます。その持続がもっとも難しいのがサラリーマンの労働だと思うのです。定年でぶちっと切れてしまう。

私の感覚では、ESG関連のテーマはちょっと話が大きくなっている。化石燃料があまりよくないからガソリン車から電気自動車にしようとか、個人の問題を超えて大げさな問題になっている。

そうすると何が起こるかというと、会社員としてSDGsとかESG投資の枠組みで取り組んでいたテーマが、定年になったときに自分の中から消えてしまうんです。

定年までに会社員としてやってた課題や毎日の過ごし方と、定年で「さようなら」って花束もらって辞めてからの毎日が違い過ぎるんです。

会社員人格として自分がやるべきこと・やりたいことと、定年になってから過ごす毎日とかお金の稼ぎ方とかが違い過ぎる。それで今、私の同世代が大変な目にあってるんです。

ここから10年、20年経つとその定年の壁の段差がもっと大きくなっていくんじゃないかなと思うんですよ。特に勤め人ですよね。サラリーマンとか、公務員の人。

私のように最初から野良な人に段差はないんです。50歳も60歳も70歳もスーッといっちゃうんです。

でも「会社員の未来」については、その先まで考えておかないと厳しい。それができた人が成功者。サラリーマンにとっては定年の壁を乗り越えられるかどうかが非常に重要になってくるなと思います。

会社を辞めても使える「長期的ポータブル」のススメ

市川:そうですね。会社を辞めても使えるスキルを身に付けるというのも1つ、「リスキリング」とかありますね。

田中:今日一番私が言いたかったことの1つが、その「リスキリング」です。20年ほど前からビジネススキルのコーチングなり、プレゼンテーションなりで、「ポータブル」という言葉が流行りました。

「ポータブルなスキル」とは転職しても持ち運びができるスキルのことです。その会社でがんばったことが転職したとき、次の会社でも役に立つ。これをポータブルって言いはじめて、なるほどなと思いました。

今回、私が提案したいのは、もうひとつの「長期的ポータブル」。会社を辞めても、会社員時代のスキルがその後も継続して使えるものであるということです。

会社員時代の仕事の経験が、定年後に対して役立たないなら、それはポータブルじゃありません。これからは転職だけじゃなくて、自分自身が長期的に成長できるかどうか。リスキリングを考える上で「長期的ポータブル」の視点が非常に重要で、市川さんが本の中で書かれている企業の人材育成の中に、そういうのが入ってくればすごくいいなと思うんですよ。

市川:そうですね。長期の視点があるといいですね。

田中:転職できるスキルだけじゃなくて、その人がずっと、老年に至るまでわくわく仕事し続けられるシステムがあれば、すごくいいなと思いますね。そんな会社が出てきてほしい。

時間が経っても使えるポータブルなスキルを身につける

市川:確かに。この間ある人から聞いたのが、企業で人に投資して、例えばMBAとか取らせたら、「転職できるスキルを与えると転職するから困るじゃないか」と言った役員がいたって。どういうこっちゃ。

違う会社に転職するスキルも、それはそれでやったほうがいいと思うんですけど。田中先生がおっしゃっているのは横だけじゃなくて、時間が経っても使えるポータブルなスキル。

田中:そのとおりです。単純に言うと、今日の参加者でも会社員として働いている時に培ったスキルなり、名称でも、何でもいいんですけど、それが「会社を辞めても続くものであるか」という検証がすごく大事です。これをめっちゃうまくやっているのが、仲山進也っていう人なんですね。

(一同笑)

田中:仲山さんは楽天大学っていうところにいたんですよ。私もその時に出会ってるんですけど、楽天大学だから肩書きは「学長」だったはずなんですけど、ふざけて「がくちょ」と名乗っていて。たぶんこの名称は、彼のものなんですよね。

市川:ひらがなで「がくちょ」。

仲山:田中さん、僕はまだ楽天大学に所属しているのですが(笑)。

田中:やめたんじゃないんだ(笑)。楽天にいてもいなくても「がくちょ」は「がくちょ」だし、もし楽天辞めてもずっと「がくちょ」でいける。これ、最高ですよね。長期的にポータブルな肩書きを自分のものにしてしまった。

会社にとってもメリットがあるポータブルスキルが強い

田中:普通、なんとか株式会社の部長だったら、その名称って辞めたらなくなるじゃないですか。これしかないのが一番まずいパターンです。

仲山:もう20年くらい「がくちょ」と呼ばれているので、もはや肩書きではなく「あだ名」になってます。

田中:あと20年は名乗れるでしょ、「がくちょ」って。

(一同、笑)

市川:それが楽天にとってもメリットなのがポイントですよね。会社にとっても「がくちょ」と名乗り続けることは、けっこうメリットなんですよね。

田中:そうなんですよ。市川さん、鋭い。「がくちょ」の個人メリットだけで、楽天にマイナスがあったら、長続きしないと思うんですけれど、彼にとってもよくて、楽天にとってもプラスなことを見つけてしまったんですよね。

市川:楽天にとってもプラスなんですよ。ポータブルなスキルを持っていると、例えば会社じゃなくてもメンターになるとか、学生に何かを教えるとか、違うかたちで社会に貢献できるんじゃないかと思うんですよね。

それがみんなあるはずだと思うんですけど、「ない、ない」って言うんです。「本当にないんですかね」って聞くと、「いや、ないんですよ」とか言われちゃって、どうなんですかね。昭和97年型の企業だとないんですかね。

ESG投資はきれいごとではない

田中:今チャットに「私のポータブルスキルって何だろう」と悩みを書いてくれてる人がいますけど、普通は見つからないもんですよね。そういうのを見つけるの、みんな苦手ですよね。

市川:あと、自分では見つけにくいっていうのはありますよね。

田中:ありますね。見つけてくれる人が近くにいたりするとめっちゃいいですね。

市川:この本の中では、例えば1,000兆円運用している人だと、実は当期利益とかじゃなくて、もうちょっと何十年も先の価値に効くことを見てるんですよっていう話をしています。

私はそれ、自分の仕事でやってるから当たり前だと思ってるんですけど、がくちょと、ソニックガーデン社長の倉貫義人さんというクラシコムで私と一緒に社外取締役をやっている人が、「そういう視点を持っているのが強みですよ、他にはないことですよ」と言ってくださったんですね。

要するに言われないと気が付かない。ああそうなのか、というのはあります。

仲山:今の話を補足すると、ブラックロックという1,000兆円を運用している投資会社があって、1,000兆円も運用するとなると地球全体の会社に幅広く投資しなければいけないので、地球自体が沈んでいくこと自体がリスクでしかない。

問題が起こってから対応する治療コストと、予防するコストを比べたら、治療コストのほうが膨大にかかるので、世の中のリスクを減らすような活動をしてる会社じゃないと、もう投資できなくなるよという話。この本の分かりやすいところでした。

ESG投資は、きれいごとじゃない。とても経済的合理的な理由があって、そういうことを考えてやっていないところは投資家から対象外にされてしまいますよ、という話ですよね。

市川:そうです、そうです。きれいごとじゃない。

投資額の大きい人のほうが本質的なところを見ている

仲山:あと、前に『楽天IR戦記』を書いている最中の市川さんから聞いた、「楽天市場の店舗さんの事例を投資家さんに話したエピソード」が印象に残っています。

というのは、それこそ三木谷さんが20年前に講演の鉄板ネタにしていた、「生卵がネットで売れるんです」みたいな話があって。それを市川さんが海外の投資家の人たちに話したらめっちゃ評判がよくて、「まじか」「おもしろい事業をやってるんだね」っていうリアクションがあったと聞いたんです。

かつ運用額が大きい人ほど、そういう話を「おもしろい」といって、すぐに投資をしてくれたと。その話を聞いて、とても興味深いなと思った記憶があります。

そういうふうに、ものすごく大きい額を運用している投資家さんと直に接していて、そういう人たちの視点や価値基準を理解しているのが、市川さんの強みだと思ったのでした。投資額の小さい人だと、あまりそういう反応は出てこないと言われてましたよね。

市川:そうなんですよ。投資額の大きい人のほうが本質的なところを見ているんですよね。

本質的な価値のある事業に会社で取り組んでいるとなると、自分のスキルも長期でポータブルじゃないと10年後生き抜けなくなるということですね。

だから(「10年後生き抜ける人」は)本質的な自分の強みは何なのか、気付ける人でもありますよね。本質的に、この会社で何をしたいか。そこで気付いた自分の強みとか他の人にはないスキルとか。例えば人とうまく話せるとか、そういうスキルを持っている人が10年後を生き抜ける人なんですかね。

仲山:なので、それこそEとかSとかGの切り口で価値を生み出すような仕事の仕方をマスターできると、この先10年や20年じゃなくて、もっと長く使っていける働き方という気がします。