会社員の未来として、10年後を生き抜くには

市川祐子氏(以下、市川):『ESG投資で激変!2030年 会社員の未来』出版記念セミナー「10年後を生き抜く! 『お金』と『働く人』のルール」を始めます。著者の市川祐子です。今日はゲストに、田中靖浩さんと仲山進也さんをお呼びしております。

『ESG投資で激変! 2030年 会社員の未来』

これから3人で、この本の帯にある「10年後を生き抜け!」をテーマに鼎談します。できればみなさんとのインタラクティブな会にしたいと思いますので、どしどしご質問いただければと思います。

まず、私のプロフィールから紹介させてください。マーケットリバー株式会社を設立して、その代表をしております。その前は、楽天のIRを12年間やっていました。最初に入ったときはひとりIR(インベスター・リレーションズ/投資家向け広報)、つまり最初の専任者で、そこからずっとIRを担当しておりました。

途中、東証一部鞍替えとかいろんなことがあって、そのことは『楽天IR戦記』という本にありますので、もしよろしければこちらもお読みいただければと思います。

この中には実は、仲山さんも「楽天大学学長」としてうっすら出てきます。「戦記」とありますけれども、楽天で「時価総額を大きくしよう」とすったもんだしながら投資家と対話をし、どう世の中に貢献していくかということを書いた本です。

今は社外取締役もやっておりまして、この8月に上場しましたクラシコムという、「北欧、暮らしの道具店」を運営しているECの会社だったり、旭ダイヤモンド工業という非常に歴史の長い会社の社外役員をやったりしています。

メインとしては、IR担当者や起業家向けに、IRやガバナンスのコンサルティングを行っております。本を書くのが好きなので、2冊目としてこの本を書きました。

楽天IR時代の縁がつなぐ関係性

市川:続いては田中靖浩先生。私の尊敬する方です。ぜひ自己紹介をお願いいたします。

田中靖浩氏(以下、田中):すいません、今完全に油断してました。

市川:いや、油断しないでください。

田中:参加者の名前をずっと見てまして。自分の紹介もさることながら、「一体誰が来てるんだ」って見てたんですけど。今の知り合いとか、古い友人とか、これはスパイだなとか、けっこう見て楽しんでました。

市川:スパイがいるんですか?

田中:(笑)。いやいや。誰に来ていただいてもいいんですけど。

みなさん、どうもこんばんは。田中靖浩です。本日はお忙しいなか、市川ブルゾン祐子withBの講演にお越しいただきまして、誠にありがとうございます。

市川:(笑)。

田中:会場だと3人で踊ったりするんですけど、オンラインで無理なので、お詫びに市川祐子が最後に1曲歌いますので、それでどうぞお許しを。

市川:歌えるかわかりませんけど(笑)。

田中:「ESGフォーチュンクッキー」を歌いますので、みなさん最後までお楽しみいただきたいと思います。ということで、市川さん。楽天でのIRは、最初の頃は1人でやられてたんですか?

市川:そうですね。そんなに長い間じゃないですけど、1〜2年くらいはほぼ1人。

田中:楽天がIRを始めた時に、私がちょうど会計の本を書いていて。楽天のIR部門に問い合わせして返事をもらったことがあります。あの時、もしかしたらメールでやり取りしてたかもしれないですね。

市川:そうかもしれないです。もしかしたら専任者ができる前の上司だったかもしれないですけど。

田中:そんなことで、今日はみなさんどうぞよろしくお願いいたします。

「おしゃべりをする係」というプレースタイルの共通点

市川:よろしくお願いします。続いては仲山進也さん、よろしくお願いします。

仲山進也氏(以下、仲山):よろしくお願いします。チャット使う練習を先にやったほうが、きっと場が和みますよね。

ということで、みなさんどこから参加をされているか、場所をチャットに書き込んでいただいていいでしょうか。僕は鎌倉にいます。

市川:あ、高知とかありますね。文京区、三軒茶屋、静岡、横浜、港区、愛知、大阪、世田谷、恵比寿……オフィスかな。あ、読めない漢字があった。菰野(こもの)かな。荒川区、松戸、八王子、深川、横浜、練馬、川口……。うれしいですね。近くの人もいらっしゃいますし、会社から参加っぽい方もいらっしゃいますね。ありがとうございます。

仲山:こんな感じで、チャットに好きにつぶやいて使っていただけると、拾って話をしやすいので、気軽に書き込んでいただければと思います。

というわけで自己紹介ですが、市川さんの元同僚です。僕はまだ楽天に籍があるのですが、市川さんとは、楽天時代にはそんなに直接のからみはなかったですよね。

市川:私が楽天を辞めてからのほうが、やりとりが増えましたね。

仲山:さっきの『楽天IR戦記』に書いてありますが、確か市川さんが三木谷(浩史)さんから、「楽天市場の出店者さんの事例を楽天大学に聞いといて」って言われたんですよね?

市川:そうです。

仲山:それで市川さんが楽天大学まで行って、「学長がいるって聞いたんだけど」と尋ねたら、「その人は店舗さんと遊ぶ係なので、会社にはあまりいないのです」って言われた、というくだりが書かれていますね。

市川:そうなんです。だいたい学長のことを知っている人は、そこでクスって笑うというか、爆笑するんです。楽天社員なのに楽天にあまりいない人なんですよね。

仲山:でも、僕は楽天市場に出店している店長さんたちと一緒におしゃべりをする係。でもって市川さんも、楽天の投資家さんとおしゃべりをする係をやっていたことがわかって、プレースタイルが似てるなって思いました。

ESG投資は、フツウの会社員にも関係がある

市川:(仲山さんは)組織の中のプレースタイルという意味で、組織にいる人の類型を動物で例えた本(『「組織のネコ」という働き方』)を出されておりまして。他にもいっぱい本があるのにこれを挙げて恐縮なんですけど、私はこの本が好きで、ちょっと今日のテーマと近いのかなと。

『「組織のネコ」という働き方』

仲山:働き方の話なので、今日のテーマに関係すると思います。

市川:はい。私は「ネコ」タイプなんです(笑)。これもすごくおもしろいので、もしよかったらみなさんもご覧になってください。では本題に入って、『ESG投資で激変!2030年会社員の未来』という本の紹介をさせていただこうかと思います。

どんな本なのか、目次と、9月1日に発売して1カ月ちょっと経ちましたので、読んだ人からどんなお声があったかもご紹介したいと思います。

1章から6章、それからマイミッションインタビューというタイトルで、メルカリ会長の小泉文明さんと、翻訳家でMPower Partnersの関美和さんの2人に、それぞれしたインタビューを掲載しています。

この本、実は最初はESGとコーポレートガバナンスの基本的なことをわかりやすく書こうと思っていました。じゃあなぜ「2030年の会社員の未来」になったかというと、それには2つ理由があります。

「ESG投資は、フツウの会社員にも関係あるよ」ということで、自分ごと化してほしいと思って、いろいろ例え話を使ったのが1つ。これは1章と2章に出てきます。

もう1つ、4章に「ESG投資が、日本の会社員の働き方を変える」というのがあります。これは何かというと、ESGのS(Social、社会)のうち、今の投資家は「価値創造の観点で従業員がとっても大事だ」ということで、株式市場からもうちょっと従業員を大事にしろという働きかけがいっぱいあります。今それがホットになっている。

突き詰めると「働き方と働きがい、自分自身で考えましょうよ」というメッセージに最後のほうはなっております。それが6章の「あなたの北極星、『パーパス』に向け、道のない旅を」とか、小泉さん、関さんのインタビューにも反映されております。

ということで、全体的にとってもやさしい内容で作ってはいるんですけれども、パーパスとかESGとか、プロの投資家は何を見て投資するのかとか、そういう話を提供しています。

それぞれの企業の「やるべきESG」は狭くしていく必要がある

市川:すごくわかりやすくできたので、反響としては「一般社員だけじゃなくてトップにも読ませたい」と。これはある企業でサステナビリティ推進の担当をやってる人が言ってたことです。

他にも、プライム企業の社外取締役の方が「うちの社長に読ませたい」ということで、社長に渡したというケースもあります。わりとやさしめですけど、ちゃんとプロの人が読んでもおもしろく読めると思います。

それから「本を読んでみたら、やっぱり働きがいとか組織とかちゃんと考えようと、そう考えるきっかけになりました」という声もありました。

ESGとかSDGsとか、うわっと広がっちゃってる感じがするんだけれども、それぞれの企業の「やるべきESG」は、わりと狭くしていく必要があって。どれをやるべきなのか、どれをやらないべきなのかと言う類型化を3章「ESG投資は本当に儲かるのか?」で話しています。「そこに腹落ちしました」という声もありました。

何が言いたいかいうと、初めての人でも「ESGってふわっと解釈してたけど、自分ごとにできる」ってなりますし、ある程度わかっている人も楽しく読んでいただけるのではないかなと思っております。

長期投資になると「お金のルール」が変わる理由

市川:いくつかエッセンスを紹介いたします。まずESG投資はなぜフツウの働く人にも関係あるのか。

1点目。ESG投資では、プロの投資家が企業に「こうしてほしい」という評価項目をいろいろ要求します。「なんかうるさいお金持ちの人が言ってることなのかな」と思われるかもしれないんですが、実は機関投資家は、みなさんのような年金基金に加入しているようなフツウの人たちのお金を預かっているのです。老後のお金をiDeCoとかNISAで運用しているわけですね。

もちろん今の利益も重要なんだけれども、お金がすごく大きくなって、かつ長い期間運用しようとする。年金は30年後、50年後のリターンをフツウの人たちに返さないといけないわけなので、必ずしも今年とか来年の利益が大事ではないんですね。

今日のテーマの1つ、「お金のルール」について。長期投資になると「お金のルール」が変わります。なぜかっていうと、個人投資家は、自分のお金だったら、例えば楽天なのか、他のリクルートとかソフトバンクなのかとか、いい会社をpickすればいいわけなんです。

プロの機関投資家はそういう対応ではありません。この本だとブラックロックというアメリカの会社が出てくるんですけれども、日本の企業には2,000社とか3,000社とか投資してますし、グローバルではたぶん万単位の企業に投資して、それも運用してるのが1,000兆円とかという金額です。一つひとつの会社に何か言うよりも、全体として儲かる仕組みが必要になります。

長期に儲かる仕組みっていうのは、長期に安定する経済が必要で、つまり長期に持続する社会とか、人間にとって住みやすい長期に持続する地球環境とかになります。そうするとお金のルールが変わって、ESG投資家が増える。ESG投資の金額も増える。企業にも対応を求めることになります。

これが、お金のルールがもうすでに変わったことの1つですね。

長期投資は「働く人のルール」も変わる

市川:もう1つ。長期投資になると「働く人のルール」が変わります。投資家は会社一つひとつ見ていくと、やっぱり長期に儲かる会社に投資したいわけです。長期に価値を生むのは何ですか? 長期に価値を生むのは「人」です。

となると、人に投資する会社に投資したい。またそれも投資家から会社にプレッシャーが今かかっています。なので、会社は従業員を大事にしなければ生き残れない。この逆の回転が今かかっているっていうことです。

こんなことがエッセンスですけれども、本にはいろんな表現を使って書いております。

じゃあ、どう価値を上げるんですか? これは本にも引用してるんですが、エーザイの元CFOの柳良平さんという方が、実際に20年間のデータを分析したのがこちらです。

人件費を1割上げると、5年後に企業価値が13.8パーセント上がる。育児時短利用者が1割増えると、企業価値が3.3パーセント増える。女性管理職比率が1割改善すると、7年後には企業価値が2.4パーセント上がる。

つまり、人への投資は少し遅効性があります。企業価値、これはPBR(Price Book-value Racio /株価純資産倍率)のことなんですけれども、要は時間がかかって株価が上がるということです。だから2030年の企業価値を高める人への投資は、今やる。そういうことになります。

先ほどのように、人件費、給料を上げればいいのかというと、それだけではないんですね。企業から見て生産性が増す鍵は、企業の方向性、「パーパス」という、この事業をなんでやるのか、この会社は何で社会に貢献するのかみたいなものを明文化したものです。

それ(会社のパーパス)に個人のパーパスがしっかり一致していると、生産性が増す。これはユニリーバの人が言っていること。

会社という「船」にとって、働く人のパーパスは「帆」

市川:あるいは会社を船に例えてみると「帆」。この本、実は船の例えがいっぱい出てきますが、船にとって、働く人のパーパスと個人のパーパスが一致すると強力な帆になる。会社のパーパスで投資家が投資しようとするのであれば、働く人は自分のパーパスと会社のパーパスを見て、それでキャリアを決めていきましょうよっていうことで、最後締めくくっております。

いろんな事例がありますので、読んでいただければなと思います。

ということでこのテーマ。「世界は変わった。君はどうか。10年後を生き抜け!」について、ここから3人で話を始めようと思います。

せっかく投票機能があるので、みなさんにお聞きします。シンプルに「はい」か、「いいえ」かでお答えください。この本を読まれた方は「はい」でお願いします。......ありがとうございます。4割ぐらいの方が読んでくださっているということですね。

読んでないという前提でお話しさせていただきましたが、ここからは読んでいる方もまだ読んでない方も、もうちょっと発展して、「10年後を生き抜け!君はどうか」というテーマでお話ししたいと思います。