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ディスカッション/Q&A(全3記事)

製品が高評価を受け、どんどん売りたいのになぜか足踏み… ベンチャー・成長企業で発生する「100人」「300人」の壁の正体

組織課題解決のプロ、識者、実践者をゲストに迎え、予測不可能な時代を生き抜く組織のあり方を共に考え、実践のヒントを伝える「Uniposウェビナー」。そのウェビナーに、リクルート人事部ゼネラルマネジャー/ライフネット生命総務部長/オープンハウス組織開発本部長など多様な企業の人事・採用部門の責任者を務め、現在は人事コンサルタントとして活躍する曽和利光氏が登壇。本記事では、Unipos株式会社執行役員の斉藤知明氏と共に、多くの成長企業で「行動でマネジメント」ができない理由や、今求められる人事の2つの役割などが語られました。

マネジメントの5つのステップ

斉藤知明氏(以下、斉藤):曽和さん、ありがとうございました。

曽和利光氏(以下、曽和):ありがとうございました。

斉藤:すごく整理された話でいろいろ考えながらお聞きしていたのですが、僕はもう悩んじゃいました。どこから手をつけていこうかなと思っていたんです。

曽和:今日は無理筋な時間かもしれないですね。ごめんなさい(笑)。

斉藤:いえいえ(笑)。悩んだというのは、自分の組織とかお客さんの組織に照らし合わせた時に、どこからやっていくのがいいのかな? という意味で悩んじゃったんです。

例えば弊社も今は100人の組織ですが、部署単位で100人いらっしゃる企業さんだと、おっしゃるとおり2をすっ飛ばした上で3、4、5をやっているケースがすごく多いなと思っています。

特に創業者ないし僕のような経営層は、行動化したり縛るのが苦手。「縛られるのが嫌だった」というのもあるかもしれないんですけど、画一化するとかマニュアル化するのがけっこう苦手なんです。

なので、結果で縛ろうとし始めて、ちょっと規模が大きくなると計画でマネジメントをして、最後にはカルチャーだカルチャーだと走っていく。

逆に工場だと、むしろこの行動がめちゃくちゃしっかりされていて、結果や文化で少しずつマネジメントをされているので、改善文化が根付いていく違いもあるのかなと考えていたんです。

曽和:そうですね。あと、けっこう多いのは「文化でマネジメントしたい」という声です。特に成長ベンチャーの経営者はよく思いますよね。

斉藤:そうですね。

曽和:だから2、3、4の全部をすっ飛ばして5というところもあると思うんですけど、かなり従業員の方々が成熟していないと僕は難しいと思うんですよね(笑)。もちろん成長ベンチャーでも、いろいろなところで経験を積んできた方をガッツリ集めているプロ集団みたいな会社だったら、ステップ5をいきなりやることもできると思います。

でも、そうではないところがいきなり文化、文化と言っても、MVBやVMVと書かれていた方もいましたが、絵に描いた餅に終わってしまうこともけっこうあります。

「行動でマネジメント」ができない理由

斉藤「『自由にしていいよ』と言うのは、ある意味で脅迫だ」という表現を途中でされていたと思うのですが、これはステップ2を飛ばしてしまったために、従業員の受け取り方でこういう印象や弊害が起こるのかなと想像したんです。

とはいえ、いきなり「行動でマネジメントをしましょう」と言っても、そのスキルが人事や経営やマネージャーに備わっているかというと、それもNOなんですよね。

曽和:そうですね。先ほど「経営者が嫌いだから」みたいな話をしたんですけど、行動でマネジメントするのを飛ばしてしまう原因はそれだけではないんです(笑)。

先ほど「ジョブ型も準備ができていない」というご質問もありましたが、それは何かというと、例えば仕事ができる人でも、なぜ自分はその仕事ができるのかを説明できるとは限らないんです。ちょっとややこしいんですけど(笑)。

実行できる人が説明できるわけではないんですよね。スポーツはわかりやすいですけど、例えば清原さんはバンバン打つのですが、「理論的にどうやったら打てるのかを説明をしてくれ」と言われたら、もしかしたらできないかもしれない。落合さんだったらできるかもしれませんけど、そういうふうにできる人とできない人がいるわけです。

実行はできても説明ができるかどうかはわからない。ビジネスでも同じだと思っていまして、トップ営業マンになぜ売れるのかを1から10まで行動レベルで説明してみろと言っても、これはなかなか無理な話です。

人事の役割の1つとして、そういうことを言語化してあげることがサポートになると思うんです。これが「行動でマネジメント」ができていない理由かなと思います。

経営判断で自社にあったステップの進め方を決める

斉藤:いろんな理論がありますよね。それこそSECI(セキ)モデルとかSECIスパイラルと言われるものや、守破離の守だって、「行動でマネジメント」に値するものだと思うんですけど、いわゆる守をないがしろにして経営者は破や離ばかりをやるわけじゃないですか。だからこそ、そこに対して意識が向かない。

特にそれが得意とは限らない人がどんどんプレーヤーとして成果を出していく好況の中で、曽和さんのご主張の最後で「とはいえ個だ」という話がありました。手をつけられるのは「個」からではないか? というご提案が後ろのほうであったと思うんです。

僕が悩んじゃったと最初に申し上げたのは、この行動マネジメントは、ある意味100人の壁とか300人の壁を乗り越える型化に取り組み始めたほうがいいのか。それとも「いや、いきなりは無理だ」「もう5に振り切っちゃう前提で強化に勤しんだほうがいい」のか、どっちがいいんだろうという点です。

曽和:僕もこんな古い理論をご紹介しておいて無責任なんですけど、わからないというかケースバイケースだと思うんです(笑)。というのは、このグライナー(モデル)は、1980年代のある程度の目標がはっきりしていてそれに向かっていく時代、日本で言ったらバブルですよね。その頃の時代なんです。

なので、例えば行動のマニュアルを作っている間にその行動が陳腐化することがあまりなかった時代の話なんです。ですから、この「行動でマネジメント」というステップ2をじっくりやる余裕があった気もします。

だけど、例えば今、事業ピボットをバンバンやっているような会社が、ある事業に向かっている時に行動マニュアルをワーッと作っている間にぜんぜん事業をピボットしていないとなると、「どないやねん!」となります(笑)。「もうこれいらんがな!」という話になるのも事実です。

なので、先ほどから何度も「こんな理想どおりにはいかない」とは言ったものの、今の世の中はきっちりやりすぎるというよりはある程度ステップ2をやって、でもやりすぎると次のものに変化する時に支障を来たすので、ふわっとこのステップ5に通り抜けていくことがすごく重要になってきます。ちょっと難しいんですけど。

ただ、うまくやっている会社は徹底的にステップ2ならステップ2をやって、ステップ3になると急に変わるんですけど、このチェンジマネジメントを激しくがんばるんです。そういう考え方もあると思うんですよね。

ふわっとこのステップ5を通り抜けるか、もう2なら2、3なら3、4なら4とがっちりやりながら、その中ですごく会社は揺れるんですけど、そのチェンジマネジメントをきっちりやるのも方法かなとは思いますけどね。これは経営判断です。

斉藤:いやぁ、悩ましいですね。

曽和:難しいと思います。言っておいてなんですけど(笑)。

ベンチャー・成長企業で発生する「100人」「300人」の壁の正体

曽和:ちなみに今日の「100人と300人の壁」でいうと、おそらくステップ2が100人の壁という感じがするんです。理由はステップ2ができにくいので。ステップ4がたぶん300人の壁になっているんだろうなと思います。

斉藤:なるほど。

曽和:両方とも自由にするほうが、たぶん成長企業とか経営者は好きだと思うんです。ただステップ2やステップ4の集権化するタイミングを適切に取れるかが、どうも抜かしがちだと思うんですよね。能力的にも志向的にもあまり好きでもないということで、1、3、5をやろうとするわけなんですけど。

斉藤:はい。しますね(笑)。

曽和:1はいいと思うんですけど、3,5をやろうとして2、4をおろそかにすることが、100人や300人の壁の正体なんじゃないかなと僕は思っているんです。

斉藤:なるほど。すごくしっくりきました。特にこの2がたぶん一番求められるのはPMF(プロダクトマーケットフィット)した直後とか、あとは伸ばすだけだよねとなったタイミングで。

いきなり3にいくとすごく成果がまばらになってしまったり、できる人・できない人の差がどんどん激しくなってしまうことがあると思います。それでしんどいという人がどんどん脱落していっちゃうというフェーズが起こる。

曽和:そのとおりだと思います。だからPMFの直後というのは伸びているところはめちゃくちゃここの管理している感じがするんですね。自由にやらせている場合だって、「これが勝ちパターンだ」というのがちょうどバシッとようやくわかった時じゃないですか。そうしたらもう、「余計な試行錯誤とかいろんな工夫はやらなくていいから、これをまず徹底的に毎日してくれ」となる(笑)。

斉藤:1回、集中すると(笑)。

曽和:まず量をやってくれ、効率的にやってくれという世界になりますよね。しかもちょうどそのPMFあたりの対応ブランドでいうと、「いろいろやらせてくれる」とか「試行錯誤できる」みたいな感覚でその会社に入る人も多いと思うので、そのあたりの入ってくる人とマネジメントのギャップがステップ2の時にはあり得ますよね。

「ベンチャーとか成長企業だから自由にいろいろ考えてやらせてくれると思って入ってきたら、ガツガツの、ガチガチの行動マネジメントをされている」という感じですね(笑)。そういった採用上のミスマッチも生み出して、いろんな問題が起きているんじゃないかなと思うんです。

いずれにせよ、今はいろんな問題からステップ2をちゃんと乗り越えていくのは本当に難しいことだなと思います。

斉藤:なるほど。ありがとうございます。

今求められる人事の2つの役割

斉藤:その中で、行動でマネジメントができるようになってきて、「難しいな」と思う人にその再現性を出してくる。我々も「Unipos」というサービスをやっていて、今の組織が150人ぐらいなんですね。チームでいうと種類だけで十何チームあるんですよ。

例えばマーケターだったり、セールスだったりインサイドセールスだけでも十何個もチームがあって、一つひとつマニュアル化していくことがすごく難しい。計画も変えてしまっている状況の中で、どうしてもやっぱり個の力を上げていく、強化していくことも同時に取り組んでいきたいという、このバランスは求められるなと思いますね。

曽和:そうですね。今日の話は、例えばこれが理想形でこの順番でステップを踏んでいくと組織が順調に成長するんだとしても、先ほどのリモートワークだったり、そもそも変化の激しい時代で行動マニュアルを作っている間にいろいろなものが陳腐化するとなってくると、やっぱり「個」を強化することを同時並行してやっていくというか、むしろ「個」の強化に先に手をつけておかないと、現実的には難しいのかなという気はします。

人事担当者が中長期に考える上では、先ほどのステップ5みたいなものを頭の中に置いておきながら、自分の会社のマネジメント方針はどっちに向かっているんだろう? と考えるのは重要だと思うんです。

ですが、今は血が出ていることもある(笑)。退職が続いているとかメンタルになっているとかローパフォーマーだらけになっているとすると、「すぐできることばっかりですよね」と言っていた、「自己効力感を高める方法」あたりをまずは応急措置的にやることが必要なんだろうなと思います。

だから人事はすごく難しいですよね。中長期的なステップを踏まえていくことをしながら、同時に最適なマネジメントになっていないことを前提に効力を高めるために、もっと言うと自己効力感を高めるための諸活動をやっていく。この2本立てをやっていかないといけないという極めて難しい仕事です(笑)。

斉藤:いやぁ、大変な時代ですね(笑)。

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