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自由と自律のバランスを取る、カヤック流健康経営(全1記事)

サボっても成果を出せるのは、セルフマネジメントができる人 面白法人カヤックの「自由と自律」のバランス

昨今は生産性向上や効率化などが求められ、限られた時間に成果を出すことがより重視されるようになっていますが、クリエイティブな発想を生むための余白も必要不可欠なはず。そこで今回は、かつて社内で「正しいサボり方研修」を実施したこともある、面白法人カヤック人事のみよしこういち氏にお話をうかがいました。アイデアやクリエイティビティが求められる組織における、息抜きの場や仕事の仕方、評価の考え方とは。

サボりながら集中できる人の共通点

——カヤックさんは、2016年に社内で「正しいサボり方研修」を開催され、生存戦略として、積極的に余白を作る取り組みをされていたのが印象的でした。

健康経営のページでは「個人のクリエイティブのつくり方に合わせた施策を実施する」とありますが、確かにパフォーマンスを発揮できる環境は人によって違うという難しさがあります。

特にクリエイターという職種柄、根を詰めてやる時もあれば、アイデアを考えるための余白が必要な時もあると思うので、どうバランスを取っているんでしょうか?

みよしこういち氏(以下、みよし):全員にヒアリングをしたわけじゃないですけど、自分の趣味を持っている人が一番うまくいってる気がしますね。会社でも「自分が興味を持てるものをいかに見つけられるか」という話はよくしているんですが、例えばうちの事業部長には寿司を握れる人がいます。

——趣味と言っても極めてますね(笑)。

みよし:2年ぐらい前に「寿司を握ってみんなにごちそうしたい」って言って、調理学校に行ったのか練習したのかわからないですけど、握れるようになったらしいんですよ。

あとは、第3次サウナブームが来る前からサウナが好きで、海外の代理店と組んでサウナテントのブランドを作ったプランナーもいます。サウナテントの中では一番有名だと思いますね。

その人は今はサップで沖合に出て釣りをする、サップフィッシングにはまっています。その前は確かエンジニアと5人くらいで技術開発して、ドローンで魚影を探すというのをやってましたね。最終的には海の前の家に引っ越しして、「週末は沖に出て釣りをしています」って言ってましたけど。

——すごいですね(笑)。

みよし:さすがに仕事中に釣りに行くのは難しいでしょうけど、週末とか平日の朝に「ちょっと行ってくるかな」みたいな息抜きをしている人たちはいると思います。

それも一生やるものじゃなくて、たぶん変わっていくんだと思うんですよね。いわゆるアクティブレスト(積極的休養)とか、自分が無心になれるくらい好きなものを見つけられることが、サボりながら集中するというところでは重要かなと思います。

Slack上に存在する、およそ700個もの「趣味チャンネル」

——なるほど。みなさんは仕事中も何か息抜きなどをされているんでしょうか?

みよし:会社のSlackに#clubという趣味のチャンネルが700個ぐらいあるんですけど、今日も朝9時から16時まで、ずっとSlackでポケモンカードの話が投げられてますね。

今はリモートだからというのもありますし、話しかけて相手の時間を奪うんじゃなくて、Slackで投げておいて誰かがたまに返すみたいな感じです。「非同期コミュニケーション」という言葉も出てきましたけど、各々の都合のいい時間にやりとりすると。今日は「ポケセンの当日入場外れ」っていう話題で盛り上がってますね(笑)。

——(笑)。

みよし:ポケモンカードの発売か予約の時期に「俺は当選しました」「俺は落ちました」とか「エントリーは今日までです」みたいな話を、仕事中にわりとしてますよ(笑)。

まぁゲーム系が多いですかね。たまにTwitterで発売のニュースを見たり。Slackに関しては、今話すまではサボりだと思ってなかったんですけど、確かにその時点でサボってますね(笑)。自分のカレンダーに予定を入れてて「そういえば今日だ」と思い出したら、誰かが1発目を投稿します。

1チャンネルには最低でも20人くらいメンバーがいるので、誰かが返信しますよね。「それって仕事に集中してないだろう」というのもありますけど、適宜己の好きなことでSlack上で息抜きしているかなと思いますね。

——楽しそうですね。会社によっては、仕事中に業務以外の話でオープンに盛り上がるのは難しいところもある気がするんですが、どうやって罪悪感を抱かないようなカルチャーを作れたんでしょうか?

みよし:人事も経営者も誰もダメだと言ってこないのと、チャンネルの中にリーダーたちが普通にいるんですよね。「#clubオタク」チャンネルとかで、事業部長が普通に「今週の漫画がマジで泣けた」とか投稿してるので、それはもう取り締まれないでしょ、というか。

——なるほど(笑)。

みよし:事業部長は暇じゃないと思うので、投稿数は少ないですけどね。普通に好きなものが出たときは、本当にずっと「泣ける」って言って、「今漫画見てたろ」と思うようなことが多々あるので(笑)。特にルールがあるわけではなく、上もやっているし、誰も止めないのでいいだろうという勝手な解釈ですね。

同期同士や興味関心軸でのつながりが生まれる仕掛け

——ちなみにその700チャンネルはどんなジャンルが多いんですか?

みよし:「花金」とか「社食」とか「ランチ」みたいな食べ物系とか、ゲームは「スプラトゥーン」「FF」みたいにタイトルごとに作ってたり、スポーツとかラジオとか。遊びやエンタメに近いものが多いかなと思います。

最低でも50~60個は普通に動いていますね。新卒全員にリストを送ってるんですが、チャンネルが700個もあると探すのも大変なので、来年は#club新歓をやろうと思ってます。

あとは個人のつぶやきを書き込む#timesに、自分が好きなものを書いていると「こういう#clubがあるよ」とたまに教えてくれる人もいます。人脈というと変ですけど、そういうふうに自分から発信できる人のほうが合うと思いますね。

それから、入寮条件に合うと招待される「#オンラインclub独身寮」っていうチャンネルもあります。趣味がなくてもご近所さんはほしいという発想から、独身寮を作った人がいて。あとは海辺ならではですが、「#club海の家」もあります。会社から徒歩15分で由比ヶ浜なので、仕事とかランチのあとにみんなで行こうとかいう話は、仕事中に飛び交ってますね。

もちろん仕事とはチャンネルを分けていて、#clubとついているのが趣味です。新卒同期のチャンネルもあるんですが、2022年入社のメンバーはいまだに週1で集まって会議したりしてます。

リモートになる前からSlackはあったんですけど、昔より興味が近い人としゃべる機会は増えたと思います。ただ、ぜんぜん関わりがない人と話す機会がもう少しあってもいいかもしれないですね。

リモート時代は、セルフマネジメントが必須スキル

——なるほど。一方で、時には仕事でタイトなスケジュールや集中力が求められることもあると思います。そういうところでうまくサボりつつもパフォーマンスを出せるのはどんな方でしょうか?

みよし:セルフマネジメントができないと、もう無理でしょうね。新卒研修でも話しますし、昔は「セルフマネジメントができるようになったら一人前」という評価基準を置いてました。実際サボっているかどうかはわからないですけど、仕事ができているかどうかはアウトプットでわかるはずなので、余力を残しつつコントロールしている人はいるかもしれないです。

ただ、特にリモートの時代は、自分でオンオフの切り替えができないときつい気がしますね。だから「自分は家だとサボります」という人は、基本オフィスに来てると思います。サボっているかどうかというよりも、セルフマネジメントができないと評価が下がるというのは、本人にも目に見えてわかるんじゃないかなと思いますね。

——自由であることの大変さを受け入れられる人が合っているということですね。

みよし:そうですね。『耳をすませば』っていうジブリの映画で、雫(主人公)が「小説を書きたい」と言った時に、お父さんがこう言うんですよ。「よし、雫。自分の信じる通り、やってごらん。でもな、人と違う生き方は、それなりにしんどいぞ。何が起きても、誰のせいにもできないからね」って。

その通りだと思いますし、それがわかっていない人は難しいかなと思いますね。自由というのはある意味、何かを自分で選択しないといけないので。自分が仕事ができなかったり、スキルが上がらなくて評価が下がることに文句を言う人がいても「それはお前が選んだ道だろう」という。

もちろん、その人が本当にがんばった結果、リーダーたちがぜんぜんわかってくれなかったと聞いた時は「会社が悪い」と思います。それでも変えられないことなら、本人にとってどうするのが幸せなのかを一緒に考えて、コンセンサスを取りますね。

Slackが「公認のサボりの場」兼「学びの場」でもある

——「ひたすら真面目に働いていれば評価される」というのも、ある種の暗黙のルールで、働く側にも従うから評価してねという気持ちがあったと思いますが、カヤックさんでは「自由でいいから成果も出してねという、自律した働き方が求められるんだなと思いました。社員の方の自律を支援するために、会社として何かできることはあるでしょうか?

みよし:そこは困っているところですね。今は1on1の面談でコミュニケーションを取っていますが、メンターや事業部、チーム単位でも質は違うと思うので。会社の支援と個人でいうと、正直なところ6〜7割は個人の技量によっている部分はあると思います。

昔はある程度の失敗の中で育てられたんですが、今は新卒でも大きな案件に関わることが多いので、最初は業務が決められていることも多いんです。本当は経営者も僕も事業部も、あまり決められた業務だけにしたくないんですが、そうしないと回らなかったりするので。

あとは、#timesに仕事のやり方を書き込んでいる人がいるので、そういうところから見て学ぶケースも多いと思います。周りのやり方に学ぶところと1on1があって、そこに組織として「この辺までは全体で(足並みを揃えて)いこうぜ」という部分を出していくのが、今の課題かなと思います。

——クリエイティブの組織だと、型にはめすぎるのも……という部分もありますよね。仕事のやり方を共有しているのはどんな方ですか?

みよし:エンジニアは#timesにけっこう書いてて、デザイナーはけっこうオフィスに出社しているので、同じ場所に集まって確認しながらという感じです。

うちでトップクラスのエンジニアの平山さんは、「この人、永遠に#times書いてるな」っていうぐらい、今作っているゲームの光の当て方とか関数をずっと投稿してます。僕は読んでも意味が分からなかったんですけど、その#timesに53人いるので、会社の25パーセントは見てると思います。

誰かが質問を投げたり、エンジニア同士でのやりとりが生まれるので、そこでの学びはあると思いますね。平山さん自身が、レクチャー形式で教えるよりも、自分がやっていることを見せて学んでもらうほうがいいと思ってやっているのかなと思っています。平山さんが会社で一番投稿が多いと思いますね。

——Slackが公認のサボりの場でもあり、教育研修の場にもなってるんですね。

「百人中百人が満足する評価」はあり得ないからこそ……

——カヤックさんは「サイコロ給」が有名ですが、仕組みとして評価やパフォーマンスをきっちり決めようとしていない気がします。自分の働き方と評価がそこまで厳密にひもづいていないことも、ある種サボりながら成果を出せる一因なんでしょうか?

みよし:そうですね、百人中百人が満足する評価はあり得ないというのが正しいと思うんです。カヤックの評価制度も意味が分からないと思っている人もいますし、たまにそう言われることもあります。「認められている気がしない」と感じる人もいると思いますし。

あと、うちは360°評価と言っていますけど、給与を決める時は、一緒に仕事をしている20人ぐらいの人たちで、全員のランキングを作るんです。昔はなんとなくオフィスに全員いたので、直接関わっていなくても噂レベルでは話を聞くし、目の端で見ているからわかったことが、リモートだとなかなか見えない。

そうすると、本当に一緒に働いているのは5〜6人とかだと思うので、それ以外の人にも評価される部分は不満はあると思いますね。一緒に働いていない人のことを評価するのは無理だし、一緒に働いていない人に評価されるのも嫌だと思うので。それは360°評価だと絶対起こることなんですけど、リモートでより強くなってきている気もします。

だから納得感というのは結局、その人がその会社に不満を持っているかいないかの差なんです。成果がそのままコアコンピタンスにひもづくのではなく、全員が見て評価をする。僕らの中で、みんなの評価としての集合知はある程度正しいという考えがあります。

ただ、みんなからの評価なので、それを受けて「これが悪いからこうなった」とか「何をすればいいのかわからない」という不満が出てくるんですけど、それは逆に考えてほしいところなんです。

サボりながら成果を出せる人は、ある意味、仕事ができる

みよし:例えば、僕は「(評価制度を)『パワプロ』っぽくしたいんだよな」と思っていて。「実況パワフルプロ野球」はある程度の数字で出てくる基礎能力と、特能と言われる、各々の個性を表す定性情報的なパラメータがあるんです。

いわゆるセルフマネジメントについてはパラメータ表示化して基準を置いて、それ以外はキャラクターを出してもらう。「あの人はこういうところで輝いてるなぁ」というのが見えることで評価されるので、自分のキャラや得意なことが周りに見えないと評価されにくいですね。

なので、サボっているかどうかは正直どっちでもいいというか、4時間で目標の成果を出せるなら、残り4時間はサボってても別によくないかと。経営者は「8時間分働いてくれ」と言うと思いますけど、それで周りにもバレないなら、逆に言うとその人がすごいってことです。

——そうですね(笑)。目標が低い場合もあるかもしれないですけど。

みよし:そこでその人に合った新しいチャレンジを渡せていないのは、組織側の問題なので、甘んじて受け入れればいいんじゃないかと。4時間しか働かないのに、と思うなら、会社がそれだけの仕事を渡せばいいだけなので。

イカサマではなく「ルールを最大限活用する」という考え方

みよし:昨日、元サッカー日本代表のハリルホジッチ監督のインタビューを見たんですけど、ヨーロッパでは「サッカーのルールを自分のいいように解釈しなおす」という考え方があるそうなんです。スポーツは本来、ルールの範囲内だったら何をやってもいいわけですよ。審判がファウルと判定しなければ、一応ルール上OKだったり。

でも、日本では「ずる賢い」「ずる」という言葉で、悪いこととされるんですよね。例えば、日本はPKが少ないらしいんです。PKは相手にずるをさせることなので、そうさせないようにがんばってシュートを打つから、PKやフリーキックが少ない。「イカサマではなくルールを最大限活用することだ」とハリルホジッチ監督が言っていたんですけど。

それと同じで、ある意味カヤックは360°評価以外のことは(ルールとして)言っていないんです。5年くらい前にやなさん(CEO)と食事した時、「もうちょっとずる賢いやつが増えないかな」と言われたんですけど、今は素直な人を入れてるので相反してるんですよね。

「ずる賢い」は日本だとダメな印象を受けるんですけど、海外ではそれができることのほうが強いと思われている。自分が有利になるように解釈することは、相手に対して何か悪いことをしてるわけではなく、そういうルールだからということ。オフサイドが反則として定められたのと同じで、本当に取り締まりたいなら、新しくルールを作ればいいだけなんです。

今8時間の仕事を4時間でやっている人はいないと思いますけど、もし悪い意味でサボっている人がいるとしたら、それを指摘できないようなルールを作っている会社が悪いし、その人はやっぱり仕事ができるということだと思うんですね。

例えば、サボっていてコミュニケーションが取りづらいとなったら評価は下がりますし、全員で相対的に評価しているからこそ、誰かとだけうまくやっていても評価が上がるわけではないんです。逆に自分を評価する20人だけちゃんとコミュニケーションを取って、それ以外の180人に嫌われるような人がいたら、ある意味天才ですよね。

——逆に難しいですよね(笑)。

みよし:そこまでできる人なら、たぶん180人全員とコミュニケーション取れるでしょうし、うちにいてもおもしろいかなと思いますね。

自由を謳歌できるのは、自分で考えて行動できる自律した人

みよし:そうやって、ある程度一緒に働いたことのある20人からの評価で給料が決まる。面談で給料の交渉をした人もいるらしいんですけど、そういうところにも個性が出るわけです。逆に言うと、自分で考えて行動しないとしんどい部分はあると思います。

「ステークホルダー多過ぎる問題」とも言うんですが、あえてステークホルダーを多くすることで、政治が起きないような構造になっているところもあります。あとは、ちゃんと自分で生きていかないと、会社は何もしてくれないかもしれないと思う可能性もあると思いますね。

そこはバランスなので、今はもうちょっと組織側が引き上げることも考えています。クリエイターに「どの方向に向かっていけばいいかわからない」と言われたら、それはディレクションなので示した方がいいと思うんです。

ただ、いわゆる「このほうがキャリアを積めるよね」「こうするほうがいいクリエイターになれるよね」といった、本人のキャリアは自分で見つけないとならないし、クリエイターは誰かの背中を追いかけても意味がないので。

そういう文化というかコンセプトを持っている会社だということは、しっかりと伝えていかないといけないなと。この大前提が分かっていれば、360°評価と言われても、自分なりに解釈はできると思うんです。ただ何も言われずに「感じ取れ」はちょっとひどいと、最近やっとわかった自分がいます(笑)。

——行き先をちゃんと示すから、そこに同意できる人が関わってくれればいいという話ですよね。

みよし:「そういう会社です」と言わないとダメかなということは、最近ちょっと感じていますね(笑)。サボりとはちょっとずれてしまいますけど。

——いえいえ。結局、サボるというのはセルフマネジメントの一環だと思います。だから、会社のカルチャーの話にもつながりますよね。良い悪いではなくて、自由な環境もあればルールが細かく決まっている環境もあって、さらに本人の自律が求められるということだと思います。今日はお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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