2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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藤野英人氏(以下、藤野):ウェルビーイングの要素はいろんな学説があるし、いろんな人がいるけれども、わりと僕が好きなのは「PERMA」と言われているやつです。
Positive Emotion、ワクワクする感じ。それからEngagement、没頭できる。それからやっぱり「R」が中心だけど、Relationships。それからもう1つ、意味(Meaning)。あとはAcquireとかAchievementで、なにか獲得した感じ。
そういう学説の1つがあるんですが、わりと「そうだな」と思うのは、中心にRelationshipsがあって。関係性が構築できると、人はすごくうれしい。これは「つながり」ですよね。
だから、ウェルビーイングの中でものすごく中核的なものは、さっきお話しされたとおり関係性を築いている状態。人間って「人」の「間」と書くぐらいだから、つながりがすごく大事なので、そのつながり感をどう持つのかは、すごく重要なことかなと思います。
だから、株式投資もどういう感じでつながりがあるかが大事なんだけど、その会社や株とつながりがないと、関係性がないから保有できないんです。
トヨタという会社なら、トヨタの人や製品であったり、あり方、ビジョンに関係性を持っていて、かつそれを株式として自分が肉体性を持って保有しているのであれば、持ちきることができるんだけれども。
石川善樹氏(以下、石川):別に株式市場に合戦に行っているわけじゃなくて、トヨタと関係を結んだっていうだけなんですよね。
藤野:そうです。他者評価が勝手に変わってる世界があるけど、関係性を持って、実は静的な世界で株を持っているだけなんですよね。
石川:関係性を持った時に、おのずから現れる役割を自ら果たすことができるかということのほうが重要です。だから、100万円でトヨタの株を買ってじっと見ているだけっていうのは、たぶん本当の意味で関係を結んでいないんですよね。
僕は最近、歴史をきちんと見るようにしていて。もともと日本人はどうやって関係を結んできたのかというヒントを見に、青森県の三内丸山遺跡に行ってきたんですね。東北とか北海道って縄文がすっごく長くて、世界遺産になってるところなんです。
三内丸山遺跡という縄文のコミュニティが1万数千年かけてどう進化して、最終形態はどうなったかっていう展示があるんですよ。これがすっごくおもしろくて(笑)。
もともとは、だいたい小集落なんですよ。それが大きくなってくると、集落がいろんなところに飛び始めるんですね。そうすると、集落が物理的に離れちゃっているから、「どうやってこの連帯を図っていくのか」というのが問題になるんですよ。
それで、縄文の人たちが見つけた方法が2つあって。集落は周りにありますが、真ん中に2つの機能を置いたんですね。1つが「墓」、もう1つが「お祭り」なんです。墓と祭り、催事が中心にあって、その周りに集落があるんですね。
石川:これをどう解釈したらいいかというと、墓は時間軸で言うと「昔の人たち」で、お祭りはまさに「今この瞬間」なんですね。
基本的に、(墓と祭りの)周りに住んでる生きてる人たちは、「未来」に向かって生きているんですよ。だから、この未来に向かって生きている人たちが、過去・今・未来という時間軸をつなぎながら連帯を図っていったのが、まさに縄文です。
たぶんこれって、今のリモートワーク時代のオフィスの役割ともけっこう似てるなと思っていて。基本的に本社機能というのは、墓でなくてもいいんですけど、歴史を感じさせるもの。あともう1個は、お祭りというかイベントですね。この2つがあればいいんじゃないのかなと思います。時間軸の中での関係性をしっかり結べると、連帯が図れるのかなとは感じましたね。
藤野:何かの記事で、類人猿と人間を分けるものは「墓」だと読んだんです。要するに、墓を作って個人を尊重し、埋めて、それをお祈りする。死んだ人と関係性を作ることができるのか・できないのかが、人間と猿の大きな差であると。
祭祀の1つの中心的なものは、生の誕生であったり、それから死んだ人の魂を弔うところが大きいです。お祭りもそうですよね。おっしゃるとおり、1600年ぐらいからお祭りがどんどんできて、日本中を見ると、お祭りもすごく多様ですよね。「こんなことをやってんだ」という奇祭みたいなものも含めると、さまざまなお祭りがあって。
藤野:あと、信仰の対象となるものもさまざまです。山だったり、川だったり、湖だったり、それから男性のシンボルの形をしたものだったり。そういうものを中心として、村長(むらおさ)が政治と信仰の対象になる。
地域内通貨があって、その地域通貨の番人がいて、自治の機能があり……ということで、それぞれ自立していた。それが、それぞれの地域の中で関係性を持っていた。それが明治になって、お祭りをしている御神体そのものが最終的に天皇家につながるものだ、というかたちに組み替えをした。
さらに戦争で勝つために、最終的には「がんばって戦ったら靖国にいく」という1つのかたちを作ることによって、日本人を「集落の中で生きる存在」から、通貨も共通化し、祭りも共通化し、それから目的も個として磨き上げることによって、日本は明治時代から現在に至るまでさらに個人主義を磨き続けた。そういうのはすごくありますよね。
さらにファミリーという単位も壊れて、なにかあると「国がどうしてくれるのか」みたいに、「個人と国」というつながりがすごく出てくる。政治的な話になるのであまり突っ込まないけど、安倍(晋三)さんの国葬問題がこれだけ話題になるのは、「国と祭りである」「ある人が死ぬ」ということと、それから個人という関係がすごく強い関係性を持っているから。
「国は国だけど、別にうちの地域の人じゃないから関係ないじゃん」という感じじゃない。やっぱり、国と個とのつながりがめちゃくちゃ強くなったなと、すごく思いますね。
石川:そうですよね。もう1個ウェルビーイング関連の話をすると、どれぐらいの時間軸の長さで物事を捉えているのかは、ウェルビーイングと関連があるだろうと思います。時間軸を長く捉えている人のほうが、ウェルビーイングを感じやすいというか。
藤野:享受しやすい。
石川:でも、自分の人生100年だけを考えると、お金をたくさん集めたらなんとかなりそうな気がするけども、今後200年、300年のスパンで物事を考える人は、どれだけお金があってもちょっと難しいですからね(笑)。お金に加えてほかのことも考える必要がある。
今って、時間軸がすごく短くなってるんです。これは僕の限られた経験から思うことなんですが、長い時間軸で物事を捉えてる人の特徴として、「自己紹介をどこから始めるか問題」っていうのがあって(笑)。
自己紹介を「自分が生まれたあと」からしてる人は、だいたい時間軸が短いですね。例えば「自分が10代目である」という自覚がある人は、当然20代目ぐらいのことまで考えるんですよ。あるいは「自分が3代目である」という自覚がある人は、4代目、5代目のことも考える。
「何代目ですか?」という問いに対して、「自分は1代目です」と思ってる人は、だいたい生まれたあとの話を「自分」だと思ってるんですね。そういう意味で、「自分が何代目か」というのは、過去に対する時間軸がそのまま未来に対する時間軸になってるところがあって。
僕が留学した時に、世界各国からいろんな人が来ていろんな自己紹介の型を見たんですが、一番印象に残ったのはあるユダヤ人の子。男の子だったんですけど、自己紹介をおじいちゃん・おばあちゃんの話から始めたんですね。
「おじいちゃん・おばあちゃんはこういう人で、お父さん・お母さんはこういう人で、自分が生まれたんです」というところで自己紹介が終わったんですよ。でもそっちのほうが、その人のことをすっごく共感できた気がしました。
石川:そういうふうに時間軸を長く捉えて、歴史のつながりの中で「自分が果たすべき役割は何なのか」と考えたほうが、たぶんウェルビーイングになりやすくて。そういう意味では、墓ってたぶん重要なんですよね。墓参りというか、時間軸を伸ばすという役割があるのかなと。
藤野:なるほどね。成功してる経営者とか企業家って、墓参りをすごく大切にしてる人が多かったりするんですよね。もちろん若い世代とか、「それは古い考えだ」とか言う人もいるけれども。
でも事実として、「この人すごいな」「この人、社会的に成功したな」という人は、わりと若い人でもシニアの人でも「お墓参りしました」とか、なにかに成功したり失敗したりした時に「お墓に報告にいきました」という人がけっこう多い気がしますね。
石川:当然、自分の力だけでなにか成し遂げたとは思ってないからですよね。
藤野:確かに。そう思ってないってことか。
石川:「自分が、自分が」ではないということなんだと思うんですよね。過去のいろんな人のおかげで自分があるんだ、「おかげ、おかげ」というか。「おらがおらがの『が』を捨てて、おかげおかげの『げ』で生きよ」という言葉があるんですが、そういう感覚なんだと思います。
藤野:確かに。なにか物事を成し遂げるのにも、時間軸の長さって大事ですよね。
藤野:日本の会社が競争力を失っていった背景で、時間軸がどんどん短くなったところがすごくあって。日本人はすごく真面目だから、というかタスク・オリエンテッド(目的達成に囚われている状態)なところがあるので、タスクがあると燃える。
だから「四半期決算をやります」となると、3ヶ月の四半期決算をやることにすごく一生懸命になるし、「コンプライアンスが大事」というと、コンプライアンスのことについてフォーカスするところがある。四半期決算で数字を作ることと、コンプライアンスを守るところで、手段と目的の逆転が起きてしまう。
細部を磨き込むことがある面で見ると、日本の強さでもあるので悪いことではないんだけれども、非常に小さい、細かいところにフォーカスして、時間軸もどんどん短くなっていく。その中で自分に何ができるかを考えると、結果的に長期の投資ができなかったり、長期のビジョンで人を考えられなかったりするところがすごくありますよね。
石川:自然とともにというか、自然というのは時間軸が長いので、必然的に未来に対しても長い時間軸で捉えてきたのが日本人なんだと思うんですね。それを象徴する言葉があって、「雲孫」って言葉があるんですよ。
これは自分たちの子孫を表す言葉で、一番遠くの孫のことをいうんですね。自分から数えて8世代、だいたい300年ぐらいあと。子ども、孫、ひ孫、玄孫……とずっといって、雲孫。雲のように遠い孫ってことですね。それで、雲孫の先は「雲孫の子」になるんですよ。
藤野:なるほど、じゃあ「雲孫の雲孫」まであるわけですね。
石川:雲孫の雲孫と、雲孫の雲孫の雲孫っていう(笑)。
藤野:インドみたいですね。
石川:言葉があるってことは、そこまでのサイクルを考えていたってことなんですよ。自分が1代目だとすると、8世代あとだから9世代目。
これが何のサイクルかなと考えると、ヒノキのサイクルなんですよ。杉とかはもうちょっと短くて、50~60年とか。楠は1000年とかもっと長いんですけど、ヒノキはだいたい(樹齢)300年のものを切って、神社の柱とかにしていたんです。
もっと短いサイクルで、20年とかに1回作り替える式年遷宮みたいなこともあって。ただ、この「ヒノキの300年」を1つのサイクルにして、日本社会はうまい循環で動いてたんだろうなというのは、「雲孫」という言葉があることから感じられますよね。
藤野:ということで、財布を忘れた話から、ウェルビーイング、雲孫の話まで、非常に小さい時間軸から巨大な時間軸まで、それこそ本当に長期的な目線で話ができたんじゃないかなと思います。私自身もたくさん勉強になりました。石川さん、ありがとうございました。
石川:ありがとうございました。
(会場拍手)
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