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メタバースは世界のビジネスを変えるか ~メガテック企業の思惑と事業創出の可能性~【久保田氏 ご講演】(全5記事)

いま企業は「メタバース」にどう関わっているのか? メタバース産業を構成する7つのレイヤー 

業界業務の経験豊富な「その道のプロ」に、1時間からピンポイントに相談できる日本最大級のスポットコンサル「ビザスク」。そのビザスク主催のセミナーに、株式会社Moguraの代表で、『メタバース未来戦略』の著者・久保田瞬氏が登壇。本記事では、加速するメタバース関連スタートアップへの投資や、メタバースの2つの価値などが語られました。

加速する、メタバース関連スタートアップへの投資

久保田瞬氏(以下、久保田)メタバースのバズワード化は去年の10月だったので、だいたい1年くらい経ちました。Metaは年間1兆円の投資を有言実行しています。彼らのIRを見れば明らかで、メタバースの部門に実際に年間1兆円ペースで今お金を突っ込んでます。

それに合わせるかのように世界中で、メタバースが成長分野ということで、関連スタートアップへの投資が加速しています。金額も非常に大きな投資が増えてきていますね。日本だとHIKKYという会社がドコモなどから65億円調達していますけれども、グローバルで見るとそれ以上です。普通に100億円、もしくは200億円近くの調達が行われている状況です。

併せてビジネスサイドが加熱してまして、いわゆる「自分たちもメタバースに取り組む」という、そういった参入表明が相次いでいます。それから今できることを模索していく中で、事例がたくさん創出されているという部分。

ただいずれも投資の意味合いが強いので、まだビジネスモデルを検証していったり、実際にどうなんだというところで1周目、2周目の取り組みをされてる会社さんが多いのではないかなと思います。

まさに成長産業ということで、国家としてこの産業を、グローバルでも自国の会社がここに食い込めるようにしていこうと取り組んでいるのが、韓国ですね。それからUAEです。アラブ首長国で、ドバイが中心地なわけですけれども、このあたりでは国家レベルでメタバースの産業支援をしていくということを高らかに宣言しています。

実際右に書いてあるのは韓国の、特に2022年度のメタバースの予算です。ウォンベースで申し訳ないんですが、だいたい日本円にして200億円ぐらいの予算を組んで、全方位でメタバース産業を支援すると言っています。

参入した会社はたくさんあります。そして、早くも真ん中のTinderというマッチングアプリにバツがついていますが(笑)、彼らはこの1年の間に「やる」と宣言してすでに手を下ろした会社です。もうやめます、と言っています。

メタバースの実現は“山登り”

いずれにせよ本当にいろいろな会社がいろいろなテーマで、メタバースに取り組むと意見表明しています。例えば、もともとアバターをやっていた会社、もともとIPを持っていた会社、もともとVR・ARをやっていた会社、SNSをやっていた会社、ゲームをやっていた会社……本当にいろいろな会社群があります。

これはそれぞれ見ていくとぜんぜん違うんですね。例えばゲームの会社がメタバースを目指す時には、プレイヤーが数億人ベースでいて、すでにユーザーがいっぱいいる。ただゲームでみんな惹きつけられているので、それ以外の用途でどれくらい人が来るかはまだわからないですね。

もしくはXRの会社は、技術はけっこうあるわけですけれども、まだユーザーがぜんぜん少ないんですね。なのでこれから増やしていかなきゃいけないフェーズにある。このように、目指し方が違うんです。

私は、メタバースの実現は“山登り”かなと思っていて、いろんな登り方があるということですね。業界それぞれ、今までやってきたことによって登り方がまったく異なるのがメタバースだと思います。「どの業界にもともといたのか」というところから次の手や、彼らが引いているロードマップが異なっているのが、少し注意点です。

プレイヤーはどんどん増えていると思います。もともとメタバースに関連のあるVRとか、先ほどもいくつか会社を載せていましたけれども、そういった企業の取り組みが加速をしていることと、新規参入するプレイヤーが登場したというところ。プラットフォーム狙いの会社が多いと思いますが、右下にもあるようにハードウェアを作ってる会社など、ほかにもいろんな取り組み方があると思います。

また企業の新規事業領域としてのメタバースも注目が集まったと思います。後ほども説明しますが、NIKEの例は非常に良い、最も積極的な例の1つです。

メタバースへの期待と批判

若干ネガティブな面ですけれども、1年も経つといろんなことが起きてきます。例えば先ほどビジネスサイドと投機と言ったんですけれども、いわゆるクリプトが一部絡んでいることによって、特にトークンを発行しているようなメタバースは非常に注目を集めて話題が沸騰しました。

右上にあるのはThe Sandboxというブロックチェーンベースのメタバースプラットフォームのトークンですけれども、ドルベースでいくとガーッと上がった2021年の10月から、ちょうど今はだいたい戻ってきたということですね。

ということで1年で戻ってきたので、加熱しすぎているかというと、だんだん落ち着いてきているのかなという印象があります。直近で暗号資産が暴落もしていますので、そのあたりもあってやや投機筋の人たちが引いている状況もあるかなと思います。これは当然期待の裏返しで、特に短期的に期待をした方々の批判が出てくると思います。

この右下に出しているZuckerbergさんの自撮りで、ちょうど先々週あたりに炎上してました。パリとドイツで「自分たちのプラットフォームをローンチさせたぜ」という自撮りをしたんですが、あまりに見栄えが前時代的で、こんなもののために彼らは1兆円投資してるのかというような叩きがありまして、いろいろ炎上していました。

技術的にまだ未成熟な部分が多いわけですね。それからユーザーがまだまだ少なかったり、取り組み自体が期待どおりにいかないという話から、一気に批判のほうにいくのも、たぶんここからある程度出てくるかなと思います。

それからテックジャイアントが、動いているようで実はそんなに動いていないということがあります。Apple、Google、Amazon、実はGAFAMの中でもこの3社は明確に「メタバース」という言葉をまだ使ってないんですね。そういう意味では本格的にまだ参入をしていないという状態になります。

いろいろ関連する動きがあったり、つながることをしているのは間違いないんですが、宣言をして堂々と入っていってるのは主にMetaとMicrosoftくらい、ということになります。

そのMicrosoftや、あとNVIDIAのようにいわゆるテック大手が「メタバース」と言っている場合にも、Metaが言っているメタバースであったり、もしくは一般的に思われてるメタバースとは少しずれたかたちでメタバースという言葉を使っています。果たしてこれは同じものと捉えていいのかという、自分たちのビジネスの都合上メタバースを使っている可能性もあるような状況が生まれています。

メタバースの2つの価値

また、やっぱりメタバースというといわゆるVRであり、そして現実をまったく否定する対となるものである、という考え方はすごく多いと思います。つまり現実と切り離されたものだったりとか、もしくは現実のコピーをメタバースに持っていくんだ、といった考え方になってしまうと思うんです。

実はいろいろなところで「現実と連動していく」という考え方があるんですね。これも後ほど説明しますが、こちらはまだなかなか概念として浸透していないです。

挙句の果てにAR的な考え方なんですね。現実の世界にいながらメタバースのアバターが見えるという話になると、それはARになりますが、これは逆にARの人たちから今度はややメタバースのことが否定される、というような状況があります。

右下にあるこれはNianticがちょうど2021年の8月、ブーム前に出したもので、メタバースをボロクソに言っています。どういった方向に向かっていくのかも、少し見えづらい状況があると思います。

そういった状況を鑑みて、メタバースはどういう価値があるからこそ各企業が取り組もうとしているのかを、私が先ほど書いた部分で少し説明したいと思います。

1つは空間性です。これまで我々はコンピューターに対して、常に平面で接してきました。これが画面を飛び出てまさに空間になっていく、その空間性が1つの価値としてあると思います。

そしてもう1つが全身体性です。これはプラットフォームによってガラッと変わるんですが、実際にデジタルの世界にいるという感覚ですね。そして、いるという感覚があった場合に、そこでできることは極めて幅が広がっていきます。

例えば今、私がこうやって講演をして、1,400人くらいの方に聞いていただいていますが、私はみなさんのことを認識できないわけです。なので1,400人ぐらいを前にして話している感覚はないんですよね。これが良いか悪いかはともかく、リアルな講演会でやっていったら、それはすごいことになります。

そういった感覚がもし実際にあった場合、これまでのツールとはまったく異なる感覚、実際にそこに行った感覚や、人と会った感覚が得られるのではないかというのが全身体性、実在感というものになります。

まだまだ続く、企業による利用価値の模索

こういった空間性とか全身体性というものがあって、結果としてこれを組み合わせてどんなメリットが生まれるのかは、今トライ&エラーがされている最中です。

場合によっては空間性を使って、自分たちが持っている世界の中にファンを連れて行くことができる。そしてその世界観にずっといることができる、それこそがメタバースの利用価値だと考えている方もいます。

その世界に自分たちがいて、その人たち同士が向かい合って話ができ、何かを手渡すことができる、インタラクションができる。一緒にいない人といるかのようにできるという、これまでとはまったく異なるコミュニケーションに注目をしていくパターン。

また、メタバースの世界はCGですので全部作らないといけないわけですね。なので自分の体も、世界も、仕組みも全部作っていかなければいけない。そういう意味では新しいクリエイティビティを発揮できる場所でもある。すべてを作れる世界として、そこにクリエイティビティの価値観を求めていく。

みなさん、いろいろな利用価値を見出している最中ですね。どれが本当にビジネスにつながる価値なのかは、まだ模索しているところだと思います。つまりこのスライドは仮説を書いているに過ぎないんです。こういった考え方できっとみなさん動いているのではないか、というところですね。 

これからまだまだメタバースの知られざる価値が出てくるのではないかと思いますが、例えば自分の性別からまったく解放されたような動きができるというように、いろいろなことがこれから起こってくるのだと思います。

メタバース産業を構成する7つのレイヤー

そんなメタバースへの企業の関わり方について、みなさま興味があると思いますのでお話しします。(スライドを示して)英語の画像をペラっと貼り付けただけのものを持ってきてしまったんですが、これはアメリカのJohn Radoffというゲーム系の方です。ゲームの会社を何度か立ち上げている方ですけれども、この方が提唱している「7つのレイヤー」という考え方になります。

これは何かというと、「メタバースは産業構造として7層ある」と言っているんです。全部説明すると時間が足りないので、そのあたりは本等にも書いていたり、このJohn Radoffさんのブログに書いてあります。「John Radoff Seven Layers」と検索すると詳細が全部出てきますので、ぜひ翻訳をかけて読んでみてください。

一言で言うとインフラという、いわゆる半導体とか通信といったレベルから、ハードウェア、それからさまざまなサブシステムですね。例えば決済構造だったり、ブロックチェーン。あとは情報の処理を行うクラウドのコンピューティング。

それから空間そのものを設計する能力。例えば3DCGの技術とか、それらを組み上げていくゲームエンジン。そしてそれをクリエイターが使いやすい道具として提供して、クリエイターが世に出したものを収益化する仕組み。

そうして生まれたコンテンツを見つけるためのプラットフォームや広告を展開し、コンテンツそのものを形作っていくという構造です。今実はこの7つを順番に、下から上にいってしまったんですけれども(笑)。だいたいどこに入っていくかを見極めるために、技術スタックから持ってきた考え方になります。

これをもう少しわかりやすく分けると、全部で4つに大別できると思います。

ちょっと下からいきますね。1つがモノづくりをサポートする役割になります。これはいわゆるコンテンツ作りを手伝うことで、道具を提供する会社ですね。

そして真ん中が基盤を作る役割で、先ほどのインターフェースとかハードウェア、それと非中央集権、ブロックチェーンですね。あとは「発見」。これは、プラットフォームを指します。そういったものが入っていて、まさにメタバースの土台になる部分です。当然今のプラットフォーマーはインフラから全部作っていることも多いので、こういった基盤を作る役割の人たちがいます。

そして一番上にモノづくり。実際にワールドや世界、アバターを作り、その上でビジネスを行っていく役割が出てきます。私はこの4つだと思っていまして、さっきの7つのレイヤーとは異なりますが、何がどう含まれるのかの参考にしていただければと思います。後ほどまた、この4つの分類が出てきます。

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