2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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井上和幸氏(以下、井上):1on1以外の、仕組み系のところで、最近何かトピックがあったりします?
伊庭:1on1以外で言うと、「フィードバックをきちんとしましょう」というのが多いですね。部下に対して耳の痛いことであっても言いにくいことであっても、ちゃんとフィードバックをしましょうという風潮はやっぱりあります。
これが1つと、もう1個あります。ネットで調べていただくと出てくるんですけれども、井上さんはよくご存知です。「will・can・must」。
井上:うん。
伊庭:「will」とは、部下がいったい何をやりたいと思っているのかとか、どうなりたいと思っているのか。そのための会話をちゃんとしましょうと。例えば、別に課長になりたい、部長になりたいと思っていなかったとしても、何かなりたい姿、ありたい姿はありますよね。上司はそれをちゃんと把握しておきましょう。
それに合わせて「must」は仕事ですよね。「伊庭くんにはこの仕事をお願いしたいと思っている。それって伊庭くんの将来やりたいこと、ありたい姿と結びついている?」「はい、結びついています」
「OK。じゃあこの仕事をする上で『can』。この能力も身に付けてほしいと思っているんだわ。仕事を通じてこの『can』をしてほしいと思っているんだ」というコミュニケーションができる研修なんかもよくやっています。
井上:なるほどね。
伊庭:よくあるのは「will」、部下のやりたいことについての会話をしたことがない。よく「そんなこと聞いてもやりたいことなんか出てこないですよね」というご質問が出てきますが、そうではないですね。考える機会がなかっただけで、ないわけではないです。
井上:そうですよね。
伊庭:なので将来のことを「何かあったら教えてもらっていい?」と伝えておく。大それたことでなくても、「家族との時間を大事にしたいと思っています」「OKです」「何か背景があるの?」と聞く。その背景にもっと何か宿っているのかもしれませんので、どんなことでもいいし、一人ひとりの中でもいろんな「will」があります。
「家族を大事にしたい」もあるし、「海外に留学したい」という人もいるかもしれません。1人の中に渦巻いているいろんな「will」のうち、断片でも知っておくのが大事になってくるかなと思います。
井上:「will・can・must」は、我々はけっこう(リクルートで)使ってたんであれですけど、確かに今すごく世の中的に広まっています。
伊庭:研修先でも「うちの会社、導入しています」という会社さん、よく耳にします。
井上:今日は上司と部下の会話の中で例をいただいていて、部下の方たちの話を聞いていくのは大事だということですけれども。ちょっと余談になってしまうかもしれないんですけど、今日参加いただいている方々もいろんなバックグラウンドがあると思います。
比較的転職を経験されていたり、独立されている方は僕らのネットワークでたぶん多いので、そういう方についてはたぶん違和感がないんですが。1社だけの経験でそれなりの役職まで上がって来ている方が「will」を聞かれると、ないというか答えられないんですよ。
伊庭:わかります。
井上:「will」に該当しそうなところでその方々がおっしゃるのは、予見される近未来。ある意味いいことですけど、ずっと会社が「これをやってね、あれをやってね」ということにしっかりと向き合ってやってきた。「ブラジルに行って来い」と言われれば行ってきて、「今度子会社やって」と言われればやって。
それなりの役職になられた方が、「自分としてはやっぱりこういう方向で行きたいな」というものが「will」じゃないですか。もちろんそれは、どの方も現実とかをいろいろ折り込みながら考えるし、そういうことも含めてなんだけど。
伊庭さんがさっきおっしゃっていたように、これを考える機会がないまま、相応の年数を経てきていると、はたと困ってしまうケースが実はすごく多いです。昨今は大手さんでも1社のままでずっと行くというかたちではなくなってきているので、それなりの役職になってから外へ出る。マネジメントの方とかでwillがなくて非常に苦労される方がけっこう多いんですよね。
伊庭:私もいろいろと調べて、そりゃそうだなと思うことがありました。経営コンサルタントの方だったと思うんですけど、さすがだなと思ったのは「年齢を経るにつれ考えなくてもいいようになる」と書いてあったんですね。
確かにそうで、同じ会社に勤めて40歳、50歳になってきたら、考えることがしんどくなるんですよね。今、がんばっているほうがやっぱり心地いいんです。考える必要もないから、無理に考えなくても、それでいいのではないかと思ったりします。
だって今から考えましょうと無理にやらなくても、今、目の前の仕事が好きであり、会社が好きであり、やっていただいたらそれでいいです。一方で、その記事が示唆していてまさにそうだなというのは、管理職はそれでいいと。でも若手のポテンシャルのある部下は、それでは物足りないと思うんですよ。
井上:そうですね。
伊庭:離職の温床となります。その考え方はいいんだけれど、部下にそれを適用したら部下は辞めます。私が今、1つの結論と見なしているのは、本人にとっては「will」がないことは何の問題もありません。会社が好きでこの仕事が好きで邁進している。それに私は、幸せを感じている。OKです。
ただ、部下にそれは求めることなく、部下には「willどうしたいの?」と。ちゃんと役割として分ければ問題ないし、分けると楽ですよと話すと、研修でめちゃくちゃ喜ばれます。
「will・can・must」をそのまま適用してしまうと、けっこう40代、50代の方が迷ってしまうんですよね。「俺たち、間違えているんですか? 今までがんばってきたのに」ともなり得るので、あまり鵜呑みにしすぎるのは危ないと思っています。だって、会社が好きで仕事が好きなのは最高だと思うんですよ。
だた、それを部下に適用すると危険ですよという話です。
井上:そうですね。状況によりますよね。
伊庭:部下はもうすでにエージェント登録をしている。井上さん、一番ご存知ですよね(笑)。
井上:なるほど。
伊庭:自分の市場価値を測っている。何かあったらいつでも行くぞ。これがたぶんパフォーマンスの高い方の標準行動だと思うんですよね。そこへ上司が「いや、俺は会社では……」と言ったら、今は「ちょっと俺のキャリア的には違うな」と思われるそうです。
井上:確かに。
伊庭:使い分けることができれば、何の問題もないと思います。
井上:ありがとうございます。
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