1on1でメンバーに話してもらうための3つのテーマ

井上和幸氏(以下、井上):コメントをいただきました。

「リーダーの仕事が『聞く』というのは共感です。1on1は社内社外で実施しているのですが、社外の方と比較して、社内のチームのメンバーが相手だと、利害関係が強いためか、どこまで本音で話してくれているのかわかりません。本人の中長期的な成長につながる話をしたいんですが、足元の業務の相談が中心になってしまいます」。

すごくお気持ちがわかる状況です。伊庭さん、どうしたらいいでしょうか。

伊庭正康氏(以下、伊庭):かしこまりました。この場合は、話すトピックを選択肢にしておくやり方があります。「みなさんに話を聞きたい、3つのテーマがあります。1つは『業務で気になること』。もう1つのテーマは『職場のことで気になっていること』。もう1つは『みなさんの今後のことについて気になっていること』。この3つから1つを選択して、ぜひ会話しましょうよ」と。

井上:なるほど。

伊庭:部下の方は、気になることと言われたら、「業務のことしかしゃべっちゃいけないのかな」と思ってしまったりするんですね。

井上:うーん、なるほど。

伊庭:「この3つのことを聞かせてください」とやって、何回か1on1面談をして、毎回業務のことだったら、「業務以外の話でもいいんだよ」と声をかける。本人が気になることをしゃべってもらうので、「何か気になることはないの? 今度これでやろうよ」と言う必要はないんですけれども。

「そうですね。今度は将来のことをちょっとお話してもいいですか? ちょっと不安もありまして」「おお、いいよいいよ」。これはよく1on1で言われるんですけれども、業務、職場、今後のキャリアという、選択肢を3つ。それについてぜひ会話をさせてくださいよという流れで、選択肢をお示しするのがいいかなと思いますね。

井上:業務、職場、今後の3つの選択肢を提示してあげて、幅を見せてあげるということですかね。その中で本人が業務の話とか相談をしたいのであれば、それは別に悪いことではないと。

伊庭:そうですね。

井上:ただ、それが続くようだったら、他のトピックのほうに水を向けてみてもいいかもしれない。

伊庭:はい。まさにです。

部下の話を引き出すためのアイスブレイク

井上:全部を話していただくわけにはいかないとは思うんですけど、1on1の研修とかをされている時に、やり方の部分で伊庭さんがアドバイスをされていることは、他にありますか?

伊庭:まず前提としては聞ききる力ということを、トレーニングでやるんですけれども、それは横に置いておきまして。1on1の過ごし方の流れは、知っておいたほうがいいかなと思いますね。

15分なり30分、さあ何を話そうか。部下にとっては、地獄の時間が待っています。「上司と話すことないんだけどな」と。「いやぁ、特にないですわ」「何かあるでしょう」「いや、ないですわ」。2週間に1回ここで顔を合わせて、「じゃあ、最近旅行とか行かないの?」「旅行の話ですか……」。もう地獄が待っています。気持ちいいのは上司だけというね。

井上:(笑)。

伊庭:部下は忙しいから「解放してくれ」となってしまいます。その時に流れだけを決めておくといいですね。いくつかあるんですけれども、かい摘んでお話しすると、「最近どうなの?」という会話から、元気がなさそうな人がいれば、体調の話を聞くのもあったりします。「これはみんなに聞いているんだけど、教えてもらっていい?」はよく使ったりします。

井上:なるほどなるほど。

伊庭:「健康状態、心身ともに何の問題もなくて、心地が良いのが10点だとすれば今何点くらい? 誰にでも聞いていて、変な質問でごめんなさいね」とちょっとエンタメテイストでやると、「ええー、2点ですかね」「ああ、そう!」

井上:低いね(笑)。

伊庭:その時に「え、何かあるの?」「いやいやいや、今だけですけどね」と。それが問題か問題ではないかで診断するんですけれども、問題ではないと分かったら、「ああ、そっかそっか」と言ったあとに、もし褒めてあげられることがあったら、次に褒めてあげます。

「あ、そうそう、タカハシさんに聞いたんだけど、伊庭くん、○○やってくれたんだってね。ありがとうね。喜んでたよ」。ふだんから観察、情報収集をしておかないと、1on1は成立しにくいです。

なので褒めてあげるとか、何かいいことについてはフィードバックをやってあげたあとで、「じゃあ伊庭くん、今日はよろしくお願いします。今日は何の話をする?」。「今日は実は聞いてほしいことがあるんですよ」「何?」「いやぁ、イケダさんと○○さんがうまくいっていないんですよ」。とか、「先輩がちょっとキツイです」とか出てきたりします。大抵人間関係の話題が出てきます。

井上:なるほど。確かにですね。

メンバーが「自然に話せる1on1」になるまでの3ステップ

伊庭:でも最初からそんな言葉が出てくることは珍しいです。上司に対して、「本当に言っていいのか」と相当警戒されますから。

ここでおもしろ話がありまして、ある企業さまのうまくいっている例を紹介します。そこの役員さんは、3ステップに分かれるとおっしゃっていますね。1つが「何かないの?」と言った時に、「いや、特に……」と沈黙が始まるそうです。3つの選択肢でも仮に何も出てこなかったら、それを否定するのではなく、その時は仕方ないので雑談でもOKだと。

ずっと雑談、さすがに3回目、5回目雑談だとダメなので、「次はこの3つについて何か話せるように、また考えてきてもらっていい?」「うーん、わかりました」。で、次は当たり障りのない会話が出てきたそうです。「いやぁ、ちょっと気になっているとすれば、こんなところぐらいですかね」。これでOKだそうです。

次に、「実は悩んでいることがありましてね」とか、「実はどうしても言いたいことがありましてね」が3番目に出てくる。1on1の回数とともに、そこに到達すると言っていましたね。

井上:なるほど。

伊庭:回数が必要だと。なので最初から出て来ないことは問題ではなく、回数をこなすところで、上司がしゃべり倒す1on1をすると、もう部下が話してくれることはないという。

井上:(笑)。

伊庭:そんな感じですかね。

井上:なるほどね。

伊庭:「本音をどこまで言ってくれるか」とコメントをいただきましたが、まさにちょっと時間がかかるところはありますね。当然上司に対しては、私も経験があります。「こんなことを言ったら不利になるかな」とかね。やっぱり不利になるのは怖いですからね。

井上:そうですよね。

伊庭:「言っていいですか? 上司のやり方ですけど、俺、好きじゃないですよね」「お前どこから言うてんねん」となりますよね(笑)。

井上:そう返してくれる上司ならいいけど。

伊庭:そうですよね。だから部下のほうも、コミュニケーション能力が必要な気がしますね。

井上:ありますよね。

伊庭:そこは100点を狙わずとも、70点を狙うぐらいがいいかなと思います。