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3社のスタートアップで働くデザイナーに聞く、副業のリアル(全2記事)

副業は、小銭稼ぎではなく“大人のインターン”のようなもの 中長期的なキャリアを見据えて「副業」を始める時のポイント

昨今では、1つの会社が優秀な人材を“独り占め”して囲い込むのではなく、副業を解禁する企業も増え、人材定着のための施策としても認知されています。スピード感の求められるベンチャー企業で培ったスキルを活かし、副業をしている人材も増える中、実際はどのような働き方をしているのでしょうか。そこで今回は、3社のスタートアップでデザイナーとして活動する600株式会社の金子剛氏に、副業の「リアル」をうかがいます。本記事では、経済的・キャリア的な両軸から見る、中長期的な副業のポイントを語りました。

人材マネジメントに必要なスキルは、多様な人材を理解すること

――金子さまが副業を始められたきっかけの1つ目は、スキルの引き出しを増やすためということでしたが、2つ目の理由は何だったのでしょうか?

金子剛氏(以下、金子):人材のマネジメントをやるようになったことが一番大きいです。1つの会社は1つのカルチャーに既に統一されていると思いがちなんですが、今はプロパーだけじゃなくて転職してくる人も多いので、そんな中で組織の力を一丸にするためには、いろんな価値観やバックグラウンドを尊重できるようにならなきゃいけないと思ったんですよね。

弁護士ドットコムにいた頃は特に、ITしか経験してなかった自分が急に弁護士さんと共にお仕事させて貰う機会をいただいたりして、価値観が変わるきっかけをいただけました。社会としても、どんどんダイバーシティが推進されていく中で、自分の過去の常識にないところから人を理解していくことは、これからの人材マネジメントに必要なスキルかなと思っています。

よく、転職してきた時に「前の会社ではこうだった」と言っちゃう人が多いと思うんですが、それって人々が背景に持つ多様性が身にしみてないのかなという気がしていて。正しさや正攻法の裏にある考え方って、人それぞれたくさんあるなと思っています。

UXデザイン×マネジメントをやっていたから感じるところなんですが、例えば何かお困りのお客様がいて、その人が本当に何を求めているかを知らなければ、いいデザインやサービスの提供ができないですよね。

それは、人事とかマネジメントのように、人を育てるところでも同じことが言えるなと思っていて。相手がどんな経験をしてきて、どんな話をしてきたのか、完全に理解しようとするのはおこがましいと思うんですが、きちんと深堀りして寄り添おうというマインドセットはすごく大事だなと思います。

そのためには、いろんな会社に所属することで、「こういう正解もあるんだ」という視点を自分の中で失わないようにしたいです。

相手のバックグラウンドを知ると、会話の納得度が高まる

金子:例えば、会社によっていろんな文化があって。おとなしい社風から元気な会社に転職すると、いきなり「こうしたほうがいいですよ」とでっかい声で言ってくる人にびっくりしたりするんですが、「こういうバックグラウンドで育ったら、それって当たり前のコミュニケーションだよね」というのが、いくつも想像できるようになってきました。

――会う人の母数が多いほど、新しく出会う人に対してもバックグラウンドが想像しやすくなり、相手への理解度が上がりそうですね。

金子:そうですね。その人だけじゃなく、その裏にある過去の会社のカルチャーだったり、どんな文脈の中で仕事をしているのかが想像できるようになる。これは、海外に行くのと近いと思うんです。

よく、海外の方の言葉がきつくてびっくりするという話があると思うんですが、「日本に来た中国の方、怖いです」「アメリカの方、怖いですよ」で終わるんじゃなくて、中国ではみなさんがふだんどういう会話をしていて、社会がどう成り立っているのか背景にあるカルチャーを知ると、どんなバックグラウンドの上で話しているのかが納得できる。「なるほど」と腑に落ちると、その人ときちんと対等に話せると思います。

多様なカルチャーに触れると「心の許容度」が高まる

――今のお話にも絡んでくるのかなと思うんですが、異なるカルチャーの会社で働くことや多様な人材と接することのメリットをお訊きしたいです。

金子:多様なカルチャーに触れる機会があると、いろんな人のバックグラウンドを知れるので、自分の心の許容度がすごく広がっていくなと感じています。

それこそいろんな国に行ってみると、それぞれバックグラウンドがあって、「こういう人もいれば、こういう人もいるんだ」というのは身をしみて理解できるところです。(多様なカルチャーを)理解するだけじゃなくて、「もっとこうしたら良いんじゃない?」というアドバイスをする時にも、内容が的を射る気がするんですよね。

相手のことを深く知らないと、的外れというか、自分の主張に合わせてもらうための傲慢なアドバイスになりがちだなと思うんですよ。

本当にUXデザインに近いんだと思うんですが、相手のことを深く知っていることで、「こういう境遇があるからこそ、こうするともっとよくなるよ」ということが、相手に真に伝わることもあるのかなと思います。きちんと的を射たアドバイスができるようになるのがメリットかなと思ってます。

――逆に、副業で苦労した点はありますか?

金子:むしろその苦労をしてよかったところもあるんですが、あえて言うならコロナ前は移動が大変でしたね。3社でZoomで仕事ができるようになったのも、コロナになってからですね。会社へ行くことも多いですが、今は基本的にはリモートです。

例えば、毎週1時間の定例のためだけに出社するのはけっこう大変だったんです。副業で週に1回アドバイスするだけなのに、移動時間で2時間ぐらいかかっていることもあって(笑)。特に副業の場合は(移動時間の多さが)顕著だったので、それはなくなってよかったですね。

「便利屋さん」になることは本来の目的ではない

金子:カルチャーで苦労したことは、御用聞きになり過ぎないというか。議論ではきちんと相手のことを理解した上で意見をぶつけ合わないといけないんですが、私は私で個人の軸となるバックグラウンドがあるので、そこはちゃんと出して行く。

例えば、いろんな国で育った人が自分のアイデンティティがわからなくなったり、自分の主張がどんどんわからなくなってくる場合もあると思うんです。なので、アイデンティティは、会社じゃなくて自分自身に持たなきゃいけないなと意識しています。

ただのカメレオンになると、タスクをこなすだけになっちゃうので、「金子」というアイデンティティできちんと議論するのが大事なのかなと思っています。

――アイデンティティを持ち、自分の軸がブレないようにするために、どういった点に意識されているんでしょうか。

金子:自分のキャリアというか、5年後、10年後にどうありたいのかはすごく真剣に考えるようになりました。同じ会社に5年、10年いると、考えなくても会社が(タスクを)与えてくれることもあるのかなと思います。それがいいのか悪いのかはわからないですが、ベルトコンベアに乗ることもできるなとは思うんです。

タスクも仕事も多くなる中で、自分がやるべきこと・やるべきでないこと、主張すべきこと・しないほうがいいことって、自分のアイデンティティが確立しないと言えないので、(自分の軸がないと)ひたすらに会社に頼まれた仕事を受けてしまう。

人間、やってやれないことはないので、「やります、やります」と言って便利屋さんみたいになってしまうのは、私にとっては本来やりたいことではないんです。

会社にあまり軸を置けない以上、自分に軸を持って「自分はこうなりたいから、御社ではこういうことをさせていただきますし、こういうことはできないです」と、きちんと主張していくのが大事です。そこを考える時間と、うまく主張するところが大変だなと思っています。

これから副業(複業)を考えている人へのアドバイス

――いずれ副業(複業)をしてみたいと思っている方に向けて、気をつけたほうがいいポイントや、アドバイスがあれば教えていただきたいです。

金子:副業って、自分の価値観を多様化させるための取り組みとしてはすごくいいなと思っていて。例えば、海外へ行って異文化交流するのと同じように、多様性へのキャパシティが上がるんじゃないかなと思っています。副業は小銭稼ぎというよりは、大人のインターンみたいなものです。

始めようとしてる方へのアドバイスということで、ちょっと言葉がよくないかもしれないですが、やっぱり自分のお尻を自分で拭けるかどうかです。自分の責任を超えてしまうと、自分にも相手にもかなりの負荷がかかるので、基本的には信頼がおける人とやるのがいいのかなと思ってます。

私はよく、自分の副業に後輩を巻き込んでいるんです。自分の信頼関係の上で、「ちょっとやってみない?」とお願いすることが多いんですよ。なので、もし「副業をやりたいけど自信がないな」と思ってらっしゃる方は、すでにやってる方に相談して、“信頼関係の相乗り”をさせてもらうとカジュアルに始められるかもしれないです。

いきなり他の会社さんと信頼関係を築くことはけっこう厳しいので、デザイナーだったらデザイナー同士で、信頼がおける人に「手伝えることありませんか?」と言ってみるほうが、ライトかなと思ったりしてます。

特にイラストを描ける人なんかはめちゃくちゃ重宝されたりします。私も副業をしてるけど、イラストが描けないので、そういうのをよく(後輩とかに)相談したりします。

自分には軸があるので、私は「LP量産します」みたいな仕事は受けないんです。でも、若い方の中にはそれが得意な方もいるので、そういう方に「1つ作ってみない?」と話して、結果的に会社としては仕事もクリアになるし、その人も(副業として関われて)ハッピー、みたいなことはあり得るかなと思ってます。

「1回の契約の値段」よりも、大事なのは「自分自身の生涯年収」

――副業が「目的」になるのではなく、自分のキャリアを中長期的に見た時の「手段」として、軸を持ち続けることが大切なんですね。

金子:はい。経済的な部分もお話しできるといいかなと思うんですが、お金が欲しくて副業をする人もいると思うんですよ。

そういう人にぜひ伝えたいのが、1回の契約書の「点の値段」を見るよりも、この副業を続けていくことで、5年後とかに自分の市場価格がどれぐらい上がっているかという視点で、経済合理性を判断したほうがいいかなと思っています。

「今の時間」の切り売りになっちゃうと、例えば毎月プラスで5万円収入が入ったとしても、忙しくて本業もおろそかになってるし、5万円の仕事も将来のキャリアになっていない。そうなると、5年後に自分の基礎月収が月5万円分上がってない可能性があるんですよね。

それって、実は将来もらうはずだったお金の前借りになっているので、自身の人生の総生産は増えてないと思うんですよ。なので、自分自身の生涯年収を増やすための計算をしていくのが、お金のための副業には大事かなと思います。

(キャリア全体で見た時に)トータルで見ると損してる、という仕事の仕方はよくないと思うので、そこは気をつけたほうがいいかなと思いますね。なので、月の会計じゃなくて、キャリア全体の会計で見たほうがいいなと思います。

――経済的にもキャリア的にも、中長期で仕事を考えることが大事なポイントですね。副業(複業)を始めようと検討している方にとって、金子さんの実体験は参考になる部分も多いのではないかと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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