エキスパートが解説する、シリコンバレーの現在

小川りかこ氏(以下、小川):それでは12時になりましたので、「01 Expert Pitch」第15回を始めてまいります。シリコンバレー発世界のエキスパートが、最新情報を日本語で解説ということで、本日は「MBA or 起業? アメリカエリート層のキャリア観と人材活用の違い」をお送りいたします。

さて、今回は元SAPシリコンバレーにて、数々のイノベーション関連プロジェクトを推進し、現在はアメリカ東海岸のダートマス大学のMBAプログラムに在学中の坪田駆さんをエキスパートとしてお迎えしております。坪田さん、どうぞよろしくお願いします。

坪田駆氏(以下、坪田):よろしくお願いします。

小川:そちらは夜中とおうかがいしたんですが、今何時ですか?

坪田:23時ですね。あまり時間を意識しないようにがんばります。

小川:ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。

坪田:お願いします。

小川:そして、本イベントの主催者であります、Tomorrow Access, Founder & CEOの傍島さん。本日もどうぞよろしくお願いいたします。

傍島健友氏(以下、傍島):よろしくお願いします。

小川:そして私、ナビゲーターを務めてまいります、フリーアナウンサーの小川りかこと申します。どうぞよろしくお願いいたします。それではさっそくですが傍島さん、この「01 Expert Pitch」ウェビナーの狙いを少しお話いただけますでしょうか。

傍島:はい。あらためましてTomorrow Accessの傍島と申します。よろしくお願いいたします。Tomorrow Accessという会社は、シリコンバレーを拠点にしたマネジメントコンサルティング会社になるんですけれども、「01 Expert Pitch」は昨年から開始してもう15回になりますね。今日坪田さんをお迎えしてお話できるのを非常に楽しみにしてまいりました。

温度感を含めて情報を伝える

傍島:このエキスパートピッチの狙いは3つあります。まずは「日本とアメリカの情報格差の解消」ということで、多くの日本の企業の方から、「シリコンバレーの情報とかグローバルの世界の情報を教えてください」という声をたくさんいただきます。そういった情報を迅速に日本の方にお届けしたいというのが1つ目の狙いになります。

2つ目は「正しい情報をお届け」したいということです。同じニュースでも、なかなかアメリカの温度感と日本に伝わっている温度感が、必ずしも一致しない。違うなと感じる時があるんですね。

そういったことがあるので、今回ご登壇いただく坪田さんのように、その業界のエキスパートの方にきちんと解説していただいて、正しい情報をお届けしたいというのが2つ目の狙いです。

3つ目は「日本語」ということです。英語の情報をたくさん集めて勉強するのももちろん可能なんですけれども、なかなか大変なので、日本語できちんとお届けしたいということ。この3つの狙いで「01 Expert Pitch」を運営しております。

今日も坪田さんに、夜中に無理を言って出ていただいたんですけれども、最新のMBAの情報とか世界の動きを教えていただけるということで、非常に期待してまいりました。どうぞよろしくお願いいたします。

小川:傍島さん、ありがとうございます。そしてウェビナーでは、みなさまからのご質問を随時受け付けて進行を進めてまいります。参加者のみなさま、ぜひ坪田さんにご質問をお寄せください。随時私のほうで拾ってまいりたいと思います。

10年のIT業界で働き、MBA取得後に描くキャリア

小川:それでは坪田さん、まずは簡単に自己紹介からお願いしてもよろしいでしょうか。

坪田:ありがとうございます。坪田駆と申します。先ほどご紹介ありましたとおり(今は)大学院生です。ダートマス大学という、アメリカの地図の一番右上にある、本当に田舎の森の、すごく歴史のあるいい環境で大学院生をやっています。

専攻はビジネスでして、いわゆるMBAを2年間掛けて取得しています。ちょうど今折り返し地点にいるところです。キャリアとしては10年くらいIT業界でずっと働いていまして、7年日本、そのあとの3年間は、傍島さんとそこでお会いしたんですけど、サンフランシスコベイエリアで事業開発の仕事をしていました。

MBAを経て、できればまたシリコンバレーに戻って、よりIT業界の中のプロダクトとか、よく「グラビティの中心」と言うんですけど、本当にイノベーションが生まれているような環境の真ん中で、国籍関係なく戦いたい。そういう思いでMBAに来たところです。またいろいろ、そのあたりもお話できればと思います。

小川:よろしくお願いいたします。それではさっそくですが本日スライドをたくさんご用意いただいていますので、ぜひお願いいたします。

坪田:たぶん20〜30分くらいいただいているので、私のほうから簡単にエキスパートピッチ(をさせていただきます)。準備をしている最中に「自分はエキスパートなのか?」と(笑)自問自答しながら作った資料です。ここにいらっしゃるみなさんの知らないことや、新しい情報をお届けできればなということで作りました。

MBA在学中はどんな活動をしているのか

坪田:ちょっとタイトルがタイトルだけにおこがましいんですけど、私自身どういう考えで今のキャリアを選択したかというところを中心に、一緒に学んでいる環境はアメリカのエリート層が多いので、このタイトル(アメリカエリート層のキャリア観と人材活用の違い)にあるようなお話をみなさんとディスカッションできればなと思います。

傍島:100パーセントエキスパートですから、問題ないです(笑)。

小川:そうですね(笑)。

坪田:学生生活に関してはエキスパートということで(笑)、思っていただければと思います。

先ほど自己紹介させていただきましたけれども、今、Tuck Schoolという1900年にできたMBAのスクールに通っています。世界で初めてMBAというプログラム自体を提供し始めた学校らしくて、100年以上続いている、ものすごく由緒正しい学校の一員になることができました。

いろんな活動を学校でしているんですけれども、一番のハイライトというか、自分の中でがんばっているのが、生徒会に入って「Quality of Life Chair」という、名前からだと想像できない仕事をしています。

私は自分のことを「スイーパー(掃除機)」と呼んでいます。生徒会にはいろんな仕事があるんですよね。DEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の仕事をやる人間だとか、それこそパーティを企画する仕事もあるし、予算を管理する仕事もあるんですけど、(私はその)間にこぼれたボールを全部拾う役という、広い意味で学生のウェルネスとか、自己肯定感とかコモディティを作るところに責任のある仕事をさせてもらっています。

他にもテクノロジーを勉強したいという学生のクラブ(Tech Club)、起業クラブ(Entrepreneurship Club)、それからアジアのクラブ(Asia Business Club)の3つの代表をやっています。

MBAの「エリート層」と勝負していく中での苦労

坪田:経歴はここに書いてあるとおりなんですけども、ICU(国際基督教大学)を卒業しました。当時はジャーナリズムを専攻していたんですけど、裾野の広い仕事がやりたいなと思って、日本オラクルというデータベースを中心としたソフトウェア企業に入りまして、そこに5年(勤めました)。

そのあとSAPという、企業向けのソフトウェアを作っている会社に入り、さらに5年。そして今、MBAに在学しているというキャリアになります。なので今日は学生側の視点ということなんですけれども、自分自身もできればアメリカで働きたいなと(考えています)。

MBAで一緒に勉強している仲間は、本当に生まれからぜんぜん違うようなエリート層がいっぱいいます。その中に食い込んでがんばって勝負していきたいなと思っていますので、自分自身の苦しい経験も含めてお話できればと思います。

3つお話させていただきます。まずMBA自体のコンテキストの擦り合せができればというのが1つ。2つ目にMBA生側の視点ということで、どういう視点でキャリアパスとか、そのあとのアップサイドを考えているのかをお話できればと思います。

最後に企業側の視点ということで、そういったエリート層を受け入れるために、企業側がどんな仕組みを、もしくは待遇を持ってやっているか。ひいては日本のみなさんの参考になればなということで、まずはMBA自体の紹介をしたいと思います。

300人全員顔と名前が一致する、学びの環境

坪田:私がいるTuck Schoolというダートマス大学は、いわゆる「アイビーリーグ」の一角でして、アメリカでは非常に大きいブランドの学校になります。(MBAでは)300人くらいの(生徒がいる)環境で学んでいまして、40パーセントくらいが留学生、半分が女性です。

他の学校と比べてもすごく小さな学校におりまして、それこそこのあとも話しますけど、隣の仲間がどういうことを考えながら、どういう目的を持って勉強しているのかということが、すごくよくわかる環境です。なので揉め事があったら学校を巻き込んで、大きな問題として解決しようという動きになりますし、すごく自主性がある学生が揃っている、いいスクールだなと思います。

傍島:(生徒数は)ハーバード大学の3分の1くらいなんですね。

坪田:そうですね。ハーバードは去年さらに多くて、たぶん1,000人を越えているんじゃないかなと思います。よく言われるのは、ハーバードの学生は7クラスくらいにわかれるので、そのうちの100人くらいしか知り合いになれないと。我々は「300人全員顔と名前が一致する」というのをすごく誇りにしています。

私のことを知らない学生は、少なくとも同じクラスメイトではたぶんいないと思います。ほとんどの学生は話したことがあって、深い話ができる関係になっているなと(感じます)。

小川:アットホームといいますか、とてもいい環境にいらっしゃるんですね。

坪田:そうですね。コミュニティを大事にしていまして、よく「Tuck Nice」という言葉を使うんですけど、やっぱり性格が悪いと300人の小さい学校だとなかなか合わないので。実は学校が生徒を選ぶクリア基準に、「いい人かどうか」というのがあったりするので...... どうやって測るんだと(笑)。

小川:(笑)。確かに気になりますね。

坪田:お互いがちゃんと本音で、しかもその場にちゃんと腰を据えてというか、その場に存在すると(認め合える関係性を)大事にしています。ぜひこのあたりも少しお話できればと思います。

アメリカの中で移民が勝負する大変さ

坪田:MBAというと、イーロン・マスクが「MBA卒業生は絶対雇うな」みたいなことを何回か言っているんですけど、「(MBAは)本当に必要なのか?」というのはあると思うんですよね。特に今、円安でものすごく学費が上がっています。私は(アメリカに)家族も連れてきているので、おそらく(MBA取得のために)4,000万円近くお金を払っていることになると思います。

傍島:うわー。家が買えますね。

小川:リアルな数字を言っていただいて。

坪田:本当に4,000万円の価値があるのかというと、私もよくわからないんですが、私はあまり数字が得意じゃないので、払えるならいいやと思って来て、今円安で大変なことになっているという(笑)。

それはさておき、我々学生環境にどんなメリットがあるのかというのを、みなさんと少しシェアできればと思います。もちろん授業の中で学ぶことはものすごく気づきが多いです。

会計、戦略、マーケティング、経済学、いろんなことを満遍なく学んでいます。視点としては企業のジェネラルマネージャーというか、1つの部門を持つようなリーダーになるために必要な基礎知識を、2年間で全部学びきろうと思っています。いろいろな分野の基本的な考え方を勉強をしています。

ただ私はそれ以上に、ここにある「信用」や「ネットワーク」とかが非常に大事だなと思っています。今日のタイトルにもあるんですけど、アメリカの中で移民が勝負するのってけっこう大変なんですよね。

何もない中で、それなりに自分は英語が得意だと思って、それを活かしたキャリアにしてきましたけれども、(英語ネイティブの)アメリカ人の中で毎日大量のインプットをしながら、さらにいろんなものを書いたり、文章を作ったりしていくのはすごく大変です。自分が日本語で100勝負できる時(でも、英語では)70〜80ぐらいしかできないわけですよね。

そういうのがある中で、自分がアメリカで、日本よりおそらく厳しい環境をどうくぐり抜けていけるかを探すのが非常に大事です。それはやっぱり人の関係、ネットワーク。“えこひいき”でちゃんと引き上げてもらうのが、すごく大事なんですよね。

アメリカで勝負するために「ネットワーク」が重要な理由

坪田:もちろん起業家として投資家と関係を作って、シリコンバレーで、それこそドラマの『SILICON VALLEY』で見るような成り上がりをしていくのも1つあると思うんですけれども、私みたいな凡人がそれなりにアメリカで勝負していくためには、いい学校を卒業して、そのネットワークにアクセスがあることが非常に大事なんです。

私の通う学校は小さい学校なので、みんな自分の学校を好きになるんです。なので7割くらいが卒業後に毎年寄付を送るんですよね。これはすごいことで、MBAの中でも世界で一番寄付率が高い。2番目のスタンフォード大学は40パーセントなので全然(割合が)違くて、本当にみんな学校が大好きなんです。

そうすると新卒で口利きのお願いに行っても、快く受けてくれると。アメリカはすごくアンフェアな競争社会なので、アメリカで働くことを前提にした時には、未だに(学歴が必要なのかと)よく言われますけれども、メリットは多いかなと私は思っています。

傍島:そうですよね。アメリカって平等のイメージあるかもしれないですけど、ぜんぜん平等じゃないですよね。

坪田:ものすごい不平等ですね。

傍島:とんでもない不平等ですよね。これはすごくよくわかります。

坪田:アジア人が上に成り上がっていくのはすごく大変なことで、自分の実力を考えると私は学歴は持っておいたほうが、超学歴社会のアメリカの中では有利かなということですね。