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勝ち続ける組織が持つ「チームファースト精神」(全3記事)

「勝てるチーム」と「勝ち続けられるチーム」の差はどこにある? “マルチタスク”なサッカー選手から学ぶ、組織づくりのヒント

昨今、働き方改革の浸透によって、残業時間削減や働く場所の自由化など、労働環境の整備が強く求められています。働きやすさに加え、仕事への誇りや充実感といった「働きがい」も重要課題の一つとなっています。Unipos 働きがいサミットでは、チームワークの土台となる「心理的安全性」と、やる気の源泉となる「エンパワーメント」の2つの視点から、一人ひとりが働きがいを感じる組織づくりの方法を学びます。本セッションでは、元プロサッカー選手の中村憲剛氏と、楽天大学学長の仲山進也氏によるトークセッションの模様をお届けします。

優勝するチームは「目的」が明確化されている

仲山進也氏(以下、仲山):本音を言い合ってすり合わせるのが、フロンターレの中では当たり前の組織文化になっていくと思うんですが、それが「組織文化になったな」と感じるタイミングと、結果が出始めるタイミングはどうでしたか?

中村憲剛氏(以下、中村):僕の場合は2003年に入団してるんですが、2004年の時にはJ2で1回優勝してたんですよ。優勝してるチームは目的がしっかりしています。システムや選手の配置、どう勝つかの戦術は、当時の関塚隆監督がしっかり提示をしてくれていました。

そうなると、同じ方向に船は走っていけるわけですよ。「ベクトルを合わせる」とよく言ってましたが、船頭がぶれてなかったので、僕が23~24歳の時のわりと早い段階からその体験はさせていただきました。

仲山:なるほど。確かに「絶対に昇格する」っていうのは、お題が明確。

中村:そうなんです。メンバーも良かったですし、わりとスムーズだった記憶があります。

仲山:なるほど。この4番目を聞いてもいいですか。

仲山:「チームの成長ステージ」って、ずっと左側から右側に進んでいくわけでもなくて、メンバーが入れ替わると、またちょっと一時的に戻ったりしますよね。

新しい選手が入ってきて、その選手の目が揃うまでにすり合わせがまた発生すると思うんですが、そういう中で憲剛さんが「今はこれが大事だな」と振る舞いを変えたことはありますか?

中村:今、仲山さんがおっしゃったように、1年でメンバーも……。

仲山:けっこう変わりますよね。

中村:毎年3分の1ぐらい変わるんです。若い新卒の選手が入ってくることもあれば、力のある移籍選手が入ってくることもあったり。ただ、やっぱり1つ言えるのは、1年間僕らと同じ密度では過ごしてないので、新しく来た選手たちは0からスタートするんです。

新しく入ってきた人に「共通言語」を伝える方法

中村:例えば100積み上げた選手がいるとして、新シーズンを迎える時に、その100積み上げた選手が何人いるかで新しいグループの浸透度は変わってくるし、その人数によって僕の立ち振る舞いも変わりました。当たり前ですが、年を重ねていくごとに移籍や退団もありますから、100積み上がってる選手の総数は徐々に減っていきます。

だから自分もシーズン初めのキャンプの時は、また学び直しの期間でした。だけど前年に積み上げているので、新しく来た選手にはそれを伝えることはできます。

同じプレーヤーとして、共通言語をプレーで伝えることができる。指導者だと外からのアプローチになるので、なかなか難しい。選手と一緒にやったほうが、浸透度は圧倒的に早いんですよね。

一緒にやって見せていくと、新しく来た選手は「ここでパスが来るんだ」「ここでは来ないんだ」「そこで前向くんだ」と理解はしてもらえるし、目が合わなかったらその場で即座に選手同士でコミュニケーションが取れて、次のトレーニングで活かすことができます。

だから、チームの中で第4ステージまで行った人と第1ステージに入ってくる人とでは、組織の中ではまったく別の集団ができる。僕は常に、ある意味監督の“通訳”みたいな感じで「フロンターレではこういう共通言語があるんだよ」とプレーをしながら教える人間として、そういう振る舞いはしてたなぁと思いますね。

仲山:完全にピッチ上でコーチをしてる感じですよねぇ。

中村:本当にそうだったと思います。

仲山:フロンターレは、その文化の継続度合いがすごいなって思いながら、ずっと観察をしてるんです。

中村:それで優勝することができたから、というのはあると思います。優勝した・1つ結果が残せたことは、自分たちの積み上げに自信が持てましたし、確信が持てたのはすごく大きかったなと思います。

サッカー日本代表は「自己解決能力」が極めて高い

仲山:第4ステージの人と、第1ステージの人が混ざるチームの捉え方って、例えば去年のシーズンに第4ステージまで行った人が10人いたとして、新しい人が10人入ってきたら全体としては20人の集団なんだけど、その中に10人のトランスフォーミングな状態の人たちがいる感じ。

でも、「全体の20人としてはフォーミング」という捉え方をするんです。そういう意味で言うと、今の日本代表は、第4ステージになったフロンターレと関係性のある数人が代表全体の中にいる構図になっていると思うんです。

中村:そうですね。

仲山:言語化担当の憲剛さんが代表チームにいたら、チームビルディングが早まるんじゃないかなって思います。

中村:仲山さん、本番ですごいこと言いましたね。その話は聞いてないですよ(苦笑)。

仲山:今、すごくそう思ってしまいました(笑)。

中村:さっき言ったように代表はアンテナが高い選手が集まっているので、なかなか大変なんです。ただ、「それをやったら勝つ確率が高まる」と、ひとたび周りの代表選手が感じてくれれば、一気にぐっと進むと思います。日本代表の場合は、この4つのステージの幅がもっと狭いと思います。

仲山:1回すり合わせて、それこそお題が明確になれば、みんなお題を解く能力が高い。

中村:高いです。僕は「自己解決能力」と呼んでるんですが、日本代表はその能力が極めて高い選手たちの集まりなんです。むしろそれがないと、日本代表にはなかなか入れません。現代のサッカーは、さまざまな戦術も含めてワードも出てきており、多様性も増してきているので、その能力がないと難しいと思います。

監督、指導者としては、ピッチで問題解決してくれる選手が多ければ多いほど勝ちにはつながるので、そういった選手がたくさんいるといいですね。

仲山:その力がないと、移籍もできないですしね。

中村:そうですね。

仲山:普通の仕事に置き換えると、移籍って転職や異動と似てると思うんです。

「強制する指導」のメリットとデメリット

仲山:もう、あっという間にあと5分ぐらいになってきちゃった。

中村:あ、本当だ。

仲山:(笑)。あと5分で5番目のオシムさんの話を聞きたいけど、オシムさんや風間さんで印象に残ってることで、「あの時やってたのって、そういうことだったのか」と、憲剛さんが指導する側に回ってみて気づくことはありますか?

中村:2人とも強制する監督ではなかったですね。2人が共通して言ってたのは、「自分で考える」。どうやってピッチ内の状況を自分たちのチームにとっていい方向に持っていくかを考えるために、選択肢を常に増やしてもらう指導を受けていたので、それはすごく印象に残ってますね。

会社で言うと、上司が社員に「あなたはこれを、あなたはそれをしなさい」と強制するのではなくて、「この部署ではチームとしてこんな目的があるんだけど、あなたはどう貢献するの?」「そのためにはこういう方法もあるよね」と、同じ方向に進みながらも、個人個人の幅が広がるように・成長できるように持って行ってくれてたなと思います。

監督や指導者の人が強制してやらせるものは即効性はあるんですよ。その瞬間はそれをやれば勝てるし。その選手も選択肢がないぶん、迷いも生まれないので思い切りそれだけをやればいいから、その時は活きるんですけど。

そのあと別のチームに行ったり、カテゴリーが上がって監督が変わったりした時に、強制された中でやってきた選手は苦しむこともあると思うんです。

自己解決能力がないと、自由を与えられた時に迷ってしまう

中村:例えば、高校生の時に「これだけをやれ」と言われて活躍したんだけど、大学に行ったら「もっと自由にやっていいぞ」と言われて迷うのと同じです。やらされてきた選手は判断材料がないから、自由を与えられると迷ってしまうんです。

風間さんやオシムさんは、そうならないように、どこに行ってもできるように、自己解決能力を高める指導はしてくれてたなと思います。

それが例えば、オシムさんだったら「7色ビブス」だったり、負荷をかけて選手の自立や自主性、考える選択肢を増やす認識力を高めるトレーニングであり、風間さんの場合は「止めて蹴る」ことへのこだわり、そこあkら派生する自分たちにしかできないプレーだったと思います。

仲山:今までの言葉で言うと、明確なお題を渡して、「解き方は自由でいいよ」というスタンスですよね。

中村:そうですね。そうすると、一人ひとりに力がついてくると思うんですよ。だから、個人が伸びればその組織の総和が大きくなる、そういうチームの作り方をされてたなと思います。

仲山:オシムさんも風間さんも、第2ステージで試行錯誤が起こりやすいお題のデザインが上手だなと感じるんです。それこそ2人とも、きっと選手が「こんなのやったことないんだけど」というお題をくれるわけですね。

中村:そうですね。ただ何回も言いますが、そこにはトレーニングも含めて明確なコンセプトが提示されていることと、そのための基礎的なチームの共通言語がちゃんとベースとしてあることが前提条件でないと、正直本当に混沌とするだけですよ。

仲山:ひたすら混乱しちゃいますからね。

中村:調和に向かわないですよね。ずっと混乱しっぱなしって感じです(苦笑)。

仲山:おもしろい。もっと聞きたいけど、最後の質問にいっちゃいますね。

「勝てる」と「勝ち続けられる」差はどこにあるのか

仲山:今日のテーマは「勝ち続ける組織が持つチームファースト精神」です。「目の前の試合に勝ちにいって1試合勝てる」のと、「勝ち続けられるチームになる」のはけっこう違うことだと思うんです。

商売でも、一発当てるのと老舗になるのはぜんぜん違うなと思っていて。「勝てる」と「勝ち続けられる」の違いって、どう思いますか。

中村:しっかりとした提示があることと、共通言語があること、それをみんなで目を揃えてやり続けられる選手がどれだけいるか、人が入れ替わりながらもそれをちゃんと落とし込める指導者や選手がいるかどうか。

あとは、チームとしてそれを文化や哲学として継承し続けられるかどうかで、それが「勝ち続けられる」につながっているのだと思います。チームも組織も人は入れ替わっていきますから、やっぱりつながっていかないといけないんですね。

例えばタイトルを取ったとして、「勝ってよかった、やったぁー」で終わりで、「来年勝てませんでした」ではなくて、勝った時こそ要因を細分化して、それをチームの永続的な財産として落とし込めるかどうかだと思っています。

どうして勝てたかをちゃんと理解して、細分化して、言語化して、それを新しく来る人たちにも日々の練習の場で伝えられるか、それを積み上げられる場所があるか、集団でその高みに向かえるか。日常の基準が大事になると思います。

「柔軟性」や「順応性」のあるチームは勝ち続けられる

中村:だから、基準があるチームとないチームには明確な差があり、タイトルを取ったチームはその基準がさらに高まって、「みんながそこに向かっていけば、またタイトルが取れるよね」と思えるかどうかで、勝てると勝ち続けられるの違いが出てくるのかなと感じています。

またそこで2連覇すれば、2回目のタイトルを取ることができれば、またそれが財産になって次につながっていくと、当時その中にいた人間として僕が思ったことです。

仲山:「自律型の組織」とか「自律型の人材」という表現がありますが。

中村:まさにそうですね。

仲山:「自分たちの基準はここだよね」というのが共有されているのが自律型組織。

中村:選手や社員一人ひとりが、その組織が掲げる目的のためにより良くなる方法を考え、考えたものを発信でき、それを上の人たちにもしっかり受け入れられる。

ディスカッションして、すり合わせて「じゃあこうやって勝っていこうね」と持っていける組織や、柔軟性や順応性がある組織はやっぱり勝ち続けられると思いますし、変化を恐れないのは非常に大事です。

サッカーの世界もかなり移り変わりが早いですからね。2年前の戦い方は古いという時代ですから。ヨーロッパはもっと早いので、どんどんアップデートしていかなきゃいけないんです。

マルチタスクなサッカー選手から学ぶ、チーム作りのヒント

仲山:社会人になって、書類を作って持って行ったら「これ、ここがだめだから直して」と言われたことがあったんです。30分ぐらい時間を与えられた時に、「サッカーをやっていた感覚に比べると、めっちゃ時間を与えてもらえるんだな」と思った記憶があります。

なので、サッカーの感覚で仕事ができる人が増えると、めっちゃ日本の生産性が上がるのではないかと思います。

中村:サッカー選手、実はかなりマルチタスクなので。

仲山:ですよね。

中村:攻撃、守備、守備から攻撃、攻撃から守備という4局面の中で、自分の判断基準次第で結果が1秒で変わる世界ですから、その一瞬で判断を下さなきゃいけないわけです。一人ひとりが最善な判断を最速で実行できる力をつけていくと、その組織の総和はぐんぐん大きくなっていくんだろうなって思いました。

仲山:そう言ってる間に、あっという間に時間を3分過ぎてしまいました。

中村:すみません。

司会者:ありがとうございます。ご講演、ありがとうございました。すみません、大変盛り上がっているところをなかなか止めることができない状況だったんですけれども。

仲山:質問もいっぱいいただいていたのですが。

司会者:後ほど、講演者のお二人にお送りさせていただきます。理想的なチーム作りとして型にいきなり当てはめるのではなくて、個人の技量を伸ばした上で、そのチームの総和が組織の枠組みを作っていくという視点や、ビジネスの中でも集団の力を最大化するという点は大変学びになりました。ご講演ありがとうございました。

中村・仲山:ありがとうございました。

司会者:基調講演にご登壇いただいたのは、中村憲剛さん、仲山進也さんでした。ご意見・ご感想をいただいたみなさま、そして中村さん、仲山さん、ありがとうございました。

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