ユーザーを尊重するマーケティングへの回帰

渡邊大介氏:今回けっこう挑戦的なタイトルをつけさせていただいているんですが。チャットコマースで今重要視されている、LTVや生涯顧客の増やし方についてお話をしていきたいと思います。

こういったお話をする前提として、やはり、みなさまもこのキーワードが気になってくるんじゃないかなと解釈をしております。「3rd Party Cookie」ですね。こちらが今、規制の方向性に向かっているのはご存知のとおりかなと思います。

釈迦に説法かなとは思うんですが、この3rd Party Cookie自体がなぜ禁止の方向に向かっているのかについて、簡単に申し上げます。ユーザーのプライバシーを過度に侵してしまったり、ユーザーのWeb上の体験を阻害してしまうことに対して、AppleやGoogleといったプラットフォーマーが「好ましくない」と判断したために、この傾向が徐々に進んでいるのではないかと捉えております。

今後は企業側も一方通行で展開する販売促進活動や、ユーザー体験を阻害するような広告をやめる方向に切り替えていき、ユーザーの許可を得てからコミュニケーションしていくようになる。これに異論がある方は少ないんじゃないかなと思っています。

しかし、こうした言説やコンセプトは20年以上前に、アメリカのマーケターのセス・ゴーディンが『パーミション・マーケティング』という本の中で提唱した概念です。今もなお色褪せず、新鮮なコンセプトとして捉えられるのではないかと思います。

私もこの本を最初に読んだのは大学生の頃です。おそらく2002年か2003年だったと記憶しているんですが、そこからマーケティングに興味を持ちました。20年前に提唱された概念がいよいよ実現可能になっているんじゃないか、3rd Party Cookie(の廃止)自体は1つのチャンスなんじゃないかな、と捉えています。

「土足マーケティング」からの脱却の動き

この本では、こういった良い方向のマーケティング活動のことを「パーミション・マーケティング」と定義しています。その逆の概念として提唱されていたのが「インタラプションマーケティング」で、日本語では「土足マーケティング」と訳されています。

すごく簡単に言うと、ユーザー体験を邪魔するようなマーケティング活動を総称して、土足マーケティングと呼んでいます。インターネットマーケティングの一部は、まさにこの土足マーケティングの意味を含有しながら進化してしまったんじゃないか。

そして今、間違った進化の方向性に是正の動きが入っていると捉えると、かなり自然に解釈できるのではないかと考えています。

この3rd Party Cookieの廃止の方向性に伴って、リターゲティング広告や一部のオーディエンスターゲティングに、かなり大きな影響を与えているかなと思います。その代替となる概念として、おそらく今回のアドタイ・デイズでほかの登壇者の方も語られるんじゃないかなと思うのが「LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)」ですね。

そういった概念や、今回タイトルにも入れさせていただいている「生涯顧客」という概念。あるいは、3rd Party Cookieに替わっていくようなデータ群として、「1st Party Data」が注目を集めているんじゃないかなと。みなさまもこういった切り口に対して、なんらかの取り組みを進めているのではないかと考えています。

今まではどちらかというと、アドプラットフォームをどう扱っていくか、自動入札ツールをどう組み合わせていくか、といったところが焦点だったと思うんですけれども。

昨今は、CDP(顧客データプラットフォーム)と言われるものや、CRM(顧客関係管理)、SFA(営業支援システム)、あるいはマーケティングオートメーションツールを導入している企業さまは、かなり増えてきているんじゃないかなと考えています。

我々の顧客はだいたい400社前後いらっしゃるんですが、いろいろと話を聞いていても、このような概念やツールのお話が話題になることが多いと思っています。

チャットボットで新規顧客を獲得する「攻め」の効果

本日ご紹介するチャットコマースも、3rd Party Cookieのある種の代替案として、みなさまにぜひご紹介したいと考えております。

簡単にチャットコマースの概念からご紹介したいと思います。みなさまもふだん、LINEやFacebookメッセンジャー、InstagramのDM画面など、いわゆるチャットインターフェースを持っているサービスやアプリケーションをたくさん使われているかと思います。

こういったチャットインターフェースにチャットボットを搭載し、あたかも生活者が企業と対話しているように、購買や契約活動を進めていく、あるいはサポートをしていく。こういった仕組みのことを、チャットコマースと定義をしています。

みなさまはチャットボットと聞くと、マーケティング活動の攻めの文脈よりは、どちらかというと守りの文脈で使われるイメージをお持ちだと思います。カスタマーサポートの工数削減や、生産性の向上といった文脈で捉えられていることが多いんじゃないかと思うんですけれども。

こうした活用は、だいたい2010年前半ぐらいから進んできたかなと思いますが、特に新規顧客の獲得やマーケティングの文脈で、より積極的に活用していこうという流れができています。このチャットボットのマーケティング活用、積極的な活用は、海外では「Cコマース」「カンバセーショナル・コマース」という言葉で、非常に大きな注目を集め始めております。

数兆円規模と見込まれる、チャットコマース市場の活況

一部をご紹介したいと思います。これは昨年の記事を一部抜粋したものですが、チャットコマース、あるいはCコマース、カンバセーショナル・コマースと冠したスタートアップが続々と登場してきています。

赤線を引いたところは、非常に大きな資金調達に成功し始めています。こちらも昨年の夏だったかと思うんですが、大手戦略コンサルファームもこのカテゴリについてかなり大規模なレポートを書き、「少なくとも数兆円規模の市場にはなっていくだろう」と予想しています。

グローバルと比べると時差が少しありますが、今年あるいは昨年末くらいから、チャットコマースという言葉を担いで、たくさんのスタートアップやメガベンチャーが、このカテゴリに参入してきています。おそらく今年は、国内においてもチャットコマース元年になっていくんじゃないかなと捉えています。

「チャットコマース」という言葉自体は、我々ZEALSが登録商標を取っていますが、日本においては我々のサービス名称というよりは、もうカテゴリネームにまで昇華されていると思っています。

ここまでを簡単にサマリーさせていただくと、チャットボットは今まではどちらかというと、守りやコスト削減といった文脈で語られることが多かったんですけれども。3rd Party Cookieが廃止の方向に向かうタイミングで、新規顧客の獲得やマーケティングの文脈でも高い可能性を秘めている。現状はそれが国内外でも証明されていると考えております。

離脱してしまったユーザーに、納得感を与える役割

ここからは「そこまで言うなら、どういう仕組みなの?」というところを、具体的にご紹介していきたいと思います。

まずは、我々が提供しているチャットコマースの具体的な取り組みの一部について、特に基本的なソリューションのはじめの一歩をご紹介いたします。ここから始まって、得られたデータを発展的に活用していくというところで、かなり幅広い可能性を秘めています。

まず最初にやっていただく取り組みから順を追ってご説明させていただきたいと思うんですが、今日聞いていただいているみなさまは、自社Webサイトやランディングページを持たれているかと思います。SEM(検索エンジンマーケティング)やディスプレイ広告、あるいは自然検索から(訪問される)ユーザーさまがいます。

一般論として、残念ながら「いろいろなところから来たユーザーは、95パーセント以上がいったん離脱してしまう」と言われています。今までであれば、この離脱ユーザーに3rd PartyのCookieを付与して、リターゲティング広告でなんとか再来訪していただくことを考えていたと思います。

そこに対して、チャットコマースは我々が設定させていただく導線をタップすると、チャットボットを搭載したLINEのアカウントに飛んで、ユーザーと企業の対話を実現できます。

おそらくLPやサイトから離脱するユーザーさまの心境としては、検索でサイトに来たんだけれども、求めていた情報がないとか。情報はあったんだけれども、最終購買や契約に当たって、不安や疑問が拭えない。そういったところがあるので、一時離脱してしまうと考えられます。

チャットボットとの会話を通して、そうした不安や疑問を払拭し、ある種納得していただいた上で再度、商品の提案をさせていただく設計になっています。

これにより、ユーザーさまも非常に納得度の高い状態で購買導線に復帰いただける。Webの言葉で言えば、コンバージョンしていただけるような導線を基本導線としています。これが基本の設計です。

デジマの定石に則っても、離脱ユーザーは9割以上

当然、リアルな接客体験でも、1回の接客で購買に至ってくれるお客さまばかりではないと思いますし、実際我々のチャットボットでも、1回目でコンバージョンしてくれるユーザーさまばかりではないです。

そうした未購買のユーザーさま、未コンバージョンのユーザーさまには、後日適切なタイミングでプッシュコミュニケーションをさせていただきます。別の会話体験を通して、改めて納得していただいて、商品の購買あるいは契約に至っていただくという導線となっています。

こちらは非常にシンプルながら、生涯顧客(獲得)、LTVを高めていく上で非常に重要な策です。なぜこのシンプルな仕組みが、それほどのパワーを持っているのかをご説明します。

マーケティングファネルを描いてみました。左側から「認知」「興味・関心」「比較検討」というかたちで、最終的には「長期顧客化」、顧客ロイヤリティの向上に至るという、一般的なファネルです。

デジタルマーケティングでコンバージョンレートを高めていく時は、なんらかの広告や自然流入でWebサイトに来てくれたユーザーに対して、ここの領域(興味~比較検討~購入・契約)でなんらかの施策を打ち込んでいくと思います。私自身もこのあたりをずっとやってきた人間なので、感覚は非常に持っています。

LPやエントリーフォームの最適化を図って、できる限り導線をシームレスにしていく。要は、ハードルをなくしていくことでコンバージョンレートを高めたり、あるいはレートが高い状態で維持しましょうという取り組みです。

最後に、悩んでいるユーザーさんにクーポンやお得要素を付加することで、背中を後押ししてあげることは、今までのデジマの定石として非常に多いんじゃないかなと思います。こういうことをやっても離脱してしまうユーザーさまは9割以上いらっしゃいますので、離脱されたユーザーさまにCookieを付与することで、ある種リターゲティングして追いかけていく。

なんとか単純接触で興味を持っていただいて、先ほどのCVR向上施策のLP以降のコミュニケーションに来ていただく。こういったことを私もしてきましたし、多くのWebの会社がとられている定石なのかなと思います。

顧客との生涯にわたる関係性を築く、有用な打ち手

このプロセスの中では、基本的には余計なプロセスを挟むとコンバージョンレートは下がっていきますし、できる限りハードルをなくしたほうがいい。

どちらかというと、興味・関心を持ってもらったまま、シームレスに購買までいっていただくのが重要という基本コンセプトかなと思うんですけれども。やはり「納得感を作る」ところに関しては、弱いところがあるのかなと思っています。

初期購入には至ってくれるんだけれども、その後のリピートやクロスセル・アップセルに対しては三角印がついてしまうんじゃないかなと思っています。

一方、チャットコマースの領域に関して言うと、我々も同じように興味・関心以降のコミュニケーションを司っているんですが、まずパーミッションを得た状態で会話をさせていただきます。その会話の中で不安や疑問を払拭し、納得感を醸成していくので、非常に課題解決型のコミュニケーションができていると思います。

一般的には、対話のような余計なプロセスを挟み込むのは、デジマのセオリーからすると外れているかなと思います。でも、こうしたある種のひと手間を加えることで、お客さまの最初の購買体験を良いものにできる。

納得感をもって最初の購買体験・契約体験に至るので、その後の長期顧客化に対しては、非常に有益な策になっているんじゃないか。こういったとこから、生涯顧客・LTVを向上させるためにチャットコマースが有用ではないかと思っております。

繰り返しになりますが、生涯にわたってお客さまと関係性を作っていく最初の入り口が、非常に重要だと思っています。最初の入り口作りとして、チャットコマースは重要だと思いますし、我々が対応させていただいているお客さまに関して申し上げますと、ほかの施策経由のLTVと我々経由のLTVを比較していただくと、結果的に数字で見ても非常に高いというお言葉をいただいております。

購入・契約を後押しし、良質なユーザーを獲得

ここからは、具体的な事例と実数値をご紹介させていただきたいと思います。最初にご紹介するのはA社の事例です。こちらは(チャットコマースを)導入いただいて、すでに2年以上が経過しているお客さまです。

「150パーセント」と書かせていただいていますが、ジールス経由でコンバージョンしていただいた単価ベースの顧客のLTVと、ほかの施策経由でコンバージョン、初期購買に至ったユーザーさまのLTVを比較した時に、おおよそ1.5倍の差があるという実数値がとれております。

加えて、先ほど「マーケティングファネルに余計なプロセスを入れると、コンバージョンレートが下がってしまうんじゃないか」というご懸念をいただいたマーケターの方もいらっしゃるんじゃないかなと思います。

我々は、ボット内に誘引したあとのコンバージョンレートでも、非常に高い数字を記録しています。こちらは高いほうではありますが、ボット内に来ていただいたユーザーさまの分母に対して、CVに至った方を分母・分子の関係性とした際に、25パーセントという非常に高いレートを記録しています。

月額定期CVは重要な指標だと思いますが、そうした良質なユーザーさまを200件以上獲得するという貢献ができているということで、非常に評価をいただいている事例です。

似たような事例で、別のB社のケースです。こちらは一度、初期はトライアルキットを購買いただいて、そこから本購入・本契約に至っていただくという、2Stepマーケティングを取られている企業さまです。全施策を含めた中で、初期トライアルから本購入に至る率で、ジールスが二番手に来ているという実数値を記録しています。

実際のランキングを下に書かせていただいているんですが、従来型のキャンペーン・チラシが意外にも一番高かったりします。通常のLP経由のお客さまよりも、我々のチャットコマースを経由して来ていただいたほうが約2パーセントほどレートが高いという記録があります。

こちらも非常に高いレートになるんですが、そうした良質なユーザーに対して、ボット内CVRとしては30パーセントを記録しており、こちらも非常に高い評価を得られております。

新規顧客の獲得単価が下がっていく仕組み

次に業界の異なるC社の事例を紹介します。こちらも資料請求から本申し込みまで、2Stepマーケティングのかたちをとっている企業さまです。

全施策のうち、本購入に至るレートとしてナンバー2の実績を誇っています。しかも、一番は自然検索です。自然検索が一番高いというのは、なんとなくみなさまも感覚をつかんでいただけるんじゃないかなと思いますが、それに次ぐ本契約レートとなっています。

加えてこちらのクライアントさまは、自然検索に次いでCPO(Cost Per Order:新規顧客の獲得単価)が安くなっています。ジールス契約のオーダーが入れば入るほど、デジタルマーケティング全体のCPOが最適化され、コストが安くなっていく。そういった点でもインパクトを残せるというところで、なくてはならない施策だという評価をいただいています。

このように、マーケティングプロセスに会話体験という、一見余計なプロセスに思われるようなものを1つ差し込むことで、お客さまの不安を払拭する。それがきちんとその後の生涯顧客・LTVの向上につながっていくことが、実数値でも見てとれるんじゃないかなと思います。

金融業界や通信業界といった大手企業も続々と導入

特に2022年に入ってから、リターゲティング広告がなかなか難しくなってきたり、ほかのディスプレイ広告のCPM(インプレッション単価)やCPC(クリック単価)が上がってきていることもあって、その代替手段として選んでいただくことも増えてきています。

チャットコマースは、証券会社や消費者金融・カードローン、最近では保険業界や通信業界に導入をいただくことも非常に増えてきています。

なかなか我々の導入に踏み切っていただけなかった企業様にも、かなり大型の導入をしていただいています。月額予算でも、数百万から数千万規模で導入いただくことも増えてきています。

リタゲ依存度が高かった業界に対しては、新規顧客の獲得のポートフォリオのうち、ジールス経由の新規顧客の獲得が全体の10パーセントから20パーセントを占めるケースもあります。

生涯顧客の獲得だけではなく、単純に新規顧客の獲得というところにおいても、重要な比率を占める施策に成長してきております。

カスタマーサポートは、現状はAIより人間のほうが優秀

我々にとっての競合や、あるいは協業先になってくるような会社さんも新規参入していると思います。単なるチャットボットと言ってしまえばチャットボットなのですが、我々がなぜこれほどの実績を残せたのかを、最後にご説明したいと思います。

冒頭で、チャットボットというとカスタマーサポートやカスタマーサクセスの文脈で検討されることが多いという話をさせていただきました。

ほかのカテゴリで言うと、いわゆるAIが対応するAIベースのものと、人間が書いたルールベース・シナリオベースの2つが存在すると思います。2022年現在では、先ほど申し上げたカスタマーサポートの領域でも、いわゆるAIベース・自然発話ベースのものでも、ある程度の対応は可能かなと思います。

ただ、より積極的な利用、マーケティングの最後の後押しをしていくような、納得感を作っていくコミュニケーションで言うと、残念ながら現時点では、やはり人間の手を介入させたほうが効果的だと我々は結論づけています。

将来的にはここもAIと代替されていったり、AIと人間のハイブリッドになっていく可能性もあるかなと思うんですけれども。現時点においては、ルールベース・シナリオベースの、きちんとした専門的なチャットボットを人間が作ったほうが効果的だという結論に至っています。

施策の成否のカギを握るのは、人の手を介した丁寧な運用

我々は、このチャットボットを作り、運用していくチームのことを「コミュニケーションデザインチーム」と定義しています。このチームは業界ごとに、人材チームや教育チーム、コスメチームというかたちで組成していて、総勢80名を超えるチームになっています。

みなさまにわかっていただきやすいようなメタファーで言うと、例えばSEM(サーチエンジンマーケティング)は自動入札ツールで、レポーティングもBIツールを介して、すべてが自動化されている世界観のほうが理想的かなと思うんですけれども。

ここ10年、15年は、運用力の高い広告会社やパートナーのほうが効果が高かったと思うんですね。やはりチャットボットにおいても同様に、運用組織を持っているパートナーが非常に強くなってくるんじゃないかなと見込んでいます。我々も今、ここに投資をしている状態です。

やはり組織的に投資をしていることで、我々としてもかなり余力がある状態を作れており、毎回毎回、お客さまに対してフルスクラッチで、カスタムメイドでチャットボットをデザインさせていただいています。

ペルソナ設計からカスタマージャーニーをきちんと描いて、どういうお客さまにどういう体験をしていただきたいかを樹形図のように書いていきまして。かなり複雑怪奇な車輪を作っていくことで、AIベースのチャットボットを上回る効果も出せています。

加えて接客体験というのは、一度のコミュニケーションで終わるものではないと考えています。細かくデータを活用してセグメンテーションを切っていきながら、適切なタイミングでプッシュコミュニケーションをしていくことも、我々は運用の中でやっております。

プッシュ的なアプローチはどちらかというと営業活動なので、嫌がられることも多いかなと思うんですが。例えば、LINEのプッシュを配信した時のブロック率は、だいたい15パーセントか20パーセントと言われているかと思います。

きちんと運用すると高くて4パーセント台、低いと1パーセントを切るような運用もあると、我々は踏んでいます。こういった人の手を介した丁寧な運用が非常に重要になってくると思っています。

ポストクッキー時代「Zero Party Data」で広がるマーケティングの可能性

まとめますと、チャットボットを活用したマーケティング活動は非常に可能性があるんですが、単純にチャットボットビルダーの技術的性能だけだと、どうしてもまだCS領域にとどまってしまうかなと思います。

そういう意味では、現時点での見解としては、チャットボットビルダーを活用してきちんとしたコミュニケーションを設計し、運用できる組織。そういったケイパビリティが非常に重要だと捉えています。

その上で、さらに発展的な可能性についても触れておきたいなと思います。先ほど、このようなファネルを提示させていただきました。

ユーザーと企業の間で、パーミッションを得た状態で、いろいろな対話体験・会話体験が繰り返されると思います。そこの会話データはすべて蓄積されます。このパーミッションを得た状態での会話データ、インサイトデータは、最近の言葉では「Zero Party Data」と定義されています。

このZero Party Dataは、今年3月に『Forbes』の本国版の記事で、「Zero Party Data Is The New Oil」というタイトルで取り上げられました。今後1st Party Dataも重要なんだけれども、それに比類するぐらいパーミッションを得たインサイトデータ、Zero Party Dataが重要になってくるんじゃないか、と書かれておりました。

我々も今年の5月に大型の資金調達を行ったんですが、そのうちの1つにいわゆるCRMやSFAを展開する企業さまがいらっしゃいます。そういった会社と会話をしていても、このZero Party Dataと1st Party Dataの組み合わせは、非常に大きな可能性を秘めている。もっと言うとCDPやCRM、あるいはSFAと連携することで大きな可能性を発揮するんじゃないか、と言っていただいております。

そういう意味では、今後は3rd Party Cookieが使えなくなってくる可能性が高いです。それにあたって、自前でデータを貯めていかなければならない。Webサイト上の購買データとか、1st Partyのデータも貯めていかなければいけないんだけれども。

ユーザーのパーミッションを取った上での会話データ、インサイトデータを貯めていくことで、より複雑で発展的なデータマーケティングの可能性が開かれていくんじゃないかと思っております。

自社に合ったチャットコマース事業者の見極め方

最後に、何かお土産のようなものを置いて終わりにしたいなと思います。チャットコマース事業者は最近増えておりますので、最後にその見極めポイントを整理して終えたいと思います。

まず先ほど申し上げたとおり、チャットボットの運用力。これがどれぐらいあるのかというところが、1つの見極めポイントになってくるかなと思います。

SEMのパートナーを選ぶ時も、単純にテクノロジーだけではなくて、どれぐらい運用コンサルタントがいるのか、どれぐらいの頻度でレポーティングしてくるのかも、1つの判断材料になると思いますが、チャットボットも同じように見ていただければなと思っています。

加えて、まだ黎明期にあるマーケットなので、運用実績も非常に重要になってくると思います。先ほど申し上げたとおり、会話データを活用したZero Party Dataの発展的な活用も、今後重要になってくると思います。それらのケイパビリティがあるかどうかも見定めていただけるといいんじゃないかなと思います。

最後に、チャットボットの会社は、対象としている企業が大きく分かれています。私自身はこの分け方があまり好きではないんですが、便宜上使わせていただくと、いわゆるSMB向けに作られたサービス・企業と、エンタープライズ、大企業向けに作られたサービス群とで、大きくサービスの設計やサポートの体制が異なってくると思います。

だいたいベスト5に入る顧客群の月次予算などを聞いていただくと、自社向きなのかそうでないのかがわかってくると思います。このあたりをヒアリングしていただくと、間違いのないチャットコマース事業者の選定ができるんじゃないかなと思っています。

我々はどちらかというとエンタープライズに手厚くサポートをさせていただくようなチャットコマースを提供できる会社なので、このあたりをポイントとして見極めていただければなと思っております。